その身に刻まれた遺伝子によると、動物に近い生き物である
それを告げても人々はただ笑うだけ
そんな馬鹿な、だって彼らは動きもしなければ何も食べずとも生きているではないか
そう云う冒険者は今日も、呑気に茸が並び立つ森を行く
彼らは信じていないのだろうか
それとも、信じたくないだけなのだろうか
その森では、腹を空かした物言わぬ茸達に見られていることを
あなたの冒険が…次の一歩を踏み出した瞬間に、終わっているのかもしれないことを
第二階層
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新階層と洗礼
突如ミレニアムサイエンススクールから見ず知らずの異世界・リカタ・ジュタに来てしまったモモイ・ミドリ・ユズ・ユウカ。
一足先に来ていたというアリスの話を聞きつつ、元の世界に戻るために世界樹の迷宮の探索に挑む。
そこで、樹海の主・イピリアを倒したことで、帰る手がかりを得た5人は、更なる帰還の手立てを探すため、今日も樹海に潜る―――
淡碧ノ樹海の奥、長い上り階段を抜けるとキノコまみれの森であった。
その光景を見た『ミレニアム』の冒険者は、この世のものとは思えないほど幻想的な不気味さに言葉を失っていた。
「なんか、じめじめしてるね…」
「キノコの生育環境はそんなものでしょうね……でも、これはあまりにも…」
湿気の多さに辟易とする。
キノコしか生えていない樹海の不気味さに進む足が止まっていたが、帰る手がかりを得るためにはいつまでもそうしてはいられない為、5人は探索を始めることにする。
樹海の中は、静かだ。
5人の呼吸音と時折雑草代わりのキノコを踏み潰す足音以外は、何も聞こえない、キノコだらけの森。
しばらく歩いていも、普通の草木が一切見当たらない。
「…おかしいわね」
「何が?」
「いや何が? じゃないわよモモイ。こんな、キノコしかない森なんてありえないわ」
「た、確かに、この光景は初めて見たけど……」
ユウカは、この森を歩きながら観察して、やはりこの階層のあり方は歪だという。
「キノコは植物じゃなくて菌類なのよ。
葉緑体も持ってないから、光合成してここまで自生するなんてあり得ない。
ましてやこんな、植物が一切ないなんて不自然過ぎるわ」
「あぁ……そんな話、どこかで聞いたことがあるような…」
その説明に、ユズが薄々納得している一方で、モモイやミドリは頭にハテナを浮かべている。
その様子を見て、ユウカは付け加えて話を続ける。
「キノコって自分で栄養を作れないのよ。である以上、どこかから栄養を貰って生きている可能性が高いわ。
まぁ、ここのキノコが私達の知っているキノコとは別物である可能性もあるけどね」
「え?………ってことは…」
ミドリの脳裏に、ある疑問が浮かび上がった。
ユウカ曰く、キノコが植物ではなく、みずから栄養を作ることが出来ないのであれば。
「この森の栄養って、どこから来てるの…?」
単純だが、的確な問い。
それに答えることが出来た者は、誰もいなかった。
しばらく探索を続けていると、魔物にも遭遇した。
魔物などいないと思いたかったが、そうは上手くいかないようだ。
当然、階層が変われば、行く手を阻む魔物たちも変わるわけで。
「な、なにコイツら!?」
「キノコが歩いています!」
冒険者たちに襲い掛かってきたのは、小さなキノコに、短い手足が生えたかのような、謎の魔物。茶色・緑・桃色・青と、一匹一匹で色が違い、カラフルだが、どれも毒々しい。マトモなキノコは一匹もいないだろう。
「何をしてくるか分からないわ! 警戒しながら戦って!」
「はい!」
どいつもこいつも、情報が一切ない魔物だ。それらが殺しに来ているのだから、慎重にもなる。
ユウカはどんな攻撃が来ても良いように盾を構え、アリスはブレイブワイドで斬りかかる。
だが、斬られた茸たちに異変が生じた。ダメージを受けたキノコ達が、黙ってやられまいと、小さな体を震わせて胞子をバラまいてきたのだ!
「うわっ!」
「ほ、胞子がっ!?」
「じょ、状態異常ですか!?」
あまりに大規模な胞子の不意打ちは、5人をあっという間に包み込む。
全員が全員、胞子を吸い込むまいと抵抗した。
ユウカが、胞子を振り払った後、仲間の安否を確認しようと後ろを振り向いて。
「みんな、大丈―――」
「ぱーんち!」
「わぁぁぁっ!?」
急に飛んできた拳と目が合った。
咄嗟に防いだものの、予想外の不意打ちに、殴ってきた主を探して……そして、目を疑った。
「み、ミドリ……?」
「どっか~ん!」
「ちょおおおっ! しっかりして!! ミドリ、ミドリーーー!」
そこには……目が虚空を泳いで、意味不明な言葉を口走るミドリが。モモイが肩を掴んで揺らしているが、どう見ても正気を失っているようにしか見えない。すぐに元に戻るわけでもなさそうだ。
「アリスちゃん、ユズ、ミドリが……!?」
すぐに治療するべきだと、アリスとユズの方を見て…ユウカはさらに言葉を失った。
「う……ぐ……体が、動きません……!」
「げほっ…げぶぉっ……すみま、せん、ユウカ、先輩…!」
「アリスちゃん!? ユズ!?」
アリスの方は痺れているのか身体を痙攣させ……ユズの方は真っ青な表情で血を吐き出したからだ。
麻痺に猛毒……どちらもマズい。現段階では、こういった状態異常を治せる薬を持っていない。ユズが使っていたかもしれないが、使い方が分からない以上、安易に使えない。
目の前にはキノコの群れ。厄介な毒をバラ撒き続けられては、いつかこちらが壊滅する。
ゆえに―――判断は早かった。
「モモイーっ! イピリアに使った
「―――ッ!!! 分かった!!」
出し惜しみする余裕なし。
即座にその指示を受けたモモイは、手甲をぶっ壊さんと言わんばかりに術式を即座に起動させて。
「くらえーーーーーーーーーッ!!!」
―――奥の手・超核熱の術式を、放った。
無論、脅威的で小さなキノコの群れは全滅したことは言うまでもない。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「こ、これで、大丈夫なはず……」
「ごめんなさいねユズ。毒の病み上がりで無茶させて」
「い、いえ………これが、私の役目、なので…」
キノコを一掃した後で落ち着いて状態異常の治療を行ったところ、3人とも大事には至らずに済んだ。
錯乱したミドリを真っ先に治し、ユズの毒はミドリの薬用弾で回復して、アリスの麻痺毒もゆっくり治療した結果、完治させた。
「酷い目に遭いました……」
「やってくれたわね、新階層…」
「強くなったと思ったら、敵も強くなるなんて…」
「くっそー、あんなにやられたら素材くらい持ってかないと割に合わないよ!!」
先程の状態異常の嵐で憂鬱になるアリスにユズ、誰に言うでもなく悪態をつくユウカ、そしてヤケクソ気味に蹴散らしたキノコ達から素材をむしり取っているモモイ。
そんな中、ミドリは先程の戦闘について一人、思いを馳せていた。
「(さっきは私、ほぼ記憶がなかったな………お姉ちゃんが全部倒した、か…)」
真っ先に青いキノコ―――トリップマッシュに混乱させられて記憶がなかったミドリ。
もし彼女がいなかったら、わけもわからぬままキノコの餌食になっていただろう。
「(私は、皆の役に立てているのかな)」
ふと心の中に芽生えた疑問。
大したことのない疑問であったが、自覚してしまっては考えてしまう。
「(お姉ちゃんは凄いな。イピリアに操られそうになってもそれを乗り越えて…普段の戦いでも、それを発揮して凄い術式であっという間に魔物を倒して)」
「(アリスちゃんは言うまでもなく、前線で派手に戦ってて。ユズには、怪我の治療でお世話になって。ユウカには、いつも守ってもらってて……)」
「(私は、何かできているのかな………)」
「―――ドリ! ミドリ!」
「!!? な、なに!?」
色々考えていたミドリだが、ユウカの声で意識を呼び戻される。
「ちょっと大丈夫? さっきの混乱の毒、まだ抜けきってないの?」
「い、いや…そんなこと、ないと思うよ? ちょっと考え事をしてただけだし」
「考え事?」
「あんまり大したことじゃないから大丈夫だよ」
「そうなの? なら、良いんだけど……」
いけない、とミドリは気を引き締める。
ここは世界樹の迷宮なのだ。しかも、新たな階層に入ったばかり。
先程も、小さなキノコの群れ相手に大変な目に遭ったばっかりだというのに、これ以上油断などしていられない。
たった今自分の心の中に芽生えた、取るに足らない悩みごとに蓋をして、ミドリは姉を含めた仲間たちについていき、探索を再開することにする。
「また新たな敵です! 皆、準備を!」
探索を続ける少女たちの前に、また新たな敵が現れる。
今度立ちふさがったのは、緑色の体毛に覆われ丸々と太ったウサギと、黄色と青の毛色をしたオオヤマネコが2匹ずつだ。
再び、初めて見る魔物の組み合わせ。それを前に、アリス達は―――
「私が攻撃を防ぐから、皆で攻撃を!」
「はい!」
ユウカが盾を構えると、それ以外の全員がヤマネコに一斉攻撃をする。
……それが、過ちであることを知らずに。
モモイが炎を浴びせて、ミドリが銃弾を撃ち込む。
そして、アリスが剣を振るう―――その前に。
「あがっ――!?」
オオヤマネコが、俊敏な動きでミドリの目の前に音もなく着地すると。
…その喉元に食らいついたではないか。
「ミドリっ! この猫、ミドリから離れ―――っぐあ!?」
ミドリからオオヤマネコを引き剥がそうとしたモモイだったが、その背中に鋭い氷が突き刺さった。……緑色のウサギが放ったものだ。
「モモイ!ミドリ!!」
「それ以上やらせません!」
追い払うように振るったアリスの剣を飛びのいて避けるヤマネコ。
その後でミドリとモモイを見るも、二人とも意識がない。どちらも、強烈な一撃に意識を飛ばしてしまったようだ。
「も、もももモモイとミドリが!!?」
「これはマズいです! 逃げましょう!」
「待ってアリスちゃん! 落ち着いて――」
一気に二人やられてパニックになるアリスとユズ。
逃げるためにアリアドネの糸を出しているのは良いものの、焦りのせいか解いた際に余計に絡まって起動できずにいる。
ユウカは前に立って時間を稼ぐものの、ヤマネコ2匹とウサギ2匹からの猛攻を一身に受けることになるのだ。単身で稼げる時間は多くない。
「落ち着いてアリスちゃん! ユズ!先に私の回復を―――」
「シャアアァッ!」
「ニャ゛アア゛ッ!」
「うぅぅ゛ッ!?」
「ユウカ!?」
アリスとユズに落ち着くよう言い聞かせようとして……オオヤマネコの牙を2匹分、モロに受けてしまったユウカ。
二人を庇うように立っていたユウカも、アリスが持っていたアリアドネの糸の端を最後の力を振り絞って掴むと、そのまま倒れてしまう。
「い、糸を……モモイと、ミドリに…」
「ユウカ!そんな……!」
ユズは、倒れたユウカを前に膝をつく。
ここまでなのか。こんな所で全滅してしまうのか。
だが、アリスの瞳はまだ燃えていた。
「ユズ」
「アリスちゃん!ど、どうしよう……」
「落ち着いて聞いてください。…………アリスに、一度だけ回復を。
そうしたらアリスは、モモイとミドリにアリアドネの糸を括り付けます」
アリスが告げたのは、ここで全員が帰る為の策であった。
アリアドネの糸は、使用すれば一瞬で街に帰れる道具だ。それを使用すれば、この状況から生還できる。
「でも、それだとアリスちゃんが……!」
「お願いします、ユズ。アリスは…アリス達は、ここで全滅するわけにはいきません」
まっすぐにそう言うアリス。
ユズは、アリスの真剣な眼差しを前に…本気を感じ取った。
そして、目の前の魔物たちを観察する。
オオヤマネコとウサギ達は、まだ様子を伺っている。
だが、いつ襲い掛かってくるか分からない。アリスかユズが動けば、間違いなく残りの獲物を狩りに来るだろう。
ユズは、魔物たちから見えないように、アリスに回復薬を手渡した。
それを受け取ったアリスは、ユズと目を見合わせた後、回復薬を一気飲み。倒れているモモイとミドリに向かって走り出した。
当然、ヤマネコ達は獲物を逃がすまいと襲い掛かる。だが、アリスは凍砕斬でヤマネコ達を怯ませると、そのまま一直線にモモイとミドリに手を伸ばす!
「邪魔です!」
「「シャアアアアアーーー!!!」」
アリスがモモイとミドリの身体に糸を巻き付けるのと、アリスの急所に、二匹のヤマネコが牙を立てたのは、ほぼ同時だった。
「ユズ……後は、頼み……ま、す…」
そのままうつ伏せに倒れるアリス。
ユズは、涙が止まらない。
「あぁ…もう私だけしか………そんな…」
手が震える。
チャンスだとばかりに、ウサギが、氷を生成し、その刃をユズに飛ばした。
当たれば致命傷は免れない、凶悪な刃。それを前にして、ユズは―――
「―――でも…あきらめない!!!」
身体をわずかに反らし、完全に避けきった。
プロゲーマー・
「絶対に、皆で帰るんだ!!!」
直後、ユズが掲げたアリアドネの糸が光を放ち―――ギルド『ミレニアム』は、間一髪のところで、迷宮から帰還したのであった。
「早く、早く街で治療を―――!!」
新たな階層に踏み入れ、探索を開始した5人。だが早速、見たこともないモンスターに戸惑い、迷宮の洗礼を受けてしまう。
果たして彼女たちは、厳しさを増す迷宮を突破し、次なる手がかりを見つけることが出来るのだろうか。
Tip!:新階層
世界樹はおおよそ5階ごとに、迷宮の様相がガラリと変わる。そこでは、迷宮内の環境だけでなく、自然の罠も、モンスターたちも変わる。慣れねば命取るになることは明らかだ。
魔物図鑑
毒マツタケ
茶色のキノコに小さな手足が生えているような魔物。その胞子には猛毒が含まれている。頭を封じるか燃やすかしなければ壊滅しかねない。
オオヤマネコ
黄色と青のカラーリングの毛並みをした山猫。アーモロードやタルシスではもちろん、リカタ・ジュタにおいても攻撃力と体力、俊敏性に長け、戦い慣れない人間を食いちぎっていくハンター。頭を封じる事が出来れば凶悪な牙から身を守るだけでなく、牙そのものを素材として利用出来る。
ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。また、アンケートに答えてくれても構わない。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも、踏破した迷宮の思い出を語るのも自由だ。
思い入れのある世界樹の迷宮ナンバリングは?
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初代
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Ⅱ・諸王の聖杯
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Ⅲ・星海の来訪者
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Ⅳ・伝承の巨神
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Ⅴ・長き神話の果て
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新Ⅰ・ミレニアムの少女
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新Ⅱ・ファフニールの騎士
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X
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リマスター版
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不思議のダンジョンⅠ・Ⅱ
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その他(拙作の存在しない記憶を語る)