【完結】ゼーンゼン・ツラクナイツ 作:タサオカ/@tasaoka1
通達通り、対象者のテストの結果をお伝えします。
本人からの申告もあり、このテストもチェックシート方式で実施しました。
評価は残念ながら不合格を言い渡さなければならないラインでしょう。
ですが、彼は経歴詐称か、あるいは自然発生した天才だと思われます。
失礼、ジョークです、前者の割合が99%というところでしょうか。
言語、アーツ、歴史などに関する知識に、明らかな欠落が見られます。
事前に伺った経歴を考慮すれば、一般常識の欠落は理解できます。
しかし、そうであるなら計算や化学に関する知識をどこで身につけたか、甚だ疑問です。
対象には教育機関に最低でも数年間、身を置いていたであろう一部教科に対する知識の蓄積があります。
まっさらな経歴は彼の教育を反映していません、あまりにもチグハグです。
また"比較対象"のデータと比べると、幾つかの類似点も確認できました。
詐称する気はないのかもしれませんが、故意にやっているのであればただの愚弄です。
ですが本人の言葉や態度を信じるのであれば、彼はこの試験に対して極めて真摯に取り組んでいました。
幾つかの研修を行えば、知識レベルを鑑み、合格水準に簡単に届くでしょう。
私からは以上です。
人事部 ■■■■より
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対象の面接、及び、学力、身体能力テストの結果を受け、これを承認す。
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「やったぜ。投稿者、転生糞コータス8月16日7時14分22秒」
「ななじすき」
分厚い封筒を開けた彼女が今は無き岡山の県北の土手を懐かしんでしまうような詠唱を始めたので、俺の脳内で英雄の証ともどしてコメントが流れ始めた。
合いの手を入れたら、彼女は両手を広げて俺を迎えてくれる。
「本当におめでとう、信じてたぜ」
「ありがとう、スー、まぁこれから講座講座訓練訓練なんですけど」
「私も最初そうだった、男は度胸、なんでもヤってみるもんさ」
「テラでくそみそテクニック語録を聞くことになるとは思いませんでしたね」
「お前、薔薇族かよぉ!」
「ずっと前からなんだよなァ……」
「でもよぉ……TS転生者と付き合うのって実質的ホモでは?」
「だったら俺はホモでいいんですよ、貴方のことが好きなんで」
「お前そういうトコだぞ、そういうトコ」
「どういうトコですか? 大きな声で言ってくれないと分かりませんね~」
「調子乗り始めたなコイツぅ」
「取り敢えず、祝い飯でも食べに行きますか」
「1141919」
「これからご飯なんだから汚い数字は禁止!禁止です!」
キーキー言い合いながら連れあって外に出て、ロドスの食堂に向かう。
昨日一通り案内してもらって覚えたのだった。
デカめな食堂で、色んな種族が、感染者非感染者関係なく飯を食ってるのはかなり衝撃だった。
衝撃っていうとテラに染まっているような言い方だが、実際世間で食堂は感染者非感染者で分けられている。
"そういうこと"だ。
ただ仕方ないところもある。
民間のこじんまりとした食堂でサーベイランスマシンもない感染者が、どういう状態であるのかを判断を下すことはできないだろうから。
そして、また少しロドスの株が上がっていた。
この艦の中だけだとしても、恐らくは何らかの崇高な理想を果たそうとしているように感じた。
アットホームな職場ですは前世から怖いが、まあこういうアットホームは歓迎したいし、見習いたい。
俺はまだ前世を引きずっているから、こういう感覚に出会うと感動してしまう。
それと何人か、コータスの人がいて少し眼福だった。
確実にうさ耳が好きになりつつある、帰り道で彼女にケツをはたかれたので気をつけたいが。
「Bigears!帰ってきてたんだ!」
廊下の向こう側から来る人影、手練れだと感じて観察した。
長髪のフェリーンのお姉さんだった、白い制服がカッコいい。
そして、つよそう(小並感)彼女の知り合いなのだろうか。
「ブレイズちゃーん! おっひさー!ハイターッチ!」
「ハイタッチ! ところで、隣のキミは誰?」
いきなり軽い感じで矛先が向かったので俺は狼狽えつつも、対人プロトコルを起動する。
「お初にお目にかかります、私は」
「あてくしのコ・レ」
彼女の*お下品ハンドサイン*によって、俺の清楚な新人オペレーター(怖くないよ)作戦の努力は粉々になってしまった、ブッダシット。
「うっそ!?本当!?」
目を見開いたブレイズさんが、私の年収低すぎ!?のポーズで俺と彼女を交互に見る。
まあ別に隠すことでもないし、恐らく先程のおふざけに対する彼女の報復行動であるのはわかった。
俺も、堂々と行くべきだ。
「彼女とは真剣にお付き合いさせてもらってます」
「ひゅーっ!」
それからブレイズさんと色々な話をした、やはり馴れ初めは一番良く聞かれた。
幾つか脚色が入ってるが出会い話をする度に、ブレイズさんの大きな耳がピコピコしてて可愛かった。
それが漏れていたのか、俺は彼女の小さい指によって、二の腕に赤い印を付けられた。
それがまた可愛くてブレイズさんに惚気たら思いっきり頭を叩かれて、周囲の視線を集めてしまうという悪循環に陥った。
古い記憶だ。
全裸の男たちが血を滴らしている。
滑稽で、哀れで、当然の報いだった。
片耳が、鼓動の度に痛んだ。
ランプ一つの明かりの下、臭くて暗い部屋、湿ったベッドの上。
腐った世界に挟まれて、歪んだ視界からそれを眺めていた。
互いに骨が砕けるまで、殴りあわせる。
そうして股間にぶら下がっていたモノを一人ずつ、素手で去勢させていた。
俺はそれを見ながら呆然としていたのを、覚えている。
そうして血の軌跡を振りまきながら踊る男たちを終わらせる時が来た。
互いに持たせたナイフと剣で互いの首を切り合う事を望んで、その通りにさせて解放した。
鮮血が部屋の中でばら撒かれ、天井に液体が付着しては垂れてくる。
初めての反動故か、体中が痛かったが、心は晴れやかな気持ちだった。
喉元までこみ上げる吐瀉物を飲み込んだ、もう飯の都合がつかないだろうから。
酸っぱさを感じながら、窓の外を見れば、雪が降りつつある。
灰色の、重たい雪が。
早くここを出なければ。
男たちの持ち物を漁ろう、そして。
笑みが浮かぶ、やっと自由になれた。
なのに、どうして、こんなに寒いのだろう。
涙を拭って、そう思った。
そうして自分の肚から血が滴ってることに、あの時の、薄情な俺は気付けなかった。
暗闇の中、目が覚める。
罪の意識なのか、復讐の反芻なのか、それは今の生活からすると古い悪夢になりつつある。
それでも止まりそうになった息で、彼の体に手を這わす。
シャツ越しに、彼の巨大な背中が伸縮しているのを感じる。
ブレイズや、途中で合流したオペレーターたちとの彼の合格祝いのどんちゃん騒ぎ。
その後に彼の個室の前で別れて数時間して、私は早速夜這いしたのだった。
合法ロリ年上コータスお姉さんにしか許されない所業、いや逆に犯罪だな。
まぁ彼なら喜んでくれるだろうと思うのは自惚れか、惚気か。
添い寝という健全な行いなので、ケルシー先生も8行くらいのお説教で許してくれるだろう。
それにしても彼から伝わってくる体温が、心と体の傷を癒やしていくようだった。
背中は柔らかで、腰から下の太ももやお尻の辺りを触ると、硬質的な感触が返ってくる。
源石とはまた違う、温かみを伴った、逞しい硬さの、彼のキチン質にも似た黒い皮膚。
そうして、あんなに冷たかった私の体が、温まっていく。
「……」
そして一昨日の会話を思い出し、この夜の、温かなベッドの上で今になって思うのだ。
彼はきっと私をこの世に繋ぎ止める楔が欲しかったのだろう、と。
わかっていた、わかってはいるのだ。
彼の気持ちだって、自分の正直な気持ちだって。
「…………綺麗な体じゃなくってさ……ごめんね……」
なにか別の道があれば、歩みたかった。
でも、もうそれはできないのだ。
踏みにじってしまった小さな命のことを思い出しながら、大きな背中に顔をうずめた。
「愛してるよ……一生かけて、愛してる……」
そうして女は瞼を閉じ、また眠りへと沈んでいった。
「ごめんなさい、スー……」
男は呟いた。
ここ最近では鈍っていたとはいえ、村での生活は彼を常在戦場の存在へと変えていた。
彼女が部屋に入ってきた時点で、覚醒していたのである。
ただ、愛しの人がなにを求めて入ってきたのかを考え、彼は黙っていた。
そして言葉を聞き、己の、あまりにも軽率な言動を恥じ入っていたのである。
慎重に寝返りを打ち、彼女のまつ毛を濡らすものを、優しく拭った。
「俺も愛してますよ、一生をかけて……」
幸いなことに。
彼女はその日、あの悪夢の中に戻ることはなかった。
big ears - 地獄耳