炎のポケモントレーナー   作:sasori

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第五話 邂逅

 

 イグニは手に持った地図を頼りに、洞窟の奥深くへと足を進めていった。暗闇に包まれた狭い通路は、まるで大地の口のように彼を飲み込んでいく。足元は緩やかな下り坂となっており、一歩進むごとに地中へと誘われていくような感覚を、イグニは抱かされる。

 

 空気は徐々に熱を帯びていき、周囲の岩肌は灰色から、徐々に赤褐色へと変化していった。

 

 やがて洞窟は徐々に広くなり、遠くに赤い光が見えてきた。そこには大きな溶岩の池が広がっており、周囲には様々な炎タイプのポケモンが生息しているのが見える。

 

 マグマッグ、ドンメル、バクーダなどのホウエン地方で見かける炎タイプのポケモンが確認出来る。その旨をイグニは調査書に書き込む。

 

 とはいえ、ここまでは地図に描かれているように、既に把握している情報のはず。

 

「最初の調査員はここで引き返したのか」

 

 ここから容易に踏み込めば、ポケモンの縄張りに侵入する事になり、襲われる可能性が高い。故に、ここから先の調査をイグニに依頼したのだろう。

 

 そしてそれは間違っていなかった。

 

 イグニは炎タイプのポケモンの住処へ、無造作に足を踏み入れる。すると、一斉にポケモン達から注目を浴びるように、イグニへと視線が向けられた。彼はそれに対して一つずつ見つめ返し、目線でここに来た目的を伝える。程なくすれば、彼らは興味をなくしたように視線を元に戻した。

 

 イグニにとって、炎タイプのポケモンと意思疎通を図るのは、人間と円滑な関係を築くよりも簡単な事だった。

 

「……だが妙だ」

 

 イグニは彼らの態度に少し違和感を感じる。まるで、人間に対して強く警戒感を抱いているような……イグニはポケモンの様子も詳細に確認しながら、先に進むことにした。

 

 中心にある溶岩の池を囲む壁側に、複数の横穴がある事に、イグニは気づく。彼は一つずつ調査する事に決め、その内の一番大きな横穴に入る。そしてイグニがこれまでの道順を地図に書き込んでいる時だった。

 

 ビクティニが何かの音を拾ったかのように、耳を大きく揺らす。

 

 その数舜後、前方から硬い地面を叩く音が規則的に響いてくる。その音が段々と大きくなるにつれて、イグニはその正体が人の足音だという事に気づく。

 

 やがて、通路の奥から人影が姿を現す。同時に、イグニの肩にいたビクティニは、彼の服の中に勢いよく潜り込んだ。

 

「……おいおい、こんな所にガキが何の用だ」

 

 イグニに話しかけて来た男は異様な服装をしていた。赤いフードを被り、上から下までを全て赤い色で統一した服装を着ている。胸には特徴的なMの字のマークが付いていた。

 

「物見遊山ならさっさと帰れ。ここは、お前みたいなガキが来る所じゃない」

 

 イグニはその男から、一般のトレーナーとは異質な雰囲気を感じる。

 

「……お前こそ一体何者だ? ここで何をしている?」

 

「はぁ……聞いていなかったのか? これだからガキは。痛い目に遭いたいのか?」

 

 特徴的な服装をした男は、懐からモンスターボールを取り出す。その様子を見たイグニは、冷静さを保ちつつも、緊張が全身を走るのを感じていた。

 

「俺はキンセツジムのジムリーダーであるテッセンさんから、この洞窟の調査を依頼されている」

 

 イグニのその言葉を聞いた瞬間、男は眉を歪めた。

 

「……テッセンからの使いだと?」

 

 男はいらつくように、自身の頭のフードを、ぐしゃぐしゃにするように搔きむしった。

 

「ちっ、事情が変わった。お前はここから帰さねえ」

 

 先程と打って変わった男は、手に持ったモンスターボールを投げてくる。

 

 イグニはようやく男の異質な雰囲気の正体に気づいた。この男が一般のトレーナーと明確に違う事、それはポケモンを使用した、他のトレーナーへの暴力を辞さないことだ。

 

「俺はマグマ団のドズマ。自分の不運を恨むんだな」

 

 男のモンスターボールから現れたのは、ドンメル。それを見たイグニは覚悟を決める。自分に降りかかった火の粉は払う。そしてドズマと名乗った男が繰り出したのは、炎タイプであるドンメル。イグニにとっては無視出来ない相手だった。

 

「ロコン頼んだ」

 

 イグニのボールから、ロコンが放たれると、周囲の空間を疑似的な『日照り』に変える。

 

「へぇ……お前のロコン、くそ珍しいじゃねえか。特性『日照り』に、炎を纏った身体。お前を潰すのが楽しみになってきた」

 

 ドズマの言葉は、イグニの逆鱗に触れるには十分だった。

 

「やれるものならやってみろ……」

 

 相手のドンメルから感じれる感情は、恐怖とそれに駆られた凶暴心が入り混じっており、イグニが入り込む余地がなかった。

 だが、彼にとって問題はなかった。

 

「......お前では炎ポケモンの力を引き出す事は出来ない」

 

「生意気なガキだな。やれドンメル」

 

「ロコン『火の粉』」

 

 ロコンの『火の粉』に対してドンメルも『火の粉』で対抗する。

 

 二つの『火の粉』が空中で激突する瞬間、洞窟内は一瞬にして赤い光に包まれた。しかし、その均衡は一瞬で崩れ去る事になる。

 ロコンの放った『火の粉』は、驚くべき速さと熱量でドンメルの『火の粉』を圧倒していくのだ。それは、まるで燃え盛る炎が小さな火種を飲み込むかのようだった。

 

 ドンメルは、自分に迫る巨大な炎を目の当たりにし、本能的に後ずさりした。

 

 その一瞬の躊躇が、この勝負の分かれ目だった。ドンメルの『火の粉』はロコンの『火の粉』に完全に浸食されると、一際大きな炎となって、ドンメルの身体に襲い掛かる。その直後、大きな爆発と共に、周囲に火花が散らばった。

 

「……おい、何なんだこれは……」

 

 ドズマの声は、信じられない様子で震えていた。爆発の余波が収まった場所には、ぐったりと倒れるドンメルの姿があった。

 

 イグニが見るに、ドズマのドンメルはまだ戦える。だが、同じ炎タイプのポケモンに、圧倒的な力を見せつけられたのだ。立ち上がる気力はないだろう。

 

「その程度か?」

 

 イグニは危機的な状況が突然襲って来たにもかかわらず、全力のポケモンバトルに、激しく熱くなっていた。そのイグニの挑発に、ドズマは険しい表情を浮かべる。

 

「…………ガキだと甘く見ていた。お望み通りに全力で相手をしてやる。後悔するなよ」

 

 ドズマは懐からもう一つのモンスターボールを取り出し、次のポケモンを繰り出す。

 

「全力で息の根を止めろ。ゴルバット」

 

 ドズマが繰り出して来たゴルバットを見たイグニは、すぐに先程のポケモンとはレベルが違う事に気づく。此方を鋭い目で見つめる姿は、どのような獲物でも絶対に逃がさない意思を感じさせた。

 

「ゴルバット『エアカッター』」

 

 ゴルバットの翼が閃光を放つと、一瞬の間に鋭い風の刃が、轟音と共に洞窟を切り裂く。

 

「避けろロコン!」

 

 ロコンは素早い動きで、身体を動かし風の刃を交わす。しかし、全てを避けきれず、ロコンの背中を『エアカッター』が掠め、傷を負う。

 

(まずいな……)

 

 炎タイプのポケモンは確かに最強だ。しかし、流石にここまでレベル差が大きいと、厳しい戦いになる。

 

「ロコン『火の粉』だ」

 

「躱せゴルバット」

 

 ロコンの『火の粉』は、ゴルバットに簡単に回避される。それを見たイグニは、ロコンの『火の粉』ではゴルバットを捉えられないと判断した。

 

「ロコン『神通力』」

 

 イグニは新しく覚えた『神通力』を指示するが、ドズマは余裕そうな表情を浮かべる。

 

「『高速移動』して回避しろ」

 

 ゴルバットは翼を羽ばたかせて『高速移動』し、ロコンの『じんつうりき』の的を絞らせない。

 

「そのまま『毒々のキバ』」

 

 ゴルバットはロコンに高速で迫ると、その身に牙を立てる。ロコンは思わず悲鳴の声を上げた。

 

「ロコン!」

 

 直撃を受けたロコンは、少なくないダメージを負った。加えて、ロコンの攻撃技は、そのどれもが相手のゴルバットに通用しない。

 

(ここまで追い詰められたのは初めてか……)

 

 イグニがロコンの姿を見ると、傷付いた身体に反して、戦意は全く衰えていない様子だった。なら、やるべき事は決まっていた。

 

「ロコン、空中に『煙幕』だ!」

 

 ロコンの口から出された煙幕が、周囲の空間に広がっていく。

 

「どこを狙っている?」

 

 ドズマの言葉通り、煙幕はゴルバットを避けるように空中に広がっているようだった。

 

「ゴルバット『エアカッター』」

 

「耐えろロコン!」

 

 連続した空気の刃が、ロコンの身体を切り裂くが、ロコンは何とか持ち堪える。

 

「ロコン、連続で『火の粉』だ」

 

「何度やっても無駄だ。ゴルバット『高速移動』で回避しろ」

 

 ロコンから連続で放たれた『火の粉』を、ゴルバットは簡単に避けていく。

 

「どうやら、お前のロコンはもう限界のようだな」

 

 ロコンが放った『火の粉』は最初のものよりも、明らかに速度が遅く勢いがなかった。

 

「いや、お前の負けだ」

 

 準備が整ったイグニは、ロコンに指示を出す。

 

「『神通力』」

 

「無駄だと……っ、まさか!?」

 

 ロコンの『神通力』は、ゴルバットではなく、その後ろを通り過ぎて行った『火の粉』に作用する。すると、『神通力』によって制御された『火の粉』が、突如として方向を変え、ゴルバットに向かって猛烈な速さで襲いかかる。

 

 ドズマの顔から余裕の表情が消え失せた。

 

「ゴルバット、避けろ!」

 

 煙幕から現れた複数の『火の粉』を避ける事は、ゴルバットには出来なった。一度『火の粉』が直撃した瞬間、体勢を崩したゴルバットへ、連続して『火の粉』がぶつかり合い、大きな爆発を起こす。

 

 煙の中から現れたのは、墜落していくゴルバットだった。そのままゴルバットは地面にぶつかると思われたが、寸前の所で体勢を整え、空中に何とか留まる。

 

 だが、その隙を見逃すイグニではなかった。既にロコンは口に炎を溜めており、その炎が今までで一番大きい事にイグニは気づくと、迷わずその技を言葉に出した。

 

「ロコン『火炎放射』」

 

 『火の粉』よりも数倍大きい炎が、ロコンの口から放れ、ゴルバットの身体を覆いつくした。

 

 ゴルバットは遂に地面へ倒れ込む。

 

 その様子を見たドズマは、信じられないと声を絞り出す。

 

「……俺が負けただと……何かの間違いだ。マグマ団の幹部候補である俺が、ガキに負けるなんて……」

 

 ドズマは唖然とした表情で立ち尽くしている。

 

 勝負は終わった。イグニがそう判断して、ドズマから情報を聞き出そうとした時だった。

 

「ドズマ……何を遊んでいるの?」

 

 凛とした声が洞窟に響く。イグニが声がした方を振り返ると、そこには、ドズマと同じように全身を赤色で統一した少女が、此方の様子を伺っていた。

 

「っ……カガリ!?」

 

 カガリと呼ばれた少女の紫色の瞳が、イグニの赤い瞳と交錯した。

 

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