【完結】ゼーンゼン・ツラクナイツ   作:タサオカ/@tasaoka1

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『侵襲措置』
15話 センニュウナイツ


ウルサス。

 

神民であるヒポグリフらを打倒し、建国された帝国。

未開拓かつ過酷な土地が多くとも、しかし、絶え間ない戦争と膨張によってテラの北辺を支配するに至った。

残酷な差別主義を採用しながらも、この世界で有数の軍事力を持つ、列記とした大国。

おまけに皇帝のリジン?とか言う、悪魔のように強いやつらが特にヤバい。

 

なんて、さらっとした説明を旅の間に彼女から聞いたことがあった。

 

モデルは、前世ロシアの色々な時代のミックスという事だった。

ツァーリ、貴族や農奴がいる頃とかが主だろうとなると、なるほど、わかりやすい、と頷けた。

どうやらテラの各国は俺の知る国々のエッセンスがそれぞれ入っているのだと、早い段階でぼんやり把握してはいたが

彼女のような元プレイヤーの俯瞰的な視点は、あの時の俺にはなかったから、理解に役立った思い出がある。

 

 

 

 

 

それは、そんなウルサスの雪原を漂う、ある怪談話である。

 

それは、すでに壊滅した都市が未だ健在だった頃、その最期の数日に起こったとされる。

 

それは、逃げ出した避難民や数少ない当事者たちが語った、不可解な出来事の数々。

 

歩き回る死者の群れ、仲間を殺す感染者、人を狂わす光の眼。

 

暴力と飢餓によって生じた幻覚だと言う者、笑う者も、また多いだろう。

前時代と比べれば小康状態にあったウルサスの豊かな地方都市で起きた惨い出来事の数々。

その中に現れた影のような怪談、だが、真相は当事者に委ねられる。

なにせ、それらは実際にあった出来事なのだから。

 

俺は、知っている。

 

俺が生み出した怪談を、彼女が生み出した怪談を。

俺はその共犯者だった。

何故、そんな話が怪談として語り継がれてしまっているのかを知っている。

知っていなければならないのだ、彼女が遺していった物を守るためにも。

彼女に託されたと、そう俺は思いたいだけかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「稲荷」

「……いなりがはいってないやん、いなりが食べたかったから注文したの」

「おはよう、スー、合言葉をアドリブで長くしないでください」

「やめたくなりますよーロドスぅー」

 

ハグを深く交わして、華奢な柔らかさと残酷な石の硬さが同時に伝わってくる。

俺は彼女が、そこに居ることを、この手で確かめた。

医薬品に見せかけたコンテナの中で、彼女は一人潜んでいたのだった。

ウルサス傘下にあるこの都市に外部から感染者が紛れ込むのは、圧倒的な暴力などを携えない限り、そう容易ではない。

ただ隆盛著しいこの都市だからこそ、抜け道はいくつかあり、今回はそこを使わせてもらった。

 

だが、やはり油断してはならない。

憲兵や、あるいは感染者監視隊のような感染者を徹底的に弾圧する組織が、ウルサスにはあるのだ。

まるで前世の、歴史の教科書に登場するカギ十字を掲げる世界的フリー素材集団のようだった。

いや、あるいは純粋に、もっとタチが悪いのかもしれないが。

民衆がそれを当然で、実利のあるものとして受け入れてしまっている点においては。

 

これらは政権の一時的な狂気によるものではない。

共有され普遍化された現実だ。

感染したら基本的に人権がなくなると見ていい。

感染者が自暴自棄になるのもわかる、わかってしまう。

非感染者の俺が言っても説得力はないだろうがな、クソ。

 

だからってよ…………。

 

「どーしたどーした、また皺が寄ってるぞい、それとも、私とハグするの嫌だった……? 私が感染者だから……?」

「洒落にならないボケ方はやめてください、そもそも、そんなんだったら貴方に一生の愛を誓ってませんよ」

「フフン、よろしい、機嫌直してやるよ…………金髪、また伸びたな」

 

背伸びした彼女の小さな手が、俺の髪に触れた。

 

最初、髪が金髪になり始めた頃は自分でも驚いたものだ。

染め始めた!?ヤリチン陽キャに目覚めちまったのか!?

エロ同人みたいなことするんだろエロ同人みたいに!と本気で心配?された時もあった。

ストレスっちゃあストレスだらけの環境だったから、髪の色だって変わる。

頭に輪っかがある人だっているのだ、そういう事もあるのだろう。

可愛い彼女が出来て定期的に脳を焼いてきたのだから、頭皮もリフレッシュするのはむしろ当たり前だ。

実家で飼っていた犬の冬毛よりはゆっくりと変わっていったが、フェリーンも生え変わるものなのだろうとふと思った。

俺は自分の金髪の髪の毛に沈む彼女の手を取り、そのまま腰に手を回して抱き上げた。

心配になるほど、その体が軽いことに不安を覚え、

 

 

 

『考えてはいけない』

 

 

 

なおさら彼女を大切にしたいと、思った。

 

「おりゃ、お姫様抱っこ」

「お~ろ~せ~」

「意地悪の仕返しですよ、愛してるかそうやって確かめようとする人の言葉は聞き入れませんのです」

「このままラブホテルへ連れ込むんだろ…! 悪魔が……」

「セーフハウスですってば」

 

巡回と人目を交わしつつ、まずは拠点に向かおう。

話はそれからだ。

以前受けた、スカウト隊の皆さんとのドキドキ敵前隠密訓練の、その成果を出す時が来たのだ。

ルートはすでに頭に入れてある、エスコートは得意だ。

旅の間中、やってたんだしな。

 

 

 

地下区画から外に出る、弱々しい陽射しの元で目を慣らした。

軽く見回すが人通りもほとんどなく、助かった。

雪が降り始めている。前世の故郷を思い出して少し懐かしい。

今の身体なら、一晩中雪かきしても疲れないだろうな。

 

連れ立って歩いていると、ブルっと震えた彼女が俺を抱き寄せてきた。

 

「わりぃ…やっぱさみぃわ…」

「そりゃさみぃでしょ……あれ、そういやあの制服、どうしたんです?」

「ん?」

「俺と会った時に着てた改造制服です」

「ばぁか、あんなの目立っちまって仕方ねえよ……今は隣でお前が暖めてくれるしな」

 

俺は、自分の顔面が熱せられてる気がした。

そういう意味で言ったのかな、間違いなく俺の体感温度は3度ほど上がったが。

 

「……」

「普通に照れんなし、私も照れるゾ」

 

あっ、自家中毒起こしてる、可愛いなぁ。

 

ダミー会社の倉庫と言う名目で借りたセーフハウスで、お茶を沸かして彼女を温めよう。

任務中とはいえ、彼女と久々に行動できることが、俺にはたまらなく嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この都市の名前は、チェルノボーグ。

 

アークナイツの物語、その最初の舞台になる移動都市。

そして、主人公であるドクターが眠る石棺がある。

 

石棺は凄まじいエネルギーを発生させており、これを利用する事によって、ただの地方都市であったチェルノボーグを帝国有数の地位につけさせたという。 

結果的に、それが災いを呼んだとも。

 

あらましを聞いた時はモロにウクライナのアレや、S.T.A.L.K.E.Rを連想させた。

そんな莫大なエネルギーを秘めた所に収まってるドクターは、ますますソシャゲの主人公らしさに溢れている。

 

来る日、ロドスはここにドクターを助けようと潜入するが、2つの敵に遭遇する。

 

まずは天災。

隕石タイプというのが、あまりにも厄介だった。

講座で学んだがこれは空より源石のクラスターがそのまま降って来るタイプだ。

都市に当たれば直接的な被害はもちろんのこと、その場に残り、下手を打てば大量の感染者を生み出す。

 

もう一つ、感染者組織、レユニオン・ムーブメント。

感染者達が結束し、カリスマ性のあるリーダーの下、まとめ上げられた組織だという。

これが穏当な集まりならそれで良かったが、まあ、この世界だ。

感染者に立場を、そのためには暴力の報復を、といった感じの組織に変貌したという。

問題はそれが黒幕やらに操られていて、思惑通りにここに乗り込んだのを皮切りに、数々の場所で大惨事を引き起こすということだった。

 

この最悪のダブルブッキングによりロドスは貴重な人員を失い、大きな痛手を負うという。

 

彼女はそれを軽減したいと、俺に伝えた。

 

俺の返答は『答える前から決まっていた』ようなものだった。

もちろん同行する!タイヨウ院…!

といったやり取りによって、俺達は今、チェルノボーグに潜入している。

迫る危機を前に、ロドスの損耗が減ることになれば。

彼女や世界が救われると、この時の俺は本気で信じていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これから何が起こり、何が失われなければならないのか。

ロドスがどれだけの代償を払ってまで、この作戦を成し遂げられたのかを。

彼女が、変わりに何を差し出そうとしていたのかを。

 

 

1096年12月にいた愚かな俺は。

それを知っておくべきだったというのに。
















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