炎のポケモントレーナー   作:sasori

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第七話 異郷の双頭

 

 そのポケモンの全身は緑色で覆われており、大人の足の半分の大きさ程しかなかった。頭部は小さな体と比べて大きめで、大きな黒い目と嘴のように尖った上顎と1本の白い前歯が見える。頭頂部は植物のヘタのようになっていて、縁は外側に小さく折れていた。

 

「こいつの名前はカプサイジという。パルデア地方に生息するポケモンだ」

 

「パルデア地方で生息するポケモンですか……」

 

 カプサイジというポケモンをイグニは知らなかった。そもそもが、彼はパルデア地方に生息するポケモンを全く知らないのだから、当然の事である。イグニが知っているのは、パルデア地方がホウエン地方からかなり遠い場所に位置する事だけだ。故に、カプサイジがどうしてホウエン地方の育て屋にいるのか、疑念は尽きない。

 

 イグニの様子を見たテッセンは、詳しく話す事にした。

 

「うむ……お主なら話してもいいじゃろう。ここの裏庭にいるポケモンは、密猟されてキンセツシティに持ち込まれたポケモンじゃ」

 

「!?」

 

 驚くイグニに、テッセンは詳細に説明する。

 

「珍しいポケモンを、キンセツのような大都市に持ち込み、売りさばく連中がいるのじゃ。その密猟団を取り締まった時に、彼等に捕まっていたポケモン達を、一時的にここで保護しておる。中には卵の状態で持ち込まれ、生まれたばかりのポケモンもおる」

 

 そこまで聞いて、イグニは事情を理解した。テッセンが自分に託そうとする意味も。特に生まれたばかりのポケモンは力が弱く、親の庇護なしでは野生で暮らす事が難しい。

 

 つまり、ただ単純に野生に返せばいい話ではないのだ。

 

「元居た場所に返すのも、色々と難しくてのう。一番いいのは信頼できるトレーナーに託すことじゃ」

 

「……本当にこのポケモンを俺に?」

 

「そうじゃ。お主にぴったりのポケモンだと思ってのう。それと、儂の予想通り、お主は草タイプのポケモンと相性が良さそうじゃ」

 

 テッセンは、カプサイジがイグニを怖がるどころか、興味深げに近づいている様子を見ながら言った。

 

「俺が草タイプのポケモンと相性が良いですか?」

 

 テッセンは頷く。

 

「草は炎に弱い。確かにこれは真理じゃ。しかし、同時に草タイプのポケモンは、太陽の力の恩恵を受け取る。太陽とは、いわば炎の行きつく先。お主の異能が、太陽の側面も含んでいる可能性は否定出来ん。そしてそれは間違いないように思える」

 

 テッセンがそう感じた大きな理由は、イグニの手持ちであるロコンの『日照り』の範囲である。レベルが高ければ、技の威力が上がるように、天候を疑似的に書き換える『日照り』の範囲もレベルに影響される。

 イグニのロコンの『日照り』が、レベルに反して大きな範囲がある理由は、イグニの影響を受けていると思ったのである。

 

「言いたいことは理解しました。俺としては、断る理由はないですが……」

 

 力を引き出せるかは分からない。イグニは自分の服を嚙んで来るカプサイジを見ながら、内心そう思った。

 

「ふむ……自分が本当にそのポケモンに相応しいのか、疑問を持っておるようじゃな。その心配は無用じゃ。何せ……」

 

 テッセンの言葉は半ばで途切れた。突如としてカプサイジが起こした予想外の行動によって。カプサイジはイグニの懐からとある石を見つけると、彼が制止する暇もなくそれを飲み込んだ。次の瞬間、カプサイジの体が眩い光に包まれる。

 

「これは……まさか!?」

 

 イグニの目の前で、カプサイジの体が眩い光に包まれたまま、徐々に姿を変化させていく。やがて、光が収まると、そこには赤色と緑色の双頭を持つポケモンがいた。頭部は向かって左側が赤色、右側が緑色で、丸みを帯びた唐辛子のような形態をしており、下が丸い半円状の大きな黒い目、口はギザギザとしていて上顎と下顎にそれぞれ2本ずつ白い歯が生えていた。

 

「……進化してスコヴィランになったようじゃな。何と言ったらいいのか……これは予想外じゃわい」

 

 テッセンよりも啞然としたのがイグニである。まさか、炎の石をこんな形で使われる事になるとは思ってもいなかった。ロコンに対して使おうと思っていたのだから、文句の一つでも言いたくなる。しかし、起こってしまったものは仕方ない。それよりもイグニが興味を引かれたのは、スコヴィランから感じる力であった。

 

「……こいつのタイプ、炎が含まれていますね」

 

「流石はイグニ君じゃ。スコヴィランは炎タイプと草タイプの複合。この複合タイプはカプサイジが密猟される原因になってしまう程、非常に珍しいものじゃ」

 

 イグニはテッセンが自分にぴったりのポケモンと言った意味が分かった。炎タイプが苦手にしている水タイプに対して弱点がなくなるだけでなく、特効も併せ持つのがスコヴィランというポケモンだ。イグニにとっては、パーティメンバーを選ぶ際に少なくとも有力な候補として考慮すべきポケモンである。

 

 だが、それよりもまず大事なのは、ポケモンの意思。しかし、それを考えるのは無粋であった。イグニがスコヴィランから感じる様、それはまさに狂暴の如し。

 

 種族の特徴なのか、イグニはスコヴィランから強い戦意を感じた。

 

「……面白い。俺ならお前の力を引き出せる。俺と一緒に来るか?」

 

 イグニの言葉に、スコヴィランは赤色の頭の方の口から軽く火を吐き出す。その仕草を見て、イグニはテッセンに向き直る。

 

「このスコヴィランは、責任をもって俺が預ります」

 

「お主ならそう言うと思った」

 

 イグニは育て屋のお爺さんからモンスターボールを受け取り、スコヴィランをボールに戻して懐に入れた。テッセンはその様子を見て、まるで厄介事がなくなったかのように満足げに頷いた。

 

「……お主なら大丈夫だと思うが、育て屋に返すことはもう出来ないからのう。最後まで面倒を見るんじゃぞ」

 

 イグニはテッセンの含みのある言葉に違和感を覚えるが、自分なら問題ないだろうと頷く。

 

「……テッセンさん。いつか本気で俺と勝負しませんか? 雷と炎、どちらが優れているのか」

 

 無論、その結果は分かりきっているが、深い洞察力を持つテッセンの本気が一体どれ程のものなのか、イグニには興味があった。

 

「……望む所じゃ。お主ならすぐに儂の本気をぶつけれる相手になりそうじゃ」

 

 それからイグニは、育て屋のお爺さんとテッセンをマルチナビに登録して、この場を後にした。イグニの後ろ姿を見送った後、育て屋のお爺さんは静かに呟く。

 

「……お前から話を聞いた時には、半信半疑だったが、まさかカプサイジが……いや、今はスコヴィランか。人間に対してあんな態度を見せるとは驚きを隠せん」

 

「お主はカプサイジに相当苦労していたからのう……しかし、イグニ君とスコヴィランとの相性は想像以上かもしれん」

 

 テッセンは、将来自分に挑んでくるイグニが、末恐ろしいポケモントレーナーになっている姿を、鮮明に想像出来た。

 

 

 イグニは育て屋を後にして、ここから西にあるシダケタウンに向かう事にした。ジムはないが、ホウエン地方を隅々まで旅するつもりがあるイグニが、訪れない理由はなかった。

 

 木々の並木道を進んでいると、ちらほらとトレーナー同士がポケモンバトルをしているのが見える。シダケタウンに向かう道一一七番道路は、ポケモンバトルが盛んな場所として有名である。

 

 そして、今まさにイグニに対してポケモンバトルを申し込んで来た相手がいた。スコヴィランの力を測る絶好の機会であり、イグニは喜んで相手をする事にした。

 

 バトルを申し込んで来た青年の目に宿る闘志を見て、自分の血が騒ぐのを感じる。

 互いにボールからポケモンを繰り出し、相対するはオオスバメとスコヴィラン。

 

 イグニは指示を出そうとしたが、スコヴィランから感じる異様な雰囲気に、思わず踏みとどまる。

 

 スコヴィランは片方の赤い頭部をイグニの方へ向けて、軽く火を吹き出した。まるで、自分に指示は不要だというばかりに。

 

 その様子を見て、イグニは笑みが零れる。彼はスコヴィランの思っている事が手に取るように分かった。進化した自分の力を思う存分試したいのだろう。トレーナーの力を借りずに。

 

 スコヴィランのような性格のポケモンに今まで出会った事がないイグニは、新鮮に感じる。

 

「……好きに暴れろスコヴィラン」

 

 

 

 

 

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