【完結】ゼーンゼン・ツラクナイツ 作:タサオカ/@tasaoka1
出会いと理解を経て、彼女と俺は旅をすることになった。
彼女はあくまでロドスアイランドに所属しながらも、各地の依頼を熟しながら、あわよくば俺みたいな迷い人を探す旅をしていたという。
そうして、まんまと俺はその網に引っかかったのである。
といっても俺もまんざらではなかったから、むしろwinwinだった。
彼女は仲間を見つけられて、俺は仲間に加えて、外へのチケットを手に入れたのだ。
俺のほうが得るものが多かったから、経費さえあれば給料はいらないと最初は提案したぐらいだった。
取り敢えず村の自宅から持ち出せるだけ持ち出したフル装備と全財産で武装する。
今の気分は、財産を宝石にして、己の服に縫い付けていたという中世の傭兵のようだった。
持ってこれなかったものは置き手紙とともに村の財産として寄付した。
あれでも第二の故郷だった。
村の外で、彼女はフルアーマー・俺の出で立ちにびっくりしたようでポカンとしていた。
「はえーすっごい、転生者なのに剣とか槍とか使えるんだね」
「まぁ、これで突っ込んでいけば大抵の獣や野盗は殺……やっつけられましたんで」
「あー慣れてるからいいよ~むしろ私も色々ヤッてるから引かれないかどうか不安だったから……切った張ったなのは外も同じだし、紛争地帯とかもっと酷いよ?」
「うわーっ嫌な情報がどんどん追加されてく……!」
「初々しいやつだなぁ……あっ……」
彼女は、キメ顔つま先立ちになっていきなり俺の耳元に近づくと、やたらいい発音で囁いた。
「Welcome to Underground、だね」
「……なんすかそのネタ」
「えっこれも知らないの!?」
「ごめんなさい、知ってます」
その後はぽかぽかと殴られたりした。
そうして村での生活との落差で俺の脳みそはドンドンとやられた。
もうないと思ってた、前世のネット掲示板のコピペネタが通じる相手がこんな所にいたのだ。
脳みその焦げ付きに拍車がかかっていたと思う。
旅での俺の役割は荷物の運搬、それに彼女の護衛だった。
背が小さいから舐められがちなのがムカつくので、キミはムスッとしててね。
そう言われたので今も俺の眉間からシワは取れないまんまで、ちょっと困ってもいたが。
自分のそこかしこに彼女の痕跡があるのが、俺はなんだか嬉しくもある。
彼女とは旅の途中、様々な話をした。
某動画サイトの際どいネタから、通っていた家系ラーメンの味、やっていたゲーム。
故郷の匂い、アスファルトの地面、スマホの機種、平和だった頃のことまで。
家族のことには、互いに触れられなかった。
この世界で生きるための知識を授けられた。
彼女は控えめに言っても博識が過ぎた。
俺がもし彼女と同じ立場だったら同じように振る舞えるだろうかと、不思議なくらいに。
メタ的な視点からの国家間の動き、実在と化したキャラたちのこと、そしてロドスの前に立ちはだかる幾つもの敵。
この時からすでに彼女は、きっと俺に、『手段』を渡していたのだろう。
ある旅の途中、俺は丁度いいドラム缶を見つけた。
彼女が感染者ということを理由に辺鄙な街の唯一の宿で、宿泊を拒否されたから野営しようとした矢先だった。
ドラム缶風呂に!ドラム缶風呂にしようぜ!かなりドラム缶風呂だよコレ!と
彼女がめちゃくちゃ煩かったので危険性が無いことを確認してから、そういう事にした。
称賛とともに珍しく機会を譲ってくれたので俺はそれに甘え、ざぶんと湯船に身を落とす。
水面に映った双月に湯気が絡んで侘び寂びだな、なんて珍しく禅な気持になったときだった。
「いーなー、転生してもチンチンあるの」
「ちょ!ちょっと!まって、なんて時来るんですか!?」
「照れてるー!」
「当たり前ですって!服着ろ!」
「ラブコメしようやぁ……」
「駄目ですって!ロドスのコンプラはどうなってるんですか!?」
「は?上司の命令はロドスでは絶対だが?(大嘘)」
ぬるり、と。
戦闘時に見せるような滑らかな動きで、彼女は俺の股の間にスッポリと収まった。
こういうのエロゲで見たことがある! 童貞の脳内がすぐにパニックを起こした。
不埒な考えで特に心臓が破裂しそうになったが、それらはすぐに鎮まる事になる。
彼女の背中や肌を走る傷跡の凄まじさ、昨日今日でつくようなものじゃないソレを見て。
俺が、失礼にも何も言えなくなってしまったのを察してか、彼女は口を開いた。
「ビックリしちゃった?」
「……」
「ごめんね、はしゃぎ過ぎてたわ」
彼女はゆっくりとこちらの胸に頭を預けてくる、表情は湯気で見えない。
いや、彼女がどんな表情をしているのか知るのが怖かっただけだ。
「ねぇ、何か聞かないの?」
「……黙ってしまう俺に、そんな権利ありませんよ」
「正直だね、そーいうとこ好きだわ」
もっと別の場所で言ってほしかったことを、彼女は言った。
言葉は続く、湯だけが優しく俺達を包んでいる。
「私もさ、正直になってあげる、この旅が何の成果もなく終わったら死のうって思ってた」
「……」
「クソみたいな場所で産まれて、玩具みたいに弄られて、病気にも掛かって、それでもやっと独り立ちしても、どこ行っても灰色で」
言葉の間で、チャパチャパと水音だけが鳴る。
「希望は確かにあるよ、でも、俺には遠すぎてさ」
「だから……」
「うん、それでも君がいたから、まだ……生きてみよかなって……わっ」
俺はどうすれば良いかわからなくなって、彼女を両腕で抱きしめていた。
関係がぶっ壊れたら、謝って身を引こうと覚悟していた。
「うわ、心臓の音すご、草生える」
長いままの方の片耳が、俺の胸に当たっていた。
彼女の耳の良さが最悪の形で発揮されていて頭を抱えそうになる。
「一世一代の行動なんですから茶化さないでくださいよ!」
「ゆでダコみたい、可愛いね~」
こっちを見た彼女の茶化すような笑顔は、今まで見た中で最も美しく可愛かった。
それでもお前は、彼女をこの世に繋ぎ止める楔にはなれなかった。
「ああ……すいません、ラナさん……こんな所で寝てしまって……」
「いいのいいの、寛げたでしょ? 寝ている間に疲れが取れたなら幸いよ」
「それは……はい、もちろんです、今なら空中2段ジャンプも出来そうなくらいです、お世話をおかけしました」
「それじゃあ続きは自室でね……よい夢を……」
「はい、失礼します、あっ、ラナさんもよい夢を……」
申し明けなさそうに庭園をでていく少年の大きな背を見送って、パフューマーは目を伏せた。
眠っている彼が涙を流し、もうこの地のどこにも居ない、あのコータスの名を祈るように呼んでいたことを思い出したのだった。
誰であってもそういった領域に踏み込むべきではないと、彼女は思っていた。
特に青年にも未だ満たないこの少年と、ただの仕事仲間ではなかったであろう女性との一生の離別については。
それでも出来る限りのことはしてあげたかったからこそ、ナイトメアやポデンコたちが帰っても、少年の目が覚めるまで香を炊きながら傍に付き添っていた。
彼女は、一人の成熟した大人であった。