【完結】ゼーンゼン・ツラクナイツ   作:タサオカ/@tasaoka1

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8話 シュウカツナイツ②

 

「ヘイ、Darling! ロドスについて教えて」

 

ニヤニヤとする彼女の前で、俺は甲子園の応援団のごとく胸を張り、仁王立ち。

空気を吸い込んで、勉強の成果を見せた。

 

「ハイ、ロドス・アイランドは後ろ暗いことのない製薬会社! 感染者の自立、独立を助け! 鉱石病の進行を抑える抑制剤を製造し!! 将来的には鉱石病治療薬の開発を目指す超優良製薬会社!!! 移動本社あり!!! テラで絶賛成長中!!! デス」

 

面接を前に、こういった綺麗な語句を俺は信じ込む必要性があったので

彼女に付き合ってもらったが、これはこれで大丈夫なのか?と不安になってきた。

まあこんな世界だから、実際、感染者にとってメチャクチャありがたい組織だとは思うが。

 

「んッフフフッ……大変よろしいねぇ、うんうん」

 

この笑顔が見れただけでも、人間スマートスピーカーになった甲斐はあるというものだ。

それはそれとして美麗な語句が並び過ぎではある。

 

「なんか自分を騙してる気がしてます」

「嘘は言ってないんだよな嘘は、いやチョット・ウソあるけど、概ねあってるじゃんね」

 

俺の中にある旅の途中で得た情報やロドスの事務所に立ち寄った時の風景を積み上げていくと、実体もそういう組織であるのは理解してはいる。

でも、同時に運営するのが大変な組織なんだろうなぁとも何となく伝わってくる。

 

この世界は感染者に厳しすぎると思っているからだ。

 

倫理観なんて人の首ねじ切った時から言えないかも知れないけれども、それでも差別は良くないと思ってしまうから。

薄らぼんやりした前世の価値観を引き継いでいると、ギョッとしてしまうことが非常に多かった。

前世において、ご老人が●●●とか●●●とか放送禁止な差別用語をサラッと使った時の50倍ぐらいは露骨で、酷いものが多かった。

 

特に彼女が対象となる場合、俺は高確率で、やってきた相手と話がしたかった。

 

無論、俺も口では過度な報復を申し出るが、彼女がそれを望んでいないのだから動くことはないという流れがお決まりだった。

ふざけて暗くなりすぎないようにと振る舞いたくなる、同時に自制に多大な忍耐力を必要として、それに、とても悔しかった。

でも、どこか達観した顔で彼女は、そういうもの、と言った。

感情を奮いたくなる俺を、根気強く諭してくれた。

だから、彼女は今もロドスに勤めているのだろう。

悔しいものは悔しいが、俺が彼女の気持ちの勝手な代行者になる権利なぞない。

おかげで忍耐力は結構鍛えられたと思う。

たまに脳が破壊されることもあるが、俺は彼女の意見を出来る限り尊重したいのだ。

 

逆に、俺が差別される場合もあった。

差別というよりかは、憎しみを向けられることがあった。非感染者だと。

俺は驚いて固まってしまったぐらいだった、考えれば当然だ。

片側が、ただ一方的に刺されるわけではないのだ。

この世界の中で、憎しみと苦しみの感情がぐるぐると循環している事を。

俺はあの時、気づいていなかった。

 

まだこの世界に生きて十年以上一五年未満?だから最終的な判断を下すには早いが

人間が生きるには厳しすぎると思った、そら人心も荒廃するわ。

一般人だった俺でも荒むわけだわ、あれなんでこんな思い出に浸ってんだ?

己の素手だった両手が、籠手に包まれている。

 

彼女の目が、光っていた気がした。

 

「じゃけん今からロドス採用試験しましょうね~! 殺し、残る怪我はダメ! はぁい、よーいスタート!」

 

「っ」疑問から目が覚めるような衝撃が来た。

 

赤い影が、視線をよぎったと思った瞬間。

牙が見えたような気がして、俺は当てずっぽうに自分の右手を振り回した。

空気を殴りつける鈍い音、衝撃のある甲高い音。

手応えはないが武器を弾いた気がする。

すわ、狼のような生き物かと思ったが間違っていた事がわかった。

ヒットはしないが間合いができたおかげだった。

赤いフードを被ったヒトガタが相手らしい。

疑問符が俺の頭を埋めようとしたが、そんな贅沢は許されない。

再度の刺突、籠手で上手く反らせた、怖すぎて笑ってしまった。

可愛く、耳を入れた彼女よりは大きいループスの少女に見える。

されど、脅威は本物の狼よりも何倍も高いことがわかる。

この世界、女傑の話はよく聞くが、やっぱソシャゲ世界だなぁ!と感心する。

俺は良くてR、SSRぐらいの娘だったら普通に勝てなそう!

思考が巡って、アイサツと威圧も兼ねて、俺は構えながら叫ぶボタンを選んだ。

 

「お手柔らかに!!!」

「うるさい……」

 

声までかわいいな、ぜってぇ実装されたらSR以上はある。

そんな事をふと思った時、攻撃が再開される。

すぐに火花が散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し離れた場所、二人の女性が採用試験を眺めながら言葉を交わす。

 

「先生……会いたかった、今回はありがとうございます」

「あの子の訓練にもなるからな……スー、それよりメディカルチェックを受けてほしい、君は──」

「わかってます、ロドスに着いたらすぐに、でも私の彼も見てあげてください、"同郷"なんです」

「"同郷"……そうか、それは……ついに見つけたのか?」

「はい、それに私、彼と最期の時まで一緒に居たい、と今は思えてます」

 

それを聞いた女は、長く傍に居たものにしかわからないようなぐらいの、ある僅かな感情によって眉を動かすだけに留めた。

その感情の名前を女は溜め込んだ知識として当然知っていたが、それに自ら気づく事を意図的に避けていたのだった。

 

「先生、力を貸してください、私、あの子が好きなんです」

 

ロドスCEOよりも小さな、コータスの頭が下げられた。

女は視線の先にいる男を見た、籠手のみを使用し、レッドの攻撃を瀬戸際で捌いている姿を。

提出された幾つかの書類と手紙によって知るのみだった少年を、彼女は初めて見たのだった。

 

暗き道を歩むことになる少年を。

 

「わかった、だがこれは君の懇願によって承諾するものではない、私があの振る舞いを見て判断したものだ、少なくともレッドに一方的に倒されるような技能レベルではないと──」

「やったぁ、大好き! 先生!」

 

抱きついてくる小さな、鉱石病に侵されきってもなお、力を秘める体を、ケルシーは保護した時のように優しく抱きしめ返した。

















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10月7日19時頃更新
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