【完結】ゼーンゼン・ツラクナイツ   作:タサオカ/@tasaoka1

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一部、グロテスクな表現があります。


17話 カイニュウナイツ

「平和的行進というわけではないですね、すでに一部集団と警察との衝突が始まってます」

「…………りょーかい」

「作戦計画は『赤』の場合ですね」

「ああ、それでいく」

 

俺は頷き、彼女の後ろを歩く。

 

荒い映像の中で、仮面を被った男が女性を殺していたのを見た。

彼女は差別主義者だったかもしれない、あるいは感染者を匿っていたかもしれない。

だがそのどちらであろうと、暴徒は女を容赦なく殺した。

そこかしこで似たような事が始まっている。

何一つとってもこれでは平和的な団体としてはやっていけないだろう、俺は決行の覚悟を強くした。

 

ああ、本当に始まってしまったのだな。

 

もう一人の俺が呟いた。

そうだな、これから忙しくなる、と答える。

俺は手足や目となって、彼女の支配する空間を作り上げる手伝いをするのだ。

それが俺に与えられた共犯者としての役目である。

出来る事ならば、市民たちにウルサス軍警察が集まる場所への誘導などを行いたかったが。

優先事項は、この情状酌量の余地があるかもしれない、この武装集団への対処だった。

 

数々の陰謀により絡めとられ雁字搦めとなった末、チェルノボーグは見捨てられるという。

一部の人間が都市を逃げ出していることを俺は知っていた。

自分たちだけ逃げるのかと思ったが、きっと同じ立場だったら……俺も家族を連れて逃げ出してしまうだろう。

答えの出ない疑問だ、両手を握りしめる、グローブがぎちぎちと音を立てた。

 

すでに偽装コンテナから新型装備を取り出している。

 

現代風の鎧とも言えるようなレイジアン製の新品防刃防弾着を身に着けていた。

工業製品に近い形のロング・マチェット、新品の機械油の匂いのするクロスボウ、元々使っていた投擲槍。

大多数の装備はロドスのものを持ち出すわけにもいかず、もっぱら自腹だった。

幸いにも、元々俺は貯蓄が大好きなので支払いに困り彼女に出してもらうということはなかった。

それでもやはりミリタリー規格の装備品というものは目玉が飛び出るほど、お高かった。

ミリオタだったので日用品と比べた場合の値段の高さは必要経費と割り切ってはいるものの、勇気がいるものだった。

なにせ今生で、これ以上高い買い物をしたことがなかったからだ。

 

今回、BSW所属のリスカムさんらを通じて装備を買ったわけだが物騒なラインナップは流石にちょっと怪しまれた。

なので『大好きな彼女との初めての休暇旅行』でウキウキの俺を演じ、切り抜けたわけである。

何があっても対応できるための護身具と説明すると通してくれたから、帰ったら菓子折りで感謝しないといけないだろう。

 

「それじゃあ手筈通り、始めるか」

「はい」

 

これから行われるのは、私闘だ。

 

ロドスと認識できる物はない、俺たちが死んだとしても旅行客がただ死んだことになる。

むろん、俺は死ぬつもりなんて毛頭ない。

 

こんなことを考えるのは不謹慎かもしれない、けれども、この戦いが終わったら。

今度こそ新婚旅行に行こうと思う、彼女と二人で、また溜める有休を使って、昔約束した龍門へ。

 

「……スー、この戦いが終わったらなんですけど」

「やめろ馬鹿!死亡フラグ立てんじゃねぇ!」

「知らないんですか? 今どきは死亡フラグを露骨に立てれば死なないんですよ」

「うそ、知らなかったそんなの……」

 

これから先起こることを考えて、敢えていつも通りのやり取りを互いにする。

 

戦いは、すでに始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個性をなくして群となってしまえば、どんな行為を行ったとしても心を痛めなくなる人間は一定数存在する。

 

彼らも、そうだった。

 

揃いの服、揃いの仮面を被った彼らは感染者差別に立ち上がった戦士たちと書けば、格好はつくかもしれない。

 

けれども大多数のレユニオンは、現状のチェルノボーグ市民にとって──。

 

ウルサスに充満している死と暴力という存在の、別名にすぎなかった。

 

 

 

 

チェルノボーグへ、早いうちから侵入に成功した一隊があった。

隊を構成するのは、かつて環境の厳しい雪原の人がギリギリ生きていけるような村で細々と生活していた人々だった。

軍や感染者監視隊の中に一人でも欲深く悪意のあるものがいただけで破綻してしまうような脆い共同体である。

当然のように鉱石病は彼らを放っておいてはくれなかったし、あとは人の悪意によって落ちる所まで落ちた。

 

実に、ありふれた過去である。

 

差別によって砕かれた理性、大地に対する反抗心、貧しき生活によって痛めつけられた彼らに、レユニオンは救いの光に思えただろう。

非感染者に対する鬱憤を晴らすべく村から出た彼らの手は、すぐに同じウルサス人の血に染まった。

都市生活者は外で暮らす人々より良き生活をしているのは当然であったからこそ、憎しみに拍車をかけた。

 

自分たちは苦しめられているのに、なぜこいつらはこんなにもいい暮らしをしているのだろうか。

 

無差別に人々を襲っていた彼らは、だからこそ『標的』になった。

精鋭の一隊を率いる愛国者や、ある程度理性的な指揮官の部隊は故意的に見逃されている。

チェルノボーグへのレユニオンの支配率が少しでも下がれば、幾人かの生存の糸は生まれてくるだろうという一人の女性の意思が、そこにはあった。

 

 

 

それは同じ暴力の理によって盤上をひっくり返そうという、暗く後ろ向きな覚悟である。

 

 

 

 

 

 

ある建物の中で、今まさに決定的瞬間が訪れようとしていた。

 

無意味にも両手を交差させている中年男性を、白い仮面達が取り囲んでいる。

男性は、その日何度目かになる命乞いを絞り出している。

 

「もう殴るのをよしてくれ……お願いだ……」

「俺たちがそう言っても止めたか?」

 

ついに命乞いを聞き飽きたとでもいうように、無慈悲にも致命の一撃は振り下ろされ──。

 

 

 

 

 

 

 

それは、弾かれた。

 

いつの間にか現れていたウルサス人と並ぶ程の体格に、都市迷彩色に染まった防具を纏った存在によって。

この存在が、本来であれば振り下ろされていたであろう刃を難なく切り払っていた。

すぐさまヘルムの中からくぐもった若い声が、男性へと向けられていた。

 

「道向こう! 軍警がいる、走れ!!」

 

片手を使って男性を無理やり立たせた乱入者は、すでにレユニオンらと逃走した男性の間に立ちはだかっている。

その場の敵意は、この復讐の時間を遮った無粋な存在へと注がれていた。

 

口々に、仮面越しの罵声が飛ぶ。

初めての殺人行為に高ぶった神経は、容易に彼ら自身の精神を粗暴な存在へと貶めていた。

 

「……正義の味方気取りか? クソ野郎!」

「ごめん」

 

その謝罪の言葉は、この場にいた者の耳に届かなかった。

例え届いていたとしても、何の意味も持たなかった。

屋内の暗闇で『何かが光っていた』のを、彼らの視覚はしっかりと捉えてしまっている。

 

「死ねっ!」

 

この時より、惨劇が始まった。

 

レユニオンの一人である彼は、この生意気な敵に対しての怒りの鉄槌をすでに振り下ろしていた。

不思議なことに相手は、彼に一切の抵抗をしなかった。

生意気な相手は、どうやら背を大きく見せていたようで、縮み上がっていて、無様だった。

そして戦闘による興奮で、彼はそんなことを大して気にしていない。

ただ人生を通して、病と貧困によって鬱屈した暴力衝動のはけ口を見つけて、はしゃいでいたのだった。

一度、二度、三度、パイプによる殴打の音は水音を増していく。

そして確かな手ごたえが、最期に彼の腕を振るわせた。

 

やって、やった。

 

ついに相手を絶命せしめたと確信をもって、素晴らしき達成感と共に彼は仲間の方を振り返った。

そこに居たのは先ほどと変わらず佇んでいる邪魔者、ただ一人だけである。

 

彼は、自らの後ろがどうなっているかを知らなかった。

 

「ど……」──どうして?

 

そう続くはずだった言葉は途切れていた。

確かに殺したはずの相手は健在である。

それを不可解に思った瞬間、マチェットによって彼の頭蓋は縦に裂かれ、瞬時に絶命していた。

 

床には、互いに武器を向けあった沢山の亡骸が転がっている。

 

死体となって倒れた彼の近くに、頭の潰れたもう一つの遺体があった。

 

 

 

 

 

 

 

この死亡した男は、隊の中で誰よりも幸福であった。

自らの握った鉄パイプによって、誰を殴打していたかを、彼は知らなかったからである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼がついさっき敵と思って殺したのは、同じ村で将来を誓いあった女であった。

 

 

 

 


















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