対戦よろしくお願いします。
今回は2層のFOE回です。誰が出てくるか予想しながら読んでみて欲しいです。
「目が回る〜」
「あぁっ! お姉ちゃん!?」
「狙いをォ~~~~、ちゅけてぇ~~~~!」
「ちょ、やめっ、敵はあっちだってばぁ!」
「大丈夫、ミドリ。私が治すよ!」
ギルド『ミレニアム』に所属する、キヴォトス出身の5人の少女は、この日もキノコの樹海――つい最近、辺境伯によって「極彩色ノ茸林」の名がつけられた――の探索に励んでいた。
行く手を遮るキノコの迷宮に、いまだ見慣れないモンスター達。
一瞬も油断できない牙を持つオオヤマネコ。高威力の氷の礫を放つ森ウサギ。
人の体内を破壊する毒を蓄えた毒マツタケ。身体を麻痺させる胞子を放つ刺々しいキノコ・痺れエリンギ。人間の判断能力と平衡感覚を奪うトリップマッシュ。
それでもなお、5人は樹海と魔物たちに果敢に挑んでいく。
例えばユズは、全滅しかけたあの日から動きが変わった。たった今、トリップマッシュの胞子を受けて混乱し暴れるモモイに、テリアカ片手に駆けつけ無理やり飲ませている。
「よし、これで大丈夫!」
「はい!ではユウカ、後はアリス達で追い打ちです!」
「胞子を吸いすぎないでよ!!」
そして、アリスやユウカがキノコを斬り伏せる。
「―――はっ! 私は何を!?」
「な、治った…!」
「少しずつだけど、ここの敵の戦い方に慣れてきたかもね」
「敵の弱点が分かれば、モンスターも倒しやすくなりますから!」
モンスターの情報を徐々に集め、対策を立てることで前回よりも容易に戦いやすくなっているのだ。
例えば、毒マツタケ・痺れエリンギ・トリップマッシュのようなキノコ系モンスターは、もれなく炎属性に弱い。そのため、モモイの炎の術式やミドリの炎属性弾で非常に倒しやすくなるのだ。
他にも、オオヤマネコと森ウサギの両方が、頭を狙って攻撃すれば脅威は半減することも判明した。オオヤマネコは、獲物を仕留める時に必ずその牙を使う。食いちぎられるよりも先に、牙をへし折ったり頭に強い衝撃を加えれば、強力な噛みつきが出来なくなるのだ。森ウサギもそう。どこからともなく氷の礫を生み出し飛ばす技も、集中無しには撃てない様子。ならば、先に頭を打ち据えればいいだけだと判明した。
「ユズ、さっきはありがとね」
「だ、大丈夫、だよ…」
とはいえ、そういった魔物の弱点も絶対ではない。
炎属性をもってしてもキノコが燃え残ることがあるし、オオヤマネコや森ウサギの得意技を封じることが出来ない事もある。
その為のアリスであり、ユウカであり、ユズである。
「ここら辺の魔物には安定して勝てるようになったわね…」
「キノコとヤマネコとウサギ……それ以外は全然出てこないもんね!」
「もっと奥まで行ったら分からないけど…それでも、最初の時よりはだいぶ変わったよね」
「はい! そろそろもっと奥へ向かっても良いんじゃないでしょうか?」
モンスターとの戦いの勝利に酔いしれ、アリスの素材剥ぎ取りを待っている冒険者たちに、一人の影が近づいてきた。
それは、アリス達にとっては見慣れた人物であった。ギルド『アルマリク』の青年・ブランである。
「随分と機嫌が良さそうだな」
「………あなたのせいで悪くなりそうだけどね」
出会ってから、常に露悪的な言い方をし、「樹海を舐めるな」「お前らは雑魚だからすぐに死ぬ」と言い続けてきた男だ。
社交的で、初対面の人とも仲良くなれるモモイでさえ嫌味のひとつやふたつ、返したくなるだろう。
「ここのキノコやら獣やらは下層の虫どもと比べて圧倒的に強い。
淡碧ノ樹海を突破したパーティの中には、ここでキノコの栄養になっちまう奴らも少なからずいるのにな」
「なんでそうっ……気分が下がる話題ばっかすんのさ! いっつもマイナス発言ばっかりで! ホントに冒険者なのあなた!?」
「事実だから言ってるんだろうが。少なくともお前は俺がいなかったらイピリア戦で消し炭だっただろう」
「うっ……それは…それとこれとは別!」
モモイとの言い争いを軽くいなした後で、ブランは他の面々に険しいままの顔を向けた。
「お前らも心覚えがあるだろう?」
全員が息を呑んだ。
この階層に入り始めた時に全滅しかけたのを思い出したからである。
その個々の反応から、何があったのか見当がついたのだろう。ため息交じりにブランは先へと進む扉へと手をかけた。
「ちょっと慣れた程度で覚えた過信が命取りになる。ここからは特にそれが顕著になるんだ………覚えとけ」
それだけ言い残して、先へと進むブランを見送った『ミレニアム』。
だが、このブランの言葉の意味を知るのは、間もなくのことである。
樹海の先へと進むアリス達であったが、その道中で、彼女たちはとんでもないものを見つけることになる。
「! 強敵を発見しました!」
「あれは………羊?」
アリスを始め5人が見つけたのは、巨大な羊であった。
普通なら1メートルもない体高しかないはずの羊だが、目の前の羊は軽く見上げるほどの大きさを誇っていた。巨大なトラックほどある。
それもそうだ。羊は羊でも、世界樹の迷宮にまともな羊がいるわけがなかったのだ。
「何をしてくるか分からないわ。刺激しないように動くわよ」
「あの時の鹿みたいに何もしてこないかもしれないよ?」
「それでもよ。アイツの強さが分からない以上、下手に挑めないわ」
羊は同じ道を行ったり来たりしているだけで、冒険者たちに襲い掛かってくる気配はない。
だがそれは現段階ではの話だ。見つかったら追ってくるかもしれないし、下層の鹿のように気まぐれに己のテリトリーを歩き回っているだけかもしれない。
最初に出会った強敵は、情報を集めるのが鉄則だ。それが出来ない者は、そもそも第2階層まで来ることは出来ない。
羊の動きに気を配りながら、『ミレニアム』は探索を続けることにする。
―――その、次の瞬間のことであった。
「…?」
「ミドリ、どうしたの?」
「いや、なんか、すごい…ゴォォォって音がしない?」
ミドリの呟きに、全員が反応したのは。
「そうかなぁ? 私にはなんにも…」
「待って…! 音がおっきくなってる!」
「な……それって!!」
「何か…近づいて来てる!?」
全員が、風を切るかのような、炎が燃えるかのような、そんな音を耳にした瞬間。
―――真っ赤な何かが、羊に向かって突撃してきたのだ!
「「「「「!!!?」」」」」
横っ腹にモロに食らった巨羊は、キノコの大樹に叩きつけられ、体の羊毛まで燃やされ火だるまになってしまった。
ごうごうと燃え……炎がやむと、ウェルダンに焼かれてピクリとも動かない巨羊が。
呆気に取られて羊が突っ込んでいったキノコの大樹を見ていると、一瞬で羊を燃やした犯人が姿を現した。
……それは、一匹の狼であった。
白虎のような模様の体毛。真っ赤な顔に、恐ろしい顔つき。サイズは、先程燃やされた羊よりもやや小さい程度だろうか。最も目立ったのは、その頭頂部に生えている、赤と灰色の縞模様をしたモヒカンであった。
狼は、火を噴き、両手足に燃えていた炎を踏み消しながら羊の様子を伺っている…………おそらく、先程の羊を吹き飛ばした真っ赤な何かは、コイツが火に包まれながら特攻した結果に違いない!
「…逃げるわよ!」
「当ったり前でしょあんなの相手に出来ないよ!」
ユウカも、モモイでさえも、即逃走を選択した。
様子見を決めた羊の魔物さえも一瞬で斃してしまう狼など、現段階で勝てる相手ではない。
来た道を戻り、どうにかして逃走を試みるが。
「―――ッグァァァァアアアアアオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「やっばい気付かれてるし!!」
「ひ、ひえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「アリス、全力逃走!です!!」
気付かれていると悟り、わき目も降らずに全力で逃げる。
捕まったら死が見える。その状況で、5人は今出せる全力で逃げつつも、狼がどのように襲ってくるかの警戒を忘れなかった。
アリス達を見つけた狼は、絶対に逃がさねぇ、と言わんばかりに口から激しい炎を吐いて、恐ろしい咆哮をあげる。前足で地面を蹴り、追跡態勢だ。心なしか、足元を中心に狼が燃え上がっているかのように見える。
「ッグォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 早すぎる!!!」
そして、そのまま突撃!
おのが身を燃やして空から降る隕石のように、燃え上がりながら冒険者たちに体当たりを敢行した!
「させないっ! 『ファイアガード』ッ!!」
これにすかさず、ユウカが盾を構え、炎攻撃から全員を守る防御術「ファイアガード」を発動。
狼の炎の突撃を受け流そうとするが。
「うっ! ふっ! な…!?」
「「きゃああああああっ!!」」
「ユウカ! ユズ!」
「ユウカのファイアガードが破られた!!!」
1発、2発、3発…と防ぐも手数が多すぎたのか、防ぎきれず、庇ったユズごと吹き飛ばされてしまった。
意識を飛ばされたわけではないが、大暴れする狼を前に晒すには致命的すぎる。
「モモイ!ミドリ! アリスが時間を稼ぎますので、逃げ場所を探してください!」
「えええええっ! あいつ相手じゃアリスちゃんも長く持たないよ!」
「だから言っているんです! 早く!」
モモイとミドリは、アリスの鬼気迫った言葉に、必死に周りを見渡す。
もう、全滅しかけるのは御免だ。帰る為の手がかりを探しているのに、ここで狼に燃やされるなど冗談ではない。
だが、いくら周りを見渡しても、抜け道らしきものは見当たらない。扉は………ここからではまだ距離がある。逃げ切る前に、狼の火達磨突撃が来る方が早い。
「うわぁっ!」
「アリスちゃん大丈夫!?」
「ちょ、ちょっと足を噛まれかけただけです!!」
こうしている間にもアリスに危機が迫っているため、焦りが募る。
祈るように必死に周りを見渡したミドリが、思わず壁を見上げた時。
「!! あった!」
「どこ!!?」
「この壁を上るよ!!」
「の、上る!?」
キノコでできた壁が、偶然梯子のように足場が出来ているのに気が付いた。
傷ついたユウカとユズを先に上げ、モモイとミドリの姉妹もそれに続く。
「アリスちゃん! そこの壁を登って!!!」
「! はい!!」
アリスは、狼に向かってミラージュソードを放ち、残像を生み出す。
狼が残像に目をやった瞬間に、キノコの壁の凹みに足をかけ、上りきることに成功した。
「よし、これで狼は―――」
壁自体は分厚く、キノコの傘がそのまま通路になっているかのようであった。
その傘の道の下を覗いてみると、あの狼がグォオと吠えるだけで、追ってくる気配がない。
―――冒険者たちは、モヒカンの狼の猛追を振り切ったのだ!!
「アイツ、登ってこれないのか!」
「はぁ…はぁ……もうダメかと思った……」
「でもよく気付いたわね、ミドリ?」
「ただの偶然だよ。それにしても、ここも通れるなんてね。地図にどうやって書こうかな……」
「そういえば地図担当はミドリでしたね!」
結果的とはいえ、壁だと思っていたところも進むことが出来るという事実。
このことは、入り組んだ迷宮探索のために頭に入れておいた方がいいと思うミドリである。
「やーいやーい! この馬鹿狼め! 悔しかったら登ってみろー!」
「グオァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「ぎゃあ!? 熱っっつい!! 炎が飛んできた!!?」
「なにバカなことやってんのよ! ほらこっち、先に進めそうだから行くわよ」
脅威的な炎の狼に遭遇し、散々な目に遭ったが、結果的に探索の手立てが……真相に近づくための足掛かりが手に入った5人の少女は、地図への書き方をミドリ中心に考えつつ、より一層慎重に探索を進めることにした。
―――ちなみに、これは余談だが。
「あー、もう酷い目に遭ったよあの狼! 私の髪、焦げてないよね?」
「お姉ちゃんが無駄に煽るからでしょ………うん大丈夫、焦げてない」
「おや? その様子だと……無法の
「え?おじさん、今なんて? 無法の…なに?」
リカタ・ジュタの街に帰還した後で、炎の狼の名と、ついでに巨羊の名を知ったミレニアムの面々は。
「
「沈黙の、夢喰い…………うぅ、いたたたた!」
「あの、これ、どうしてこんな名前に? 誰が名付けているんですか?」
「あれ、知らなかったのか? 辺境伯様お抱えの迷宮関係の記録係がいてな。
そいつらが、発見者から魔物の生態を聞いたり、要望を聞いたりして決めているそうだぞ」
「…じゃあ、この中二…じゃない、痛々………でもなかった、かなり独特な名前は、その人たちが?」
「あぁ、そうだが?」
「「「「「……………………」」」」」
「………もしかして、私たちが倒した魔物たちの中には、そういうものもいたのかな…?」
「あの青い鹿とか?」
「あのでっかいザリガニとか?」
「「「「「………」」」」」
辺境伯の関係者によって名付けられた強敵たちの名前のあまりの痛々しさに、全身を震わせる一幕があったという。
Tip!:登れるキノコの壁
極彩色ノ茸林では、迷宮の一部の壁が登れるようになっているという。それで、迷宮の反対側の空間に降りることで探索範囲を広げたり、凶悪な魔物から撒くこともできるという。
魔物図鑑
沈黙の夢喰い
巨大な羊の姿をした魔物。全体に睡眠をかける鳴き声を習得しており、眠った相手を容赦なく喰うことから名付けられた。だがタルシスではディノゲーターに食われる印象が強く、草食動物らしい不遇なFOEでもある。
リカタ・ジュタの樹海では極彩色ノ茸林に生息。キノコを主食として暮らしているが、ここでも草食動物のサガを背負っているらしく、無法の
無法の
ずんぐりとした体形をした、巨大な狼の魔物。如何にも世紀末な
「
沈黙の夢喰いやのちに登場するキノコの
ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。
送る感想は短くても長くても構わない。感想があることで作者のモチベーションが上がり、よりハイペースでリカタ・ジュタの樹海の謎が明らかになるだろう。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも、また踏破した迷宮の思い出を語りに来るのも自由だ。
思い入れのある世界樹の迷宮ナンバリングは?
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初代
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Ⅱ・諸王の聖杯
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Ⅲ・星海の来訪者
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Ⅳ・伝承の巨神
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Ⅴ・長き神話の果て
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新Ⅰ・ミレニアムの少女
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新Ⅱ・ファフニールの騎士
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リマスター版
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不思議のダンジョンⅠ・Ⅱ
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その他(拙作の存在しない記憶を語る)