その樹海の奥地には、水を守りし精霊がいると
古き神話を知る老爺は続けて詠いました
その精霊の地に踏み込んで怒りを買った日には
精霊が人から水の恵みを奪いつくすだろうと
しかし私は思うのです
謎を明らかにせんと欲して挑む人の、何が悪いのでしょうと
それと同時に思うのです
明らかにしてはいけない真実を目の当たりにした時、人は何を考えるんだろうと
第一階層
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初めての迷宮と魔物たち
ミレニアムサイエンススクールから、突如見知らぬ世界……迷宮の街リカタ・ジュタに飛ばされたゲーム開発部と早瀬ユウカ。
彼女達は現在―――樹海の入り口から世界樹の迷宮へと踏み込んでいた。
「改めて見ると……綺麗ね、ここは…」
「ええ……確かに、落ち着いて見ればここまで自然豊かな場所なんてないですよね……」
見渡す限りに存在する、淡緑色の木々。
木々のざわめきと、水の流れる音だけが耳に残り、暖かな風が彼女達の肌を撫でる。
「すごいね…これ…」
ユウカも、モモイも、ミドリも、ユズも、その緑色の絶景に言葉を失う。
彼女達が見惚れるように、迷宮の入り口を潜り抜けた光景は、非常に美しい木々の芸術といってもいい。
その樹海の名を―――
大小さまざまな硬葉樹からなる森林は、艶のある葉が陽光を反射して、ただでさえ淡い色の葉が更にやわらかに見えることから名付けられた樹海である。
―――だが、忘れてはならない。
ここが、これまで数多の冒険者を食らい、命を吞み込んできた危険な樹海である事を。
「皆、行きましょう。アリス達には重要なミッションがあります」
「地図…だよね」
「はぁぁ~……やっぱり、イチから描かないといけないのかなぁ……」
そして、そんな危険な樹海にアリス達が挑む理由は一つ。
樹海の探索を許された冒険者になるべく、辺境伯の宮殿にて授かった最初の試練を乗り越えるためだ。
その試練とは―――ズバリ、『第一階層の正しい地図を描き、魔物の素材を採ってくる』こと。
『冒険者志望の者たちは数多く現れる。だが我々もすべての冒険者に許可を出すワケにもいかん。無駄な死人を出すのと同義だ』
『つまり……』
『最初の試練……それは、君達の実力を示す事になる。
迷宮1階の地図を描き上げて……指定された魔物の素材を納品して欲しい。それが、辺境伯たるこのフランベリルが君達に課す最初の試練だ』
『ち、地図を描く!? それ、スマホとかカメラとかはないの!?』
『すまほ? かめ、ら…? 地図を描くのは羊皮紙にペンでに決まっているではないか』
自分達と年代が変わらない、鋭い目をした辺境伯の少女との会話を思い出す。
進んだ科学技術によって生み出された便利な道具が存在しない以上、地図の作成は手描きになる。
一度覚えた便利が絶対に忘れられず、地図を描く前からやる気が失われていたモモイだったが、何かを思い出したような表情でミドリに顔を向けた。
「ねぇ!こういうのはさ、地図描く係と周りを見る係で分けた方が良いんじゃない?」
「急にどうしたのお姉ちゃん」
「ほら、ここって危険な迷宮なんでしょ?なら、地図描いてる途中で襲ってくる魔物とかもいそうだし……」
「確かに、モモイの言う通り、分担して魔物に警戒した方が良いですが…」
「モモイ、あんたまさか地図描きたくないから誰かに押し付けるつもりなんでしょ」
「ギクッ!………そ、そんなことないよ~」
「目が泳いでいるわよ」
普段のやらかしが酷過ぎて最初から疑われ、結果本来の目論見さえ筒抜けである。
いくら地図の手描きをやりたくないからって、あまりに露骨すぎたのであった。
「…わかった。じゃあ地図係は私がやるよ」
「え、いいの!!?」
「お姉ちゃんマトモな絵すら描けないでしょ。私は慣れてるから」
「あ、あの、ミドリ…私も、必要ならサポートするからね」
「ありがと、ユズ」
結局、地図係はミドリとユズに任せる事になった。
しばらく樹海を進み、地図を描きながら探索を進めていたアリス達だったが、その行方を阻む影が現れた。
小さな猫ほどのサイズで駆け回る、紫色の体色をした森ネズミ。
全身が棘で覆われた、黄色い針ネズミ。
二足歩行の桃色の身体で襲い掛かる、肉食コアラ。
巨大な足から放たれる飛び蹴りが脅威と聞く、グラスイーター。
樹海を冒険する彼女達は、当然ながらそれらの相手をせざるを得ない。
「うわぁっ! バッタがおっきい!気持ち悪い!」
「言ってる場合じゃないよユウカ!早速敵を撃って…あ」
グラスイーターの絵面に怯むユウカを助けようとして、モモイが普段通りに銃を取り出そうとする。
しかし、懐につっこんだはずの手に手ごたえが帰って来ず……そういえば銃はないんだったと思い返した。
その瞬間が、隙になってしまう。それを見逃す程、樹海の魔物は甘くない。
「お姉ちゃんっ!前!」
「わぁぁぁぁっ!!!」
肉食コアラの足払いにものの見事に引っかかったモモイは、派手にすっ転んだ。
その隙に彼女の身体に食いつかんと、肉食コアラは襲い掛かる。
つい、腕を前にして防ごうとした時。
モモイの前に割って入って来て、剣を振るった存在がいた。
「やぁっ!!」
「アリス!?」
「パーティメンバーはやらせません!」
アリスだ。
思いきり振った剣は、肉食コアラの腹部を切り裂き、致命傷を与えた。
崩れ落ちた肉食コアラを一瞥してから、今度はユウカに襲いかかっていたグラスイーターに狙いを付けた。
「ユウカ!」
「アリスちゃん!」
「そのまま動かないでください!」
その一言でユウカが固まると、アリスは盾を構えたまま突進!
巻き込まれたグラスイーターは、そのまま樹海の木の一つに叩きつけられ、動かなくなった。
「た、助かったわ…」
「油断禁物です!」
「ミドリとユズは…」
難を逃れたモモイとユウカは、ミドリとユズを探す。
二人は、すぐに見つかった。森ネズミと針ネズミに挟まれていたのだ。ミドリが銃口を向けて牽制しているが、撃たれると思っていないのか、或いはその道具が何か理解していないのか、ネズミ達に怯む様子はない。
「や、やばい!助けなきゃ!でもどうやって―――」
「モモイ、ギルドで登録した自分の職業を思い出してください!」
「え!? 職業って一体なんの―――!!」
妹と部長のピンチに慌てるモモイは、アリスのアドバイスを聞いて思い出す。自身がなんと呼ばれていたかを。
アルケミスト―――錬金術師。そう呼ばれていた事を思い出したモモイは、転移した時には両手に備え付けられていた籠手を見た。
梵字が刻み込まれた、妙に機械的な籠手。コレをいじることによって、術式とやらを放つとか。
「ユウカ!アリス! 足止めお願い!」
「モモイ? 一体なにを…」
「コレであのネズミをぶっとばす!」
使い方なんて分からない。
なにをどうすればいいかなんて、分かる訳がない。
だが起動し、術式が撃てれば何でもいい。
すべては、目の前で襲われかけている、大事なものを守るために。
何度か、スイッチか何かを触っていると、キュイィィンと籠手が起動する音が鳴りだした。
「よし!これで!」
「な、なに!?」
「お姉ちゃん…?」
「みんな、そこをどいて!!―――どわぁ!?」
掲げた腕を、森ネズミと針ネズミに向ける。
そして―――その腕から、轟音とともに炎が飛び出した。
それは、ほぼ暴発のようなものだった。
だが、撃ちだされた炎は空中で消えることなく。
そして、炎が明後日の方向に飛んでいくことも、奇跡的になく。
樹海のネズミたちに向かって飛んでいく。
「「―――!!」」
火の玉が、森ネズミを包む。
森ネズミは、もがくように暴れ、炎を消そうとする。
残った針ネズミも、突如飛んできた炎に、驚き戸惑って逃げ出そうとする。
「今です!」
「これなら…外さない!」
だが、そんなことは冒険者たちは許さない。
アリスの剣が森ネズミに引導を渡し、ミドリの銃から放たれた弾は、針ネズミの急所に違わず命中した。
「や……やった…」
「か、勝てた…?」
初めての樹海での戦い。
それは、少女たちにとってはあまり実感の湧かないものであった。
それは正真正銘の、命のやりとりだった。キヴォトスであった銃撃戦が、児戯に思える位の。
「こ、怖かった…」
「ゆ、ユズ、大丈夫…?」
「ど、ど…どーよ! 私の力、凄いんじゃない?」
「ちょ、調子に乗らないでお姉ちゃん」
膝から崩れ落ちたユズに駆け寄るユウカ。空元気を出して調子に乗るモモイを窘めつつも、どこか落ち着かないミドリ。
死の恐怖がどこかまとわりついていた戦いの緊張感は、すぐに抜けてくれそうになかった。
そんなミドリが、姉を窘めつつ「アリスもなんとか言って」と声をかけようとした時、アリスの姿が近くにないことに気が付いた。
「あれ、アリスは?」
「どうしましたか、ミドリ?」
「あっ、いた―――え?」
「な…何してるの…アリス…!?」
よくよく探してみると、倒れて動かなくなった魔物の近くに座り込んで、サバイバルナイフを取り出したアリスを目の当たりにする。
モモイがその絵面に対して至極当然の質問を投げかけると。
「もちろん、モンスターの素材を集めています!」
「そ、素材?」
「この手のゲームでは、モンスターはお金の代わりに素材をドロップします! それを売って、お金を稼いだり新しい武器を買ったりするんです! みんなもドロップ素材を探してみませんか?」
「わ、私は……遠慮しておくね……」
「ごめん、私も……」
「私も…」
「むぅ、何でですか? こうしないとお金が手に入らないんですよ?」
「アリスちゃん……そういうのは、貴女に任せても良いかしら……?」
顔色を変えず、さも当然のようにグラスイーターから脚を切り取るアリスを、遠巻きに眺める事しか出来ない4人。
この日の魔物の素材集めは、アリスが最後の一匹を捌ききるまで、他の4人は何も出来なかった。アリスが時折「ホントに良いんですか?アリスがドロップ素材を採っちゃいますよ?」と念を押しても、首を振るしかなかった。それと同時に、「この手の魔物を捌くのはアリスに任せよう」という決意が固まり、絆が深まったのであった。
―――それから何度か、戦いがあった。
しかし、初の戦闘程危機に陥ることなく、最初さえ乗り越えればキヴォトス人の強靭な肉体を活かすことができ。
肉食コアラや、森ネズミや、針ネズミなんかが何度か襲い掛かってきたものの、アリス達は打ち破ることができたのだ。
それを何度か繰り返していく内に、指定範囲内の樹海の探索が終わり、地図も書けてきたことで、樹海から街に戻った一行は、再び辺境伯の宮殿に向かい、試練の成否を報告する事になる。
「ふむ……」
フランベリルと名乗った、貴族の服を身にまとった少女が、鷹のような目でミドリの描いた地図を確認する。
何分も続くかのような緊張の中、フランベリルは顔を上げ―――そして、嬉色の混じった声で称賛した。
「見事である。して、魔物の素材の方は……」
「こちらです」
「ふむ……桃色の毛皮が5つ、小さな前歯が4つ、ネズミの針が3つ………うむ、すべて揃えてくるか。
―――よくぞ、この試練を乗り越えた」
試練を乗り越えた。
その言葉が聞こえた瞬間、モモイ達は嬉しそうな顔を見合わせ、自分達の努力が報われたことを悟った。
「この瞬間より、君達もリカタ・ジュタの冒険者の仲間入りというワケだ」
と、魔物の素材を受け取ったフランベリルは、側に控えていた職人らしき人物にそれを渡した。
職人は、予め用意していた木の札を桃色の毛皮で包み、針で縫っていき、ネズミの前歯でソレを留める。これをあっという間に5回繰り返し、アリス達が渡した素材はピンク色の札になって5人に配られた。
「それが冒険者の……リカタ・ジュタの冒険者の証だ。
その証を商店で見せれば、探索に役立つ道具を買う事が出来よう。それで、どうか探索の役に立ててほしい。
これからもどうか、末永く、君達と付き合えることを祈っているよ。―――ギルド『ミレニアム』の冒険者諸君」
自分達がパーティを組んだ時、帰るべき場所の為にと全会一致で付けたパーティの名前。
それを自分と年齢の大差ない少女に呼ばれた時、彼女達は不思議な高揚感に包まれた。
自分達が、あの科学技術溢れる、愛しい母校に帰るための第一歩。
それを踏み出す許可を、目の前の荘厳なる少女が出してくれたようで。
それが、モモイ達にはとても嬉しく、心が引き締まるような心地がした。
「「「「「――はいっ!!」」」」」
5人の返事が揃う。
これでようやく、元の世界へ帰るための手がかりを探すことができる。
そう思った彼女達が見た未来は、たとえ見えなくっても、明るく輝いていた。
Tip!:ヒーロー
世界樹の迷宮におけるクラス(職業)のひとつ。
剣と盾を使い、仲間を守りながら進むべき道を切り拓く。また、技を使用した際にその素早さから残像を作り出す事もでき、一人でいるとは思えない怒涛の攻めや攻防一体の働きをするとも言われている。
Tip!:Story開始時保有スキル
アリス
残影Lv.1/ミラージュソードLv.1/シールドアーツLv.1
ユウカ
フロントガードLv.2/バックガードLv.1
モモイ
術式マスタリーLv.1/炎の術式Lv.2
ミドリ
銃マスタリーLv.1/ラピッドファイアLv.1/ドラッグバレットLv.1
ユズ
ヒーリングLv.1/抗体Lv.1/戦後手当Lv.1
魔物図鑑
グラスイーター
大きなバッタの魔物。強い脚力から繰り出される蹴りは要注意だが、群れでない限りは恐れる必要はない。
ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも自由だ。
先生、世界樹の迷宮は知ってますか?
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“うん、もちろん知ってるよ”
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“いや、知らないなぁ。ごめんね?”