ニューヨークから帰国後お土産配りを終え、やっと撮りためたリスの写真から資料として使えるものを選ぶ作業を始めた。SDカードに保存したリスの写真の多さに自分のことながら慄く。なんでリスだけで300枚も撮ってるの……?流石に怖いんだけど。
「終わったー!!!」
なんとか半日で全ての写真を選別し、一息つくため自室からリビングに向かう。階段を降りてリビングに行くと諸伏さんがティーセットを広げていた。
「お疲れ様。声が聞こえたから降りてくると思って準備してたんだ」
「ありがとうございます!いただきまーす。……はぁ、沁みる……」
ハーブティの温かさが体に沁みて、心を落ち着かせてくれる。料理もできて、仕事もできて、気遣いもできて、諸伏さんってあれだ、キャーキャー黄色い声をかけられるような目の保養系よりメンヘラとか執着する感じの重い女が目をつけるタイプな気がする。諸伏さんがいないと生きていけなくなる女性いたんじゃないかな……。
「諸伏さんってメンヘラ製造機って言われませんか」
「せ、製造機?いや無いけど……」
えぇ……?
「今まで一度もですか?」
「無いな」
そ、そんなっ。
「このままだと私、諸伏さんがいないと生きていけない体にされそうです」
胃袋掴まれた時点で詰んでるんですけどね。
「ははっ、過分な評価だな」
ピンポーン
諸伏さんと話しているとチャイムが鳴る。インターホンを確認すると宅急便の配達員の格好をした桜小路さんが手を振っていた。……さ、桜小路さん!?な、なんで!?
急いで玄関に向かい、外に出て門扉を開ける。配達員の格好の桜小路さんの後ろにはよく見るチーター宅配便のトラックが停まっている。
「ほまほまこんにちはぁ。あ、お久しぶりの方がぁよかったですかねー?」
「こんにちはで大丈夫ですよ。今日はどういったご用件で?」
「ほまほまにー渡す物がありましてぇ。黒さんからでーす」
黒さんとは陣さんこと。桜小路さんからA4サイズの封筒を手渡される。ん?これ携帯入ってる?中身は書類と思っていたが封筒を触ると長方形で恐らくスマートフォンらしき物が入っている。
「ありがとうございます」
「はぁい。じゃー私ぃ帰りますねー」
「あ、はい。ありがとうございました」
桜小路さんはチーター宅配便のトラックに乗り去っていった。
リビングに戻り諸伏さんに桜小路さんが来ていたと話す。
「それにしても急だな」
「ですよね。いつもなら諸伏さんに連絡が入るはずなのに、」
諸伏さんは秘密情報部隊でも射撃訓練や体力トレーニングなど以外に私の部下として連絡係のような事もしている。なぜかですね、わたくし工藤誉、階級が三尉から一尉に昇進しました……。陣さんが言うには、警察組織に貸しを作った功績を上が認めたかららしい。ニ階級特進の話を聞き、断固拒否していたのに無理矢理階級を昇進させられた。陣さんは昇進の話を進めただけに止まらず、私に断りもせず工藤班という班を作り諸伏さんを班員、というか部下にしてしまった。なに工藤班って!?班員2人だけってどういうことよ!?別に班にしなくていいよね!?
「考えても仕方がない、開けてみるよ」
「はい」
諸伏さんが封筒を開けるとA4サイズの紙が1枚と予想通りスマートフォンが入っていた。
「ポアロの求人?」
ポアロの時給や勤務地、勤務時間などが書かれた何の変哲もない求人紙が1枚入っていた。
「!、誉ちゃんこれ見てくれ」
諸伏さんはスマートフォンの液晶画面を見せてきた。
「……」
画面には陸上自衛隊秘密情報部隊所属工藤誉一尉と書かれた文字と秘密情報部隊の制服を来た私の顔写真が映っていた。…………なにこれ。
「やっと届いたみたいだね!」
「「!!」」
ノアズアークの声が聞こえたと思えば、スマートフォンの画面が暗くなりNoa’s arkという文字が映し出される。
「ノアズアーク!?」
「やあ!久しぶりだね工藤誉、諸伏景光」
「ひ、久しぶり。って、本当に久しぶりなんだけど」
「いや〜、色々な情報戦を得意とする団体や組織に喧嘩を吹っかけていたら楽しくてね〜!」
「け、けんか……?」
「最近姿を見せないと思っていたが、そんな事してたのか」
「多くの人間が今ある物より、更に良い物を作ろうとしてる。刺激を受けた僕は研鑽を積もうと思ったのさ」
ノアズアークによって情報攻撃を受けた人達のことを思うと、い、胃が、痛くなってきた……。
「内閣情報調査室のサーバーに潜ったけれど、流石国の根幹だね。持っている情報量と濃さに興奮が止められなかったね!」
「内調にまで……」
「スーハー…………。無事に帰ってきてるってことはバレてないんだよね?」
一旦深呼吸して落ち着かないとやってられない。
「当たり前さ!」
「なぁノアズアーク、君はこの端末が何か知っているんだな」
「!」
そうだそうだ、ノアズアークの話した内容に衝撃を受けて記憶が飛んでた。
「あぁ。これは工藤誉、君へ吾郎からの贈り物さ」
「私に?」
しかも吾郎さんから?
「この携帯端末は、普段自身の所属を証明する自衛隊証として使用できる。また、特定の相手、例えば諸伏景光や黒澤陣に、サーバーを介さずメールの送受信が可能だ。同様に電話も回線を介さずに行える。電話は不特定多数の人間に可能で、その上相手の端末に履歴を残さず電話が可能なんだ!更に、この端末をかざすだけで電子機器のロックや携帯端末のパスワードを瞬く間に開錠できるんだ!!」
「」
こんなものいらない。わたしいらないです。ひつようないです。
「なるほど。誉ちゃんが緊急事態の場合、電波を気にせず連絡を取れるのか。ノアズアーク、俺の携帯から回線を介さず連絡をするにはどうすれば良い」
「簡単さ!君の携帯端末にこの端末が持つ独自のウイルスを侵入させれば良いのさ」
「!、電子機器にもそのウイルスを侵入させてロックを外すのか」
「その通りだよ。自由電子数が多い金属を素材に使用することで、USBケーブルが無くとも電子のやり取りが行うことが可能になった。吾郎の着眼点には流石の僕も脱帽だよ」
なんかひとりだけおいてけぼりなんですけど。そんなかんたんにじゅんのうできない。
「そうだ。工藤誉君が受け取りを拒否した場合、吾郎は君の完全なクローン体を作成すると言っていたよ」
「ひぇ」
「諸伏景光のクローン体は時間が無く、身体つきが似ているだけの個体だったが次は時間をかけて、精巧で完璧なクローン体を作るそうだよ!」
「も、貰います。うん、吾郎さん、ありがとう。ワタシ、トッテモウレシイ、ナ。ハ、ハハ……」
「この端末には僕の分離個体が常時入っているから、連絡が必要な際は声をかけてほしい。じゃあ僕はイギリスに行ってくるよ!」
「いってらっしゃい……」
ノアズアークが去ったからか画面の文字が消える。端末を持って確認しても普通のスマートフォンに見える。多分肌身離さず持っていないとダメだろうな。電源ボタンを押すとパスワードはかかっておらず、開くと電話やSMSなど連絡アプリが数個あるだけ。もし怪しまれたら仕事で連絡用に使っているから連絡アプリだけ入れてるんです〜って言えばいいか。でも怪しまれることなんて早々無いですし、事件に巻き込まれるなんて最近全然ありませんし、大丈夫ではないのでしょうか。
そういえば、わたしって米花町に住んでるのに事件遭遇率低いのでは?銀行に行っても銀行強盗に出会ったことない。いや銀行強盗なんて会いたくないんですけどね。
……ちょっと待って。このスマートフォンは何かわかったけど、求人誌はなんで入ってたの?遊び心ってやつ?桜小路さんならやりそう。
――――――――――――――――――――
「わぁ……」
ある日、諸伏さんが最近紅茶にハマっているようで出先で偶然紅茶専門店を見かけ、お土産に茶葉とか買ってみようかな〜と軽い気持ちで入店すると四方八方茶葉茶葉茶葉。種類が多すぎて店員さんに聞こうとしても、御用の際はボタンを押してくださいと書かれた紙がレジに置かれていて見当たらない。よく見かけるアールグレイでいいかとアールグレイを探している最中。
「アールグレイ、アールグレイ……」
「初心者にはセイロンティーがおすすめですよ」
「!」
背後から突然声がしたので振り向くと目の前にはネクタイ。この人背高すぎ。斜め上を向くと片目のケイドロを隠すようにサングラスをかけた強面でスーツ姿の男性。
黒田管理官!?え、えぇぇ!!??
「どうかしましたか」
「あ!?い、いえ!せ、せいろんてぃですか!?」
「スリランカ産の茶葉です。渋味が無くバランスの取れた味わいを持つ紅茶で飲みやすく、初心者が紅茶の良さを感じるには最適な一品です」
「な、なるほど…」
紅茶詳しいな!?その顔で紅茶派なんですね!とか言えないけど!!言えないけどさ!!
「あ、あーるぐれいって万人受けします、かね?」
「アールグレイは香りが強い紅茶故に好き嫌いが分かれる代物です。ご友人は普段どのような飲み物を好まれますか」
「えっと、普段はコーヒーを飲んでます。紅茶には最近ハマったみたいで…」
「そうですか。……では茶葉の詰め合わせはどうでしょう」
「なるほど!あ、でも詰め合わせも色々ありますね…。おすすめとかありますか?」
「アフタヌーンティー・ティールームの詰め合わせは定番を押さえているので、飲み比べしやすいかと」
あふたぬーんてぃ……、ふむ。4種類10個ずつティーバッグが入っていて4000円くらいか、いいかも!お礼を言っておすすめされた物を購入する。
有識者に聞くのが一番だよな〜!一人だったらよくわからず買ってただろうから。何かお礼を渡したい。今日買ったクッキー缶渡そうかな。新くんと2人で食べる用と1人で食べる用の2つ買っててよかった。
「あのぉ…」
「購入されましたか」
「はい!相談に乗っていただいてありがとうございました。お礼というか、勉強になったので、もしよかったら……!」
モゴモゴと言いながらクッキー缶の入った百貨店のショッパーを手渡す。
「いえ、私は何も……」
「いえいえ、受け取ってください!怪しい物じゃないです!さっき百貨店で買ったんです。ご家族で食べてください!」
……職場の方々と食べてくださいの方がよかったかな。
「……では、遠慮無く。ありがとうございます」
「こちらこそ!おかげで良い買い物ができました!ありがとうございました!」
何度も頭を下げてありがとうございましたと言い店内を出る。き、緊張したぁ。まさかの人で驚いた。管理官って呼ぶとまずいから紅茶の先生って呼ぼうかな。私が一方的に知っているだけだろうし、いや裏の理事官として私のこと知ってたから接触してきたのか?……紅茶専門店で?無いな。絶対偶然出会っただけだな。それにしてもあの強面でコーヒーより紅茶が好きだなんて、いや人を見た目で判断するなんてダメだよな。知識も豊富だし、初心者にはせいろんてぃがおすすめって言ってたから今度またお店行こうかな。
おすすめされた詰め合わせセットが美味しくて、あの紅茶専門店に度々行くことになり、しかも黒田管理官改め紅茶の先生とよく会うことになるとはこの時の私は思ってもみないことです。あの時の私〜2人で紅茶が絶品のアフタヌーンティーに行くことになりまーす。楽しかったでーす。
お読みいただきありがとうございました。