映画のネタバレはしていないつもりですが、ネタバレが嫌な方は読むのを避けてください。
「長野、ですか?」
ここ最近月一で開かれるポアロでの女子会(メンバーは蘭ちゃん、園子ちゃん、私、時々新くん)を今日も実施する予定だったのに、なぜか毛利探偵事務所にいる。いつもならこの時間帯は小五郎さんの大好きな沖野ヨーコちゃんがレギュラー出演しているバラエティ番組が放送されていて小五郎さんは齧り付いて見ているはず。探偵事務所に呼ばれて出向くと小五郎さんと見知らぬ男性がいた。この男性は態々長野から来たらしい。私も明日から仕事で長野に行くんだけど信州そば楽しみだな〜。
「あぁ。5年前長野で転落事故が起こった。被害者は流鏑馬の練習中に馬ごと転落し死亡したそうだ」
「そんな……」
ん?長野で転落事故?流鏑馬の練習?なんか聞いたことあるような……。
「だが、その事故はただの事故じゃあねぇ。この虎田義郎さんは被害者、甲斐玄人さんが乗っていた馬の足元に銃弾が撃ち込まれたのを見たそうだ」
「!」
思わず目の前に座っていた男性、虎田さん?を見る。虎田さんはみるみる顔色が青ざめていく。だ、大丈夫?人間ってそんなに顔色悪くできるんだ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……」
「んで、虎田さんはそれを証言しようとここまで来たってわけだ」
「え、長野の転落事故、いや事件?の証言をしになんで東京に?……あ」
「わかったか?」
銃撃した犯人に命を狙われてるんだ。
「虎田さん、よく無事でしたね……」
「さ、流石に東京の警察へ行くとは、思わなかったようで、監視も着いて来なかったです……」
あらぁ……監視って……。
「俺は虎田さんを警視庁に連れて行く。出張で1週間は東京にいると言ってきたそうだから、その間俺は身辺警護で動けん」
「…………まさか」
「そのまさかだ!長野に行って長野県警にこの事を伝えてくれ。頼んだぞ誉!」
なんか最近面倒事に巻き込まれやすい気がする!!!
「わかっていると思うが、目暮警部に頼んで長野県警に連絡を取るより、一般人のお前が長野県警に行く方が犯人に気づかれる可能性が限りなく低い!」
「いや、私が明日から長野に行くこと知ってて頼んでるでしょ!?手取り早くて助かるとか考えてませんよね!?」
「……そんな事考えてる訳、ないだろ!」
考えてるじゃん!!!小五郎さん考えてる事丸わかりだよぉ!!泣
抵抗虚しく小五郎さんに頼まれたという話を、夕食のビーフシチューを作りすぎてお裾分けに来た諸伏さんに伝える。
「転落事故か…。犯人の目星は?」
「虎田義郎さんの母親、虎田達栄です。でも後妻なので血の繋がりは無いそうです」
「……その名前資料にあったな」
「!、PC持ってきます」
自室からノートPCを持ってきてPDF資料を映す。
「あった、ここだ」
諸伏さんが指したのは、違法な賭博場やオンラインカジノを運営している人物が書かれている名簿だった。確かに虎田達栄の名前があった。この違法賭博で利益を得ているのは以前長野県など中部地方で幅を利かせていた風林会って暴力団の残党で、諸伏さんが言うには暴力団ではよくある金儲けの手口らしい。
「賭博……、もしかして流鏑馬でも賭け事をしているんじゃないか」
「はい。義郎さんは達栄は流鏑馬で賭け事をしていたそうです。賭け金のために甲斐さんを殺したんじゃないかって小五郎さんが言ってました」
「賭博の賭け金を得たいがために、地元のゴロつきに命じて勝敗を操作しているのか」
「でも警察が虎田達栄をマークしていないってことは、警察は流鏑馬で賭け事をしてるって知らないんですかね」
「恐らくな。事故現場で銃弾が見つかっていれば早期解決できただろうが、回収されて処分済みだろうな」
「ですよねー。私が証言しても証拠が無いからって門前払いされますよ」
証拠があれば話は早いんだけどなー。
「まあ行くだけ行ってみよう。明日俺も着いてくよ」
「着いていくって、お兄さんって長野県警の刑事なんですよね!?」
私が考えた簡単な変装なんて身内が見たらすぐにバレるはず。今から有希ちゃんに変装術を教えてもらう時間なんてない。
「もし会っても兄さんなら大丈夫さ。俺が偽名を名乗って赤の他人を装わなきゃならない理由をわかってくれる」
「……、わかりました。私もお兄さんに何か聞かれても山田緑だと言い続けます!」
あの頭のキレる諸伏高明さんなら弟が正体を隠す理由がわかるはずだ。
そして翌日、北陸新幹線で約1時間半で長野駅に着いた。駅の中や駅前で警察官を何人も見かける。パトロール中にしては数が多い気がする。
「何かあったんですかね」
「あぁ、名家のご令嬢が誘拐されたらしいですよ」
「誘拐……」
「そしてその犯人グループが風林会の残党です」
「……ノアズアークですね」
大学生山田緑に変装している諸伏さんはニコリと笑うだけ。民間人が不思議そうに警察官を見ているってことは報道規制がされているのに犯人グループまで知ってるってことは100%ノアズアークが知らせてくれたんだろう。ノアズアークってばどうして私には教えてくれないのかな!?報連相!大事!!
『誘拐されたのは橋谷京子23歳、陸上女子ハードル走の選手だ』
ノアフォン(私が命名しました。ダサいって言った……?)に諸伏さんからメッセージを送られてきた。ハードル走の選手で橋谷京子ぉ?……聞き覚えがある名前だなー。検索をかけると見覚えのある顔写真。
「ケイじゃん…」
白百合学園の後輩で中等部時代に知り合い、私の非公認ファンクラブも副会長だった気がする。ちなみに会長は花ちゃんで薫子ちゃんは書記だったらしい。
「知り合いですか?」
「後輩です。そう言えばあの子、実家が長野って言ってました」
陸上部のシンデレラって呼ばれてたなぁ……。シンデレラみたいに儚い女じゃないのに。顔が儚げ美少女でもパッションは熱々だから。
「ケイなら大丈夫ですよ。絶対楽しんでますから」
学生時代にも1度、ケイは誘拐されそうになった事があった。その時は私が誘拐犯に飛び蹴りをして事なきを得た。その誘拐未遂事件でケイとは知り合い、見事な飛び蹴りでした!!初恋奪われました!!流石は白百合の貴公子ですね!!付き合ってください!!!、と誘拐犯が伸びている真横で熱烈な告白をしてきたくらい肝が据わってる。怖くなかったのかと聞いたら、怖い?何がですか?って何を言っているのかわからないって顔されたからね。誘拐ってドラマみたいでワクワクしませんか!?とも言っていたし、遂に誘拐されて喜んでると思う。
「何と言うか…、白百合学園には面白い子がいるんですね」
「面白いで片付かないくらいキャラが濃い子達ばかりです。じゃあ県警本部に行きましょう。ケイは明日迎えに行きます」
「明日は予選会があるそうですけど、大丈夫ですかね?」
「あー……、今日中には行きましょう」
多分今頃、廃工場とかドラマみたいだー!って目をキラキラさせてると思う。実際に捕まってる場所知らないんだけどさ。別に面倒だから後回しにしているわけじゃないので。
タクシーに乗り長野県警へ向かう。へー、県庁の隣にあるんだ。タクシーを降りて建物の中に入ると人がいない。受付にもいない。御用の方はどうぞと書かれてあるベルを数回押しても誰も現れない。セ、セキュリティ……。誘拐事件があったからって受付にまで人がいないなんて。しかも今入ってきた出入口にも、普段なら警察官が立っているだろうに、壁に棒が立てかけられているだけだったし。……もしや人手不足?
「誰もいませんね」
「1時間後にまた来てみます。緑さんもうすぐツアーの時間ですよね。私の事はいいので行ってください」
「良いんですか?僕、全然残りますけど」
「何かあったら連絡しますし、楽しみにされたんですから行かないと損ですよ」
県警本部を出て、諸伏さんと別れる。諸伏さんの姿を見送ってすぐさま車お願いしますというメッセージを諸伏さんに送る。了解、と返信が来たのを確認して、合流するまで事前に調べていた死ぬほど並ぶ人気蕎麦屋へ歩いて向かう。
「ノア、お願いしまーす」
ノアフォンを持ち電話をしている風を装い、ノアと呼んでいるノアズアークの分離体に呼びかける。
「OK!まずは目の前のコンビニに入って。ATMコーナーにいる女性客を君に偽装するね!」
「はーい」
言われた通り目の前のコンビニに入り、防犯カメラの死角となるATMコーナー女性客の後ろを通り、何も買わずにコンビニを出る。私のすぐ後に女性客もコンビニを出て商店街がある方向に歩いていく。
人通りの少ない道を進み、手入れがされていない公園の路肩に停められてた事業用車の助手席に乗り込む。
「よいしょッと。車ありがとうございます」
「西原三佐に連絡したら用意してくれたんだ」
西原三佐とは陸上自衛隊情報保全部隊という自衛隊の機密情報を守っている部隊の隊員さんで、秘密情報部隊と陸自上層部との連絡係さん。本人的には何でも屋って感じらしい。この車と作業着を用意してくれただけでなく、現在進行形で山田緑として武田信玄ツアーに参加してもらっている。本当に助かります。今回長野に来たのも、西原さんから長野地方協力本部(自衛隊の地方部隊のこと)で変死体が出たので調査に来てほしいという連絡があったため訪れた。
「橋谷京子は市外の空き家に監禁されているよ!僕がナビゲーションしよう!」
車のスピーカーからノアズアークの声が流れて勝手に目的地を設定される。突然現れるのももう慣れっこだ。諸伏さんはナビに従い車を走らせる。
15分弱でケイが監禁された空き家から少し離れた場所まで来た。
「携帯端末の位置情報から中には橋谷京子以外に3人いるみたいだよ」
思っていたより少ないな。犯人達にとって身代金の方が大事なんだろうけど、流石に少ないと思う。
「4人は左の角部屋にいるよ」
「あの部屋だな」
車から見えたのは、ボロボロの家屋に不自然なヒビが全く無いすりガラスで作られた窓がある部屋だった。あんな家、怪しいですって言ってるようなものでは……。
「諸伏さんは裏口の方に待機していてください。万が一逃げられた場合は追跡お願いします」
「了解」
作業着を羽織り黒い革手袋をし帽子を被って、もし監視カメラがあっても工藤誉とわからない格好で車を降りる。懐の拳銃(サイレンサー付き)をチラシを挟んだバインダーで隠し、わざと足音を出しながら歩く。
「……」
拳銃を持っても震えなんて起こらなくなったな。母は危険な事はさせないって言ってたのに、自ら拳銃を使うなんておっかしいの。
「すみませーん!わたくし、水道局の者ですー!大竹晴敏さんはご在宅でしょうかー!」
あっれれ〜?誉お姉さんの声が男の人の声なってるよ〜?どうして〜?
それはねー、博士と吾郎さんが共同開発したシールタイプの変声機(透明なシールで喉に貼って使用したからだよー!
自分とは程遠い低めの男声で喋る。
「すみませーん!大竹晴敏さんいらっしゃいますかー!」
ドンドンッドンドンッ
強めに引き戸を叩く。数分も立たず中から足音が聞こえ、懐から銃を取り出して待つ。足音が玄関で止まり鍵を開け、中から私と変わらない背丈の男性が現れた。いかにもゴロつきって感じの見た目だ。
「こんにちは!わたくし水道局の者ですが、大竹晴敏さんでお間違えありませんか?」
「あ゙ぁ゙!?知らねぇよそんな奴!とっとと出てけ!殺すぞ!?」
「……」
シュッ
「ぐっ!?」
身体の真ん中で持っていたバインダーを少しずらし、その隙間から男の腹に2発撃つ。男は痛みで動けないようだ。わかるわかる、銃で撃たれるって痛いよね。
「おい!誰か来い!」
変声機のチューニングを変え倒れている男の声色で中に呼びかけ、人一人が通れるくらい開けて仲間が来るのを待つ。
「おい!来いつってんだろ!?」
「ウルセェな!行きゃいいんだろ!!」
よし、1人来るな。
引き戸の前に屈み、物音を立てないよう動きを止める。
「んだよ、」
シュッ
「グアッ!?」
中から来たもう1人の男は私に気づかず若干素通りし、背を向けていたため遠慮なく背中を2発撃ち抜いた。
よし、あと1人。銃を構え慎重に家の中に入る。
曲がり角の先が目的の部屋だ。と角部屋への歩みを止めて身を隠す。
「そこのお前!!こ、こっちに来い!!」
「……」
まあ気づかれるか。
先に目視で確認するとケイが男に銃を突きつけられていた。すぐさま部屋の前に移動し。男に銃を向ける。
「こ、こいつがどうなっていいのか!?」
「っ…!」
……汚い手でケイに触るなよ。お前の何倍も価値がある人間だからな。
ケイは男の腕で首が絞められ動けずにいる。
「目瞑ってろ」
「!」
「喋るな!!!撃つぞ!?ほ、本気だからな!!」
シュッ
「ガッ……」
男の頭を撃ち抜くと、衝撃で後ろに仰け反るように倒れていく。脅すなら拳銃のセーフティ抜くの忘れないでよね。ケイは自力で男が倒れる前に脱出し、キラキラした目で見てくる。ごめんね、今はスルーさせてね〜。そのまま何も言わずケイの手を引き裏口から事業用車の後部座席に乗り込む。諸伏さんは私達が乗り込んだのを確認するとすぐさま車を走らせた。
作業着とその他諸々を脱ぎ、ロンTにカーディガンとジーパン姿に戻り深呼吸をする。
き、きんちょうした……。心臓バックバクだ。
「ふぅ……、」
「お疲れ様」
「おつかれさまです。時間、どのくらいですか」
「県警を出てから約40分だ」
「40分…、了解です」
「せんぱい…!!!」
我慢できなかったか。
「久しぶりケイ。色々言いたいことがあると思うけど聞かないでほしいな。あともう少し縛られたままでいてね」
「わかりました!お久しぶりです先輩!!また先輩に助けていただけるなんてっ…!!もう運命と言わず何と言うんですか!?」
「何て言うんだろー?」
偶々なんだよー。
「怪我は顔だけ?」
ケイの頬が若干腫れて口の端が切れてる。この顔を殴れる人いるんだ。そんなヤツ地獄に堕ちろ。
「はい!商売道具は死守しました!」
「うーんそういう事が言いたいんじゃないけど、まあ、よし」
「誉ちゃん、西原さんからもう少しで長野駅に帰って来ると連絡があった。俺は長野駅に戻って良いんだよな」
「はい。私とケイは……、」
私とケイはどうしよう……。怪我をしていて、しかも裸足のケイを連れて歩いていたら絶対不審に思われる。
「裾花公園に行ってください!川沿いには防犯カメラが無かったはずです!」
「了解」
すそばな公園?
再びノアズアークがその公園までの道のりを防犯カメラが無いルートでナビをしてくれる。
「この公園だな」
へー裾花ってそう書くんだ。
小さな公園の前で車を降り諸伏さんとはここで別れる。諸伏さんは武田信玄津ツアーに戻り、山田緑に変装している西原さんと入れ替わる。
「足大丈夫?」
「全然大丈夫です!よく裸足で走りこみしているので!」
「あー、昔もしてたね」
体育祭の学年混合マラソンに裸足で出場してたわ。学園指定の運動靴は重いらしくて嫌いって言ってた気がする。
「ケイ、結束バンド外すから後ろ向いてくれる?」
「わかりました!」
ショルダーバッグに入れているソーイングセットから小さなハサミを出して結束バンドを切っていく。切り終わったら公園の入り口にあった自販機で買った水をハンカチに湿らせケイの口の端に付いた血を取る。
「痛いけど我慢してね。……よし、取れたよ」
「ありがとうございます!誉先輩、これから警察に連絡するんですよね」
「うん、110番通報して警察に来てもらう。ケイは誰かが助けてくれたって証言して」
ケイには私と諸伏さん以外の空き家で起こったこと全てを警察に話してと伝えた。
「誰かがあの人達を銃で撃ち、自分も撃たれると思ったが何もされず、自分は自力で逃げ出した、ですね!」
「そして偶然川沿いを歩いていた私に声をかけて通報した、これが筋書きね」
「防犯カメラの映像差し替えたよー!」
ナイスタイミング!ノアの偽装工作も終わったなら通報しても問題なし。裸足で顔に殴られた跡がある女性を見つけた、女性が自分は誘拐されていたと言っていると通報すれば数分後にはパトカーが来た。しかも何台も。ケイは保護され、私は威圧的な職務質問を受け、事情聴取をするので警察署にご同行願いますと言われパトカーで県警本部に連行された。私が犯人グループの仲間だと考えているならこの雑な扱いも納得する。仕方ない、この待遇甘んじて受けましょう。県警本部に着き取調室に行くと思いきや、小さな会議室ぽい部屋に詰め込まれた。犯人として扱われてはいないのかな?少し待っていてくださいと言われたので窓際の方のパイプ椅子に座り、大人しく待つ。
そして待たされること15分。なんで誰も来ないの?
「だぁから!俺が行くって言ってんだろ!」
「敢ちゃ、大和警部だけじゃ威圧しちゃうでしょ!女性なら私がいた方が話が聞きやすいわよ!」
「……」
部屋の外からまあまあ大きな声が聞こえてくる。うわぁ……絶対あの人達だ。ソワソワしないよう気をつけなきゃ。部屋のドアが開き男女二人組が入ってきた。
「工藤誉さんですね、お待たせしてごめんなさい」
「い、いえ」
「私は上原由衣、長野県警の刑事です。この人は大和敢助警部」
大和敢助さん杖ついてない!目が隻眼じゃない!まだ雪崩に遭ってないんだ!
あ、思い出した。虎田って風林火山の事件じゃん。なぜ気づかない工藤誉!?お前それでもコナンファンか!!?
「あのケイ…、橋谷さんは大丈夫なんですか!?」
「被害者と知り合いなのか?」
「こ、後輩です。あの子、明日の予選会に出られますか…?」
「あぁ、橋谷さん貴女のことを先輩って言ってたのね。橋谷さんなら顔の打撲傷以外は特に大きな怪我は無かったわ。明日の予選会にも出場して問題ないそうよ」
「よかった……」
下を向き、ほっとしたように溜息を吐く。
「アンタ、被害者に偶然会ったらしいが何故あんなとこにいた。観光客なら普通行かねぇぞ」
うっ、顔がいい……。30前半でこの渋さ、どうやったら出せるんだよ!?齢24にして高校生に間違われる私に、その渋さを教えてください!!
「えぇッと……話は長くなるんですが、東京の毛利小五郎という探偵から長野県警に言伝があったんです。11時前に一度ここに来たんですが受付に誰もいなくて。仕方ないので有名なお蕎麦屋さんで昼食を取って、1時間ほど時間を潰そうと色々な場所を歩いていました。少し休憩しようと思って裾に花って名前の公園に入ったら、橋谷さんと会ったんです」
「探偵から言伝だと?」
「あ、はい。5年前の甲斐玄人さんという方の転落事故が故意に起こされたものだと長野県警に伝えてほしいって」
「「!?」」
2人が急に動揺したリアクションを見せる。そのリアクションを不思議に思い首を傾げる演技をする。
「あ、あの…?」
「その毛利小五郎って何者だ。なんで5年前の事故を知ってる」
「えっと……」
探偵事務所で聴いた話をそのまま2人に伝える。
「虎田達栄か、」
「……」
「大和警部!」
会議室のドアが突然開き、慌てた様子の人が入ってくる。
「何だ、今事情聴取中…「橋谷京子さんが監禁されていた空き家から、男3人の遺体が発見されました!」」
遺体という言葉に驚いて顔を青ざめる。
我ながら演技上手くない?ていうか私がいないとこで捜査情報話しなよ。私が犯人もグループの一員ならどうするの。
「それと現場にあった指紋から、データベースに登録されていた虎田達栄という女性の指紋と一致したそうです!」
「!」
あら。虎田達栄あの空き家にいたんだ。でも人の気配は4人分だったんだけど。気配読むの苦手だからなー。またトレーニング量増やされちゃう。
「虎田達栄を任意同行だ!上原、お前はここで待機しろ」
「……、わかったわ」
大和警部行っちゃった。上原さん一緒に行かなくてよかったのかな。
「慌ただしくてごめんなさいね。事情聴取はこれで終わりです」
「は、はい」
え、終わり?これだけ?
早く帰れる分にはいいかと上原さんにロビーまで連れて行ってもらう。
「ありがとうございました……」
「こちらこそ。ありがとう、……貴女のおかげよ」
「?、はあ…」
気を付けてと言い上原さんはすぐさま走って戻っていく。風林火山の事件を間接的に解決しちゃう小五郎さんナイス!!流石です!!よ!眠りの小五郎!今は違うけど!
ブーブー
「!、もしもし緑さん?」
県警本部から出ようとロビーを歩いていると普通の携帯に山田緑から着信があった。
『誉さん今長野県警ですか?』
「そうでーす。無事報告しました」
『よかった。僕ももうすぐ警察署に着くので合流しましょう』
「はーい」
と建物の外に出るとちょうどタクシーが一台ロータリーで停まる。あれか。山田緑に変装した諸伏さんがタクシーから降りて私の方に歩いてくる。
「勢とは、利に因りて権を制するなり」
なぜか漢文が耳に入ってきた。この漢文聞いたことある。
「たしか、勢いとはその時々の有利な状況を見抜いて臨機応変に対応する事である。だったかな」
授業で習ってた~、懐かしい。古文より漢文の方が好きだったなあ。
「えぇ、その通り。中国古代の軍事戦略家である孫氏の言葉です。貴女の証言と指紋の一致により虎田達栄は逮捕されるでしょう」
ん?後ろを振り向くと諸伏高明氏がいた。またしてもイケメン。
あ、まずい。
諸伏…わかりにくいか、景光さんが高明さんに気づかずに県警本部の入口まで歩いてきてしまった。
「!、……」
景光さんは一瞬目を見開くが顔を伏せる。
諸伏兄弟に挟まれた!逃げられない!
「景光、「何も聞かないでくれ」……、貴女の名前を教えて頂けませんか」
わ、わたし!?
「工藤誉、です…」
言っちゃった……。
いや、ここで言わない選択肢とかないし!
「……工藤さん、愚弟をよろしくお願いいたします」
高明さんはそれだけ言って去ってしまった。
景光さんは自動ドア越しに高明さんの姿を見つめている。
「緑さん行きましょうか!」
「……そう、ですね」
……話したいことがあるなら言えばよかったのに。
ホテルに迎い、諸伏さんとは部屋の前で別れてから翌日まで自室で怠惰な時間を過ごした。
――――――――――――――――――――
翌日、諸伏さんはいつも通りの好青年に戻っていた。まあいいかと、諸伏さんを連れて今回の旅の目的を遂行するためマップを見ながらホテルから5、6分歩き5階建ての古そうなビルまでやって来た。中に入りエレベーターでB2を押して目的の場所へ。エレベーターが開くと、暗めで間接照明でおしゃれな雰囲気なバーが広がっている。お、大人な雰囲気だ。なんかえっちぃぞ。
「工藤様、西原様が奥でお待ちになっております。ご案内いたします」
店員さん、いやバーテンダーさん?について行く。私名前言ってないのに…。わざとらしくパーテーションで区切られた空間に案内された。
「うわ、爆美女」
革張りのソファの中央に西原さんが座っていてその両隣にまんまキャバクラの嬢の格好をした爆美女二人が座っている。
「あ!やっと来ましたね〜!」
「お疲れ様でーす」
ガラステーブルを挟んで西原さんの真正面に座る。爆美女に興味津々なんだけど。スタイル良すぎ。ボンッキュッボンッって感じだ。あのスカート丈もう下着見えちゃうんじゃない?いや、見えるか見えないかの瀬戸際を演出しているのか……?もしや絶対領域ってやつ!?
「とっしーこの子だれぇ?」
「あらイイ男じゃない」
「こちらが工藤誉さん、あちらが部下の方ですよ〜。こちらが朱里さん、こちらがマキさんで〜す」
「朱里よ。俊也より500倍イイ男じゃない。ねえ今夜どう?」
「あ、お誘いは私を通してください。というか私も混ざりたいです」
「誉ちゃん……」
やば、本音出ちゃった。
「えー4P希望?」
「いや、見目の麗しい男女を眺めたいだけです」
絵画の資料にするだけなんで。肉体的な接触って苦手なんだよなぁ。あの野郎とも全くそんな事しなかったし。
……アイツは他の女とヤってたけどね、ハハ。
「やばぁ!」
「貴女も十分綺麗じゃない。貴女達そういう関係じゃないのね」
「違います違います!」
私が諸伏さんの恋人だなんて!!恐れ多すぎる!!!諸伏景光ガチ恋に殺されます!!
「……」
「ふぅん」
「ふふっ」
「?」
お二人とも含みがある笑いだった。
「あ、そうだ。西原さんこれどうぞ」
話が盛り上がる前に今回の誘拐事件で西原さんにお願いした偽装工作のお礼を3つガラステーブルに置く。
「ん?こ、これは……!!」
「新作のネクタイピンです。どの色がいいかわからなかったので全部持って来ました」
諸伏さんにホテルから持って来てもらっていた。
ネクタイピンは赤、紫、緑の3種類。
「アッテリーニじゃん!!」
「工藤って……もしかして工藤誉乃の娘さん?」
「はい、そうです」
「ウッソー!?アタシアッテリーニ大好きなの〜!」
「いつもご贔屓ありがとうございます」
「ねね、このネクタイピンアタシも貰っていい?」
「西原さんがいいなら、私は大丈夫ですよ」
「とっし〜♡おねがぁい♡」
「いいよ〜♡」
軽っ。
「誉ちゃん、本題」
そうだそうだ。諸伏さんありがとうございます。このまま爆美女と話が盛り上がるところだった。
「西原さん、検査の結果はどうでしたか?」
私が質問すると西原さんは朱里さんとマキさんを下がらせた。
「結果はですね〜、工藤さんのご推察通りでした。宍村1等陸士の血液・尿検査の結果、成長抑制ホルモンのソマトスタチンが不自然なほど過剰に検出されました。またDNAクロマチン凝集やテロメラーゼ活性も似たような結果です」
「そうですか……」
「工藤さん、この調査結果で何が判明するんですか」
はいここで、回想入りまーす。
ここ最近反グレなどの反社会的なグループの若者が変死体で発見される事件が3件起こった。遺体の上半身は大人でも下半身が子供のように小さくなった状態で発見されている。しかし体内から毒物が一切発見されないため警察は捜査が思うように進んでいない模様。
ノアズアークが個人的な興味で調査していたが、ノアズアークでも被害者が何か違法薬物を購入した経歴があった事しかわからず、違法薬物も流通量が限りなく少ないため、形状やどんな作用なのか全くわかっていない。完全な毒薬が完成する前の試作品をばら撒いてどのような効果を示すか観察しているようだ、というのが秘密情報部隊の見解である。
そして違法薬物の新たな犠牲者が長野地方協力本部の宍村修斗1等陸士だった。元々素行不良が見られ上官も手を焼くほどで、宍村1等陸士と同室の隊員の陳述書によると彼が意気揚々と赤と白のカプセル錠を服用後暫くして苦しみ、発狂し出したため上官を呼びに行ったが、上官を連れてきて部屋に戻ると既に死亡していたそう。毒物を服用したと考え血液検査を行ったが体内から異常な薬物は検出されなかった。
もうさ、赤と白のカプセル錠ってAPTX4869じゃないですか。しかも宍村1等陸士は元々180cm以上あるのに遺体の身長は160cmくらいに縮んでいたらしいし、アポときったんだろうって想像できる。
「恐らくそのカプセル錠は幼児化を起こしているんだと思います」
「幼児化、っていうと大人が子供になるって事ですか!?」
「はい。クロマチン凝集により遺伝子が発現できなくなる、つまり新しい細胞が作られなくなるんです。クロマチン凝集でアポトーシス、細胞死は起こります。骨格、筋肉、内臓などを破壊し、身体の内側から蝕んでいく。そしてその逆の効果がテロメラーゼ活性です。テロメラーゼ活性が過剰に起こると、細胞分裂が繰り返され無限に新しい細胞が増殖します。この正反対の作用が身体の中で同時に急激に起こることで、激しい痛みが起こり発狂するんじゃないでしょうか。テロメラーゼ活性は老化を遅らせる作用もあるので、過剰に活性化され老化の反対、幼児化が起こって身体が子供のように小さくなったんだと思います。成長抑制ホルモンのソマトスタチンの過剰分泌も、幼児化を阻害しないためでしょうね」
APTX4869ってどういう仕組みなんだろうって前世で調べててよかった。ペラペラ喋ることができる。
「なるほど……しかし何故幼児化なんです?殺したいなら普通に毒薬を使えば良いだけでは?」
「そうなんですよねぇ……、私もそこまではわからなくて、すみません」
いや、わかってるんですけどね!ほら、そこまでわかってると逆に怪しまれるじゃん?
「いやいや!この薬の目的が幼児化まで行き着いただけでもすごいですよ!上に報告しときます!いや〜工藤さんに頼んでよかったです〜!」
そして西原さんとのお話しは終わり、朱里さんとマキさんの名刺も頂いたので、また今度行きます!本当は今夜行きたかったけど、予定を入れてしまったんだっ!!2人みたいな綺麗なお姉さんがいっぱいなんだろうな〜!
「じゃあ僕は東京に戻ります。誉さん気をつけて楽しんでくださいね」
「勿論です!緑さんも気をつけて!」
あのビルからホテルに戻り、ホテルの前で諸伏さんをお見送りし別々のタクシーに乗り込む。さあ観光だー!!
「真田邸までお願いします」
「はいはい」
運転手に行き先を伝えるとノアフォンを取り出す。一応運転手に電話していいか確認をして電話をかける。
「もしもし陣さん?」
相手は陣さん。
『巣ごもり買ったか』
「……電話に出て1番に聞くことかな、それ」
『忘れんなよ。んで、何だ。スコッチに愛想尽きたか』
「何言ってんの?愛想も何も無いんだけど。最近そっちで出回ってる物ってある?」
『モノだァ?』
「そうそう。西原さんに今日会ったんだけど、あっちは何も掴んで無くて。出回ってなくても陣さんのとこで作ってる物とかないかなぁって」
『あ゙ぁ゙?…あぁ、そーいや体内から検出されねぇ毒物を開発したとか言ってやがったな』
「!」
当たり〜。
「作った人の名前わかる?」
『開発者はガキだ。コードネームはシェリー、本名は……宮野志保、だったか?』
「いや、私に聞かないでよ」
遂に宮野志保、幼児化し灰原哀となる少女の名前が出てきたか。この子のお姉さん、宮野明美はジンニキに殺されるんだ。たしか妹と引き換えに10億円を渡せとか無理にもほどがある交換条件を出されて、おじさん2人と銀行強盗してたはず。
『薬はAPTX4869って名前だ』
「You haven't heard that a side effect of that drug is that it causes infantilism, have you?」
幼児化とか副作用とか聞かれるとまずいから英語で伝える。
『あぁ、ごく稀だが起こるって話だ。変死体の事件にAPTX4869が関わってるってか?』
「多分ね。There may be many people who were poisoned without being infantilized.」
『現状、完成しているのはたったの2錠だ。1つがシェリー、もう1つは俺が持ってる。んで、吾郎に解析を頼んだ』
「あぁ、だから電話出られてたんだ」
いつもなら組織に任務中で留守電なのに、今日は吾郎さんの研究所にいるんだね。
『ホマレちゃーん、もうすぐ解毒薬が出来るわよー、……だそうだ』
吾郎さんの声が出て聞こえた。
「わかった、吾郎さんにありがとうございますってちゃんと伝えてね」
『へーへー。土産、忘れんなよ』
「わかってるよ。じゃあね」
電話を切る。
「グッズかなんか探してるんですか?」
運転手から突然話しかけられた。
「あー…そうです。友人が真田信玄の限定グッズが欲しいらしくて、長野駅には無かったんですよね」
「信玄くんってやつかい?それなら真田邸の近くの土産屋に売ってるよ」
「本当ですか!行ってみます」
はい、私はグッズ買いにきた女です。信玄くんなる物は陣さんのお土産にしよ。30分ほどで真田邸の近くに着いた。お土産屋に行ったら信玄くんいました。デフォルメされて可愛くなった武田信玄の大きさ20cmのぬいぐるみでした。まあまあ大きい。せっかくだからプレゼント用に梱包をお願いした。陣さん喜んでくれると嬉しいなっ……!!
お読みいただきありがとうございました。
諸伏高明のセリフむずいんですけど!!最近は色々な諸葛亮孔明やら孫氏やらの名言をまとめたサイトを見てました。
APTX4869の仕組みも調べてそれっぽく書いてるだけなのでへーって流していただけると幸いです。
英語の部分も翻訳アプリで書いたので文法間違ってても見ないふりでお願いします。
ではでは、感想評価お待ちしています。