これもきっと妖怪のせいに違いない(願望)   作:R1zA

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※注意
・小学生の間に1〜4を完結させる辻褄合わせのために、無印の時系列が小4の夏になっています。 それによって2以外のストーリーはずれが生じております。
・一話の時系列は3完結後。なお4をする予定はない。

あとヤンデレものを書くのは初めてなので、作者にもコレがヤンデレなのかはよく分かっていない。


 追記:少し加筆しました(2026:1/26)



妖怪と幼馴染:表

 

 

 ───この世の事象の多くは、妖怪の仕業(しわざ)である。

 

 

 自分たちが日常を過ごす中で時々、不可解な出来事に出会したことはないだろうか。

 

 何か物事を忘れてしまったり、貯金していたお金を無駄遣いしてしまったり、妙にお腹が空いていたりなどと、遭遇すると地味にきつい些細な出来事。

 受け売りの言葉ではあるが、これらは全て妖怪の仕業であるらしい。

 

 

 そしてそんな妖怪とつながる手段がある。

 あるのだが、今回の話においての主題は()()じゃない。

 

 

 確かに、世の中の不可解な事は妖怪の仕業と言った。

 しかし、何事にも例外は存在する。

 

 

 時々思ってしまうのだ。

 真に恐るべきは、妖怪が人間に取り憑くことなどではない。

 そんなの、妖怪たちにとってはほんの遊び、戯れに過ぎないのだと。

 

 

 

 故に、本当に恐ろしいのは、その本質。

 己の選択が招いた、現在(いま)の状況そのものではないだろうかと、考えることがある。

 

 

 

 ──妖怪とは、超常の存在である。

 思考も、在り方も、その全てが人間の埒外の存在であるが故に、本来人間と妖怪が交わることはなく、時の流れとともに繋がりは風化するものと思われた。

 だが、この世界においては前述の通り、妖怪と人間が関わる手段があった。

 

 

 それこそが『妖怪ウォッチ』。

 

 

 故に本来交わることの無かったもの同士が出会い、『ともだち』となることもあった。

 しかしそれは、例外こそあれど自分が考えていた普通のものよりも遥かに重く、そして脆い関係性であったのかもしれない。

 

 

 何十年、何百年と生きる中で初めて手にした、人間のトモダチ。

 そんな存在に、差はあれど一部の妖怪たちが過度な執着心を持つのはとある執事曰く、何らおかしなことではないそうだ。

 

 

 そもそも、妖怪というものは古来から語られてこそいるものの。

 あくまでその実態は、まるで神隠しの如く気に入った人間を連れ去ってしまうような、そんな恐ろしい存在として語られているのだから。

 

 

 

 ……まあ、その、何というか。

 ここまで長々と独白を続けてきてしまったが、結論を端的に述べよう。

 

 

 

 

 

 ──俺のミスでした。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 烈々とした、青空の下。

 それはどこまでも続き、所々真っ白な入道雲が沸き立っている。

 

 夜明けを告げる朝の日差しが差し込んできた。

 気温は高く、空気はカラッとしていて、時折窓からは気持ちの良い風が入り込んでくる。

 

 そんな夏を迎えた『さくらニュータウン』の住宅街の中にあるとある家の一室で一人、ベッドで昏々と眠る少年の姿があった。

 

 

 やあ皆、俺だ。

 

 

 今は目こそ瞑ってはいるものの、カーテンの合間から夏特有のギラギラとした日差しが枕元に差し込んで来るので、暑さからか最早眠りからはとうに覚め、意識はうつらうつらしている状態だった。

 

 

「───んっ、……んぅ……あと三十分……zzz」

 

 

 でも嫌だ。まだ寝たい。

 折角の夏休み、それも二年ぶりの、世界の危機も何も考えず気楽に過ごすことの出来る夏休みなんだ。

 

 嗚呼、そう考えれば今日はなんて素晴らしい日なのだろう。 ここ数年のセカンド小学生生活の中でも上位を争う程の至福の時間と言っても過言ではない。

 この激励の二年……(いや)、今年の夏休みまでの分も合わせたらだいたい三年分か。

 

 

 まあとにかく、それだけ久々の誰にも邪魔されずにぐうたら出来る時間であるが故に、今日の俺の午前中の予定は布団の中にヒキコウモリする事に決めた。 日本男児に二言は無い。

 故に、先ほどまで仰向けだった寝相をうつ伏せの姿勢に直して、布団を頭から被り直そうとしたその瞬間───

 

 

「───何をさも当然のように二度寝しようとしてるんですか!! ほら起きて【()()()】くん。 起きろやァーッ!!」

 

 

 そんな声と共に、俺の包まっていた布団が取り上げられてしまった。 

 おのれ妖怪執事め。 どうせ俺と一緒に寝てるだろうと思ってたけど見通しが甘かったらしい。

 

 ちなみに布団返して貰ったりは……ダメ? 

 そりゃそうか。

 

 

「……まだ寝てたいんだけど。 具体的には昼過ぎまで」

「夏休みだからって生活リズムを崩すのはダメでウィス。 もう既に八時を過ぎてますし。 お母さまが用意した朝ご飯も冷めてしまいますよ?」

「あ─……」

 

 

 半開きの目を擦りながら、ベッドから降りる。

 ベッドに腰掛ける俺の目の前でふよふよと浮いているこの語尾が特徴的な白いアレは、自称凄腕敏腕妖怪執事のウィスパー。 なんだかんだで、気付けばもう三年近くの付き合いだ。

 正直長期休暇中の朝ごはんは昼ご飯のタイミングで一緒に食べてしまえばいいと思ってたけど、流石にご飯作ってもらったのに食べないのはアレだしなぁ……

 そんなことを考えながらパジャマから着替える。

 

 

 着替えた後に、視界の端で今なおマットの上でゴロゴロしている赤いネコ妖怪……ジバニャンの姿を尻目に自室を離れて、扉を閉めた。

 そして小さく欠伸しながら、階段を降りる。

 

 

「おはよー……」

「おはようケータ。朝ごはんもう作ってあるから、さっさと食べちゃいなさい」

「はーい」 

 

 

 突然言うのもなんだが、俺は───【天野景太】は、転生者だ。

 前世は特に語ることもない普通の高校生だった。

 だったのだが……自転車での通学中に頭から転けて、しかも倒れた先は運悪く車道。

 で、頭や手足を転んだ時に怪我して動けなかった俺はそのまま車に───といった所で前世に関しての記憶は途切れている。 まあここにいる以上、まず間違いなく死んだのだろうが。

 

 

 そうして目が覚めた時には知らない女の人に抱き抱えられていて、そこで赤ん坊になったことに気付いたのだ。

 

 

 我ながら中々にクソみたいな死に様だったとは思うが、死んだ後にあーだこーだ言っても意味がないので、大人しくその場の流れに身を任せていたのだが───

 

 

 そこで、妙な既視感というか、何とも言いようのないデジャヴを感じた。

 

 

 身長───普通(48.7cm)

 体重───普通(2.98kg)

 

 鳴き声───

 

 

『お、おぎゃー、おぎゃー(棒)』

「あぁ……良かった! 無事に産まれてきてくれて』

 

 

 ──多分、普通。

 あとお父さん、俺が普通に生まれてこれなかったのは間違いなく前世でしょーもない死に方をして転生した俺のせいです。 本当にごめんなさい。 

 

 

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 

 

 普通、普通、普通。and 普通。 

 両親二人の声質というかなんというか、名前も含めてそのどれもが聞き覚えのある物だった。

 そんな俺こと赤ん坊の名前はケータだそうだ。 名字は天野だから、天野景太。

 

 

 

 

 ……もうね、ここまで状況証拠(エビデンス)というか、露骨な要素が揃ったら現実逃避すらもままならないよね。

 

 

 にしても妖怪ウォッチとか懐かしいなあ。

 無印が出た当時はまだ小学生ですら無かったんだよね。

 果たしてゲーム時空なのかアニメ時空なのかは知らないが、ギャグ時空とはいえショッキングな映像は見たくないのでアニメ時空はご遠慮願いたい。

 

 

 ま、まあ? 俺がケータ君なのが確定したとしても? まだ主人公枠だとは決まってないし? 

 まだ普通の一般通過小学生Aとして生きる可能性は残ってますし? 

 などと精一杯の虚勢を張ってみたはいいものの、結局それも里帰りでケマモト村のおばあちゃんの家に行った時に打ち砕かれた。

 

 

 フミちゃんが主人公枠の時はあの家が木霊家の実家になってるっぽいから、あの蔵のある家がうちの実家な場合は、自ずと自分もといケータ君のお爺さんが零式作ったことになるんだったよね。

 小学校低学年のころの記憶だから確証は無いけど。

 

 

 そんなこんなで普通(言葉通り)に生きることは望み薄。

 なのでせめて『普通』に、過程はともあれ最終的には俺の知りうる限りのお話と同じような結末になるように頑張ってみることにした。

 

 これを言ってしまっては本末転倒な気もするが、そもそもあんな非日常の中に身を浸している時点で。

 それどころかその上で一切ブレずに普通で居続けるどころか、ともだち妖怪を増やしに増やしまくったコミュ強のケータ君が、世間一般で言うところの普通に当てはまるはずがない。

 

 

 普通でいることは、何も知らなかった頃の自分が思っている以上に難しい。

 

 

 だから頑張った。 もう死ぬほど頑張った。

 俺の予想より1()()()()ウィスパーと出会ったあの夏の日から、今日に至るまで、ずっと。

 

 

 小学四年生の夏。

 無印では、妖魔界と人間界の繋がりを断とうとした自称妖魔界議長のイカ野郎を、妖魔界に集った数多の妖怪たちと立ち向かった果てに、最後はあの御神木の前で打ち破った。

 

 

 小学五年生の夏。

 2では、60年前の過去の世界で祖父(ケイゾウ)に貰ったハバネロ棒と、新たに創り上げられた妖怪ウォッチ零式と共に、かつて人間に文字通り『全て』を奪われた女怪(ウバウネ)の怨念を満身創痍ながらも退けた。

 

 

 小学五年生の終わり。 

 即ち春休みから、つい先日。

 3では、渡米して新しく出来た友達や仲間と共に、ゴゴゴ・ゴッドファーザーの成れの果てとの、妖魔界、UFO、ヌー大陸、さらには平行世界(パラレルワールド)と多くの地での幾度とないぶつかり合いを経て、その呪いにも等しい執念を振り払った。

 

 

 

 当然そのどれもが生半可なものではなく、心が折れそうになるレベルの困難と絶望の連続だった。

 イカカモネ議長の第二形態に喰われそうになったときや、すっかり存在を忘れていたせいで入ってしまったえんえんトンネルの出口で、謎の大男(でるくいたたき)に襲われた時。

 加えてゾンビナイトで鬼ゾンビとあのピコハンもどきでタイマンすることになった時なんかは、割と本気で死ぬかと思った。

 

 

 まあ普通に一回死んだんだけども。

 エンマ大王様との一件の時に。

 

 

 ……でも、それが諦める理由にはならないから。 

 だから足掻いたし、折れなかった。 いくら死んだら妖怪になれるとしても、そう何度も何度も死にたくない。

 

 

 故にその一心でストーリー全編を駆け抜けて、ちょっと前に言及した平行世界(パラレルワールド)に迷い込んだ時も、最後はなんとか良い感じの終わり方で生還できた。

 だから俺は、今もこうして生きている。

 

 

「……ごちそうさまー」

「食器は後で纏めて洗うから、そこのシンクに置いておいてくれる?」

「はーい」

 

 

 で、その結果今に至った。

 俺は普通であることすらも難しい凡人で、原作ケータ君のようにはなれなかった。

 なれるはずもなかったのだが、そんな俺とも妖怪のみんなは『ともだち』になってくれて、だから俺もそれに応えた。

 

 

 クマやカンチ、フミちゃん達とも、何やかんやで原作ケータ君と同じくらい……まあ、普通程度には仲良く出来ていると思う。

 というかもしそうじゃなかったら普通に泣く。

 

 

『(……何はともあれ、そろそろ御役御免かな)』

 

 

 少なくとも、峠は越えた後だろうから。

 後はまあ、第四の壁の向こうから見たプレイヤー的な視点ではクソ不本意ではあるが、後のシリアスはシャドウサイドやY学園だのが引き受けてくれるでしょ。 知らんけど。

 

 

 そんなことを考えながら、リビングを後にする。 

 自室に戻るとそこには、未だに床でゴロゴロしながらチョコボーを食べているジバニャンの姿が。

 

 部屋に戻った俺の存在に気づいたジバニャンが、チョコボーを食べる手を止めた。

 

 

「──ニャ? ケータもオレっちと一緒にゴロゴロするニャン?」

「俺もそうしたいけど、これから宿題やらなきゃいけないんだよね。夏休みの」

「ケータくんが日本に戻ってきたの、ちょうど夏休みが始まる直前でしたからね…………」

 

 

 哀れみの目で俺を見てくるウィスパーを視界の隅に置きながら、適当に見繕った課題の数々を勉強机の上に広げていく。

 学校、というか日本に帰ってきてすぐに、くっそ良い笑顔で一纏めにされた夏休みの宿題と今までの授業プリントを夏休み前日に渡してきた理科の先生を俺は絶対に許さない。

 

 

「ケータ、いっつも夏休みの宿題なんて最終日までやってにゃいんだから、今年も後回しにすればいいのにニャン……」

 

 

 そう言いながら、さっきから食べていたチョコボーを食べきったジバニャン。

 欠伸をして、背中を掻きながら気だるそうに、カーペットの上で寝転がっている。

 

 

「……一応言っとくけど、やらなかったんじゃなくて、出来なかったの間違いだからね!?」

「あのー、それ一々訂正するほど違いあります……?」

「あるよ!!」

 

 

 ゲームの世界ではあったムゲン地獄。

 ゲーム時空ではソレの封印が解かれた影響で時空が歪み、永遠に終わらない夏休みが始まっていたが、何故かこの世界では特にそんな事もなく、普通に時間が過ぎていった。

 

 

 故に桜町などのメインストーリーと+αでクラスの人達との交流……ゲームで言う所のサブクエスト的なのが終わった頃には、大体夏休みが終わっている。

 当然課題をする時間なんてあるはずも無いし、普通に時間が経つからこうして普通に進級もしているわけで。

 

 

 そんなこんなで心に余裕のできた俺は現在、こうして普通の小学生ライフを送っているわけなのだが。

 

 

 

 ……4はどうした? と思われるかもしれない。

 だが悲しきかな、俺は妖怪ウォッチ4についての情報を一切持たない。

 前世で成長するにつれて、俺含む多くの妖怪ウォッチ世代の小学生たちは皆次第に『妖怪ウォッチ』というコンテンツそのものから離れていってしまったからだ。

 

 

 故に4の存在を知っていてもプレイしたことがないのだから、当然中身なんて知る由もない。

 

 

 加えて無印の話が始まってから3のストーリー全編までのほぼ全ての内容を完遂し終わるまで、身体をほぼ常に限界ギリギリまで酷使していたせいか、齢12にして燃え尽き症候群的なアレに陥ってしまったらしい。

 

 

 だからもう世界の危機とか考えたくない。

 働きたくないでござるという言葉が、これ以上ないほどに今の俺の精神状態を表していた。

 だからせめて一ヶ月、この夏休みくらいは普通の小学生らしくゆっくりさせてほしい。

 

 

「──よし」

「おや、どうしましたケータくん? 見たところ宿題は全然進んでいないように見えますが……」

「一日中エアコンつけてたら怒られるから、午前中は窓開けておこうかなって」

 

 

 ……そういえば、もう一つ。

 日本に帰ってきて、大きく変わったことがある。

 

 

 勉強机から離れて、壁と隣接したベッドの横にある窓のカーテンに手を伸ばす。

 そして、その窓の先に広がっていたのは。

 

 

 

「──あ、おはよう! ケータくん!」

「うん。おはよう、フミちゃん」

 

 

 隣の家の窓から顔を出して、こっちに向かってひらひらと手を振っている、花が咲いたような笑顔の幼馴染(フミちゃん)の姿だった。

 どうやら、お互いに()()()()()()()()()で窓を開けたらしい。

 

 

 USAから日本に戻ってきて最大の変化。

 それがこれ。 家が原作ケータ君の想い人ことフミちゃんのお隣さんになった。

 

 

 一体何故こんな事になっているのか。

 それはというと、USAに渡るまで住んでいた我が家が、自分の知る限りでは何も無かったはずなのに、道路整備だか何だかのせいで帰ってきた頃には取り壊されることになってしまっていたのだ。

 

 

 故に近所の空き家を探した結果として、この木霊家の隣の家に住むことになったのだが。

 ……いやいや。 いやいやいやいや。

 

 流石におかしい。

 あまりにも都合よく出来すぎている。 

 もしかすると4への伏線かもしれないが、どうしてもそう考えずにはいられなかった。

 

 

 そうして当時妖怪ウォッチでサーチして見つけたのは、俺に取り憑いていたというフクリュウ*1とトホホギス。

 フクリュウは帰りの飛行機で一緒だったから何となくで俺についてきて、トホホギスに関しては俺が日本に帰ってきてたから嬉しくてつい……だそう。

 貴方そんな軽いノリで憑かれたら困るタイプの妖怪でしょうに。

 

 

 まあ引っ越し先がフミちゃんの家の隣なのはフクリュウの幸運効果だろうなってのは考えなくても分かる。

 自分が原作ケータ君みたいにフミちゃん好き好き大好きーじゃなくても、美少女と繋がりを持てるのは素直に嬉しい。

 

 

 ただ、トホホギス? 

 

 トホホギスかあ……

 

 トホホギスねえ……

 

 

 何故、というか一体どこにトホホな要素があるというのか。

 とりあえずフクリュウ共々、ウィスパーにUSAに渡った時に売られた妖怪大辞典の分を取り戻すため、再度ともだち契約を交わしてからお帰りして頂いたが、結局当時の俺にとってトホホな出来事は一つも起こることはなかった。

 

 

 あの時はきっとフクリュウの力がトホホギスの妖力を上回っただけだと思っていたが、今になってから改めて考えると別の推論が浮かんでくる。

 

 

 フクリュウは確かに幸運を運ぶ妖怪である。

 が、勝手にウィスパーから借りた妖怪パッドで調べた所、フクリュウが取り憑いた人から去った後、その人に対して皺寄せの如く大量の不幸が訪れるそうだ。

 故にあの時のトホホギスの存在が意味していたのは、当時の俺に訪れる不幸などではなく、少し先。

 

 

 近い将来の俺を、暗示しているのではないか──

 

 

「──まさか、ね」

「……ケータくん?」

「ああいや、何でもない。 本当に大したことじゃないから、大丈夫」

 

 

 鳩が平和の象徴ならば、トホホギスは不幸の象徴。

 故にアレの存在がフクリュウの分と合わせて、俺に訪れるトホホどころじゃないレベルのどでかい不幸を示したものなら合点がいく。

 とはいえ、所詮はどれも俺の空想上の予測でしかないので、これ以上悲観的に考えるのはやめておこう。

 

 

「──ーあ」

 

 

 思考を切り上げ、改めて彼女の方へと視線を向けると、自分を見つめていた彼女と視線が交差し、お互いに目があって見つめ合う形となる。

 時間にして数秒にも満たないソレは、何故だか時が止まってしまったたのではないかと錯覚してしまうほどに長く、永遠に続くのではとさえ思わせるもので。

 

 

「……フミちゃん? もしかしてだけど、俺の顔になんか付いてた?」

 

 

 何というか、まあ。

 この何とも言えない空気感がいたたまれなくて。

 そう頬を掻きながら尋ねると、一瞬はてなと首を傾げた彼女は、少しの間を開けて首を振った。

 

 

「ううん、そういう訳じゃないの。 ただ……」

「ただ?」

「───本当に、帰ってきてくれたんだなぁって」

 

 

 その事実に浸るように、噛みしめるように。

 そう言いながら、こちらをじっと見つめる彼女の瞳。

 ただ、その視線に交じる色が、俺がUSAに行くことになる前……よく知る彼女のものとは少しだけ、毛色の違うもののような感じがした。

 

 

 時系列的にはあの日、USAから日本に帰ってきた日の空港で久しぶりに()()()()彼女と会ってから。

 俺の勘違いじゃなければ、その頃辺りから若干雰囲気が変わった気がする。

 

 

 ──多分それも杞憂で、全部俺の自意識過剰ってオチなのは目に見えてるけど。

 

 

 思春期真っ只中の小学生なんてすぐ成長するんだから、そりゃあ数ヶ月会わなければ多少雰囲気が変わったように感じるだろう。

 こんなの妖怪のせいにするまでもない、けど──

 

 

「……流石に大袈裟でしょ。 ほら、前に『俺のお父さん英語喋れないから、どうせすぐ戻って来る』って感じのこと言ったよね?」

「確かにそうだけど……そうじゃないよ」

 

 

 ……? 

 そうだけど、そうじゃない? 

 駄目だ、まるで意味がわからんぞ。

 

 

 そう肩を竦め、首を傾げる俺。

 まるで理解してないのを察したのか、小さくため息を吐いた彼女の視線の中に、若干の呆れの色が入り混じる。

 

 

「はあ……あ、そうだ」

「どうしたの?」

「い、今、夏休みの宿題やってたんだよね? ほら、今までUSAに居た分、分からない所も多いと思うし、もしそういう所があったら私が教えるから」

 

 

 そう言ってどこかあどけなさのある上擦った声で、上目遣いをする彼女の姿はまるで、天に浮かぶ星々を見ているようで。

 コテン、と小さく首を傾げながら、縋るような目で見つめてくる。

 

 

「だから、その……いつもみたいに宿題、一緒にしよ?」

 

 

 ──いやこれが小学生とか嘘だろ。

 そりゃあケータ君もベタ惚れするよ。 

 一回マジでその手の人にスカウトされただけあって、並のジュニアアイドルとかと比べても美少女、って感じのオーラが凄いし。 

 

 正直、分からないところなんてあるはず無い。

 だが、果たしてこれにNOと言えるやつがこの世に何人いるというのだろうか。

 居たとしたらソイツには人の心とか無いと思う。

 

 

「まあ、全然良いけど……」

「本当!? じゃあ私、今からケータくんの家行くから待ってて!」

「え、ちょ、早──」

 

 

 一転して、眩しいくらいの笑顔になったフミちゃんは、そう言い残してカーテンを閉めたかと思えば、瞬く間に部屋を後にして、ドタドタと急いで階段を下る音がこちらにまで聞こえてきた。

 ……ほぼ毎年一緒にやってるんだから、そこまで急ぐような事じゃないと思うけど。

 

 

 そんなことを思いながら後ろの自分の部屋に向き直ると、やけに腹立つニヤケ顔をしたジバニャンとウィスパーの姿が。

 何なの? そんなに殴って欲しいの? 

 

 

「ぐふふ……いやはや、ケータくんも中々隅に置けませんねえ。 フミちゃんとお家デートだなんて」

「良かったニャンねー、ケータ」

「二人とも変な言い方しないでくれる? 後これ、ウィスパーには前にも言った気がするけど、俺とフミちゃんはそういうのじゃ無いから」

 

 

 そう俺が言うと、ピシリと石になったかのように固まる二人。

 

 

「……」

「───」

「……え、何? 俺そこまで驚くようなこと言った?」

 

 

 その何とも言えない空気感の静寂が数秒流れて。

 そして、シャボン玉のように突然弾けた。

 

 

「ゔえーっ!?」

「えーっ!?」

「ゑーっ!?」

「エーッ!?」

「ケ、ケータ、フミちゃんのこと好きなんじゃなかったニャン!? あんなに色々やってたのにニャン!?」

 

 

 マトリョーシカみたいに分裂するウィスパーと、そう言いながら俺の肩を掴んで揺さぶってくるジバニャン。

 いや、別に嫌いとか他に好きな人ができたとかそういうわけでもなくて。

 

 

「確かにフミちゃんのことは好きだよ? でも、そういう好きじゃなくてさ……?」

 

 

 何というかこう、友愛的な好きというか、兄が妹を愛でる的な感じの好きというか。 いやこの表現もそれはそれで中々にキモい気がするけど。

 まあとにかく、偶に肉体年齢に引っ張られることはあれど、幼稚園の頃から一緒にいる幼馴染で、尚且つ俺がケータ君本人ならともかく、中身の年齢とか倫理的にも彼女(小学生)をそういう目では見れなくて。

 

 

「ま、まあ、フミちゃんもそういう恋愛事には疎いタイプだしね。 俺のことは、ただの幼馴染か男友達くらいにしか思ってない――とは思うんだけど……」

「「うわあ……」」

 

 

 とまあ、後半の方を話せるはずも無いので、概ね前半の内容に近いニュアンスの事を語ったのだが。

 何だか、二人の視線が心底冷ややかなものになった気がする。

 

 

「ケータくん、あーたって人は……」

「一回、車にでも撥ねられてきた方がいいと思うニャン」

「そこまで言う!? いくら何でもボロカス過ぎない!?」

 

 

 特にジバニャンのとか、自分の中でも最上級の罵倒でしょ。

 もうええわ、解散解散とでも言いたげに、ジバニャンは寝転がってチョコボーを取り出し、ウィスパーは妖怪パッドで何かを調べ出した。

 

 ……とりあえず、机出そうか。

 

 そうして、クローゼットの扉をノックする。

 

 

「ヒキコウモリー? クローゼットにある机が出したいんだけど、開けてもいい?」

「はい、どうぞ」

「ありがとー」

 

 

 ヒキコウモリにそう断りを入れて、奥にしまってあった小さめのテーブルと座椅子を引っ張り出し、部屋の真ん中の空いたスペースに設置する。

 置き終わった瞬間、家の中にインターホンの音が響き渡り、直後母の声が部屋に届く。

 

 

『ケーター? フミちゃん来たわよー?』

「……早くない?」

 

 

 あのやり取りから5……いや3分も経ってないぞ? 

 隣の家とはいえども、普通準備とかしてたらもっとかかると思うんだけど。

 

 

 待たせるわけにもいかないので、急ぎで階段を降りて玄関に向かう。

 するとそこには、母と談笑する彼女の姿があった。

 

 

「ほんとにいつもありがとねえ、フミちゃん。 あの子ったら、勉強はしてるのに全然自分からは宿題やらないから助かるわあー。 家も近くなったし、今後ともうちの子とよろしくね」

「あはは……ケータくんのお義母さんに言われなくても、私が好きでしてる事ですし。 むしろ、私がいつもケータくんに助けられてるくらいで……」

 

 

 ……何話してるんだ? 

 階段降りながらだと全然聞こえねえ。

 

 

「まあ、取り敢えず上がってよ。 ずっと立ってたら疲れるでしょ?」

「じゃあ、そうさせてもらうね」

 

 

 そう言って靴を揃えた彼女を連れて階段を登り、突き当たりにある俺の部屋に案内する。

 

 

「そういえば、こっちに引っ越してからは初めてだっけ。 うちに来るの」

「うん。 だからちょっと不思議な感じかも」

 

 

 扉を開けて部屋に入り、先ほど出した座椅子に座るように促す。

 そしてじゃあ宿題さっさとやっちゃおうかとなったところで、何か目に止まるものがあったのか、フミちゃんはある一点──写真立てを凝視していた。

 

 

「何か気になるものでもあった?」

「……あの一緒に写ってる人って、USAの友達?」

「うん、そうだよ。 マックって名前で、凄く気の合うやつだったんだ」

「ふ〜ん……友達、いっぱい出来たんだ?」

「まあね」

 

 

 主に妖怪のだけど。

 人間の友達かどうかは聞かれてないからセーフってことで。

 

 

 そんな馬鹿げた事を考えながら彼女の方へと向き直ると、両手で何かを大事に握りしめながら目を伏せていた。

 一瞬、何か言葉をかけるべきかと逡巡したが意味はなかった。

 

 ぽつぽつと、呟くように彼女が話し出したから。

 

 

「──ケータくん。 私、ケータくんがこっちに帰ってくるって最初に知った時、すっごく嬉しかったの。 あの時もしかしたら、もう二度と会えないかもって思ったから」

「……うん」

「ケータくんが私にくれたこれも、ずっと大事に持ってるんだよ?」

 

 

 彼女が両手を開けて見せてきたのは、緑色のメダル。

 他でもない、妖怪『フウ2』の、緑のフレームの妖怪メダルだ。

 

 

 何でこんな事になっているのかというと、『あの時』──いつもの帰り道で、父さんが転勤になったからUSAに引っ越すということを伝えた時に、予想以上にフミちゃんが凹んで……というか塞ぎ込んでしまったから。

 妖怪ウォッチが無ければガラクタ同然だけど、お守り代わりにはなるかなー、といった気持ちで、勝手にあげても問題ないフウ2のメダルを渡したんだっけ。

 

 ウィスパーにはしこたま怒られたけど。

 この様子だと、無事にその役目を果たしてくれたらしい。

 

 

「──それなら良かった。 ちょっと似てるでしょ? 俺とそのメダルのキャラクター」

「うん、そっくりだと思うよ。……だから、ね?」

 

 

 そう言って顔を上げた彼女とまた、視線がかち合う。

 ……月並みな言葉ではあるが、その時の彼女の笑顔はまるで向日葵のようで、何者にも変え難い、本当に美しいものだった。

 

 

「聞かせて欲しいな。 ケータくんが向こうでどんな事をして、どんな友達が出来たのか。 ──そして、どんな関係になったのか。 全部、聞かせてね?」

「……それくらいなら、お安い御用だよ」

「ふふっ、じゃあ早速だけど聞きたいことがあってね……」

 

 

 何だろう。

 一番美味しかった食べ物か? マックとの冒険の数々か? 

 いずれにせよ、どれもが素晴らしく、美しい思い出であることに違いない。

 

 

 

 どんな話題だろうとも、きっと楽しい会話になるに違いな──

 

 

 

「この写真に写ってるの、一組の未空さんだよね? 何でUSAに居るの? いつの間にこんなに仲良くなったの?」

「」

 

 

 風向き、変わったわね(白目)。

 

 彼女が指差していたのは、USAのウォルナービレッジという砂漠の街でカウボーイコスをした、俺とマックとイナホさんのポニー達を背景にした3ショットだった。

 いや何でこれを飾ったんだよ過去の俺。

 普通怪しまれるってわかるだろバカかよ。

 

 

「ねえ、ケータくん」

「……はい」

「───どういうことか、教えてくれるよね?」

 

 

 何故だろう。

 彼女の表情は寸分たりとも変わっていないのに、まるで浮気現場を詰められているかのような、とてつもない威圧感を感じる。

 瞳に一切光が灯ってないからだろうか。

 

 

 加えて申し上げると、先ほどまで俺はこっそりあることを行なっていた。

 フミちゃんの雰囲気が違いすぎるから、もしかしたらシメッポイーナとか、やきモチあたりの妖怪が憑いてたりするんじゃないかなあなんて考えて、サーチビームで周りを照らしていたのだが。

 

 

 結論から言おう。

 

 

 

 ──妖怪、どこにも居ないんですけど。

 

 

 

 

 

 

 

*1
ツチノコの進化系。





 どうせ4で結婚するならその過程で何があってもいいよねの精神。
 あと事故のくだりは半分実話。


・天野景太
 主人公、転生者。 憑依した人物がアレなので自己評価が死んでる。
 無印、2の大辞典コンプリート済。 なおUSAに行くときに妖怪ウォッチUの対価として、この世界線でもゲーム同様ウィスパーに売却された。
 さくらニュータウンに戻ってきてからは失った分の妖怪メダルの回収に奔走している模様。


【世界観】
 ゲーム版が主な軸であるが、アニメ版や漫画版の設定などを一部引用したいいとこ取りとなっている。
 そのため、日本に戻って来たときに『!』同様フミちゃんの隣に引っ越している。

【時系列】
小4の夏休み∶無印

小5の夏休み∶元祖本家真打(劇場版第一作)

小5の終業式まで∶赤猫団・白犬隊(月兎組)&劇場版第二作(EP1・EP2・EP3のみ)

春休み〜小6の一学期∶妖怪ウォッチ3&バスターズT。

夏休み直前∶日本に帰還&劇場版第三作←【今ここ】

小6の夏休み∶妖怪ウォッチ4


小学生の間に全作完結させるなら、個人的にはこうするしか無いと思う。


次話(後編)でフミちゃん視点やります。


追記(9/26)
日間ランキング1位&新作ランキング1位達成感謝。
妖怪ウォッチの二次創作の数の乏しさ的に、そんなに伸びないと思ってたんですが、1話だけ(一万文字超えてるけど)でここまで伸びるとは思いませんでした。  やっぱり皆好きなんですねえ、妖怪ウォッチ。

ただ二週間ほど先まで作者の予定が立て込んでるのと、この話を完成させるのに推敲含め三週間かかったので、更新は割と先になると思います。
その報告がしたかっただけです。申し訳ないm(_ _)m




今後の方針

  • 単話〜数話完結で色んなキャラ出して
  • 4のストーリーを軸に進めて欲しい
  • 要所の過去編
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