炎のポケモントレーナー   作:sasori

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第二話 旅立ち

 

 ――数年後

 

 

 古めかしく年季が入った扉を開けば、一筋の光が外から差し込んでくる。

 

「もう行くのかイグニ」

 

 イグニが声をした方を振り返ると、眉間に深い皺を刻み年を重ねた祖父が瞳を此方に向けていた。

 

 祖父の言葉に対して、イグニはゆっくりと頷く。

 

「……世界を旅して来る」

 

「……そうか」

 

「それと、ついでに爺ちゃんの代わりに頂点取ってくる」

 

 イグニの言葉を聞いた祖父は、大きく目を見開いた。

 

「ははっ……ついででか。普通は逆じゃないのか」 

 

 確かにイグニは小さい頃にポケモントレーナーになると祖父に言った。それが本来の目的かと思うのも当然だろう。

 だが、年月が経てばそれが別の目的に置き換わる事もある。

 

「……こいつの仲間を見つけてやりたいんだ。すごく寂しがりやだから」

 

 その言葉と共に、イグニの服の中からビクティニが顔だけ出した。

 

「なるほど。お前らしいな……では、もしアスナに会ったらよろしく頼む」

 

 祖父の言葉にイグニは再度頷く。

 

 イグニの姉のアスナは、ポケモントレーナーになるために数年前に旅に出ていた。プロのトレーナーになるには、それなりの才能が必要だが、自分の姉なら大丈夫だとイグニは思っていた。

 

「じゃあ行ってくる」

 

 その言葉と共に、イグニは祖父に見送られながら、これまで過ごして来た家を後にした。

 

 

 フエンタウンは全国的にも非常に珍しい町だ。火山のすぐ隣にあり、その影響か温泉の町とも呼ばれる。観光地としても有名な町を、イグニは最後にこの目で焼き付けるかのように、町の隅々まで視界に収めていた。

 

 そんな時だった。ゆっくりと町の外に向けて歩くイグニに対して、小さな存在がものすごい勢いで彼に駆けていく。

 その存在はイグニの周囲を旋回したかと思うと、地面を蹴って彼の胸に飛び込んで来た。

 

「……って、お前はロコン!」

 

 このロコンをイグニは知っている。何せイグニがよく遊んでいたポケモンだからだ。

 

「……もしかして、お前も一緒に行きたいのか」

 

 ロコンは小さな鳴き声を上げると、イグニの服装の中に顔を突っ込ませた。暫くの間、顔を動かしていたロコンは、そこからモンスターボールを取り出すと、そのままボールのスイッチを押して、中に入ってしまった。

 

 その様子を見たイグニは思わず苦笑してしまう。

 

「仕方ない……よろしくなロコン」

 

 イグニはロコンを手持ちに加えて、フエンタウンを後にした。

 

 

 イグニは最初に目指す街をキンセツシティに決めていた。理由としては、フエンタウンから南に位置しここから比較的近い事と、ホウエン地方で一番大きい街故に、様々なポケモン大会が開かれているのが大きい。

 

 旅を長くするには、どうしても金銭の問題が出て来る。ポケモン大会に出場すれば、ポケモンバトルの腕を磨く事が出来ると共に、もし優勝出来ればそれなりの賞金が貰える。イグニの中で出場しない選択肢はなかった。

 

 最初のジム戦についても、彼はキンセツで挑むつもりだった。フエンタウンにも、祖父の弟子がジムリーダーを務めていたが、炎タイプのジム故にイグニは最後に挑みたい気持ちがどこかにあった。

 

 とはいえ、ジムバッチはあくまでついでに過ぎない。ホウエン地方を隅々まで旅する中で、立ち寄ったジムに挑むだけだ。

 

 何かを思ったのか、肩に乗っているビクティニが、不思議そうな表情でイグニの方を見つめて来る。イグニがビクティニを撫でると、嬉しそうな表情を浮かべて顔を擦り付け来た。

 

「お前の仲間をいつか見つけてやる」

 

 イグニが決心を固めていた時、唐突に誰かから話しかけられる。

 

「……そのポケモン見たことがないな。おいお前、俺とポケモンバトルしないか? 俺が勝てばそのポケモンを貰う」

 

 イグニに話しかけた人物は、短パンと半袖の動きやすそうな服装に、大きなリュックを背寄っている少年だった。イグニとそこまで変わらない年齢から、彼と同じように駆け出しのポケモントレーナーかもしれなかった。

 

「……今なんて言った?」

 

「お前のそのポケモンを賭けて、俺とポケモンバトルしないかと言ったんだ」

 

 少年はどうやら本気のようだった。彼の横柄な態度と、ポケモンをまるで物のように扱う様子に、イグニは沸々と怒りが沸き起こる。だが、イグニがビクティニを懸けてバトルをするはずがなかった。

 

「ポケモンは物じゃない。それにビクティニは俺の……相棒だ。お前の勝負は受けない」

 

 イグニは吐き捨てるように言うと、この場を立ち去ろとする。が、少年はイグニの背に向けて挑発するように言葉を発した。

 

「負けるのが怖いのか。売られたバトルに背を向けるなんて、俺には恥ずかしくて出来ない」

 

 少年の言葉にイグニは思わず足を止める。イグニは自分が信じたポケモンであれば、どんな相手にも負けない自信がある。故に少年の言葉は無視出来なかった。プライドが刺激されるイグニだが、同時に自分のポケモンを懸けてバトルをする事は、それ以上に抵抗があった。

 

 彼は胸の内に秘めた心を封じ込め、そのまま歩き出そうとする。その瞬間だった。

 

「……ティニ!!」

 

 ビクティニがイグニの肩から飛び降りると、少年に向かって怒りを露わにするように威嚇をする。

 

「ビクティニ……お前」

 

 ビクティニの様子を見たイグニは、暫くの間考え込むように目を閉じる。そして少年の方へと顔を向けた。

 

「気が変わった。お前の勝負を受ける。ただし条件付きでだ」

 

「やっと決断したか。それで条件は?」

 

「俺が勝てば有り金と持ち物を全て置いていけ。そして、二度と俺の前に現れるな。相棒を懸けるんだ。それぐらい妥当だろう」

 

「……いいだろう」

 

 少年はポケモンバトルに自信があるのか、あっさりとその条件を了承する。

 

「俺はコウシロウ」

 

「……イグニだ」

 

 二人はすぐにバトルの準備を整え、向かい合った。

 

「いけ、ドードリオ!」

 

 コウシロウのポケモンをイグニはすぐに観察する。

 

(なるほど。道理でポケモンバトルに自信があるのか)

 

 ドードリオは駆け出しのトレーナーが持つポケモンを大きく超えていた。様子を見るにコウシロウとの関係性も悪くなさそうだ。

 

「ビクティニいくぞ」

 

 その言葉でビクティニは前に進み出る。

 

 イグニは自分の胸が不思議と高鳴っている事に気づく。旅に出て最初のポケモンバトル、ビクティニの初陣、そしてコウシロウに対する怒り。

 

 それらが組み合わさり、イグニの心は激しく熱されていた。すると、まるでイグニに呼応するかのように、ビクティニの周囲から渦のように炎が出現する。

 

 その異常な光景を目にした、コウシロウは驚く。

 

「な、何だそれは……っ」

 

 コウシロウはここにきてイグニから異様な雰囲気を感じ取った。イグニの赤く染まった目を見たコウシロウは、気圧されるように後ずさりする。

 

「くっ……ドードリオ『ドリルくちばし』だ!」

 

「ビクティニ『ニトロチャージ』」

 

 ドードリオは嘴に力を集中させ、ビクティニは身体に一際大きな炎を纏わせる。そして二体は激突し、一瞬拮抗したかと思うと、ビクティニがドードリオの嘴を弾き返す。

 

「『Vジェネレート』」

 

 ビクティニは頭部に凄まじい熱を集中させてV字型の炎を作ると、仰け反っているドードリオに向かって身体を直撃させた。物凄い爆発が起きると、ドードリオは煙の中から外に勢いよく吹っ飛んで行き、そのまま遠くの壁に全身をめり込ませた。

 

「勝負あったな」

 

「ば、馬鹿な……俺のドードリオがこんな簡単に……ありえない。何だその力は!?」

 

 コウシロウは身体を震わせる。イグニの姿を見た瞬間、コウシロウは駆け出しの初心者と判断した。汚れのない服装に新品同然の靴、それだけを見るだけですぐに分かった。

 

 だから、この結果はコウシロウの計算違いだ。

 

「……さっさと失せろ」

 

「っ!」

 

 コウシロウはその場に自分の金と持ち物を全て置くと、ドードリオをボールに戻して、逃げるように去って行った。

 

 その姿を見たイグニは少しやり過ぎたかと思う。まさか、あそこまで怖がられるとは思わなかった。とはいえ、後悔はしていなかった。

 イグニが勝負を受けたのは、ビクティニが戦いをしたがっていたからだ。相棒がそう願うなら、イグニが止める理由はなかった。

 

 どうせ勝負を受けるならと、金銭と道具を賭けさせたが、暫くは金に困る事はなさそうだと、イグニはコウシロウが置いて行ったものを見つめながら思った。

 

 

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