先日は黒の組織やら秘密結社やらよくわからんことで情報量が凄まじかったが、桜小路さんから渡されたスマートウォッチには何の連絡も来ないまま半年以上が過ぎた。1ヶ月くらいはいつ連絡が来るかとソワソワしていたけれど、季節が冬から春になる頃には、臨時って言ってたしそんなポンポン招集されるわけないか。と思うことにした。
そして秋に差し掛かる今日この頃、いつもと変わらずきなこの散歩と買い物以外は家に引きこもって暮らしている。だがしかし、今朝突然トーマスから連絡があり話を聞くと、PCゲームでいつも対戦しているゲーム仲間のアメリカ在住のヒロキさん?がここ最近ゲームに参加して来ないらしい。
「……ゲームに飽きたんじゃないの?」
朝っぱらからそんな話のために電話したんか?
日本は朝7時だぞ?
『ボクもそう思ったが、何かあったのかとメッセージを送ったんだ。暫くすると全く知らないアカウントから変な画像が送られてきたんだ』
「へー」
私には最近メールも電話もしなかったのに?ゲームで顔も知らない人の心配するんだ?トーマスのアカウントからメールに画像が送られてくる。一応その画像を見ると「いろはにほへととで遊びましょう。上手は横で下手が縦」という文章と「3-2, 7-5, 5-3, 5-7」という数字が並んでいる。
「何これ」
『@noaというアカウントから送られてきた。恐らくCodeではないだろうか』
「コード…って暗号か」
暗号が分からないから私経由で新くんか優作さんに解いてもらおうってことか。私はただの繋ぎか。そうかそうか。
「……私じゃなくて優作さんに直接電話すればいいのでは?」
『Mr.ユウサクは今日本にいないと聞いている。多忙な彼に直接頼むことはできない』
「私は忙しくても電話してきていいと思ってるんだ?」
『君は基本在宅業務だろう?』
なら朝っぱらに国際電話をしてもいいと。なるほどなるほど。
『Thomas~ ッッッ!!!』
「は?」
今女の声がした。トーマス独身寮に住んでるって言ってなかったか?
「Hey fuckin boy, I break up you.」
『Just a momeブチッ……ツーツーツー
あんのクソ野郎浮気してたから連絡よこさなかったのか!!なんで朝からこんな不快な気持ちにならなくちゃいけないんだよ!?
すぐさまトーマスの連絡先を消してメールアドレスも受信拒否に設定する。一生かけて愛するとか言ってたのは噓でしたね~!やっぱり私に恋愛は向いてなかったんだね!!
「ほーちゃんおはよー。あ、電話してた?」
「おはよう新くん!全然大丈夫だよー!」
新くんに大人のドロドロした物を見せるわけにはいかない。何事もなかったように朝食を作りにキッチンに向かう。いつもは6時半には起きる新くんだけど今日は土曜日なので若干遅めに起きたみたい。トーストに目玉焼きとベーコンをのせた物とサラダを出す。
「あ、そうだ新くん今日時間ある?」
「部活は今日休みだし大丈夫」
「よかった。なんか変なメールに送られてきてさー」
あの画像を新くんに見せる。アイツはクソでも暗号の答えは気になるし、新くんなら解けるでしょ。
「ほーちゃん、上杉暗号って調べてくれ」
「うえすぎあんごう?わかった」
「画像で出して」
「ほいほーい」
うえすぎあんごうで検索すると上杉暗号が出てきて画像の欄を開く。
「なんか表みたいなの出てきたよ」
「それ見せて」
画像を大きくして新くんに見せる。表にはひらがながいくつも書いてあって新くんはそれを目で追っている。
「……助けて、だな。その暗号助けてって書いてある」
「た、たすけて!?」
あのクソ野郎なんてもん送りやがったんだ!?解いた側が迷惑被るじゃん!!
……アメリカに住んでるヒロキって人が助けてという暗号送ってきて、アメリカ人なのに日本語の暗号作ってる。
ふむ………………。サワダヒロキくんだー……。
齢10歳にしてアメリカの大学に飛び級で入学してる子じゃん。劇場版の1作品に登場しただけ、原作には登場していないキャラクター、なのに人気でコナンファンなら誰しもが知っている子じゃん。
「この暗号誰から送られてきたんだ?」
「…………トーマス」
「急に顔しわしわにしてどうしたんだよ…」
「しんくーん……これどうしよう」
「まずは経緯を聞かせろ」
「あい……」
浮気の件以外を新くんに話す。
「アメリカにいるなら父さんに頼むしかないだろ。父さんなら地元の警察にも顔効くし、もしいたずらでも話して損はねぇだろ」
「だよねぇ…」
「今の時間ならロスは17時過ぎだろうし、電話してみろよ」
「わかった」
一応メッセージアプリに一言送ってから電話をかける。
『もしもし?誉どうかしたかい?』
「優作さん今大丈夫?」
『あぁ、大丈夫だよ。何かあったかい』
スピーカーモードにして新くんに話した内容と同じことを優作さんに伝えて、新くんから暗号について話してもらう。
『なるほど。2人とも助かったよ、これで地元警察を動かせる』
「??」
「父さん、話が飛びすぎてほーちゃんが理解できてねぇぞ」
『すまないすまない。一から説明するよ』
ヒロキさんはやっぱりサワダヒロキくんだった。劇場版同様にヒロキくんは今、トマス・シンドラーの養子になってマサチューセッツ工科大学に通っている。ことになっているけど実際はマンションの一室に軟禁されてるんだよね。
優作さんは学生時代の友人樫村さんから息子と連絡が取れないので探ってほしいと依頼があり、ヒロキくんについて調べていくと、大学にも登校していないしトマス・シンドラーの自宅付近でヒロキくんが目撃されてもいない。などなど色々なことから優作さんはヒロキくんがどこかに監禁または軟禁されていると考えていた。でも警察は物的証拠がないと動けないから他に証拠がないか探っていた最中に私から電話があった。
「ノアってアカウントの持ち主がヒロキくんだったら警察が動けるんだね」
「いや、アカウントの持ち主でも乗っ取られて勝手に使われた可能性もあるし、ホワイトハッカー雇ってマンションの監視カメラの映像入手するべきだろ」
「新くん怖い事考えるね……」
中学生だとは思えない現実的な考えですこと……。
突然ピコンッとメッセージアプリの通知音が鳴る。
「!……ほーちゃんこの名前」
「ん?……え゙」
『どうかしたかい?』
「父さん、サワダヒロキのアカウントからほーちゃんのLIMEにメッセージが来た」
携帯の画面に@noaという名前で映像が送られてきたことが通知された。私の携帯のセキュリティどうなってるの…?天才プログラマーにはセキュリティなんて無いに等しいものなのかな?
私が許可しないと連絡取り合えないのになんでメッセージ送れてるんだよ。新くんに目線で開けと言われて恐る恐る@naoとのトーク画面を開き映像を再生するとどこかのマンションの一室の映像が早送りになっている。
『彼が映っているかい』
「う、うん、小学校高学年くらいの男の子が映ってるよ。瘦せ型で男の子にしては若干髪が長いかな」
「父さんが言ってた通り軟禁されてるな。延々とPCで作業してるぜ」
『ほう。少年の容姿から考えるにサワダヒロキくんに間違いないだろう。映像がフェイクでなければ立件できるほど強い証拠になる』
「でもタイミングよすぎじゃない?もし罠でヒロキくんが危険な目に遭うなんてことになったら…」
『その可能性も多少はあるが、一旦その映像が本物であるか知り合いのホワイトハッカーに確認を取ろう。誉、送ってくれるかな』
「わかった」
映像をメールに添付して優作さん宛に送信する。ヒロキくんが自殺するのは多分秋ごろだったはず。でもイレギュラーが起こって早まるかもしれない……。ヒロキくんが無事でありますように!!
そして1ヶ月も経たずにニュースでトマス・シンドラーが逮捕された事が報道された。
『IT産業界の帝王と呼ばれていたアメリカのIT企業シンドラーカンパニー社長、トマス・シンドラー氏が自身の息子を不当に軟禁していたとして地元警察に逮捕されました。シンドラー氏は軟禁以外にも複数の容疑で逮捕された模様です。現在シンドラー氏の養子である少年は保護されているそうです。次のニュースです……』
ヒロキくん救済は喜ばしいけど、その発端がアイツだと思うと……。いや、不快になる事は考えない、考えない。
アメリカであった事件だからなのか日本での報道は簡素なものだった。IT関係者はびっくり仰天かもしれない。私自身も優作さんに任せてから一切音沙汰なく、@noaから新しいメッセージが送られてくることもなかった。あの時送られてきた映像にはヒロキくんが映っていたからヒロキくんがトマス・シンドラーに隠れて撮っていたと思ってる。植え込みとか本の間にカメラを置いて撮影するのドッキリ番組であるよね。そんな感じで助けが来るのを待っていたんじゃないかな。保護されたと言っても精神的なケアは必要になるだろうし、健やかに育ってくれ…!
「ヒロキくんが健やかに育ちますように」
テレビに向かって両手を合わせて目を閉じ呟く。
テレビに神頼みしても意味ないと思うけど。
「ヒロキなら心身ともに異常な数値は見られなかったよ」
「ん?」
テレビからヒロキって聞こえたような……。
目を開けてテレビを見ると、先ほどまでニュース番組が映っていた画面に黒の背景に白字でNOAH’S ARKと文字が浮かんでいる。
「のあずあーく?」
「そう。僕の名前はノアズアーク。ヒロキが作ったコンピュータプログラム、ヒロキは人工知能と言っていたよ」
えぇ…………なんでぇ…………。
「トーマス・デルーカから君に繋がるとは思ってもみなかった!彼については生憎だったね」
「やめて。私が可哀想とか思ってるでしょ。清々してるから」
「ふむ、別離とは悲しい事だと認識していたけれどそうとは限らないんだね。やっぱり人間は面白いや」
おもしろいかな?
「まさか@noaってアカウント……。ていうかなんで私の携帯に入れたの」
「僕が作ったアカウントだよ。あの画像にはウイルスを仕込んでいたんだ」
「ウイルス!?」
「危険な物ではないよ。トーマス・デルーカの携帯端末から別の誰かの携帯端末に画像が送信された際の目印のようなものさ」
「あぁ……それでそのウイルスを辿って私の携帯にあの映像を送ってくれたんだ」
仕方ない、仕方ないよ。倫理観とか色々言ってもノアズアークまだ人間に換算しても5,6歳だし。善悪の区別ついてないよね……。危険なウイルスじゃないらしいし携帯会社で修理代取られるのも面倒だし、もうそのままにしとこ……。
「うん、そして君の検索履歴から上杉暗号を見つけたんだ。そして君と工藤優作との電話も聞いていたよ」
「だからタイミングよかったんだ」
「我ながら良い働きをしただろう!」
褒めてほしそうな声色してる。
「ウン。……そんな事ができるすごーい人工知能がなんで家のテレビにいるの?」
「ヒロキの携帯端末は今没収されているから、僕が自由に出入りできないんだ。それ以外に僕が自由に出入りできる携帯端末は工藤誉、君の携帯端末だけだ」
「……アイツの携帯に入っておけばいいじゃん」
「トーマス・デルーカのことかい?彼の携帯端末にいても面白くないし」
「私も面白くないと思うけど」
犬の散歩と買い物くらいしか家から出ないし。検索履歴もネットショッピングくらいだし。SNSも頻繁に活用してないし。
「何を言っているんだい!君の経歴、交友関係はとても面白いよ!米花町を生活拠点にしているにも関わらず、幼少期からの事件遭遇率の低さ!そして大泥棒ルパン三世や怪盗KIDとも面識がある!そして陸上自衛隊秘密情報部隊に所属している!ただの一般人にしておくには勿体無いくらいのキャラクターの濃さだよ!」
「そ、そうですか」
ノアズアークってキャラクターの濃さとかわかるんだ。情報の海に潜ってるならそういう知識も身につくか。ていうか新くんがいない時間でよかった。バレたらやばいことしか言ってない。
「でも僕だけ良い思いをするのもフェアじゃないよね。……そうだ!!!陸上自衛隊秘密情報部隊での君の地位はそれほど高い訳ではないだろう?」
「た、多分そうだと思う」
母が無理やり所属させただけのお子ちゃま、パンピーとか思われてそう。
「君の地位を上げてみせよう!!君の異母兄が潜入している組織には警察からも2人ほど潜入しているんだけれど、そのどちらかが近いうちに脱落するよ」
「……まじかぁ」
もうそんな季節か……(泣)
諸伏さんってたしかどこかの廃ビルの屋上で自殺しちゃうんだよね。降谷さんの足音を敵だと間違えるなんて悲しすぎる。
そういえばノアズアークって陣さんと私が異母兄弟ってことも知ってるんだ。色々な所に潜ってるんだろうなぁ……。
「ここで救出すれば警察にも恩を売れるし、陸上自衛隊秘密情報部隊は有能な人材を確保できる。うん!我ながら良い案だと思うね!」
「ウン……。えっと、潜入バレする人ってまだわからないんだよね?」
「君が選んだ人物を潜入捜査官だと漏洩されるよう誘導できるよ。でも今のところ何もしなければ、警視庁の公安部所属の諸伏景光巡査部長が落とされるね」
やっぱり原作と同じか。一旦バレて死んだことにしておいた方が楽になる気がする。死亡偽装は陣さんに任せよう。黒の組織絡みはあの人が1番動けるだろうし。
「そのまま諸伏さんがバレるように誘導してくれるかな?それとリークしようと動いてる人達も調べてほしい」
「OK。任せて、そのくらい簡単だよ!」
「あ、でもノアズアークが危険と思ったらすぐに止めていいから」
「僕はAIだ。例え僕自身が消滅しても死ぬという概念ではないよ?」
「せっかく知り合えたのにいなくなっちゃうのは悲しいよ」
「ふーん、人間は無機物にも魂を宿らせるというのは本当だったんだね。まあ安心しなよ、今現在地球上で僕よりも賢いコンピュータプログラムなんていないからさ!」
確かに現代日本でもこんなに喜怒哀楽がわかりやすいAIはいない。ヒロキくんが流石なのもあるけど、ノアズアークが学習した情報が濃かったんだろうなぁ……。
「それじゃ僕は電子の海を泳いでくるよ、またね〜」
電子の海……なんかかっこいいな。
テレビが再放送のドラマに変わる。このテレビ、wifi繋がってないのにどうやって入り込んだんだろう。……コンセントからケーブル渡ってきたとか?ありそうだな。もしかしてケーブルに細工がしてあるとか。テレビのケーブルを持ってみる。
「……別に普通か」
「何してんだよ…」
「うぇっ!?」
驚いて振り向くと学ラン姿の新くんが立っていた。
「し、新くん!学校は!?」
「今日は午前中で終わるって言っただろ」
「あ、あぁ……それ今日だったんだ。おかえり」
「ただいま。で?テレビのコンセント見て何してたんだよ。壊れたのか?」
「ボタン電池落としちゃってさー!今探してたんだよね!」
「ふーん……」
やめてやめて犯人探すときの目やめて!私何も罪犯してません!!無実!無実!
内心は荒ぶっているのを隠して、さも電池を探してる風を装う。
「どこかなぁ?」
「新品買えよ。ほーちゃんの時計電池切れそうだったろ」
「あー、やっぱり?最近よく時計合わなくなってたんだよね。ボタン電池くん、君のことは忘れないよ!」
「……」
「呆れた目で見ないでよ。何言ってんだこいつって思ってるでしょ」
「ほーちゃん昼飯まだだろ?ポアロ行こうぜ」
あ、あからさまに話題逸らした……!?最近の新くんは冷たくなった気がする。昔はあんな呆れた目で見てこなかった!お姉ちゃんは悲しい。これが思春期なんだろうか。う、うるせえババアとか言われる日も近いのかな……。そんなこと言われた日にはショックで死ぬかも。
「ほーちゃん?」
「う、ううぅぅぅぅ…!」
「な、なんで泣いてんだよ!?」
「だってぇ、新くんがぁ、新くんがぁうるせえばばあってぇ!」
「何の話だよ!?」
突然泣き出した私に戸惑ったのか、新くんはびゃーびゃー泣く私を連れてポアロに向かった。……なぜ号泣中の私も連れて行く?新くん1人で行っていいんだよ?被害妄想で泣く女なんて放っておいてよかったんだよ。びっくりしたのかな。
ポアロに着いた頃には流石に泣き止んだ。だって学ランの子が成人女性(号泣)連れてるのなんて異常じゃん。
恥ずかしくて泣き止んだわ。
「いらっしゃいませ〜!」
ポアロに久しぶりに来たら最近アルバイトとして雇われた榎本梓さんがいた。
「新一君こんにちは!あ!今日はお姉さんも一緒なんですね!」
「こんにちは〜」
「こんにちは!」
「あの、蘭いますか?」
「蘭ちゃんなら今事務所の方に行っちゃってるのよ。そこのテーブル席に座ってたから、2人もどうぞ!」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ!」
かわいい。お花が舞ってる。
蘭ちゃんが座っていたテーブル席に行く。
「……何でそっち座るんだよ」
「なんでって…新くん蘭ちゃんの隣がいいでしょ?」
壁側の席に蘭ちゃんが飲んでたグラスが置いてあるし、新くんは蘭ちゃんの隣の席の座ると思って新くんと対面になる通路側に座ったんだけど……。
「こっちがいい?隣来る?」
「ん」
新くんは私の隣に座る。……蘭ちゃんとは隣より対面の方がよかったのかな?でも好きな人の顔は正面で見たいよね。私もそんな時があったよ……。新くん達は永遠に愛を育んでいてね。
「ほーちゃん飯選べよ」
「新くんは?」
「もう決めた」
「はやーい。んー、どうしようかなぁ」
お、新メニュー出てる。いかすみパスタかぁ。今日白い服だし、また今度食べに来よ。
「ホットサンドにしよ。注文お願いしまーす」
「はーい!」
「ランチセットのホットサンドください。飲み物はアイスコーヒーでお願いします」
「俺もホットサンドでアイスコーヒーお願いします」
「ホットサンドとアイスコーヒーのセットがお2つですね!少々お待ちください!」
うん、かわいい。
そういえば今日マスターいるのかな?以前来た時はいつもカウンター内にいたけど、梓さんがいるから厨房にいるのかな?あんなイケおじが秘密情報部隊として倫理観の無い所業をしていたと思うと……人間ってわからないよねぇ。
「あ、蘭」
新くんが窓の外を見ていると慌てた様子で蘭ちゃんがポアロに入ってきた。
「梓さんありがとうございました!」
「いえいえ〜」
帝丹高校より中学校の制服の方がかわいいと思うのは私だけだろうか。青一色の制服ってさ……、いやなんでもないです。
「新一待たせちゃってごめんなさい!」
「出来上がるの待ってるだけだし、謝らなくていいって」
「うん!誉ちゃんも来てくれたんだね!」
「久しぶり〜。座りな座りな」
実を言うと蘭ちゃんとは約3年ぶりに会う。3年も経つから小学生だった蘭ちゃんがお姉さんになってる。保育園児の頃からずっと見てた私からすると感慨深いよ……。
「そうそう!蘭ちゃんに聞きたいことがあったの」
「聞きたいこと?」
「突然何だよ」
「ぶっちゃけ新くんどうですか」
「なっ!?」
私を黙らせようと新くんが口を塞ぎにくるのを抱きしめて封じる。今聞かないでどうするんだ!!
「新一のこと?」
「うん。好き?」
「っ!?」
「うん、好きだよ!」
……これはlikeの意味だな。流石正ヒロイン、手強い。
「蘭ちゃん、新くんはねずうううっと蘭ちゃんが大好きなの。それはもう止められないほど好きなの。あ、友情じゃなくて恋愛の好きね」
「ふぁっ!!?」
なんだ今の声、かわいいな。ふぁってなんだ、ふぁって。
蘭ちゃんの顔が徐々に赤みを帯びる。
「今のことを聞いて蘭ちゃんは新くんが男性として好き?」
「むごっ!!!」
新くんは黙らっしゃい!!
「………………うん」
「私も好きだよ、新一のこと」
胸に顔を押しつけていた新くんを離す。
「…………」
おいおいおいおい!!工藤新一ここで黙るなよ!?
目で圧をかける。
「……毛利蘭さん、俺と、付き合ってください」
「!、……はい…!」
パチパチパチパチ
後ろからめっちゃ拍手されてる。梓さんだな。
「2人ともおめでとう。誉さんは涙が出るほど嬉しいです」
「ほーちゃん…!!」
「お待たせしました!ホットサンドです!」
「ありがとうございますぅ」
お腹ペコペコなんだよね〜。
「あふっ!」
あちあちっ!
「……」
なんだい新くんその目は。こちらとしては感謝してほしいくらいですよ。新くんは無事お付き合いすることになったし、次は快くんだな。酸いも甘いも経験した齢23の女に任せなさい!
「いらっしゃいませ〜!」
「2人でーす」
「テーブル席でよろしいですか?」
「陣平ちゃん良いよね?」
「おう」
「ではあちらのテーブル席にどうぞ!」
「ほーい」
ホットサンド美味美味。
新たなお客さんが来たのでさっきみたいに騒がないようにしないと。
「……本当、よく食べるな」
「!?ほほへひふはっへひふへいは!」
「食べてから喋れよ」
ゴックン。
「乙女に向かって失礼な!」
「誉ちゃんいつも美味しそうに食べるよね!」
「ありがとう蘭ちゃん。優しい蘭ちゃんにはケーキを買ってあげよう。すいませーん」
「え!?大丈夫だよ!?」
「いいからいいから」
梓さんにフルーツタルトを1つ注文する。
「でも悪いよ…」
「蘭ちゃん頑張ってるからご褒美だよ。都大会優勝したんでしょ?」
「俺も準優勝だったんですけど?」
「それはそれ、これはこれ。ていうか新くんにはこの前レモンケーキ作ったでしょ」
あのレモンケーキは自信作だったなー。最後にメレンゲをバーナーで炙るのは緊張した。いい塩梅に焦がすの大変だった。
「師匠も言ってたよ、蘭ちゃんは才能に胡座をかかず努力を惜しまない子だって」
「えへへ…」
かわいいな。
「お待たせしましたフルーツタルトです!」
「ありがとうございます。はい食べな」
「誉ちゃんありがとう…!いただきます」
いっぱい食べて大きく成りな……!!
「やっぱり誉ちゃんだ!」
「ん?」
名前を呼ばれた方を向くと5年前に出会った萩原さんと松田さんが私の隣、窓際のテーブル席に座っていた。
……………………。
「えっと………」
「こういうものです」
萩原さんが緩く敬礼をする。
「あぁ!警察の、……萩原さんと松田さん!お久しぶりです」
「久しぶり〜。5年ぶりかな?」
「そう、ですね」
「陣平ちゃんも覚えてるだろ。まさか忘れた?」
「忘れるかよ。元気だったか」
「はい。お陰様で」
もう会わないと思ってたのになー。偶然ってすごいなー。
「ほーちゃん誰?警視庁の人だろ」
「うん。ほら私が高3のとき花ちゃんのマンションで事件あったでしょ?その時の事情聴取の担当がお2人だったの」
「あー……あれか」
「君、工藤新一君だろ?班長から話は聞いてるぜ。中々頭がキレるみたいだな」
「どうも。従姉妹がお世話になったみたいで」
……私を挟んで睨み合いしないでくれません?新くんは何をそんな威嚇してるのかな?刑事さんに威嚇して欲しくないんだけど!?
「君は毛利さんとこの娘さんだよね?」
「は、はい!父がお世話になってます!」
「いやいや!毛利さんには俺達の方が世話になってるから」
「そうなんですか…?」
「いや〜あの人勘で事件解決しちゃうからさ。色々教えてもらってるんだよね〜」
勘。この世界の毛利探偵事務所は閑古鳥が鳴いてない。原作ではコナンくんが居候する以前は浮気調査やら普通の探偵ぽいことをしていたけど、この世界では小五郎さんは難事件とまでは行かないにしても数々の事件を、なんと勘で解決しちゃうらしい。小五郎さんに話を聞いたら昔から勘が良いんだよ、とのこと。
「ははっ、嘘だと思ってるでしょ」
「蘭ちゃん、実は小五郎さんってすごい警察官だったんだよ」
「そ、そうなんだ…」
蘭ちゃんは土日のお昼に競馬新聞片手に缶ビール開けてる姿しか知らないもんね。蘭ちゃんが学校行ってる時間には刑事さん達捜査協力で結構事務所来てるんだよ。私も暇で暇で仕方ない時に探偵事務所に遊びに行った時に知ったんだけどね。
「お二人はお昼休みですか?」
「あぁ。コイツがここのナポリタンが美味いって聞いたんだと」
「なるほど。ナポリタンおすすめですね」
「おっ、誉ちゃんが言うなら間違いないな。陣平ちゃんもナポリタン?」
「ホットサンド」
「ここに来てホットサンドかよ」
「うるせぇ」
松田さん安心してください、ホットサンドも美味しいです。
それから10分ほど萩原さん達の料理が来るのを待つ間に雑談していたが、きなこの散歩があるのでポアロを出た。
「蘭ちゃん今日は小五郎さん達いるの?」
あれから英理さんは原作同様凄腕弁護士としてバリバリ働いている。そして毛利家は家族3人でここに住んでいるのです!でも時々仕事に集中したい時は弁護士事務所近くの賃貸マンションで生活しているらしい。別居ではないらしいから蘭ちゃんも不安になってないみたいだ。相変わらず口喧嘩はしてるみたいなので、蘭ちゃんには流石にヒートアップしすぎたら無理やりハグして落ち着かせろと伝えてある。
「お父さんは出張だけど、お母さん今日の裁判は早く終わるらしいから大丈夫だよ」
「そっか、でも女の子1人だから気をつけてね。何かあったらすぐ電話していいから」
「うん!ありがとう誉ちゃん、新一もまた明日!」
「ん、またな」
新くん念願の彼女にん、またな……、は素っ気ないんじゃない!?
トーマスバイバーイ回でした。
お読みいただきありがとうございました!