【完結】ゼーンゼン・ツラクナイツ 作:タサオカ/@tasaoka1
「んで、色々機能が死んでるし、仮にヤれてもデキないってのはそーいうこと、ロドスの……あー偉いお医者さんが言うには背が低いのもそのせい」
「朝からヘビィな話でした、俺、脳破壊されると同時にまたクラクラしてきました」
「私の人生ぜーんぶ背負ってくれるって言ったじゃん?」
「それもそうですけどTPOってのがあると思います、でも……また何か言いたくなったら何時でも話してくださいね、俺、ちゃんと聞きますから」
「お、おう、TPO言う割に激甘なんじゃねーの」
「こんな可愛い彼女が居るんです、それぐらいやらないと俺は釣り合い取れないじゃないですか」
「私も比較的ヘビィなの喰らってないかな?」
「じゃ、お互い様ってことで収めてください」
「ぐぬぬ……なんか負けた感じがする」
歩きながら照れている彼女は可愛かったが、しれっとした顔で俺は言うことにした。
朝から内心はあちこちでバチバチと火花が走る爆発寸前ロボのように満身創痍だったが。
ポーカーフェイスが得意になってしまったなと思う。
あの村ではそもそも感情を動かすような、泣いたり笑ったりすることがなかったから禄に表情筋が育たなかったのだろう。
それでも彼女が傍にいると、ころころと表情を動かすことが出来るような気がした。
彼女の話に答えてあげたかったからだ。
会話をテニスのラリーのように打ってくるのだから、俺も打たねば無作法というもの、そんな気持ちだった。
色々あった夜から幾日か、仲は確かに進んではいたが表面上は大した変わりがない。
ソレッぽい事をするわけでもなかったが、一緒の毛布にくるまって寝たりしている。
どちらかというと今までと変わらない方が俺達二人にとって良いと互いに思っていたからだろう。
ただ精神的、物理的な距離は縮まったと思う、だから彼女のちょっとした感情の機微もわかるようになっていった。
時間帯によって少し躁鬱気味な所があるだとか、くだらない嘘をすぐついてくることとか。
手慰みになると欠けた耳の先をいじったりだとか、自分の可愛さを理解していることだとか。
恋は盲目と言うが、何だよ、むしろより鮮明になるじゃないかと思っていた。
今思えばそれは初めて彼女ができて浮かれた童貞の、酷い勘違いだった。
村に居た頃は極稀に、遠くで遠雷のようなものが聞こえたり、あるいは地震が地面をわずかに揺らしていたことを理解していた。
異世界でも災害はつきものなんだなと呑気に考えていた、それは単純に俺の運が良かっただけに過ぎなかった。
この世界では災害、天災から逃れるために都市を丸ごと移動させているのだという。
旅の途中にそれを見せてもらった時はあまりのスケールの大きさに脳の理解が追いつかなかった。
前世、大都市の港で見たガスを運ぶ船やコンテナを満載した船なんかよりも大きい都市の塊が土煙上げて動くのである。
しかも、その上には人が住むビル群がそびえ立っているのだった。
まさしく呆気にとられて口をぽかんと開けていたら、横から田舎っぺ丸出しだぞIKZOクン!と言われ、俺は彼女を高い高いの刑に処した
理由は事実その通りで図星だったからだ、知らないことも多すぎたが、俺もまだ大人げない心が抜けきらない。
彼女がヴォエ!っとする前までじゃれ合い、ハァハァしながらこのプロ級ロリコータスマニア!と間髪入れず罵ってくる。
そんなこと言ったら今度は水中ブリッジ三分間するしかないと言ったら、更に罵倒してホテルの部屋から走って逃げていく彼女を見送った。(たまにそんな感じで、昼飯前にはひょっこり帰ってきた)
最初は少年の憧れと恋心をくすぐる年上合法ロリ薄幸お姉さん役を演じてやろうと気を張っていたそうで。
まあ普通に俺は脳みそを丸ごと焼かれていたので目論見通りと言ったところだったが。
そうするのもやめて、今は素を出してくれてるというのだから何だか嬉しかった。
それにしても移動都市は凄かった、あんな物を地上で動かすというのだ。
前世であればそのまま原子力発電所を乗っけて無茶しなければ実現できないだろう。
だが原子力発電のような技術は、人にサラッと話を聞いてみてもこの大地には存在しないようだった。
だからこそ、この世界の文明は源石が手放せないんだろう。
実際とても便利だ、彼女の様な人たちが病魔に蝕まれること以外はとても。
そんな世界に対する特効薬がロドスか、と俺は独りで結論に至った。
世界に欠けた、あるいは空けられた場所を補うような存在。
まさしく主人公勢力にふさわしいだろう。
今のこの旅の終着点はロドスアイランドになるらしいということを、俺は今更思い出していた。
俺の身分は現地採用(仮)ということになっているらしい。
彼女が各都市の事務所などである程度話を通していてくれているようだった。
俺自身も就職自体に抵抗はなく、彼女と一緒にいられるならどこにだってついていこうと思っていた。
あんなに学んだ就活ルールは果たしてここでも通用するのかとか、とんだ地雷を踏んでしまうのではないかとか不安でいっぱいである。
そう思っていると彼女が帰ってくる、買い物もしたらしかった。
カスの差別をしてくる店もあるが、無論差別的でない店もあるのでそこを利用すると言っていた
おかえりと言うと返ってくるただいまの声、しかし何だかテンションが低めだった。
「すまん……今日はもう寝る……」
ドサッと買い物袋を置いて、ヨロヨロとこっちへ来て、隣りに座ってくる。
何時もの威勢の良さが消えていて、まるで一回り小さくなってしまったようだった。
「わかりました、何かありましたか? 嫌なことされたならソイツをとっちめますが」
瞬間的に心臓が戦闘態勢に入り、武器置き場に目を走らせたが彼女は首を気だるげに振った。
「いや……あったというか、これから起こるというか……」
「俺に出来ることがあれば何でもしますよ」
「わりぃけど、お願いしたいことある……」
いつもだったら俺が、何でも、なんて言ったら、ん?今何でもするって言ったよね?、のコンボが入るので重症だなと思い、腹を括った。
1時間後、俺と彼女は一つのシングルベッドに窮屈に収まっていた。
本当にこれだけでいいか?とか聞いたが、これでいいと言う。
情けないところを見せるかも知れない、とも言われていた。
外では天災の余波なのか、既に激しい雨が振り始めていた。
部屋にはナイトランプの灯りだけが浮かんでいる。
俺は黙って彼女の背中を優しく抱きしめた、既に涙と鼻水がシャツを濡らしている。
『いつもはこんな事ないのに今日は来る気がする』
彼女はそう言っていた。
気休め程度の精神薬を彼女は服用して、俺には夜通し傍にいてほしいとお願いされた。
縋らせてほしいと。
「ごめんなさい、やめてください、お願いします、おねがいします」
胸の中でか細い声が聞こえてくる、今まで聞いたことのないような、懇願する彼女の声が。
たまに寝ている時に彼女が悪夢にうなされているのは知っていたが、今回は程度が違った。
覚醒しながらも悪夢の中にいるような気分になる、と教えられていた。
PTSDやそれに類するものだろうと思っていたが、苦しみだけが伝わってくる。
俺は彼女の辛い気持ちの一片でも肩代わりしてやることもできず、こうして胸を貸すしかない。
グッと、彼女の手がシーツを掴んでいた。
力が入りすぎているのか、ただでさえ白い肌が、ランプの下だと青白く染まりつつある。
その様を見て、彼女が一番辛かった時期に傍に居ることができなかった事をひたすらに悔やんだ。
あの村でぼんやりと生きていなければ、あるいはもっと早く記憶が統合されていれば、天災によって居場所を失った彼女たちの一家を助けられただろうか、と。
その考えが傲慢な思い上がりだとわかりきっていても、考えずにはいられない。
目を瞑って、その肩や背中を時折優しく撫でて、彼女が悪夢から抜け出すのを、ただ待つしかない。
また朝になれば、彼女とくだらない話が出来るよう事を祈りながら。
ずっと彼女を抱き続けた。
雨は、止みつつある。
誤字脱字報告ありがとうございます。