ブルア界樹の迷宮   作:伝説の超三毛猫

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ブルアカ×世界樹の迷宮、略してブルア界樹の迷宮です。
今年も対戦よろしくお願いします。


ユズと新薬

「ユズが工房と施薬院に行った、ですか?」

 

 新階層の洗礼によって『ミレニアム』が全滅しかけたそのあくる朝。

 アリスとユウカは、モモイから告げられた言葉に耳を疑った。

 

「ミドリと一緒に、だけどね」

「それでも、元居た場所じゃ考えられないわよ!」

 

 ユズは、人と接したり会話をしたりすることが大の苦手だ。

 ミレニアムサイエンススクールでは、ゲーム開発部の部室から出ることさえせず、1日のほとんどを部室のロッカーの中で過ごすほどの引きこもりだ。

 人付き合いだって、友人のモモイとミドリ、アリス以外とはほぼ面と向かって話せない。ユウカや先生の助力もあって、人見知りを克服しようと努力していたところだが、それでもやはり人の多いところは苦手だ。

 そんな彼女が、なぜミドリと同伴とはいえ、外出などするようになったのか?

 

「モモイは何か知らないの?」

「ううん、何も。枕元に書置きがあったからそれをアリスに伝えただけだし」

「困ったわね…私その時、リンダさんのお手伝いをしてたから見てないし……帰ってきたら聞いた方が良いかしら?」

 

 モモイは、手にあった紙を見せながら言う。そこには、ミドリの筆跡で「ユズと工房と施薬院に行ってくる」と書かれているだけだ。モモイも今朝の二人の動向は、メモに書かれたこと以外は知らないらしい。

 

「アリスは、工房と施薬院に行ってみたいと思います!」

「ミドリとユズを探しに行くの?」

「はい! ちょうど伝えていなかったことがありましたので!」

「…なら3人で行かない? 私も、工房に用があったしね」

 

 

 

 

 

 

「ミドリとユズですカ? さっき、ココを出ていった後デスヨ!」

「あっちゃぁ~~、行き違いになっちゃったかぁ」

 

 イチジョウ工房に向かった3人は、シフォンにミドリとユズの所在を尋ねたところ、非常に惜しいタイミングで店に来てしまった事を知る。

 

「ミドリとユズは何しに来たんですか?」

「ンーーーー、まぁパーティメンバーにナラ話シテもいいデスかね!

 といっても、タダの買い物デスヨ。ミドリは籠手を、ユズは新発売の薬を買いに来た、ってだけデス!!」

「新発売?」

「ハイ! その名も、『テリアカ』!!

 毒・麻痺、その他あらゆる状態異常を即座に治せる特効薬デース!!」

「そうなんだ……これがあれば、探索が楽になるかもね?」

 

 その答えに、モモイは息をつく。

 これといって、おかしな行動をしていたわけではなさそうだ。

 

「ソレで、モモイ達は何か買いに来たのデスカ?」

「あー、新しい防具見てってもいい?」

「モチロンデス!! 今はコレ、イピリアの髭で作った服…レインボウクロスが一押しデスヨ!!!」

「あんたねぇ、ミドリとユズを探してたんじゃないの?」

「あっ!そうだった……待って引っ張っていかないで!」

 

 新しく販売された防具に目を引かれつつも、本来の目的があることに気が付き、この後首根っこを引っ張って連れていかれる未来を想像したモモイは身構える。だが、ユウカはモモイに手を伸ばさず、シフォンに「相談があるんですけど…」と声をかけたのである。

 

「え…あれ? ユウカ?」

「先に施薬院に行ってて」

「えーーーっ! ユウカだけここで買い物するの!? ズルい!!」

「ズルいって何よ……元々私、ここで防具を新調するつもりだったのよ」

 

 それに、とユウカが目を伏せた。

 

「………ユズが薬買った理由、なんとなく想像つくし」

「「…………」」

 

 ユウカの言葉に、モモイもアリスも先日のことを思い出していた。

 オオヤマネコ2匹と森ウサギ2匹に全滅しかけた、あの戦闘を。

 

「…ユウカ。私、待ってるよ」

「え、悪いわよ…」

「アリスも、待ちます。きっと、その方が良いと思います」

「…チョット待っててくだサイ。速攻で終わらせマスね」

 

 モモイもアリスも、ユウカの防具の仕上がりを待つと言った。

 その空気の変化を読み取ったのか、シフォンがそんなことを言うと、すぐに工房の奥へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 あの後、あまり時間もかけずに新たな盾が出来上がり、これまで使っていた盾と交換するように購入したユウカを迎え、3人は施薬院へと足を運んだ。

 事情を説明すると、施薬院の男性は困ったような表情をしながらこう言った。

 

「二人とも、ついさっきここを後にしてしまったよ」

「どこに行くとか聞いてませんでしたか?」

「リンダさんのところに行くと言っていたよ」

 

 惜しいことに、また入れ違いになったと言う施薬院の男性に、3人は顔を見合わせた。

 もしやと思い、ユズとミドリは何をしに来ていたのか、と尋ねたところ……彼は、こう返した。

 

「ここにいるメディックに、状態異常や戦闘不能の回復について聞いて回っていたよ…………何故か木箱に入ったまま聞きまわってたけどね。

 格好は兎も角、あそこまで勤勉なメディックは珍しいと思うよ」

「木箱って…」

「ダンボールがないからか…」

 

 ユズらしい姿でユズらしからぬことをしていた事を聞き出した3人は……

 

「ねぇ、やっぱりユズって…」

「そう、だよね?」

「はい。フラグ、ですよね」

 

 …ユズの変化の理由に、ほぼ確信を持っていた。

 アリスはフラグと言ったが、なんのフラグなのかまでは言うまでもないだろう。

 施薬院の男性にお礼を言い、恋する雪見亭へ走った3人。

 辿り着いた酒場のカウンターで、ようやく目的の人物を見つけることが出来た。

 ………リンダと話しているミドリと、縦長の木箱を。

 

「ミドリ!ユズ!」

「! お姉ちゃん…」

「モモイ…アリスちゃんにユウカ先輩も…」

「ミドリとユズ発見です! パーティが合流できました!」

 

 木箱から出てくる声は、ユズのものだ。

 大方、外に出ようと思ったけれど一人じゃハードルが高すぎる上に視線が気になってしまったのだろう。

 結果、人ひとり入れるサイズの木箱がリカタ・ジュタの街を歩くという奇妙な光景を街の人々に見せてしまったのは、この際置いておこう。

 

「ほら、ユズ。パーティメンバーがそろったことだし、そろそろその木箱から出てきたらどうなんだい」

「え…い、いや、その……ちょっと……無理、です………」

「なんだいまだ人の目が気になるのかい? シャイだねぇ、昔のアタシにそっくりだよ」

「え?」

 

 リンダの「昔の自分に似てシャイだ」という発言に耳を疑ったモモイを全員でスルーして、ユウカがここに来た経緯を説明した。

 説明を受けたユズは、恥ずかしそうに、木箱の横に細くくり抜いた穴から目だけを出して、おどおどと、だが確実にメンバーに伝わる声量で、外に出た理由を話していく。

 

「あの、この前の探索で、全滅…しかけたじゃん?」

「まぁ……そうね。アリスちゃんから聞いた。ユズには悪い事をしたわね」

 

 新階層の洗礼によって全滅しかけ、街に帰還した時は大騒ぎになった。

 ユズが普段では出さない火事場のバカ力というやつで4人を施薬院に運び込み、治療をお願いしたことから発覚した。

 手当を受けて目が覚めた4人は、安堵して涙を流すユズと抱き合ったものだ。

 危ないところから帰還できた喜びもあったが、それはそれとして、ユズには反省するべきところがあったと言う。

 

「モモイと、ミドリが、倒れた時…私が、回復するべきだったんだって…蘇生薬も、そうだけど…私自身が、手当のやり方とか、わからなかったから…」

「ユズ……」

「だから、次はこういうことが起こらないように……私自身が、出来ることを増やしたい、って思ったんです」

 

 木箱の中から、一生懸命探った言葉。

 それは、もっとパーティの、ゲーム開発部とユウカの力にならなくちゃいけない、という焦燥のような決意であった。

 ミレニアムサイエンススクールでは、ユズは傷の手当云々には一切触れてこなかった。せいぜいがゲーム開発のためにネットで集めた情報を持っている程度である。

 だがリカタ・ジュタに転移した彼女はメディックとして冒険者をしている。望む望まないに関わらず、治療を担う衛生兵として、アリス達と戦っているのだ。

 最初にユズがメディックを選んで冒険者登録をしたのは、ギルド長のショウに相談した結果でもあり、他の役職が絶対自分に合わないと思ったからだ。

 

 前衛職は漏れなく除外。残る中・後衛職のうち、運動が得意ではなかったためにレンジャーも除外。特殊な才能が必要だと言われてカースメーカーとプリンセス、ミスティックも勧められなかった。『職被りは避けた方が良い』とショウ始めとした冒険者ギルドの方々のアドバイスを参考にした結果、残った戦闘用の後衛職がメディックしかなかったのだ。

 

 しかし、それでもユズは努力していた。

 今日のこの外出も、その一環であった。

 すべては………全員で生きて、キヴォトスに、ミレニアムに帰るために。

 

「もうこれ以上、皆にあんな目に遭ってほしくない…

 誰も欠けずにミレニアムに帰りたい、から……」

 

 人の視線と戦いながらも、ユズなりに生還のために模索していた事実に、4人は居ても立っても居られず、声をかけることにした。

 

「ユズ」

「ユウカ先輩?」

「私も…同じ気持ちよ。

 ここに来て、探索を始めてからはね……どうすれば、皆を守れるか。そんなことばかり考えてる。

 私はタンクだからね。真っ先に倒れたら、皆を守れないし」

 

 新調したばかりの盾を掲げて「その為により強力な防具を買ってるのよ?」と付け足すのは、戦闘で常に矢面に立っているユウカ。キヴォトスにいた頃から、戦闘は先陣を切るタンクを担っていたが、リカタ・ジュタでも同じ役割を進んで担っている。

 

「私はね、タンクとして前に立つのは怖くはないわ。

 ミレニアムでもやってたから……っていうのもあるけど、ここでも怖くはないのよ。

 勝手は全然違うけど……ユズが治してくれるんでしょ?」

「ユウカ先輩…!」

「そうだよ!ユズが頑張ってるの、私も知ってるんだから!!」

 

 続いて、勢いよくユウカの励ましを肯定したのはモモイ。

 持ち前の明るさとリーダーシップで、ユズに熱く語る。

 

「私、これからもっと、アルケミストの術式について勉強する! ユズのこと、守ってみせる!

 だから、だから……! 私達が傷ついた時は…治してくれる、かな?」

「私も…ユズのことは、頼りにしてるんだよ…!」

「ユズ……ユズは、初めて出会ったあの日から、ずっとアリスのパーティメンバーです!」

 

 それに、ミドリとアリスも続く。

 木箱ののぞき穴から降り注ぐ光のように温かな言葉たち。

 仲間たちからそんな暖かい声をうけ、思わず涙が溢れそうになった。

 

「ありがとうっ……私、がんばる…! 頑張るよ…!」

 

 しゃくりあげるのをこらえながら、ようやく出た返事に、『ミレニアム』のメンバーたちは笑顔になった。

 

 

 

 

 

 ―――そんなことがあり、日を改めて『ミレニアム』は探索を再開した。

 全滅しかけた経験を受け、どのような敵との戦いでも消耗を気にせず全力で戦い、モモイの術式やユズの回復、ミドリやアリスの攻撃が出来なくなるくらい疲れてきた(TPが尽きた)タイミングで帰還する。

 その方針のもと、彼女たちは鮮やかなキノコまみれの樹海を歩き、地図を書きながら進むことにした。

 

「「ニ゛ャァァァ…!」」

「!! この前全滅しかけた組み合わせです!」

 

 オオヤマネコと森ウサギが2匹ずつの組み合わせ。

 かつてアリス達を追いつめた個体ではないだろうが、彼女たちにとっては嫌な記憶の魔物たちだ。

 ゆえに―――油断も、容赦もしない。

 

「アリスちゃん! ヤマネコの防御はお願い!」

「はい! 二人の防御態勢です!」

 

 ユウカはウサギの氷を警戒し(フリーズガード)、アリスはヤマネコの攻撃に備える(シールドアーツ)

 二人が防御に回る間、才羽姉妹は魔物たちの殲滅に回る。

 

「新技のお披露目だ! 喰らえぇーーーーっ!!」

 

 モモイは、新たな術式を手甲から放つ。

 薬品でできた煌めきが魔物の群れの中心地に飛んで行った直後、そこを中心に大爆発が起こった。

 これぞ、アルケミストの新なる技、『大爆炎の術式』。複数体の魔物に攻撃することを目的に開発されたこの術式は、文字通り爆炎で敵を焼き尽くす。

 だが、爆発後の煙の中から、二匹の影が飛び出た。

 

「うげぇッ! あれでまだ生きてんの!?」

「お姉ちゃん下がって!」

 

 獲物に手傷を負わされた怒りのままに飛び掛かってくる2匹のオオヤマネコ。

 その内一匹は、ミドリの銃口が既に向けられている。

 

「シャァァァァァ!!?」

「やらせないよ!」

 

 見事に頭に銃弾を命中させる。

 貫通させてはいないものの、オオヤマネコ一匹は頭に襲ってきた激痛に悶え、獲物を襲うどころではなくなってしまった。

 だが、もう一匹は今にも目の前にいたアリスを食いちぎろうとする。

 

「くぅぅぅぅぅぅっ!」

「ニ゛ャ゛ァァァァァッ!!」

 

 盾を構えていたアリスは、オオヤマネコのされるがままに嚙みつきを許しはしない。

 剣と盾、牙と爪が飛び交い、肉弾戦のようになる。

 それを制したのは、アリスだ。盾の追撃が、オオヤマネコの頭に直接ヒットした。ヤマネコが吹き飛ばされ、ふらつく。

 チャンスと見たのも束の間。アリスの眉間目掛けて……氷の刃が飛んできたではないか。

 

「ユウカ!」

「OK!」

 

 だが、そこは打ち合わせていた通り。

 ユウカが、飛んできた氷を全て弾き落とした。

 

「大丈夫? アリスちゃん」

「まだまだ元気です! 魔物たちをやっつけてしまいましょう!」

 

 オオヤマネコの体力を削り、森ウサギの攻撃を捌ききったタイミングで、ユズが回復に来る。アリスの、山猫に噛みつかれた辺りを診て、念の為に薬を塗った。

 初動で魔物たちの体力を一気に削り、こちらの被害を最小限に抑える。

 これが出来た時点で、トラウマを克服する戦いはもう勝ったも同然であった。

 

 

 

 

 

「パンパカパーン! アリス達はオオヤマネコと森ウサギをやっつけた!」

 

 いつも通りにファンファーレを口にするアリス。

 それだけではなく、ユズも何故かもじもじしている。

 

「どうしたの? ユズ」

「あ、あの、ね。………私、役に立てたかな?」

 

 恥ずかしがりながら、おっかなびっくりそう尋ねるユズ。

 それに、パーティメンバーは全員が、笑顔で答えた。

 

「「「「勿論!」」」」

 

 信頼できる仲間のその答えに、ユズはこの日、イチバンの笑顔を花開かせて。

 

「良かった…!」

 

 ―――と、そう呟いたのであった。

 

 

 

「あ、皆さん!

 良かったら、オオヤマネコと森ウサギのドロップ品を取ってみませんか?」

 

「「「「あ…それはいいです……」」」」

 

「むぅ…残念です…なら、アリスだけでドロップ品を獲得しちゃいます!」

 

 ちなみに、動物系の魔物の素材の剥ぎ取りは、未だに慣れず、ほぼ反射的に拒否してしまっていて、アリス一人に任せる形になった。

 




Tip!:テリアカα/β
世界樹の迷宮における状態異常回復アイテム。
αとβで治せる状態異常が違い、αは各部位の封じという状態異常を、βは毒・麻痺・石化・呪い・混乱といった一般的にイメージされる状態異常を治すことができる。



魔物図鑑
トリップマッシュ
青色に紫の斑点を持つ毒々しいキノコのモンスター。その胞子は、吸った者の正気を奪う効能を持っている。リカタ・ジュタの迷宮では第2階層に生息し、1人ずつ混乱させてから冒険者を襲う。

森ウサギ
丸々と太った緑色のウサギ。他の迷宮ではあまり脅威ではなかったウサギが、リカタ・ジュタでは脅威の第2階層の魔物として登場。雪化粧という単体氷属性の刃で冒険者を襲う。なお、このウサギの毛皮は寒さや湿気には滅法強いが炎にはかなり弱く、毛皮を剥ぎ取る際には冷やされたものでなくては商品として使えない。



ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。また、ゲーム開発部+ユウカの混乱攻撃ボイスを考えてくれても構わない。
送る感想は短くても長くても構わない。感想があることで作者のモチベーションが上がり、よりハイペースでリカタ・ジュタの樹海の謎が明らかになるだろう。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも、踏破した迷宮の思い出を語るのも自由だ。

思い入れのある世界樹の迷宮ナンバリングは?

  • 初代
  • Ⅱ・諸王の聖杯
  • Ⅲ・星海の来訪者
  • Ⅳ・伝承の巨神
  • Ⅴ・長き神話の果て
  • 新Ⅰ・ミレニアムの少女
  • 新Ⅱ・ファフニールの騎士
  • X
  • リマスター版
  • 不思議のダンジョンⅠ・Ⅱ
  • その他(拙作の存在しない記憶を語る)
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