対戦よろしくお願いします。
今回で階層ボスの名が明らかになります。
淡碧ノ樹海・第3階。
紅鉄の蝲蛄を躱しながら進む一同……その最後列を歩くモモイは、再びあの声を耳にする事になる。
『我…呼…かけに答…よ……』
「!!? き、聞こえた!」
「モモイ?」
「聞こえたの! あの声が!!」
そう。鹿に囲まれた時に聞こえ、モモイを奥へと誘ったあの声が聞こえた、というのだ。
『我…求…よ………ちら……来……!』
「どっちから聞こえる!?」
「え!! えっと、えっと…」
モモイに聞こえるという声は、彼女以外には聞こえない。
よって、もし声が聞こえてきた時は声の主の方向をモモイに任せるしかない。
ユウカが「大丈夫かしら?」と不安そうに呟いたプランだったが、それ以外の方法がない為この手を使うしかない。
「あっち!」
モモイが指した方向に、他のメンバーも走り出した。
声におびき寄せられているかのようにモモイも走っているため、アリスとユウカはモモイが孤立しないように前列に並んで走っていく。
すると………何度目かの扉の前に、見覚えのある人影がふたつ立っているのを確認できる。
近づいていくと、「待て!」という鋭い声が、モモイ達の鼓膜を揺らした。
人影の正体は………2人の冒険者…ソードマンとアルケミストだった。
アルケミストの方は、少し前に樹海の入り口で出会ったリノアだ。
ソードマンの方も、彼女達には覚えがある。3階に到達した際、紅鉄の蝲蛄を指し示しながら、樹海の危険性を語った、嫌味な男だ。
「まだ生きていたのか、お前ら。てっきり恐竜か蝲蛄の餌になってるのかと思ったが」
開口一番、ソードマンの男が放った言葉に、全員が眉を顰めた。
アリスやモモイやユウカが、なにか言い返してやろうと思った矢先、それよりも早く男の言葉を諫めた者がいた。リノアである。
「こら! ブラン、また新人にそんなこと言って…嫌われなきゃ気が済まないのですか!?」
「うるさいぞリノア。新米どもは大なり小なり樹海を舐め腐っているんだ。現実を教えなきゃ死ぬだけだぞ」
「だからって、憎まれ口をたたく必要がありますか?」
「そう言ってお前に任せたこの前の新人ギルドはどうなった? 虫どもに食われたろうが」
「アレはブランが煽るような言い方をしたからでしょう…!」
だが、それはいつも言われているからなのか、ブランと呼ばれた赤髪のソードマンは、黒髪のアルケミストの言う事を知った事かと言わんばかりに好き放題言う。
それを更にリノアが注意することで、口喧嘩が更に発展していく。
ブランと言われた男の嫌味な言葉になにか言い返してやろうとは思っていたが、先へと続く扉の前で口喧嘩をされていたのでは埒が明かない。
仕方ないと言わんばかりに、ユウカが割って入っていく。
「ストップ、ストップ!」
「あ?」
「ユウカちゃん?」
「口喧嘩ばっかりしていてもこっちは分からないわよ。
どうして二人はそこの扉の前に立っていたんですか?」
口喧嘩前の状況からして、ブランとリノアは先の扉へ行こうとする冒険者を阻んでいるような様子だった。
何かを聞き出さなければ、モモイの言う声の手がかりを探す事もできないだろう。
質問を投げかければ、ため息をつくブランより先にリノアが答える。
「実は、とある事情でここから先は許可のある冒険者以外は通すな、と辺境伯さまから連絡が来ているんです」
「ど、どうして?」
「決まってんだろ。お前らみたいな雑魚をむざむざ死なせん為だ」
「ブラン!!」
角の立つ言い方をわざとしたとしか思えないブランは、リノアの非難するような声を無視して続ける。
「今年は
「バッド…」
「ラック……」
「シーズン、ですか?」
「…ハァ、そんなことも知らないでリカタ・ジュタの迷宮に挑んでいたのか、貴様らは」
「
「おい、リノア」
ブランの嫌みがかった言い方に、割り込むようなリノアの説明。
それに対して非難するようなブランの視線をスルーして、リノアは優しい口調で教える。
「詳しい事は辺境伯さまに尋ねて下さい。ブランではありませんが、ココから先は許可した人しか通せないのは事実なんです」
「そうなんですね……ひとまず、リカタ・ジュタに戻るしかないかな」
「あーもう! この先に行かないといけないのに!」
嫌味なブランだけでなく、優しい雰囲気のリノアにまで、この先は通せないと言われてしまっては、諦めるしかない。
5人の少女……特にモモイは、辺境伯の宮殿に話を聞きに行かねばならないという現実に、もどかしさで身をよじらせていた。
だが、
彼女達は、大人しくアリアドネの糸を使うしかなかった。
「そうか。ブランとリノアから
「あの、フランベリル…様。バッドラックシーズン、って言うのは、何なんですか?」
樹海から帰ってきた足でそのまま辺境伯の宮殿に向かったアリス達一行は、ブランとリノアから聞いたことをフランベリルに話した。
「まず
「それは、リノアさんも言ってたよね」
「リカタ・ジュタが出来て以降ずっと起きていた現象なのだがね。近年、昆虫系の魔物が、活発化が顕著になる事が判明したのだ」
「昆虫……?」
「うむ。そして冒険者たちを派遣し続けた結果……
「…それくらい、簡単に分かりそうでは?」
「言ってくれるな、ユウカよ。樹海の探索は常に死と隣り合わせ…情報一つ持って帰るだけでも命懸けだったのだ。アリアドネの糸が開発される前は、尚更な」
君達が思っている以上に時間も人命もかかったのだ、と付け足すフランベリル。
ミレニアムでは簡単に手に入る情報だが、リカタ・ジュタでは人が直接危険な樹海に潜り込んで探るしか方法がないのだ。無事に帰って来れる保証もないのに、キヴォトス並みの情報精度を求めるのは酷であった。
フランベリルに言われて、ようやくそのことに気が付く5人。ここには、彼女達にとって身近だった精密機械は一つもない。文明レベルが変われば、価値観も変わるのだ。
その事を認識したうえで、情報を整理してみる。
「つ、つまり…その『ある魔物』が活発になるのに合わせて、昆虫系のモンスターも活発になるってこと……ですか?」
「そうだ。そして、その魔物のことも『アルマリク』の二人を中心とした冒険者たちの調査の結果、判明しておる」
羊皮紙を一枚出し、それを広げると…そこには、巨大なヒゲの生えたヤモリのような魔物の姿が描かれていた。
人の手によって描かれたモノであり、写真と違いリアリティは一切ないが、フランベリルの表情からして、只物ではないと感じ取った。
「えっと…何て読むの、この字?」
「Ipiria……イピリア、ですか?」
「そうだ。初めて発見された時、とある神話の生物から名付けたらしい。
この魔物こそ、我々が
イピリア。
それこそ、5人が樹海の探索の足止めを食らっている理由だと、フランベリルはハッキリと告げる。
「こやつが下層に降りてくる時期は、こやつがエサとして追い立てる昆虫どもも逃げ回る為活発化し凶暴化する。ゆえに、我々にもしわ寄せがくるということだ」
「倒せばいいんじゃないの?」
「うむ。ある程度腕の立つ冒険者なら勝てよう。だから、君達はイピリアを討伐するまで、あの先の探索は諦めてもらいたい」
「そ、そんな……!」
まさかの足止めに、愕然とした。
ミレニアムの5人としては、モモイの聞いた声の正体を探るべく、今すぐにでも奥へと進みたいのだ。
だから、このような所で足止めを食らっている訳にはいかないのだ。
「待って!」
「なんだ?」
「わ、私達は先に進まないといけないの! 安全が確保できるまでなんて、待ってられないよ!!」
「ふむ。であれば、君達がミッションを受領し―――この
「!!」
先へ進む為に、フランベリルから言い渡された条件は、このイピリアを倒すこと。
あまりに危険な条件に、ユズがモモイの袖を引いた。
「も、モモイ…」
「ユズ?」
「き、危険だよ……。このヤモリくらい、誰かが倒すのを待てばいいんじゃないのかな…?」
「でも、そんなこと言って、帰る為の手がかりが無くなっちゃったらどうするのさ」
「そうだけど…」
ユズの意見とモモイの意見が対立する。
確かに、一時的に不漁の季節を作るほど樹海に影響を与える生き物など、危険以外の何物でもない。
だが、モモイの言う通り、手がかりがまた得られるとも限らない。急がなければ帰れなくなる可能性もある。
どちらにも一理ある意見を聞き、次に口を開いたのはユウカだった。
「落ち着いて、2人とも。どの道迷宮を調査する以上、危険は避けられないと思うわ」
「ユウカ……」
「だから、ここは安全第一で慎重に探索する事を条件にする、というのはどうかしら?」
「……分かりました。無理だけは絶対になしでいきましょう」
「話はまとまったようだな」
冒険者たちの話し合いが終わったタイミングを見計らい、フランベリルが話に再び入ってくる。
「イピリアは樹海の5階での目撃証言が多い。
君達が出会った冒険者…ブランとリノアがサポートに当たる。
彼らの助力を得て、君達がイピリアを倒してくれ。我々は若き冒険者の成長にも期待しているぞ」
そう言うと、辺境伯はミッションを受領したことを証明する書簡を持たせ、5人の少女達を送り出した。
辺境伯の書簡を持ったアリス達は、再び樹海のブランとリノアが守っていた扉の前にやって来た。
二人の熟練冒険者はいなかったが、衛兵隊が陣取っていて、許可なき冒険者が入らないよう見張っているようだ。
「兵士さん!先へ進みたいのでそこを通してください!」
「辺境伯様からの許可は貰っているかな?」
「これでいいですか?」
衛兵に書簡を渡すと、中から取り出した紙を読み……そして、兜の中から明るい声を出して、仲間に扉を開けさせた。
「どうぞ。ここから先は強力な昆虫系モンスターが多くいます。『アルマリク』が先行していますが、お気をつけて」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
兵士の声援を受けて、意気揚々と進んでいく。
扉の先は、それまでとあまり変わらない木々が並んでおり、見た目に大した違いはない。
だが、出てくる魔物に明らかな変化が現れた。
まず、はさみカブトと毒吹きアゲハの出現頻度が多くなった。
更に、新たな昆虫系モンスターの姿を見かけるようになった。
バスケットボール大のテントウムシ。こちらは風を身に纏うように飛び回るだけで、あまり害は見られなかった。
問題は、もう一匹の魔物の登場だ。
「出ました!クワガタ!」
「うわぁ……また怪我したくないなぁ…」
「速攻で片付けてやる!!」
「ユズは念の為身を守ってて!」
「うん…!」
それは、マゼンタの色が特徴的な、巨大な鍬形虫だった。
最初に出会った時、警戒を怠らないようにしていたが……そのクワガタが放ってきた突き上げで、ユウカだけでなくミドリも重傷を負ったのだ。
その経験もあって、クワガタムシを見つけたら最大限に警戒しつつ真っ先に倒す……その認識が強くなっていた。
今回もその礼に漏れず、モモイが氷の術式で、ミドリはアイスショットでクワガタを狙う。しかし、それで倒しきれるほど、樹海のクワガタムシは脆くない。
「攻撃、来ます!―――うぅっ!?」
「きゃあぁぁーーーーっ!?」
「アリスちゃん!ユズ!」
クワガタムシ―――ギラファビートルの脅威である要因・突き上げ。
この一撃が、前衛だけでなく後衛にも届き、時には崩壊させていくのだ。
アリスとユウカで盾を構えて防御し、ユズ自身も身を守らせてこれである。マトモに食らえばどうなるかなど、想像したくはない。
「まだまだ…倒れま、せんっ!」
しかし、備えたお陰で即戦闘不能を回避したアリスの、盾による反撃が、ギラファビートルに直撃する。
キヴォトスでは考えられないほど巨大なクワガタの身体がグラついた。
「また突進してくる前に畳みかけるよ!」
「はぁぁぁーーーーっ!!」
その隙を突き、ミドリが二発目のアイスショット。
ギラファビートルは吹き飛ばされ、動かなくなった。
完全に撃破したことを確認して、一同は息をついた。
「なんとかなったわね……」
「アリス、あのクワガタの素材を採ってきます!」
「うん。…それにしても、強くなったのに、更に樹海の魔物が強くなるなんて…」
「コイツら餌にするイピリアってどんだけ化け物なんだろう……」
「お姉ちゃん、声ってまだ聞こえる?」
「うーん……あの時程ハッキリじゃないけど…まだ、呼んでる気がする」
傷を治しながら、先へと進んでいく5人。
先へ進む度、凶暴さを増していく魔物たち。より複雑になっていく迷宮。
何よりも……辺境伯から聞いた「イピリア」という強大な存在。
その存在が生息する階層に確実に近づいて行っている彼女達は、モモイの聞く声の正体を見つける事が出来るのだろうか。
Tip!:階層ボス
世界樹の迷宮には、階層ごとに強力なモンスターが次の階層への道を拒むように立ちはだかっている。それは、その階層のボスのような存在であり、討伐するにはかなりの経験とバランスのとれたパーティ、何より強敵を打ち倒す戦術が必要だ。
狼や熊の群れを率いる王相手には、手下の獣を乱入させない立ち回りが。複数の獣の特徴を併せ持った魔獣には、俊敏な魔獣を罠に嵌める知能が。湿地を自由に泳ぎ逃げ回る巨大魚には、逃走を許さない追い込み方が。古の石像の試練には、その石像の特質を織り込んだうえでの戦い方が……それぞれ求められる。
魔物図鑑
ボールアニマル
まん丸いアルマジロのような姿をした生物。体当たりをしたり、甲羅で身を守ったりするだけで、樹海に生息する生き物の中では比較的危険性はない。一部の地方では甲羅を剥ぎ、内臓を取り除いて炒めて食する料理の食材となっている。リカタ・ジュタでも、舌触りのよく柔らかい肉として重宝されている。なお、姿を残したまま炒めると言う料理は現段階ではないようだ。
ギラファビートル
巨大な大顎を持ったクワガタムシ。その黒く滲んだ鋭い顎から放たれる突き上げは後衛を貫通する威力があり、防御力の低いクラスはあっという間にやられてしまう。新世界樹の迷宮1で大暴れし、世界樹の迷宮Xでも登場を果たした。地味にタフな虫でもあるので、弱点の氷属性を使って手早く倒したい。
ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも自由だ。
※「ブルア界樹の迷宮」の体験版を
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