【完結】ゼーンゼン・ツラクナイツ   作:タサオカ/@tasaoka1

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注意 一部、R-15範囲で性的表現があります


4話 『二人なら』ゼーンゼン・ツラクナイツ

「さっきの石投げてきたガキに例のアレほんへ24時間視聴耐久フルマラソンさせたかったです」

「気持ちは嬉しいけど、限度を超えたホモビ拷問は国際法的にNG」

 

歩く。

 

「そのサンクタって人たちの天使の輪っか、見てみたいですねー」

「全員銃持ってるから、ほぼリアルブルアカみたいなもんだよ」

「なんかそう言われると神秘性が……」

「龍門に寄ったらダチのサンクタに会わせてやるよ、おもしれーやつだゾ」

「それは普通に楽しみ…………一緒にいきましょうね龍門、案内してくれると嬉しいです」

「バッチェ任してくださいよ~」

 

二人で歩く。

 

「ベルセルクってまだ続いてるんだ!?」

「作者さんが亡くなってしまったけど意志を引き継いだ先生が描いてましたね、あとHUNTER×HUNTERの新刊も出てました」

「暗黒大陸編読みたかったな……せや」

 

彼の真正面に出て、耳と手を使って大いなる円を作り上げる。

 

「これ何かわかる? 兵器ブリオンの真似……ッ!」

「急にぶっ込んでくるのやめてください、たまに咄嗟の勢いだけで殺しに来ますよね」

「ちっ」

「ちっじゃないです、それに申し訳ないんですけど、まだ船の中でしたよ」

「マジ?」

「オオマジです、トラストミー」

「oh...」

 

いつもは独りだった旅も、隣に彼が居ることで絶望することもフラッシュバックも無くなった。

 

傍にいる彼を、私は見上げた。

厚い胸甲、目に付く長槍と弓、腰に差した山刀、丈夫そうな籠手。

どこか優しそうだった顔つきが、旅のせいか今や少し険しくなってきて、より男前になっていた。

 

重かった道具類も彼が持ってくれたから、締め付けが少なくなって助かっている。

それに喋りたがりの私にずっと付き合ってくれる、迷惑がられてないか心配なぐらいに。

子供の頃はロクに喋ることを許されなかったから、きっとその反動だろうけど。

彼が、傍にいてくれると止まらなくなってしまう。

それどころか未練がましく、もっと、もっと話したいと、思ってしまう。

前世のことも、この世界のことも、彼と見て話して、共有したかった。

こんな事をし続けていれば、互いに不幸な結末を辿るとわかりきっているのに。

 

今のこの旅が、時間がずっと続けばいいのにと思っていた。

 

思ってしまった。

 

あの夜抱きしめられた時、それよりもずっと前から思ってしまっていた。

気づかないようにしてたんだ。自分にも彼にも沢山ウソをついている。

 

私の人生に先なんてないのに。

どうしようもならないのに。

 

光が遠すぎる。

 

「んん、どうしました? 俺ペース早かったですか? それともご飯にし……?」

「あっ……」

 

振り返った彼の顔が、歪んで見えなかった。

いつの間にか、涙腺がガバ穴になったみたいで頬が濡れていた。

拭っても拭っても、涙が止まるどころかハナまで出てきてせっかくの薄幸のコータス美少女フェイスがきっと大惨事だろう。

あまり彼に見られたくなかった醜態を晒してしまって、私も少しパニクっていた。

 

「ちょっと、どうしたんですか、どこが痛みますか!? 鎮痛剤! 鎮痛剤もってます?! 横になってください!」

「わ、大丈夫!大丈夫だから!どこも痛くないよ!」

 

心はとっくに粉々硝子だがなぁと内心ではふざけてみても、胸の奥の痛みは拭えない。

野盗に襲われても顔色一つ変えないで対処できる彼の驚く顔が少し面白くて、笑えて、同時に

すごく苦しい。

 

 

 

 

「落ち着きました?」

「うん」

「何ともなくとも今日は休みましょう、お湯沸かしてきますから、少し待っててくださいね」

 

頷く。

私は強制的にテントで横にさせられて、無労働の刑を言い渡された囚人だった。

することもなく目を瞑って、彼の起こす音に耳を澄ませていた。

半分欠けているがコータス・イヤーは地獄耳である。

燃料が弾ける音、何か、カップを用意する音だろう、それに包みを開ける音。

アチッと言いながら、苦戦している様子がありありと想像できた。

なんだろう、お茶でも用意してくれているのだろうか、少しだけ香しい。

 

やはり、いつもと違う。

 

「おまたせしました」

 

ヨロヨロと私はカップを受け取って、ゴワゴワな声で応える。

 

「ゴメンネ、ヨワクッテ……」

「……鬼滅って完結したのは知ってます?」

 

カップの中身に興味津々ではあったが、こんなネタまで拾ってくれるんだから、ありがたいな~と思う。

それはそれとして、完結は初耳だった。

 

「えっ知らなかった……」

「まあ話はあとにしましょうか……」

 

彼は居直ると少しだけ喉を整え、言う。

 

「誕生日おめでとうございます!」

「えっ」

「何を送るか迷ったんですけど、この前好きって言ってましたよね? ラテラーノの茶、入れてみました」

「えっえっ」

「あの、今日であってますよね?」

「そうだよ」

「良かった、その……飲んで元気をだしていただければ幸いです」

 

驚いて、ネタの一つもでてこない。

言葉より行動が最優先だった。カップを両手に持って、そのまま飲む。

味はわからなくても、香りなら楽しめるから、好きだった。

彼に、症状を詳しくは話していなかった。

それでも、この茶は今まで飲んだ中でも最高だ。

 

「美味しいよ、すごく美味しい……本当に、今までで一番」

「いやー良かった、サプライズがバレてないかヒヤヒヤしましたよ」

「全然気づかなかったヨ」

「やった」

 

火を囲んで、彼と一緒に飲むことで、何倍にも美味しくなって、痛かった胸の奥も今やポカポカだった。

 

それにしても誕生日なんて!

 

未来が少なくなることがわかるのが怖すぎて考えてなかった。

彼は、私が怯えていることを知らなかったのだ。

あんなに怖かったのに、今や嬉しい気持ちで一杯になっている、自分、チョロすぎる。

そうしていると彼が静かになっていることに気づいた。

神妙な面持ちで笑いそうになってしまったが、空気的にどうもそういう感じじゃないらしい。

いや何が来るか何となくわかった私が、恥ずかしがっているんだな、うん。

 

「今話していいか、わからないんですけど」

「はい」

「いつかのドラム缶風呂の時、言ってましたよね、生きてみようって」

「……」

 

「その人生、俺も一緒に歩んでもいいですか」

 

「……いいの? 嫌じゃない? こんな不完全な女」

「いいの、とは」

 

自分で言っといて息が止まってしまいそうだった。

同時に自分の心の中の汚いものが頭を擡げるような感じがした。

 

いっそのこと、彼を遠ざけるべきかもしれないと思いはじめる。

これが逃げだということは自分でもわかっているつもりだった。

そうすれば心に傷は出来るかも知れないけど、互いに痛みを忘れられる時がくるかもしれない。

それが一番幸せになれる道だ、本末転倒的にそう思い始めていた。

彼は、彼の人生を歩むべきだ。

 

「『俺』が転生前は男だったのは知ってるだろ」

「とっくのとうに知ってますよ、それがどうかしたんですか」

「気持ち悪いだろ、こんな女」

「貴方がそう言っても、俺にとっては世界で、いいや前世通して一番、美しく可愛く魅力的なんだ、自分自身を傷つけるようなこと言わなくていい、です」

 

彼は反撃を予想していたように詰まること無く答え始めた。

情けないことに焦ったのは私だった。

言葉に詰まりそうになる、どこか意地になり始めた自分が居た。

それでもクソみたいな過去なら豊富だった。

私はどこの切り口からも真っ黒いものが出る血が詰まったゴミ袋だ。

 

「俺が生臭いものや生モノが食べられないのは知ってるよな? 何でかわかるか?」

「不味いから、苦手って……」

「苦手は本当、理由は嘘、子供の頃、さんざん賊の慰み者にされたからね、結構人気だったんだぜ俺、鉱石病だってそこから移されたんだ、体の全部が汚いんだよ俺は、耳だって遊びの一環で切られたんだ、アンバランスで、気持ちわるいだろ」

 

自分が望んでやっていることのなのに、手が震えていた。

馬鹿みたいだ、なんだこれ、自分のことなのにコントロールできてない。

ここまで、私が醜く臆病とは思ってもいなかった。

支離滅裂な思考が正気を取り戻したようにストレートな思考を吐き出させていた。

自己嫌悪が極まっている。

 

「それによしんばヤッても子供も作れないんだ、さあ嫌になったろ、君の、勇気を振り絞った告白にこんなことしか言えないんだ、私なんて……」

「全然、嫌になってませんよ」

「嘘だ」

「本当です、でもかなり脳が破壊されました、すごく目眩もします、地面が揺れるような動悸もあります」

「それは、嫌になってるのでは……」

 

話を聞いている内に、こちらが冷静になってきた。

 

「全然、嫌じゃないです!俺は貴方の全部が好きだからこそ、今がめちゃくちゃに苦しいです!」

「逆に大丈夫か?」

「全然、嫌じゃないですけど!! 大丈夫ではないです、俺も変になってます、でも貴方にははっきり言わないと駄目らしいというのがわかりました、俺は!貴方が大好きです!貴方じゃなきゃ嫌だ、こんなガキだけど付き合ってください!ビッグになります!だから人生の最後までっ~!」

「わかった! わかったから!! 締まらねぇよなぁ私も…………」

 

自分の顔に、手を当てる。

さっきまで冷え切っていたのが嘘みたいに、手が火傷しそうなくらい熱くビックリした。

 

落ち着いた彼が、静かに言う。

 

「俺は、貴方のことが好きです」

「私も、貴方のことが────」

 

彼は一生私のことを引きずってくれるだろうか。

 

 

 

そう思いながらも今の幸せを噛み締める事をやめられない、私は世界一幸せなクソ女だ。

 















一部表現は宮部みゆき先生の『火車』をオマージュしております。
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