今回はゲーム開発部らしい回を意識しました。楽しんでもらえたら幸いです。
ギルド『ミレニアム』が迷宮探索を解禁される前…リンダからウェイトレスの仕事を斡旋される少し前のこと。
モモイとミドリは、カードを片手に、睨み合っていた。持っているカードは、ミドリが一枚、モモイが二枚。その中で、ミドリは姉の手札に手を伸ばしていた。
「こっち!」
カードを抜いたミドリは…その2枚をあっさり捨てた。それらの表面には、手作り感満載のスペードの2とダイヤの2が描かれている。
「うわーー!!また負けたー!!」
残ったジョーカーを投げ捨てて、モモイは泣いた。
ギルド『ミレニアム』は現在……ババ抜きをしていたのだ。
現在、モモイが4度目の敗北を喫していたところである。
「ねぇおかしいって!なんでそんなにジョーカーだけ残せるの!?」
憤慨するモモイ。だが、これには当然、理由があった。
ただモモイが運がなく(元々モモイは運が良い方ではないが)、ボロボロにされているだけではないのだ。
「だって…ねぇ? ホントは分かってるんでしょ?」
「うっ…!」
「こればっかりは……」
「紙のデザインが違いますので!」
「くぅぅ〜〜〜っ…!言わないでって言ったのに!」
今、使っているトランプに使われている紙は…当然、ミレニアムサイエンススクールでよく見た紙や、トランプに使われていた紙とは質が違うのだ。
リカタ・ジュタの紙はそこまでクオリティが高くない。それで手製のトランプを作ったは良いものの、裏面の細かな違いが分かってしまえば、どの紙がどのマークなのか、分かってしまった。
「これじゃあ使えないよ〜!」
「そうだね。下手すれば、イカサマのし放題かも…」
憤慨するモモイに、ミドリもため息を重ねた。宿屋のテーブルには、手作りのトランプが散乱している。紙の裏面のわずかな色ムラや繊維のパターンを覚えてしまえば、ジョーカーの位置など一目瞭然だった。しかも、ちょっと強い明かりに透かせば、マークまで分かってしまう致命的な欠点も抱えていた。
「だいたい、この紙の質が悪すぎるんだよ!キヴォトスの紙なら、もっと均一で透けたりしないのに!」
モモイが地団駄を踏むと、会計記録をつけていたユウカが顔を上げた。
「モモイ、その指摘は現実的じゃないわ」
ユウカはペンを置き、冷めた目でトランプを見た。
そして、今まで書いていた会計簿を持ち上げ、全員に見せる。
会計簿に使われている紙もまた、それまでモモイ達が遊んでいたトランプと同じで―――繊維が均一でない、まるで質の低い和紙のような紙だった。
ユウカの字が書かれているが、1・2か所ほど、若干の書き損じをインクで塗りつぶした跡があった。
「リカタ・ジュタの紙は、そういうものなの。私たちが知るような、化学技術が詰まったトランプの紙を、ここで一から作るのは不可能よ。残念だけど、この手製のトランプで遊べるのは、せいぜい私たち身内に限られるわね」
そうなのだ。
モモイ達のよく知る、均一な紙とデザインが施された、トランプ用の紙………よくよく考えれば分かる事だが、あれだって化学の結晶である。
ユウカの現実的な指摘に、モモイは「そんなぁ」と、しゅんとしてうつむいた。
「うぅ……せっかく、この世界でもゲームでみんなを楽しませようとみんなで作ったのに」
一抜けしていたアリスは、そんなモモイを励ますように手入れをしていた剣を握りしめた。
「そんなことはありません、モモイ! アリスは信じています!みんなで一緒にゲームを作るという時間は、たとえどんな結果であろうと、価値のあるものである筈です!」
アリスの言葉に、モモイの顔が少し明るくなる。その一方で、ユズは黙って自分の膝を見つめていた。
トランプ作りでは、図案を描くミドリや、アイデアを出すモモイ、コスト計算をするユウカに比べて、自分はほとんど何も貢献できていなかったからだ。せいぜい、紙を調達したり、切り分けたりした程度である。
「そうだ!じゃあ、このトランプがダメなら、別のゲームを考えようよ!」
モモイは立ち上がった。
「トランプにこだわらなくてもいいんだ!キヴォトスには、ボードゲームとかパズルとか、他にも楽しいゲームがたくさんあったじゃない!」
「それもそうね……」
ユウカも、気分転換が必要だと感じた。
「でも、この部屋に籠もっていても良いアイデアは浮かばないわ。少し街を歩いて、何かヒントを探してみましょう」
ミドリ、ユズ、アリスも頷き、五人は宿屋を後にした。
街の通りは、冒険者や商人で賑わっている。
ユズは、皆の少し後ろを歩きながら、周りの店の看板や、職人が使う道具に目をやっていた。彼女の目には、街の細かな構造や、使われている素材の質感が、いつもより鮮明に映っている。
ふと、モモイが足を止めた。彼女たちが立ち止まったのは、普段から冒険者としての装備を整えてくれる鍛冶屋―――イチジョウ工房だった。店の前には、丁寧に磨かれた木の道具や、無骨だが頑丈そうな金属の装備品が並べられている。
「わあ、ここ、前にアリスの剣の鞘を直してくれたところです!」
アリスが声を上げた。
「うんうん。こういう職人さんの道具って、見てるだけでワクワクするよね!」
モモイが店の陳列を覗き込んでいると、店の中から愛嬌のある声が聞こえてきた。
「いらっしゃいマセー!あら、ミレニアムの皆さん!」
出てきたのは、エプロン姿の看板娘、シフォンだった。
シフォンも今では、『ミレニアム』と顔馴染みである。この前など、ミドリの銃の解析が終わったとかで、ようやく最初の装備であるリボルバーが戻ってきたのだ。
「お久しぶりです、シフォン!えーと、実は今、私たち、新しいゲームを開発しようとしてて、ちょっと煮詰まっちゃったんだよね」
モモイは、手に持っていた裏面が擦れたトランプを見せた。
更に、陽の光にかざすことで、マークが透けて見えてしまうのも実演した。
「この通り、裏面の模様とか光にかざしたりとかで中身が分かっちゃうから、これじゃダメで……このリカタ・ジュタの紙で、どうやったら面白くて公平なゲームを作れるか悩んでるんだ」
シフォンはトランプを興味深そうに受け取り、裏面を透かして見た。
「ふむふむ……なるほどデス。この紙の繊維のムラが、かえって情報になってしまうのデスね。紙自体が薄いのも、話をキク限り良くないようデスね…」
彼女はにこりと笑うと、明るい声で提案した。
「それなら!もういっそ違うもので作ってみるのも良いと思いマース!」
モモイたちは顔を見合わせた。
「違うもの?」
「ハイ!例えば、コレ!」
シフォンが店の隅から持ってきたのは、何かの木材を薄くスライスした、円形の木片だった。片面は淡い茶色、もう片面は濃いこげ茶色に塗られている。
「うちの工房で、飾り物に使う木片なのですが、両面の色を塗り分けているので、ひっくり返せば見た目がガラッと変わりマース!」
モモイやミドリが木片を手に取り、裏返したり元に戻したりしている。ユウカはそれを冷静に観察していた。
その時、皆の少し後ろで黙っていたユズの顔が、パッと明るくなった。
「あ……そ、そっか………!」
ユズは一歩前に出ると、シフォンが持っていた木片を指差した。
「し、シフォンさんがおっしゃる通り、紙じゃなくて、木片ならどう…かな………裏表の色を変えて、それを盤の上に並べて遊ぶゲーム……!」
ユズの言葉を聞いた瞬間、モモイ、ミドリ、アリスの頭の中に、白と黒のチップが、緑色の盤面の上でひっくり返っていく光景が一瞬で浮かび上がった。
2色のチップを用いて、挟んだチップが自分の色になり―――最終的に、自分のチップの色の数を競い合うゲーム。その名も―――
「「「「それだーーーーーっ!!!」」」」
全員の声が重なり、目が輝いた。
「ユズ天才!!まさか、木片の裏表を反転させるゲームなんて!」
「白と黒のチップで、相手のコマを挟んでひっくり返すボードゲーム!私たちの世界にもあった!」
「ユウカ!これなら、この世界でも公平に遊べるゲームが作れます!」
「そうね……確かにアレなら―――!!!」
モモイは、宿屋でババ抜きに負けたことなど完全に忘れ、目を輝かせた。ミドリも興奮気味に声を上げた。
アリスも嬉しそうにユウカを見た。ユウカもまた、驚きに目を見開いていた。
「ユズ、あ、あなた……よく思いついたわね!」
まさかユズが、こんな重要なブレイクスルーをもたらすとは思っておらず、ついそのような声が出た。
ユズは照れくさそうに俯いた。
「い、いえ……ただ、シフォンさんの木片を見ていたら、自然と……」
モモイは、シフォンの手を両手で握りしめた。
「シフォン!お願い!この木片と、チップを置く盤を作ってほしいんだ!」
モモイは身振り手振りを交えながら、盤面のサイズや、チップの数、そしてルールの概要を熱弁し始めた。シフォンはモモイの熱意に圧倒されながらも、楽しそうに笑った。
「わ、分かりマシタ!とても面白そうなゲームですね!ぜひ、イチジョウ工房に任せてくだサイ!」
その夜。
イチジョウ工房を訪れたモモイ達は、夕食もそこそこに、シフォンが作業を終えた盤面とチップを受け取った。
八×八のマスが刻まれた木製の盤面は、想像以上にしっかりとしており、木片で作られたチップも、片面が明るい白木、もう片面がシックな黒檀色に丁寧に塗られている。
自分のアイデアがこうして形になったのが信じられない。そう言っているかのような様子で、ユズは小さな木片を両手で包み込んだ。
「すごい……本当に作っていただけたのですね、シフォンさん。ありがとうございます……!」
「どういたしましてデス、ユズさん!とても良いアイデアでしたから、作るのも楽しかったデス!」
ユウカは、その品質とスピードに感心し、すぐに代金と、少しばかりのチップをシフォンに渡した。
「ありがとう、シフォン。コストも計算通りで、この品質は素晴らしいわ。これはミレニアムからの感謝の気持ちよ」
「ハイ!コチラこそありがとうございます!またいつでもおいでくだサイ!」
お礼を言い、宿屋に戻ったモモイは、完成した盤をテーブルの真ん中にドンと置き、誇らしげに宣言した。
「これで……完成だ!ようやくできた!」
「まぁ作ったのシフォンさんなんだけどね」
「細かい事はいいの! とにかく………これで始まるんだ!
リカタ・ジュタに来て最初の―――ゲーム開発部の完成品!その名も……」
「「「「オセロが!」」」」
モモイだけではない。
ゲーム開発部と、そしてユウカの脳裏にも、このゲームが一大ブームを巻き起こすという確信がこの時、あった。
―――ギルド『ミレニアム』が新たな娯楽を開発したことは、すぐに話題になった。
恋する雪見亭に置き、最初は実演としてゲーム開発部が対戦をするさまを見せたことで、冒険者の目に留まり、あっという間に広まっていく。
自分の色のチップで相手の色を挟むだけ、というシンプルなルールが受けたようで、置き始めたその日の夜には、オセロでゲームを始める冒険者も現れ始めたのだ。
「オオ……! ジブンで作っておいてデスが…コレ、すっごく面白いデース!!!」
「ふぅん。傍から見ていても、どっちが有利だかすぐに分かる。考えたね」
シフォンは、開発者でありながら目を輝かせながらモモイとオセロで勝負し。
リンダは、そのゲームの様子が非常に分かりやすいと笑った。
それだけでなく、このゲームの存在を知った宿屋のカイルは、シフォンにもう一つ同じものを作って欲しいと依頼した。
更に、このゲームが生まれたと聞きつけた意外な人物も酒場に現れ、一局指したいと言い出し始めたのだ。
―――若き辺境伯、フランベリル。
彼女もまた、オセロの魅力に惹かれ、あっという間に実力を身に付けていく。
彼女がやがて、「UZQueen」モードのユズといい勝負をするようになるのは、また未来の話である。
ボードゲームの成功は、彼女たちに自信とこの世界での確かな居場所を与えた。
単純なゲームでも、自分たちの持つ「キヴォトスの叡智」が、この地の住人を心から楽しませることができる。その事実は、彼女たちにとって何よりも大きな報酬だった。
そして、三日間の謹慎期間は終わりを告げようとしていた。
Tip!:世界樹の迷宮の世界観
実際に明記されているのは初代だけであり、Ⅱ以降はⅠと同じ世界観であると示唆されているが、技術などは不明だったので、独自解釈を加えた。この世界の紙は羊皮紙が主流で、植物製の紙は質が良くなく量産もされていない、という程度の技術レベルということに。
ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも自由だ。
もっと詳しく書いて欲しい部分とかありますか?
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樹海の世界観
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様々なクエスト
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リカタ・ジュタの人々との交流
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他の生徒達についてのこと
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ブラン&リノアとの交流
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樹海の魔物のこと
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強敵との戦闘
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その他(さり気なく…)