【完結】ゼーンゼン・ツラクナイツ   作:タサオカ/@tasaoka1

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2話 シツレンナイツ

見てるだけで心が荒みそうな荒野、天井は灰色の雲が厚く塗りたくられていた。

遠くには結晶のような山々が朧気に見え、常に重い空気が沈殿している。

生きる気力もなく、日々が過ぎ去り、死を待つだけの人々の呻きが聞こえた。

そんな居るだけで精神衛生を損ないそうな地が、俺の生まれた場所だった。

 

俺は恐らく、生まれた時からして完璧ではなかった。

1つのPCケースに入った2つのCPUが、同期もせずに勝手に動いている感じだったのだろうな。

 

ぼんやりとした、個々の人格の境界が曖昧な時期を長く過ごした覚えがある。

ふとした瞬間に習ったこともない計算が出来たり、この世界では無用な知識が蘇っては混乱した。

そして自分の世界全体が薄っすらとした絶望感に包まれている。

 

何もかもが厭だった。

 

その鬱憤をぶつける様によく狩りをした。

化け物のような存在が沢山いたからだ。

見たことのない生き物ばっかだったので、そこはちょっと楽しかった。

体はよく動いてくれた、それは自分の体のことなのに驚いてしまうほどに。

自分よりも巨大な獣を殴ったり、刺したり、蹴り殺したりも出来るようになった。

こちらに来た獣を木の棒でボコボコに出来た時は、まるで胸がすくような気持ちだった。

タンパク質を取ることが有為であると思い出していた俺は、肉をよく食っては力をつけていく。

体はそれを受けてすくすくと育ったが、空中2段ジャンプはついぞ出来ることはなかった。

しかし刃物を持ったまま空中でのスピン機動によって獲物の首を切り裂くことに成功した事は数少ない自慢の一つだ。

今思えば、昔読んだ漫画の記憶が俺にそうさせていたのだろう。

 

獲物を捌く技術は他の狩人に代価を払って見て学び、習得するのは大変ではあったが。

村に一定量を収めて、バレない程度に蓄えを増やしていった。

並行して、たまに来る行商人に毛皮などを売りつけては話を聞いて、ほそぼそとした知識を付けていく。

そうして外の世界への興味が膨らむ度に思ったのだ。

 

オラ、こんな村、嫌だ。

 

この時、2つのCPUは初めて概ね同じ結論を弾き出したのだと思っている。

だからこそ、俺は彼女が来た時、それがでかいチャンスだと気づけたんだ。

 

 

 

人格統合のきっかけは些細なことだった。

 

彼女の着ていた服に縫い付けられていた色とりどりの、この世界に存在しない国旗を見て、俺は視界のピントが急に合ったように感じられた。

世界に対する解像度というものがブラウン管から4Kへと変貌を遂げるような、そんな感覚だ。

前世の記憶というものが、あの瞬間、完全に人格へと統合されたのだろう。

フラッシュバックによる記憶の混濁からくる気絶に耐え、2つの俺は、ここで1人の俺となったのだ。

そして俺は日の丸を、日章旗を指差し、彼女に語りかけた。

 

「その国旗に、俺は見覚えがあります」

 

長いままの方の片耳をこちらに向けた彼女が、普段だったら美しいであろう顔に凄味のある表情を浮かべていた。

今なら理解できる……哀れみを、同類を慈しむような瞳で、俺に小声でこう言ったのだった。

 

「私が出発したあと、村の外の、あの丘で会いましょう」

 

 

それが彼女との初めての会話だった。

 

 

 

 

 

以来ずっと俺は彼女に脳みそを焦がされ続けて、これは一生焼き付いて離れないのだろう。

だからこそ俺が、彼女の意志を引き継ぐつもりである、この仕事を辞めるつもりはない。

恥ずかしげもなくそういった事を話すとケルシー先生は頷いて、何時もよりその難解な言葉を抑えて、休暇を申請するように俺に伝えてくれた。

 

それを受け入れ、短く謝って退出する。

色々な戦いを終えて、現状は自分の精神に見合わないぐらいの背伸びをしてしまったのではないかと思った。

ほんの数年前まで、俺は自分以外の誰かを失うという経験を予想していなかった。

転生した後、最初から親は居なかった、友達も、同年代すら居なかったのだ。

あの村の互助によって育てられたが、単純な労働力としてであった。

まあ野垂れ死ぬよりはずっと良かったかも知れないが、その分の世話の対価は返せたと思う。

そうして成長に伴う実力によって周囲の大人に搾取されないように振る舞ってただけだ。

それは結局、逆転的な支配の姿勢に過ぎず、誰とも対等と言える関係ではなかったように思える。

 

フラつきながら、ロドス・アイランドの艦上に出た。

地平に陽射しは沈みつつあった、村に居た頃の風景とは雲泥の差だった。

 

だというのに、俺は、また独りだ。

 

風が強く吹き抜けていくからか、体がどうしようもなく冷えた。

 

彼女の手が差し伸べられて、俺はそれにすがって、甘えた。

そんな彼女を結局救えなかった、それも彼女のシナリオ通りだったのだろうか。

答えは返ってこない、何時も傍にあった半分欠けたうさ耳も見えない。

彼女は死んだのだから当然だ。

あの地で交わした言葉を思い出す、ドクターを助けてあげて、か。

 

ソシャゲの主人公だもんな、ついて行けば、まぁ何とかなるだろう。

 

いや願わくば、そうであってほしい。

俺は、浅ましくも、彼女の献身が報われてほしいだけなのだろうな。

 

目尻に滲んだものを拭って、俺は人事部に赴くための道順を辿る。

休暇を、申請しに行こう。

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