炎のポケモントレーナー   作:sasori

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第六話 動き出す影

 

 洞窟内の空気が凍りつくような緊張感に包まれた。カガリは周囲に視線を彷徨わせ、地面に倒れているゴルバットと、イグニのロコンへと視線を向ける。

 

「……ふうん…………君……ドズマ……倒しちゃったんだ」

 

 カガリはゆっくりと歩を進める。その一歩一歩が洞窟の床を軽く震わせるかのようだった。

 

「…………興味深い…………君………何者?」

 

 カガリの目は、イグニの姿を細部まで観察するように動いていた。ドズマとはまた違った、異質な雰囲気を纏うカガリに、イグニは警戒の眼差しを向ける。

 

(ロコンは既に限界。残すはビクティニのみだが……)

 

 イグニは彼らにビクティニの姿を見せることに、心の奥底で謎の抵抗を感じていた。まるで見えない手が彼を引き止めるかのように、嫌な予感が胸を締め付ける。

 

「俺は……イグニ。ただの駆け出しのトレーナーだ」

 

 穏便に済ませたいと思ったイグニは、どうしたものかと周囲に視線を向けた。その仕草に何かを思ったのか、ドズマがカガリに向けて叫ぶ。

 

「カガリ、そいつはテッセンの使いだ! 逃がすな!」

 

 カガリの表情が僅かに変化する。興味と警戒が入り混じった複雑な表情だった。

 

「……テッセン…………我々の……邪魔…………でも…………君…………どこか……異質…………面白い」

 

 カガリは、ゆったりとイグニに近づいてくる。その動きは炎が揺らめくかのようだった。

 

「…………君の……ポケモン…………どこか……違う…………」

 

 カガリの声が洞窟に響き渡る。

 

「…………知りたい…………君から……感じる……正体…………」

 

 カガリは、懐からゆっくりとモンスターボールを取り出す。

 

「君を…………エクスペリメント……したい…………君と…………エンゲイジ……したい……ァハハハッ♪」

 

 カガリのその所作に、イグニが覚悟を決めた時だった。突然、低く威厳のある声が、洞窟内に響き渡る。

 

「……お前ら、何を遊んでいる?」

 

「「っ! リーダーマツブサ!」」

 

 洞窟の奥から現れた男の姿に、カガリとドズマが同時に振り返る。岩肌に刻まれた影が長く伸び、その存在感は洞窟全体を支配していた。

 

「リーダー、こいつはテッセンの……」

 

「黙れ」

 

 ドズマの言葉を、マツブサは一言で切った。その様子は、ここで起きた事柄を、最初から全て把握しているかのような疑念を、イグニに抱かせた。 

 

 マツブサの眼光がイグニを捉える。その視線には、これまでに感じたことのない重みがある。

 

「少年……ドズマが世話になったようだな。ふむ……なかなか良い目をしている」

 

 マツブサがイグニを見つめる視線に、好奇心が混じる。

 

「我が名はマツブサ。人類の更なる発展と進化を叶えるための組織、マグマ団の長を務める者だ」

 

 イグニは黙ってマツブサの言葉を聞いてみる。何よりも、マグマ団と名乗る彼らの情報を、入手するべきだと思ったのだ。

 

「我々、マグマ団は大地を増やす事を目的としている。人類は停滞しているのだ。人類が活躍し更なる進化を遂げるためには、ステージの拡大が必要不可欠。自らの足で踏みしめ、開拓し、発展させる、その基盤がな」

 

 マツブサの言葉には、どこか狂気を含んでいるようだった。

 

「お前には素質を感じる。マグマ団に入りたければ、いつでも歓迎しよう…………カガリ、ドズマ、既に用事は済んだ。行くぞ」

 

 その言葉を最後に、マツブサは洞窟の入り口の方へと向かって行った。マツブサの背を付いていくカガリは、唐突に立ち止まると、イグニの方へと振り返る。

 

「…………君を…………ターゲットロック…………したから……ァハッ……♪」

 

 カガリの笑い声は、まるで甘美な毒のように洞窟内に響き渡った。

 

 マグマ団の三人が、闇に溶けていくように消え失せる。それを見て、ようやくイグニは落ち着く事が出来た。マグマ団という組織を、イグニは初めて聞くが、ただの環境団体ではなさそうなのは、間違いなさそうだ。

 

 イグニはロコンをモンスターボールに戻す。バトルで傷付いた事から、キンセツに戻りたかったが、その前に彼等マグマ団が姿を現した、奥地が気になる。

 

「ティニ!」

 

 イグニの服の中から、ビクティニが顔を出した。今まで彼の背中に隠れていたようだ。

 

 ビクティニの顔を見たイグニは、これまで感じていた緊張感が綺麗さっぱり消え去る。少し溜息を吐きながら、イグニは奥へと進んで行った。

 

 洞窟の奥へと伸びる通路は、次第に狭くなっていき、やがて、大きな空間が広がる場所に出た。

 

「これは……」

 

 イグニが目にしたものは、まるで何かが激しく戦ったと思われる跡地だった。周囲の地面や岩には、焼け焦げた黒い跡があり、細かく砕かれた石の破片が散らばっている。

 

 ここで何者かが戦ったのは間違いないだろう。イグニの脳裏には、先ほど出会ったマツブサの姿が浮かぶ。とはいえ、今はそれを考えても仕方がない。

 

 イグニは他に何かないか、周囲を隈なく確認すると、地面に気になる物を見つける。砕かれた石の破片に混じってあったそれは、中心に炎の紋様が見える黄色がかった石だった。

 

 イグニはその石を図鑑で見たことがあった。間違いなく炎の石だろう。迷わずにそれを懐に入れたイグニは、一通り洞窟の調査も済んだ事もあって、キンセツシティに帰る事にした。

 

 

「……マグマ団、そう言ったのじゃな」

 

「そうです」

 

 イグニはキンセツシティに戻り、事のあらましをテッセンに報告していた。マグマ団という組織、テッセンは確かにその存在を知っていた。

 

「儂が知っているマグマ団は、ただの環境団体じゃ。ただし、それには過激という言葉がつく」

 

 だからといって、彼等がジムリーダーである自分を、警戒するような態度をとるのは気になる。テッセンとマグマ団の間に、因縁などはないはず。

 

「過激な環境団体……」

 

 マグマ団と接したイグニは、その評価は間違っていないように感じる。カガリという少女は、何故か自分に酷く興味を持っているように見えたが、リーダーのマツブサをはじめ、目的のためなら手段を選ばないような集団に思える。

 

「そうじゃ。しかし、マグマ団が儂を警戒する理由などないはず……」

 

 まるで、ジムリーダーに知られればまずい、何かをしていたようにテッセンには思える。

 しかし、現状はマグマ団が何をしていたのかは不明。故に、気になる事ではあるが、テッセンには何も出来ない。

 

「……ともかく、マグマ団の事は、今は置いておくしかない。まずはイグニ君、調査ご苦労じゃ。報酬の一つであるジムバッジを渡そう」

 

 イグニはテッセンからキンセツジムのバッジを受け取った。

 

「それと、もう一つの報酬であるポケモンの件じゃが、今から儂に付いてくるんじゃ」

 

 そう言われて、イグニがテッセンに連れられたのは、一一七番道路の一角にある、とある施設だった。小さな建物の隣には、木の柵で囲まれた広い場所があり、そこにはイグニが見慣れたポケモン達が、長閑に過ごしているのが見える。

 

「ここは……」

 

「ポケモンの育て屋じゃ。来るのは初めてかのう」

 

 イグニは育て屋に来たのは初めてだ。彼にとっての育て屋の印象は、ポケモンブリーダーと呼ばれる者達の一部が、一般人向けにポケモンの預りサービスをしている場所。あくまで、一般人向けであり、プロのポケモントレーナーを顧客としていない故に、本格的な育成は行っていない。

 

 テッセンが自分を連れて来たという事は、ここに目的のポケモンがいるのだろう。

 

「儂じゃテッセンじゃ。例の件で来た」

 

「……おお! テッセンじゃないか。あのポケモンの事だな。よし付いて来い」

 

 育て屋のお爺さんはそう言って、建物の奥に消えて行った。

 

 イグニとテッセンが付いて行くと、丁度建物の裏庭に当たる部分に出る。裏庭にはポケモン達が暮らしており、イグニは彼等から目が離せなかった。裏庭にいるポケモン達は、彼がほとんど見たことがなかったからだ。

 

「ここにいるポケモン達は、ホウエン地方には生息していないポケモン達ですか」

 

「その通りじゃ。ちと複雑な事情があってな。お主にはここにいる、とあるポケモンを託したい」

 

 テッセンの言葉と共に、育て屋のおじいさんが、ポケモンを連れてやって来る。イグニはそのポケモンを細かく観察する。彼が初めて見るポケモンだった。

 

 

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