【完結】ゼーンゼン・ツラクナイツ 作:タサオカ/@tasaoka1
雨は、止んだ。
入れ替わるように、柔らかな陽射しが窓から入り込んでくる。
光が、彼女の髪を白く輝かせて、ことさらに美しく見せた。
彼女が静かに寝息を立て始め、既に3時間ほどが経とうとしている。
もう離れてもいいだろう、そう判断した。
俺はその小さな頭に添えた手を、爆弾を解体する時よりも慎重に抜き取った。
血が止まってたからか感覚がないものの、それは彼女の一夜の苦しみからすれば安すぎるものだった。
だらしなくよだれを垂らして眠っている彼女の顔を見れば、いいだけ苦しめたであろう過去の忌々しい悪夢が去った事に安堵する。
起こしてしまわないよう、静かにベッドから立ち上がる。
体温で温められたシャツは彼女の体液でぐっしょりとしていた。
彼女の苦しみの証を、少しでも俺は受け止めることができたのだろうか。
それはそれとして着替えておこう。
ああ見えて繊細な彼女だ、今の俺の姿を見て迷惑をかけたという負い目が発生しないように。
ついでにシャワーも浴びときたい、軽い痛みのする目を擦って浴室へと向かった。
一睡もせず、傍にいたのだからこれで任務完了と見ていいだろうか?
鏡の中の俺は久々に隈を深くして、こっちを睨んでいるような瞳をしていた。
感じが悪いなぁと思う、前世の俺が相対したらヒエってなってしまうだろう。
おいおい、どうしたんだ、そんな顔をして、まるで村に居た頃みたいじゃないか。
頭の何処かで、冷静な俺が喋り始めた。
喋り相手が居なかったので、自然と身についた一人芝居だった。
意外と役に立つのだ、戦闘時に見落としがないかだとかを自問自答する時に。
客観的な位置に立ってそれを評価し、俺が対応するという流れで。
何度か助けられてもいる、おかげで狩りの長い間も時間を潰せた。
俺は、俺に密やかに答えた。これはある種の勲章だよ。
そうしてシャワーの蛇口を捻った、お湯が出るのが今はすごくありがたい。
疲れは消えはしないが、さっぱりと体の汗や涙を洗い流してくれた。
耳と尻尾も綺麗にする、これが意外と慣れない、トリートメントなどもあるらしいが…。
たまに彼女があの可愛い耳の手入れをしているのを見たことがあったが、この世界ではおしゃれに気を使うとそこもやらなければいけないから大変そうだ。
そういえば角が生えてる人らはヤスリがけとかしているのだろうか、だとしたらこれまた大変そうだなと、しばらくボンヤリとしてしまった。
あまりに長風呂だとホテルから文句を言われかねないので蛇口を捻り、ローブを羽織って洗面所から出ると、彼女が起きている。
「おは」
「おはようございます、よく眠れましたか?」
「ああ、おかげさまでな」
「それは良かったです」
ふと、何だか彼女の頬が、少し赤い気がした。
もしかしたら一晩中苦しんだせいで風邪でも引いたのかも知れない。
そうだったら少し旅のスケジュールを詰めて休むことを考えるべきだと思い始めた所で、彼女が静かな事に気づいた。
彼女が、沈黙に耐えきれなかったように口を開いた。
「……恥ずかしい所見せちまったな」
「そんなの」
気にしなくていい、と言おうとした時だった。
「あの、さ、お礼に……好きなこと何でもしてやるよ……」
今度は俺の時が止まった。ザ・ワールドだって目じゃないくらいに。
浅ましいことに、心のなかでは、ゴクリと喉がなった気がした。
だが俺は最良の選択をしようと、なけなしの理性を総動員し、己の中の獣欲に抵抗を試みた。
俺は彼女の弱みにつけ込むような真似はできない、したくない、こんなんでもプライドがあった。
されども、したいことは山ほどあった、認めよう、それは正直に。
俺だって男だ、考えなかった事がないと口が裂けても言えない。
だって、こんなに魅力的なんだから。
だがそれでも、あんな事になっていた彼女に、次の朝に生々しい欲求をぶつけるのはあまりにもカス過ぎると思った。
だからこそ、あまりにガチになりすぎずも、欲望の天秤に照らし合わせ釣り合いの取れる案を、過去最速で脳内会議が叩き出した。
選ばれたるはたった一つの選択肢、今、意を決して口を開く。
「……を触らせてください」
「ホラホラホラホラ、声小さいゾ~」
少し調子を取り戻したのか、彼女は面白そうにニヤニヤと笑う。
めちゃくちゃに恥ずかしいが、いや、だからこそ、これでいいのだ。
「耳を……好きなだけ触らせてください!」
彼女が驚いたように耳をぴんっと立てて、へなへなと降ろしていった。
「はぁ!? 何でもってお願いでそれを選ぶのか(困惑)ウッソだろお前……いや別に*龍門スラング*とか*カズデルスラング*してもいいんだぞ、あっちの穴ならまだ使えるし……」
「さっきまであんなにうなされてた人に、そんなのできませんて」
「変な所で真面目だな? でも……私の一番敏感なところには触りたいんだ?」
「はいッ……!」
「拒むことを知らないロリコータスマニアがよォ…………でもさぁ」
「な、なんです」
「ああいうのはよ、無理やりされたから嫌だっただけなんだよ、わかるか、意味が」
隣りにいた彼女がこちらに体重を預けてくる、羽毛のように軽い。
軽い身のこなしで俺の肩に手をおいた彼女が、耳元で囁いた。
「君になら、私はどうされたって、嬉しいんだ」
「………………ちょっと色々な感情が爆発して、心臓が止まるかと思いました」
「なら、その鼓動が止まる前に堪能してみな」
小さな肢体が俺の股の間にすっぽりと収まっていた。
そのまま俺に、体を、頭を預けてくる。
「ほら、スキニシロッ」
ここでホモビ語録が出てくることに若干呆れながら、俺は両手を彼女の耳に近づけた。
「お邪魔します」
触れる、体温と柔らかな毛ざわりが伝わってくる。
思ったより、かなり温かい。
「ふひゃっ」
これまた初めて聞くような声が聞こえた。
だがあまりの触り心地の良さに、俺は感嘆していた。
「おお」
「おおじゃないが、ッンンン……」
「くすぐったいですか」
「フフッ……それなりに、な……」
何とかクールにしようとしているが、かなり耳の動きが細やかになっている。
内側の毛の生えてない方を触ると、別種の触り心地と少し湿ってるのが何だか良くないことをしている気持ちになってくる。
ソレッぽい行為をしていないのに、かなり公共良俗に反しているような気がしてきた。
卑猥な物を隠そうとしたら余計卑猥になるような現象が発生している……!と直感が告げてくる。
だけど、それはそれとしてやはり卑猥が一切ない。
俺は、この機を堪能するべく続行した。
「満足したかワレェ、オウ、このドスケベ・ロリコン・コータス・マニアがよォ……」
「すいません、調子に乗りました」
俺は昆虫の学名みたいになってる自らの蔑称を聞き、ベッドの上で背を伸ばし正座していた。
顔が真っ赤になった彼女が目の前で仁王立ちしている。
ジト目だった、それはそれで可愛いと思ってしまうので脳みそは焼かれきっている。
「……まぁジョーダンだ、許す、寝てないんだろ?」
頷いた、ちょっとハイになってた気はしていた。
眠気を意識してしまうと、すごく瞼が重くなってきた。
謝ったあとにノロノロと自分のベッドに戻ろうとすると、袖を引かれる。
座った彼女が、自分自身の小さな太ももを指している。
俺は重いでしょうからと首を振ったが、手を離さない。
「ロドスでは上司の命令は絶対だぞ(迫真)」
俺は、大人しく彼女の太ももの上に頭を載せた。
ここで俺の意識は速攻で途絶えた。恐らく気絶するような寝心地の良さだったのだろう。
正直もっと堪能すべきだったと悔やんだ、起きたときにはベッドで寝かされていたので、夢を疑ったほどだった。
やっぱクソ重かったわ、とはその後の彼女の談である。
でもたまにならやってやんよ、と言われて、俺は喜びで2段ジャンプできそうだった。
女は、自らのアーツの発動を止めた。
「ヨシ眠ったな……遠慮なんざしなくていいのに……まぁ……カッコつけてぇ年頃だもんな……」
女は笑う、今は眠っている少年の精一杯のプライドが手に取るようにわかってしまって、それがたまらなく愛おしくて。
「……どんな事だって、私は、君のためになら出来る気がするんだ」
女の笑みが消える、それは紛れもない本心で、ずっと変わりない考えだった。
「君が生きる未来を守るためなら……私の命に変えても……」
女は一言だけ呟く。
「だから……許してね……」
誰かの涙が落ちる。
誤字脱字報告ありがとうございます。