これもきっと妖怪のせいに違いない(願望)   作:R1zA

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旬の季節なのに難産で申し訳ない
※投稿形式を連載に変更します


探偵社と延々の路(みち)(前)

 

 

 

「いやぁー、クジラマンは強敵でしたねえ」

「一言目がその入りでいいの……?」

 

 

 アオバハラの街の一角。

 妖怪にまつわる事件、あるいは『たのみごと』を解決するイナウサ不思議探偵社。

 

 

 その部屋の椅子に、俺は腰を降ろしていた。

 本来は依頼者を座らせるための用途のものであるが、本日限りはその役割も鳴りを潜める。

 外から見た玄関のドアノブには、『close』と書かれた看板がぶら下げられていたからだ。

 

 

 

 ───昨日の映画第三作。

 

 

 一人の少女の心の闇が生み出した妖怪。

 コアラニャン(仮名)と、大妖鬼ホゲホエール。

 それに伴って発生した、このアニメ世界と実写……あるいは現実世界との入れ替わり。

 

 俺からすればあっちの現実世界(リアルワールド)の方がホームみたいなものなので、思えばここ最近の中では一番マシな事件だったかもしれない。

 とは言っても、あっちの世界も厳密には前世の俺がいた世界では無く、地名や他の要素はこっちの世界と同じであったが。

 

 

 この件の中心となっていた少女──南海カナミ。

 多少危ないシーンもあったが、何度も対話を繰り返した果てに、彼女の中に巣食っていた闇を取り除き、闇の妖力の供給源を絶たれて独立したクジラマンを撃破。

 

 

 途中、怪魔に意識を呑まれた彼女に殺されかけて、一度奥の手を使ってしまったが、それももう終わった話。

 終わりよければ全て良しだ。

 

 

 もうこの先会うことは無いかもしれないが、どうかリハビリを頑張って復活してほしい。

 

 彼女は俺とは違う。

 同じ交通事故で命を失った俺と違って───彼女にはまだ、未来があるのだから。

 

 

 そして───

 

 

「おや、ケータくん。 それは───」

 

 

 今羽織っているパーカーの内ポケットから、掌に丁度収まる程の大きさの石を取り出し、掲げる。

 照明に翳されたその石の表面には、 薄紅色の勾玉のような模様が彫られていた。

 

 

「───残り、二つかぁ」

 

 

 ぼんやりとソレを見つめながら。

 そう、誰かに語る訳でもなしに呟いた。

 

 

マ(・)キ(・)モ(・)ド(・)石(・)。

 怪魔を束ねていたウバウネの配下、キン・ギン・ドウの三体が用いていた呪具。

 

 空中に歯車時計型の術式を顕現させ、対象を発動者の指定した時間まで逆行させる。

 既に過去となり、因果の確定された行動を無効化、及び再試行……書き換える事が可能であり、死(・)さえも使い方次第では打ち消せる。

 

 

 外付けのコンティニュー、あるいは死に戻り。

 これがアイテムである以上、起動さえ出来れば誰でも使えるので、いち個人、いち妖怪の行使出来る力としては、まさしく破格と言って良いだろう。

 

 

 これといい、GFのUFOストーンといい、この世界のアイテム関連のインフレ度合いは中々笑えないレベルに達していると常々思う。

 まあ、自分たちの妖怪ウォッチや妖怪ブラスターも大概イカれているのでトントンではあるのだが。

 

 

 

 過去の秘密基地で一つ。

 現代のム(・)ゲ(・)ン(・)地(・)獄(・)で四つ。

 

 

 これが回収できたマキモド石の総数だ。

 この石の生産元と思われるキンギンドウの老人共は、ムゲン地獄の中で一時停止中。

 ウバウネは色々あって光墜ちしたので、これ以上のマキモド石の入手は期待できない。

 

 

 既に使った石は三つ。

 ウバウネとの最終決戦で一つ、並行世界に行った時に一つ、そして───今回の件で、一つ。

 

 

 全てのストーリーを完結させるまで、石の在庫が残っていればいいのだが。

 

 

 まあどうせ望み薄だろう。

 こんなことを自分で言うのも何だが、俺に出来るのはコレを当てにして、無茶を押し通し続けることだけだ。

 

 

 そこまで思考を纏めた直後。

 ふと喉元に、小骨が引っ掛かるような違和感を覚えた。

 

 

『(───ムゲン地獄? 一体何を言って……)』

 

 

 彼処(ムゲン地獄)には足を踏み入れていない筈だろう? 

 去年も、一昨年だってそうだ。

 

 

 そもそも、あの団々坂の西側にある廃トンネルの向こう側……60年前だと平釜平原のあった場所の、ムゲン地獄へと向かう小屋の扉は開かれていなかったのだから。

 封印が解けなかったから、夏休みが永遠に続くことは無かったし、少なくとも俺はそう認識していた。

 

 

 だがそれだと持ち物との辻褄が合わない。

 そもそも、前提から間違っているのだろうか? 

 

 

 ムゲン地獄の封印が解けたという事実はゲームと同様に存在していた。

 その後、ウバウネの浄化やどんどろ関連などetcの記憶が全て『あやとりさま』の手で無かったことになっているのなら。

 

 

「───くん、ケータくん───」

 

 

 そう考えれば、抱いた違和感への説明はつく。

 所詮、今パッと思い付いただけの妄想に過ぎないと言われればその通りでしかない訳ではあるが。

 

 

 ……兎にも角にもムゲン地獄関連の問題は、いち個人の人間が関わっていいようなレベルの話ではない。

 そもそも、廃トンネルの先は地図上では山で、あんな綺麗な草原自体が本来あるはずのない物なんだ。

 

 

 エンマ大王辺りに直で問いただしたりでもしない限り、ここの疑問と記憶の混濁が直ることは無いだろう。

 ぶっちゃけ聞こうとはあんまり思わないけどね。 笑えないタイプの怖さがあるから。

 

 

 そこまで考えを巡らせた辺りで思考が途切れ、意識が再構成される。

 ウィスパーの声が耳に届いたからだ。 

 

 

「あのー、ワタクシの話聞いてます?」

「───ん? ああ、ごめん。 急にどうしたの?」

 

 

 マキモド石を再度懐へと仕舞って、視線をウィスパーの方へと向ける。

 ウィスパーは『急にって何でうぃすか、急にって』と怪訝な顔でぼやきながらも、続けた。

 

 

「さっきからずーっとケータくんに話しかけてましたが…………体調が優れないので?」

「いや、全然。 ちょっと考え事してただけ」

 

 

 一旦、この話は終わりだ。

 このことについては、また今度考えよう。

 今この短時間で考えるには、考えるべき要素が多すぎる。

 

 

「───」

「……あの、ケータくん?」

 

 

 話を昨日の件に戻すとしてだ。

 あとは、まあ…………

 

 

「やっぱキモいね、その足」

「うぃす!?」

「いやー、残当でしょ。 流石に」

 

 

 まじまじと、ウィスパーの身体三つ分はありそうな長さの足を見た。

 爪先がしっかり5本指になってるのも相まって、すごい不気味の谷みたいになっている。

 

 

 昨日の一件で味を占めたのか知らないが、目の前の執事はもう不要になった筈の足を生やしたまま、直立不動で俺の事を見下ろしていた。*1

 少なくとも、俺の発言で驚かれる謂れはない。 どう考えても妥当だと思う。

 

 

「でもケータくんだって、昨日は何もツッコまなかったじゃないですかぁ!!」

「正当な理由があったらそりゃあ何も言わないでしょ。 今は浮けるんだから浮きなよ」

 

 

 そう指摘した直後。

 数秒の間を挟んだ後に、ウィスパーはポン、と音を立てて右手の拳と左手の手の平を打ち合わせた。

 俗に言うところの合点ポーズ、というやつだ。

 

 

「───確かに」

 

 

 納得早いよ。

 

 これもツッコミ待ちなのかは知らないが。

 常々思っているが俺のウィスパー、シリアスな時とソレ以外での落差が激し過ぎやしないか。

 そんな所までゲームに忠実じゃなくていいよ。

 

 

 これでも八頭身になった後に翼生やして量産型エヴァごっこしなかっただけマシな方ではあるが。

 いや字面に起こすと酷いなコレ。 定期的にキチゲ解放するのやめませんか? 

 

 

「とりあえずその脚しまおっか。 絶対浮いてるままの方がいいからさ」

「もー、しょうがないですねー……」

 

 

 とまあそんなこんなで、現実世界との融合事件を無事乗り越えた俺たちは、イナホさんの探偵社に集まってちょっとした祝勝会を行うことにした。

 まあ祝勝会なんていうのは建前で、実際の所は夏休みらしく、皆で集まりたかっただけなのかもしれないが。

 

 

 ちなみにジュースやお菓子とかの代金は俺持ち。 金貯まってるからしょうがないね。

 

 

 あとジバニャンは不在。

 今日は遠征でニャーKBのライブに行くと言って早朝から居なくなっていたので、集まったのは俺とウィスパー、イナホさんとUSAピョン、ハクだけ。

 

 

 駄弁っていた俺とウィスパーに、ジュースの注がれたコップを持ったイナホさんとUSAピョンが近寄る。

 机の方を横目に見てみると、ハクが鼻を器用に使って、全員のコップに飲み物を注いでいた。

 

 

「まー、いいんじゃないっすか? 今日は祝勝会ですよ、祝勝会! パーッとやっちゃいましょう!」

「言うてイナホはあの時ずっと、なんか変な薬錬成してただけだったダニ」

「でもそんな事言われたって、正直全然その時の記憶無いし……」

 

 

 そう言って頬を掻いている彼女───未空イナホさん。

 同じ小学校に通っていて、現状俺以外で妖怪ウォッチを持っている唯一の存在。

 

 相棒はUSAピョンで、今はチョーシ堂の店主から借り受けたらしいこの建物を拠点に、イナウサ不思議探偵社として妖怪案件の事件を取り扱う探偵業に勤しんでいる。

 

 

「それにしても───」

 

 

 彼女がこちらへと視線を移し、続ける。

 

 これは補足だが、彼女とは過去に同じクラスだった事もあるので元からある程度の面識はあった。

 ものすごく仲が良かったとかでは無いので、顔見知りがよっ友に変わった程度の違いでしかなかったのだが。

 

 

「さっすが伝説の妖怪マスター! 今回もまさに獅子奮迅、大車輪の活躍でしたねっ!」

「俺が凄いんじゃなくて、みんなのお陰だよ。 あの時も俺自身は大したことしてないからさ」

 

 

 そう言って、飲み物に手を付けた直後。

 こいつマジか、とでも言いたげに怪訝そうな顔をしたウィスパーとUSAピョンからの視線が刺さる。

 

 

 首の位置はそのままに、視線だけを向ける。

 

 

「…………何さ」

「いいえ何も?」

「ミーはもう何も言わんダニ…………」

 

 

 問いを飛ばすと、目を逸らされてしまった。

 ウィスパーは大して吹けてない口笛をして、USAピョンは呆れ気味にお手上げのポーズをとっている。

 

 

 いや、そうは言ってもだ。

 俺は中盤まで只管、ゲームで言うところの説得コマンドを連打していただけなので、貢献度なんて本当に大した割合じゃない。

 

 

 実際、戦闘時の俺の役割は基本的に殆ど支援、サポーター的なポジションなので仕方ない気もするが。

 妖怪ブラスターは強力だが、打ち切ったあとのリロードが長いので援護射撃の域を出ない。

 

 

「やっぱり妖魔界で再生産して貰おうかなー、妖怪メダル。 あっちの市役所行ったら貰えたりしない?」

「いや、ケータくんあーた、今は妖怪じゃないんですから無理だと思いますよ」

 

 

 うーん無理かあ。

 もしものことを考えると、どうしてもあと一つ手札が欲しいから、保険で持っておきたいという気持ちもある。

 これに関してはヨップル社あたりで要相談かな。

 

 

 話頭一転。

 

 

 一度、話を変えようか。

 風が吹けば桶屋が儲かる、因果はめぐる糸車───つまるところのバタフライエフェクト。

 

 

 中身が違うのだから、本来と同じようにはならない。

 本来とは違う道、違う選択を、きっと物語の裏で何度もしていたのだろう。

 それ故にやはりと言うべきか、あるべき道筋とは微妙に外れた出来事も多々あった。

 

 

 ジバニャンSなんかは、その最たる例になる。

 完全にポケモンの絆変化みたいな仕組みではあるが、あの姿が本筋に関わったことは無かった筈だ。

 

 

 そんな俺の齎した様々な未来の変化。

 その中でも恐らく、一番の変化点。

 

 

「でもこれで、私(・)た(・)ち(・)イナウサ不思議探偵社の知名度も鰻登りですね! いやー、新メンバー様々であります!!」

「……規模の割に大した騒ぎにならなかったから、多分期待してるほどのことは無いと思うよ?」

「えー、マジっすかー? 探偵業もままならないものっすねー……」

 

 

 先程までの目を輝かせていた姿から一転し、机に突っ伏した彼女の声色には隠しきれない落胆の色が混じっていた。

 感情が素直に出るタイプなのだろう。 熱しやすく冷めやすいとはまさにこのこと。

 

 

 ──とまあ、見ての通り。

 俺は今、この『イナウサ不思議探偵社』の末席に名を連ねることなっていた。

 記憶が正しければ、俺がこっち側の話に関わることは殆ど無かった筈なのに、今ではここが彼女と自分が常駐する溜まり場みたいな場所になっている。

 

 

 前にホームページを見た時の話なのだが。

 フウ2っぽい感じのキャラが元々あったポスターにクソコラみたいな感じで挿入されていたので、成り行きの割にはガッツリ囲い込まれている気がしないでもない。

 

 

 ただ実は俺の杞憂で、妖怪ウォッチ4ではここが皆の活動拠点になっているのかもしれない。

 登場人物が小中学生だから、こういうプレハブ小屋以外だと誰かの家が集合場所になりそうだし。

 

 

 事あるごとに『じゃあお前んち集合な!』とかなるの地味に嫌って人もいるでしょ。

 逆に遊びに行ったらめっちゃ歓迎してくる家もあるけどね。

 

 

 そんな事を考えながら、机に突っ伏した彼女の方へと視線を落とす。

 その直後、ふと視界の一点が目に止まった。

 

 

「……イナホさん、今日はウォッチ着けてないんだ?」

「え、ええと……それはその、深い理由(わけ)があると言いますか、説明すると長くなると言いますか……」

 

 

 何気なしに聞いてみると、彼女は両手の人差し指をつんつんと触れ合わせながら、目を泳がせていた。

 この流れで言い淀むということは、まさか……

 

 

「もしかして無くした? 妖怪ウォッチ」

「……はい」

「マジか」

 

 

 マジかよ。

 

 

「昨日の朝までは間違いなくあったんですけど、あっちの方の世界との繋がりが消えた時には二つとも無くなってて……、探そうにも記憶が無いのでお手上げ状態──って感じですね」

「災難だったね……。 確か、妖怪ウォッチをつけてない状態だと不味いことがあった気がするんだけど……」

「それについてはワタクシが説明しましょう!」

 

 

 俺とイナホさんの間に上から割り込んできたウィスパーが、そのまま意気揚々と解説を始める。

 

 

「まず前提として、妖怪ウォッチは人間と妖怪を繋げるアイテムであり、それがあるから貴方がたは妖怪を見ることが出来ている───ここまではご存知ですね?」

 

 

 共に、ウィスパーの問いかけに首肯する。

 ウィスパーは「では、そのウォッチを外した時の場合ですが」と続けた。

 

 

「外したからといって、すぐに全ての妖怪が見えなくなる訳ではございません。 過去に妖怪ウォッチで見た妖怪は、ウォッチを外していても視認可能でうぃす」

「新しく他の妖怪を見ることが出来なくなるってこと?」

「まあ、概ねその認識で構いません」

 

 

 サーチライトで調べられないのだから当たり前ではあるのだが、居るのが分かっていても見れないというのはかなりのデメリットになる。

 この世界の霊感がちょっと強いくらいの人はこんな感じなのかもしれない。

 

 

「そして、もしウォッチを外しているときに妖怪に関する記憶を失った場合───全ての妖怪に纏わる記憶は消えて、妖怪が見える事も無くなります。 くれぐれも忘れん帽などに取り憑かれたりしてはいけませんよ?」

「ひえー……」

 

 

 つまるところ、妖怪ウォッチ自体が、それを装着した人間を妖怪側の世界に留めておく錨のような役割を果たしている……といった認識でいいのだろうか。

 過去の改竄でウォッチを消された時、確かに今世での妖怪の記憶は無くなっていたが、前世の記憶のお陰で事なきを得た俺は間違いなく例外枠に入るのだろう。 

 

 

「……俺のウォッチ貸せば一旦は解決しない? 俺はドリームの方しか使わないから、Uの方は余ってるし」

「マジっすかッ……!? それは勿論、すごくありがたいんですけど……」

「全然いいよ、気にしないで。 何なら今から取って来ようか?」

 

 

 流石にそれは申し訳ないと言われ、次会うときに渡すことになった。

 ……もしかしてだが、ここで妖怪ウォッチ紛失したから4では参加出来ませんみたいなのが正規ルートだったりするのだろうか。

 

 

 ───だとしたら雑すぎないか? 

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

「そういえば、ケータさんに聞きたいことがあったんですけど」

「……聞きたいこと?」

 

 

 暫く経って。

 お互いの最近の出来事や、イナホさんの趣味に纏わる話を、話半分に聞いていた時のことだった。

 

 ふとお菓子を食べていた手を止めて、そんな事を言い出した彼女。

 その口から溢れた単語を聞いて、うたた寝をしているウィスパーを尻目に、飲み物を飲もうとしていた手が止まる。

 

 

「たぞの駅って知ってますか? 前に行った時、そこの田んぼのあぜ道に変な看板があったんですよねー」

「──あぜ道?」

 

 

 駅の名前だけは、記憶の片隅に置いてあった。

 ケマモト村───祖母の家に向かう途中の電車の、路線の中にあった駅の一つ。 そこで降りた記憶は無い。

 只、この世界における田んぼ、あぜ道、妙な立て看板という単語から連想されるモノは、己の知る限り一つしか無かった。

 

 

 ───えんえんあぜみち。

 

 

 トンネルの方には、一度だけ入ったことがある。

 文字通り終わりの見えない道が延々と続き、何故か存在する通行人は皆どこか様子がおかしい。

 仮に現実世界に存在すれば、絶対に立ち入っては行けないタイプの心霊スポットとなること間違いなしだっただろう。

 

 

「あー……あのさ、もしかしてだけど───入っちゃってたり、する?」

「はい!!」

「(頭を抱える)」

 

 

 見たところ、当時は特に危ない目にあった訳では無さそうなのが幸いだったと言うべきか。

 自分の時はとんだ藪をつついたと言いたくなるような経験をしたので、初手ボス戦みたいな目にあっていなくて少しホッとした。

 

 てか『あぶない!!』って看板に絶対書いてたよね。

 いやまあ、イナホさんはこの手の話好きそうだなーって思ってはいたけどさ、クソ度胸過ぎるよ。 流石に。

 

 

「正直、この時点で言いたいことは結構あるけど…………取り敢えず最後まで話して」

「そうですか? なら、実際の映像があった方が分かりやすいと思うので───ハッくん!」

「はい! では、イナホさんの記憶を投影しますね」

 

 

 見た目が完全に白いバク……ハクが鼻から出した煙がスクリーン状に広がり、形を成す。

 そうして空中に投影されたスクリーンには、イナホさんとあぜ道の最奥の鳥居を抜けた先にある、一件なんの変哲もない家が映っていた。

 

 

「確か、この家に住んでるっぽい感じの女の子が居たんですけど……あ、この娘ですよ!」

 

 

 そう言って彼女が指差す先に映っていたのは、両手で顔を隠して俯く、白髪の少女だった。

 どこをどう見ても既視感しか無いというか、普通にえんえん少女(仮名)ちゃんですね、本当にありがとうございました。

 

 

「本人曰く、友達を探してるみたいで…………村の方から引っ越してきたみたいです」

「間違ってはないけど間違ってるッ……!」

 

 

 そもそもなんでケマモト村から微妙にこっち方面に移動してるの、あの娘。

 少し前、巨大な妖気の気配が消えたとか河童が言ってたけど、まさかコレの事だったりするのだろうか。

 

 

「──本題はここからです」

 

 

 彼女の双眸が、己を射抜く。

 

 

「その娘が探している人物は私と似た時計、則ち妖怪ウォッチを持っている男の子らしいんですけど…………」

「……」

「多分、ケータさんですよね? その人って」

 

 

 俺の反応を見て既に確信していたのだろう。

 こちらを見据えてしたり顔を浮かべる彼女に、称賛の意を込めて小さく乾いた拍手をした。

 

 

 それにしても、最近周りの人の俺に対する観察眼が凄い気がするんだけど、これは気の所為なのか。

 それとも只俺が分かりやすいだけ? 

 

 

「まあ、別に隠してた訳じゃないんだけど───そう、だね。 その子が言ってるのは、多分俺のことだと思う」

「あ、やっぱそうだったんですね。 妖怪ウォッチ着けてる男子なんてケータさんくらいしか居ませんし」

「あー……」

 

 

 言われてみればそうだ。

 全国区ならともかく、さくらニュータウン近辺かつ妖怪ウォッチ所持者という条件に限れば俺くらいしかいないだろう。

 

 

 問題は、何故こんな事を聞いてきたのか。

 只の確認か、それとも───

 

 

「彼女の正体とか、ここに至るまでの経緯を知りたいの?」

「大体そういうことであります! ほら、探偵って真実を暴く職業ですし!!」

「別にイナホは正式な探偵でも何でもないダニ…………」

 

 

 今まで黙って聞いていたUSAピョンが、呆れの混じった声色でツッコミを入れていた。

 

 えんえん少女(仮名)の正体。

 嘗て……おおよそ一年前、俺がえんえんトンネルに入った際に何があったのか。

 前者に関しては俺が知りたいくらいなので説明出来ないが、後者に関しては今ここに、うってつけの妖怪が居る。

 

 

 その妖怪──ハクへと視線を向けて、右手でトントンと、自分のこめかみを指差した。

 

 

「ハク、俺の記憶を投影出来る?」

「お任せください! ハァァァァッ…………!!」

 

 

 ハクが俺に向かって大きく口を開け、息を吸い込むと、俺の頭から白い煙……記憶の断片が抜け出し、ハクの口へと吸われていく。

 

 粗方吸った後、先程イナホさんの記憶を投影したのと同じように、鼻から煙を吹き出した。

 目覚めたウィスパーを含め、皆が視線を向ける空中に投影された映像に映っていたのは───

 

 

 

 ───暗く先の見えない、トンネルの中だった。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 

『きみ トンカツは好きか? いや〜! うまいよなぁ あれ!』

 

 

『だって ブタの命の味がするもんな』

 

 

 

 トンネルの通行人は、むこうがわからやってくる。

 既に廃線となった───否(いや)、そもそも公式に存在したのかすら怪しいトンネルのだ。

 

 

『いったい どこまで続くんだろうね。 この先の見えない長い道は』

 

 

『もしかして 終わりなんて最初から 無いのかもしれないけど……』

 

 

『きみはどう思っているんだい? この道の果てに 終わりはあると思う?』

 

 

『──そう信じたい気持ちはわかる。 でも 本当に終わりが無かったら?』

 

 

『きっと どこまでも続くんだよ……』

 

 

 

 彼らは皆、どこか不気味だ。

 

 生きている人なのだろうか。

 実在する人だったのだろうか。

 

 

 出来ることなら、幻であって欲しい。

 ここに迷い込んだ者の成れの果てという、己の幻視した最悪のパターンでないことを切に祈る。

 

 

『こんがらがるがら るんがらこーん。 ……ところで、きみにこんな質問があるんだ』

 

 

 通行人の中には、こちらへ問いかけてくる者も居た。

 特に記憶に残っているのは、この妙なフレーズを最初に口ずさむ、犬を連れた男だった。

 

 

 

 

『きみは ついうっかり死んでしまった』

 

 

 

『運よく神さまにチャンスを貰ったとして、どちらの願いをかなえるんだい?』

 

 

 

 ▷そのまま生き返る

 

 ▶別人に生まれ変わる

 

 

 

『ふふっ な〜るほどねぇ……』

 

 

 

 あの人を食ったような笑みは、今もまだ記憶の奥底にこびりついている。

 意図的だったのか、それとも偶然だったのか。

 何の前触れもなく自身最大の禁忌(タブー)に触れられて、良い気分になる奴は居ない。

 

 

 今思えば、かなり酷い顔をしていたと思う。

 

 

「ここマジでヤベーやつニャン。 さっさとUターンして戻るニャン」

「そうしたいのは山々何ですけどねぇ……」

 

 

 唯一の救いと言っていいのは、ジバニャンとウィスパーも一緒だった事だ。

 一人でここにぶち込まれたら真面目に死を覚悟しただろう。

 

 

「……まぁ、こ(・)れ(・)だからね。 後ろは」

 

 

 三人で、後ろを振り向く。

 すると、何故かかろうじて点いていた電灯の明かりも消えていて、先程まで通っていた道があるのかすらも視認できない。

 

 

 無くなっているんだ。

 今まで通ってきた筈の道が。

 引き返すなんて出来るはずもないし、強行すれば二度と戻れなくなってもおかしくない。

 

 

「一歩ここに足を踏み入れた時点で、背後はこうなって、入り口は見えなくなった。 ……多分俺達は、このトンネルの主の作った空間に閉じ込められてるんじゃないかな」

「……どういうことニャン?」

「トンネルの中じゃなくて、気まぐれゲートみたいな、第三者の作った領域の中に居るってこと」

 

 

 別作品の話になるが、この規模の空間だ。

 出る方法は必ず存在する───というか、その手段を己はとうに知っている。

 

 

「行こう。 どのみちどんな時だって俺は───前へ進むしかない」

 

 

 先程から変な人と会話を繰り返しているだけで、直接危害を加えてきてはいない。

 その手の縛りのような物があるからこそ、数キロ歩いても終わりの見えない、この巨大な空間が生成出来たのではないか。

 

 

 そんな内容の話をジバニャンとウィスパーに話した後、三人でスタミナムをガブ飲みして走り出した。

 

 

「そういえば、先程から気になっていたのですが」

「何かあった?」

「奥の方から何か聞こえて来ませんでしたか? 女の子が啜り泣くような声が……」

 

 

 ウィスパーがそんな事を言い出したので、一度立ち止まって、耳を澄ませてみる。

 数秒後、ジバニャンがピクピクと耳を動かしたかと思えば、おもむろにトンネルの奥を指差した。

 

 

「オレっちにも聞こえたニャン!!」

「本当に? あー、でも確かに、何か聞こえてくるような気が…………」

 

 

 耳に手を当てて、神経を集中させる。

 すると微かに、えーんえーんと、泣いているような声が耳元へと入ってきた。

 

 

 

「いや、待って。 この声って……まさか」

「奥に誰かいるニャン!! バスターズ心得その3!! 『バスターズの誇りにかけて、弱きものは必ず守れ』だニャン!!」

「うぃすーッ!!」

「ちょ、待って……ジバニャンッ! 罠!! これ絶対罠だって!!」

 

 

 意気軒昂として猛スピードで駆け出すジバニャンと、それを飛んで追いかけるウィスパー。

 俺の声は届くことなくトンネル内で反響し、2人を追いかけるため、再びウォッチの収納スペースから取り出したスタミナムの蓋を開けた。

 

 

 

 

*1:
漫画版映画第三弾参照






天野景太:髪型はどちらかと言えば長い方が好きらしい(byウィスパー)


未空イナホ:最近ちょっと髪を伸ばしているらしい


えんえん少女:?????


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皆の好きな妖怪は?

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  • 椿姫
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