【完結】ゼーンゼン・ツラクナイツ   作:タサオカ/@tasaoka1

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16話 ウソツキナイツ

 

──外から帰ってきても、ここの埃っぽい匂いはそこまで鼻につかなくなった気がする。

 

セーフハウスといっても、そこは"ハウス"と称していいかは疑問符が付く。

俺が拵えた空間は、控えめに言ってもみすぼらしい1室に過ぎなかった。

幸い、かつてこの倉庫に勤めていたであろう労働者らが使っていた古ぼけたストーブがあった。

おかげで睡眠中に凍死するなんて間抜けな事にはならなかったので助かった。

それが今、部屋をほの暗く照らし、暖めている。

 

彼女が欲していた地形の把握、センサーの取り付け、幾人かの人物の監視など、ここを拠点に行っていた。

スカウト先生隊のにわか仕込みだが、現状で憲兵にマークされてないとは思われるので、易々と行動できている。

これもまたある種のチートなのかもしれないと、自嘲が鼻を鳴らす。

 

……わかってはいる、チートなんてあやふやな指針に頼れない事は。

 

掛かってるのは人の命だからこそ、能力と経験の限りのことを俺はやろうとしていた。

だがもし前世から俺にこんな才能があったとしたら、自衛隊か興信所、あるいは良くない事ぐらいでしか役立たないだろう。

それを思えば、彼女やロドスや、あるいは差別主義者だけど普通の人びとのために。

この能力を生かすことは悪い気分じゃなかった。

 

そう、この地に住む感染者を忌み嫌っているであろう普通の人びとのためにも。

 

例えば近所で美味いピロシキを売ってる飯屋のおっちゃん。

挨拶をしてくれる花屋のおばさん、同じ時間に路地で遊んでいる子供たち。

おそらく化け物みたいに強いおじいさんがいる、ロドスとは別の診療所なんかも遠目に観察した。

チェルノボーグは、この世界のウルサスのどこにでもある都市の一つだ。

そこに生きている人びと、彼らの鉄火場が少しでも減れば、少しはいいかな、と今は思っている。

 

無論、彼女が危害を加えられたらその相手をぶちのめしたくなるだろう。

だが、それは、この世界が、そしてあの憎たらしい病が、そうさせてるようなものだから。

なんとなく、心の中で『それはそれ、これはこれ』という気持ちも出来上がっていた。

 

あるいは……俺も少しはこの世界に染まったのかもしれないな、と思う。

 

「おお、ぬくいぬくい」

「ようこそ、自慢の別荘です」

 

部屋に入ってきた彼女の髪や肩に積もる粉雪を、俺はパタパタと払ってやった。

さっそく俺はお湯を沸かす準備に取り掛かった。

昔一緒に飲んだラテラーノのお茶も出そう。

初任給で改めて買ったやつだ、数少ない私物である。

橙色の炎に照らされてる彼女の横に座って、カップを差し出す。

 

「ホットティーしかなかったけどいいかな」

「サーッてしてない? 大丈夫?」

「俺が貴方を今から昏睡させてどうしよっていうんですか」

「んーエッチな事とか、私の耳を*龍門スラング*とか……?」

「俺は野獣じゃないですよ、フェリーンかもしんないけど」

「……あっそうだ(突然)、おいキムラァ」

「え、なに?(素)」

「ワルファリンせんせが言うには、君、サルカズらしいぞ」

「は?」

「種族的にサルカズだそうだ、良かったな、しかもアスランにも近いって」

「待って待って……かなり俺のアイデンティティの問題じゃないですか!? そもアスランって何? ガンダムSEEDですか!?」

「ライオン族って意味だよ……良かったな、この後、原作でサルカズとアスランとヴィクトリア絡みで凄いことになるから期待しとけ」

「ええー……それでスーと二人でいる時間が減ったら嫌すぎる……」

 

率直な気持ちが口から出ていた。

 

いや原作の今後の展開も気になるっちゃ気になるし、ロドスがそれでダメージを受けたら嫌だという気持ちはあるから働くが。

そのゴタゴタに巻き込まれて、スーと長い時間会えなかったら禁断症状で俺の脳みそは今度こそ微塵嵐になってしまうだろう。

ただでさえこの世界は面倒くさいことに満ち溢れているっていうのに。

 

「……スー?」

 

気が付くと、彼女はカップを両手に持って、どこか遠くを見ているような瞳をしていた。

俺の言葉をきっかけにしたのか目を閉じて、香りを楽しんでから、話しかけてくる。

 

「おいしいなあって思ってよ……だいぶ前に飲んだよな」

「覚えていてくれて嬉しいです」

「あんなの忘れるわけねぇだろ、世界で一番おいしかったんだよ、あんときの私には」

「なおのこと嬉しいですね……あれから、色々ありましたね」

「君の就職の面倒見たりとかな」

「その節はドーモ、オセワニナリマシタ」

 

どこか空虚な笑いを返しながら彼女は空のカップを向けてきたので、俺は喜んでおかわりを注いだ。

香りと湯気が天井へと消えていく、一時だけ、とても静かな時間が流れた。

外の雪が雑音を吸い込んでいるのだろう、なつかしさがある。

 

世界を違えたとしても、何もかもが取り返しのつかないぐらいに変わっても、これは一緒だ。

そして、人と人との付き合い方も。

 

仕事を終えていった薪の鳴る音だけが、ストーブから微かに聞こえる。

俺も彼女も何かを待っているような気持ちだった、事実その通りだったのだろう。

ここでゆっくりできる時間も、もう少ないだろう。

 

なら、あとは向き合って伝えるだけだな。

 

「俺は、貴方に救われてきました」

「……」

 

彼女は噓つきだ。

俺はよく知っている。

 

他愛のない嘘や、冗談交じりに、そのサインを出している事も知っている。

彼女とはもっとも長く傍にいられた他人だと思う、そう思いたいだけかもしれないが。

 

だからこそ。

 

最近の彼女の所作がわざとらしく、いい加減に気づけと言って、俺を誘っているように思い始めていた。

あるいは単純に彼女が辛そうに見えていて、それが俺も苦しかった。

 

「だから今度は俺が貴方を救いたいんです、見ててわかります、隠してる事が重荷というのなら俺にも背負わせてください……」

 

これで肩透かしだったら……それならそれでいいと思いながら、勇気を出した。

対して彼女は一口だけ茶を飲んでから、覚悟をしたようにこちらを見る。

 

「…………私の目を見てくれ、まっすぐに」

「それが隠し事ですか?」

「いいから」

 

 

その綺麗な瞳が、光ったような気がした。

 

 

それから脳の奥で何かが軽くなった。

わからない、何かが……溶けた? 

例えようのない感覚が、俺の精神を揺さぶっている。

覚悟はしていたつもりではあるが、どちらかといえば嬉しい気持ちがあった。

 

彼女は、痛む己の腹を掻っ捌いて、秘密を取り出そうとしてくれようとしている。

そんな捻くれた愛情だ、自分にもこういうのがあるんだなと思った。

反比例するように、深刻な、沈痛さを感じる表情で彼女は告白を続ける。

 

「これが私がBigearsって呼ばれてた理由、ロドスにも隠してる精神操作を行うアーツ、これを使って情報を集める事ができたんだ」

「……」

「最初……村の中で君を見かけたときは殺されるかと思ったから、だから反射的に使っちゃって、腹を割って話せば話が通じる奴で安心はしたけどさ」

「……それは俺のほうが悪いというか、仕方ないところはあると思いますが」

 

あの頃の俺というものは、そこまで怖かったか。

 

まぁ、怖かったか。

この身長差もあるし、向かう先のない諦観、怒り、負の感情の渦で俺は雁字搦めになって目が濁ってた。

二重に展開される精神と記憶は、現状と過去との世界の差異に耐えがたい不幸を見出していた。

前世を懐かしみながら、現世界を呪って、それらがカクテルされて、あの俺が作られていた。

まあ普通に人を殺してたしな、お近づきになりたくない存在だろう。

考えてみるとそんなヤバいやつとの二人旅だ。

 

彼女の過去を考えれば何かで縛っとかないと、そりゃあな。

 

「ずるずると黙って、君を旅に同行させて、護衛になってもらって、このアーツを隠すためにまた使って」

「……」

「ガキみたいだよな、こんな力を使ってるってバレたらどうなるか、わかんなくてさ」

「……で、今回の作戦で大々的に使うから、怖くなったんですね」

 

彼女は言葉も出なかったのか頷いた。

 

ここまできて、口元まで出かかって苦しかったわけだ。

こんな所で関係が抉れたら嫌だろうしな、俺は拗れさせるつもりは毛頭なかったが。

 

「それに……目的のために手段を選ばないつもりでいる……たくさん酷い事をすると思う」

 

俺も具体的な作戦は聞いてなかったから、そこは不安な要素ではあった。

だが取りあえずは……俺は彼女の言葉を聞けて、ホッとしたところがあった。

 

「あの、怒らないで聞いてほしいんですけど」

 

彼女の小さい双肩が、びくっと震えた。

そんなにならなくてもいいのに。

 

「スー、陰キャオタクって存在を舐めてます?」

「何故そこで陰キャ?!」

「自分、それで貴方が嫌いになるような奴って思われてました?」

「いっ……いや……でも、思わないのか、自分が操作されてこんな所まで来てるとか考えたりしないの……?」

「伝わってないようですね」

 

とてもわざとらしく、オーバーなリアクションで首を振った。

 

「思い出してほしいんですけれども陰キャオタクなんて、こんな可愛くて小さいお姉さんに優しくされて、クソ環境から助けてもらって、職まで面倒見られたらね、もうね、問答無用で好きになりますって、あるいは都合よすぎて罠を疑うくらいです」

「……」

「俺はそんなものがなくたって、きっと貴方に"首ったけ"になってたでしょうよ、それに多少精神弄られるぐらいなんですか、カス野郎にケツ穴掘られるよりマシです、マジで」

「うう……」

「泣かないでください、泣くとMADになりますので……それに此処は笑い所さんですよ」

「……私の彼氏……ユーモアセンスがクソすぎる……」

「なんだとぉ・・」

 

思わず某Fラン病院の教授になりそうだったが彼女の晴れた表情を見て、俺は笑いながら矛を収めた。

彼女が真実を告げてくれたことが、俺には心底うれしかったのだ。

重荷が減ったであろう彼女と、枷の無くなった素面の自分がやっと向き合えるのだと。

 

 

 

俺はそう、信じていた。

 

 

























更新が遅れ申し訳ないです
某所で言った締め切りを破ってしまい重ねて謝罪します……。
あと本当にPCもぶっ壊れました、バックアップ大事。
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