ブルア界樹の迷宮   作:伝説の超三毛猫

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ブルアカ×世界樹の迷宮、略してブルア界樹の迷宮です。対戦よろしくお願いします。

最近、ChatGPTのお絵かき機能を使って拙作の樹海の背景を描いてもらったのですが、クオリティが高過ぎてビビってます。試しに過去の迷宮と今回登場するFOEをAIで描いてみましたので、ぜひご覧ください。半端ないです。

あと、最近鋼鉄大陸編でケイが受肉したり色々出まくっていてビビってます。
拙作ブルア界樹の迷宮においては、

・ケイはまだアリスの中で眠っている
・時系列は最終章後鋼鉄大陸編前

ということにしてください。


戦場 死を呼ぶ突風

「昨日は助けられちゃったな」

「お姉ちゃんは気楽すぎなんだよ、もう~」

 

 ブランとリノアとの合同任務が終わった翌日。

 モモイとミドリは恋する雪見亭のカウンターでジュースを飲みながら、そんな会話をしていた。

 アリスとユウカ、ユズは探索の準備のため、買い出しや酒場での聞き込みを行っている。二人は戻ってくるまでの束の間の留守番だ。

 

 ただし、今回はモモイとミドリ以外にも、雪見亭に座っている人物が二人いる。

 

「気が抜けてるなモモイ・サイバ」

「げっ、ブラン!?」

 

 ブランとリノアだ。

 ブランは変わらず獲物を射殺すかのような目でモモイを睨みつけながら毒を吐く。リノアは、そんなブランの後ろで困ったように笑うだけだ。

 

「昨日の今日だぞ。あのサボテン野郎に食われかけたのをもう忘れたのか? ……学習能力がねぇな」

「うっ……そ、それは……! 次は大丈夫だし!」

「口だけなら何とでも言える。……ったく、どいつもこいつも、威勢だけは一人前なんだよ」

 

 ブランは呆れたように息を吐き、カウンターに重い肘をついた。

 その横顔に、一瞬だけ苛立ちとは違う―――どこか遠い目をした寂しさが過ったのを、ミドリは見逃さなかった。

 

「……ふふ、ごめんなさいね。でも、モモイちゃんを見てると、どうしても思い出しちゃうのよ」

「思い出す? 誰をですか?」

 

 ミドリが尋ねると、リノアは細めた目を店内の窓から見える、そびえ立つ世界樹へと向けた。

 だがそれと同時に、ブランが不機嫌そうに鼻を鳴らし……会話に割り込んでこう言った。

 

「リノア。………あいつの話はやめろ。死んだ奴のことを話すことに意味はねぇだろ」

 

 ピシャリ、と。

 叩きつけるようなブランの言葉に、場の空気が凍り付く。

 モモイとミドリはビクリと肩を震わせ、ジュースを持つ手を止めた。明らかに、踏んではいけない地雷を踏んだ空気だ。

 

「……ごめんなさい、ブラン。でも、あの子たちもこれから第3階層を進んでいくのよ。知っておいてほしかったの」

「必要ねぇ。俺たちがついてる。同じヘマはさせん」

 

 ブランはジョッキに残った酒を一気に煽ると、ドンと乱暴にテーブルに置いた。

 その顔には「この話は終わりだ」とはっきり書いてある。

 だが、その頑なな態度が、逆にモモイのゲーマーとしての直感を刺激した。

 

「(あの反応……絶対なにかあるって顔だ……ただの失敗談とかじゃない、大きな何かが…)」

 

 モモイはチラリとリノアを見る。リノアは困ったように微笑み、二人にだけ聞こえるような小声で囁いた。

 

「……『リコ』っていうの。3年前に死なせてしまった、私たちの……可愛い弟子よ。ブランのこと、本当の兄みたいに慕っていたわ」

「えっ……」

「遺体も、あの子がブランに憧れて特注した剣も……流砂の底から回収してあげられなかった。ブランはね、それをずっと悔やんでるんだと思うの」

 

 ―――なるほど、フラグは立った。

 モモイの中で、バラバラだったピースが組み合わさる。

 あの時、サボテンの魔物に襲われた自分を助けた時の、あの過剰なまでの剣幕。

 「油断したら死ぬ」という言葉の重み。

 それは単なる説教ではなく、かつて救えなかった少女への贖罪だったのだ。

 だったら、やることは一つしかない。

 

「―――決めた!!」

 

 モモイが勢いよく立ち上がり、テーブルをバン! と叩いた。

 突然の大声に、ブランが怪訝そうに眉を寄せる。

 

「あぁ? 何がだ」

「私たちが回収してくるよ! そのリコって子の剣!!」

「……は?」

 

 ブランが間の抜けた声を出し、リノアも目を丸くする。

 ミドリが慌ててモモイの袖を引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!? 何言ってるの!? 流砂の底ってことは、この前の魚の群れがいる場所でしょ!?」

「関係ないよ!だって、なんか悔しいじゃん!私に似てる子がそんな終わり方したなんてさ!それに……」

 

 モモイはビシッとブランを指さした。

 

「ブラン、あんた本当は気にしてるんでしょ?『意味はねぇ』とか言いつつ、その顔は全然割り切れてない証拠だよ!」

「…………」

「ゲーム開発部の名にかけて、バッドエンドのままじゃ終わらせないよ! その、リコって子の遺品……絶対に持ち帰る!これはクエストだよ、ブラン!」

「……おい、ガキ。調子に乗るなよ」

 

 ブランの声が低くなる。ドスの利いた声だ。

 

「あいつを殺ったのは新人殺しの初見殺し……この前の魚とは比べ物にならん相手だ。遊び半分で行って勝てる相手じゃねぇ。お前も……砂の底で眠りたいのか?」

「遊びじゃないよ! 本気だよ!」

 

 ブランの威圧にも、モモイは引かなかった。

 その瞳は、真っ直ぐにブランを見据えている。

 

「攻略法があるなら教えて。アリスもいる、ユウカもいる。私たちは絶対に負けない。

 ……あんたが置いてきてしまったもの、私たちが絶対に取り戻して見せるから!」

 

 食って掛かるモモイに根拠などない。しかし、自信だけはあった。

 それに対して、すぐに怒鳴り返さなかったのは、先日のクエストの合同任務で、実力を認めたからだろうか。

 ―――はたまた、今は亡き弟子に、重なったからだろうか。

 ブランはしばらくモモイを睨みつけていたが、やがて大きく溜息をつき、ガシガシと頭を掻いた。

 

「……ハッ。いい度胸だ。止めはしねぇが、助けもしねぇぞ」

「うん、それでいい!」

「……リノア。あいつらに『砂の霊』の行動パターンを教えてやれ。……特に、砂嵐が晴れる隙についてな」

 

 ブランは顔を背けたまま、それだけを言った。

 それが彼なりの、不器用な「依頼の受諾」だった。

 

「ふふ、ありがとう、ブラン。……モモイちゃん、ミドリちゃん。後で詳しく説明するわね」

 

 こうして、ただの世間話だったはずの会話は、モモイの暴走(?)により、過去の因縁を晴らすための『遺品回収クエスト』へと変わってしまったのだった。

 

 

 

 

「―――というわけで、やってきたぞー!流砂エリア!」

「はぁ………」

 

 数時間後。

 ミレニアムは、砂塵ノ仙閣―――世界樹の迷宮12階の流砂エリアに足を踏み入れていた。

 モモイが無謀な遺品回収クエストをブランから受注したと聞いた時は拳骨を落としてやろうかと思っていたユウカだが、受けてしまった以上、やっぱり無しというわけにはいかない。

 

「ブランさんには、助けられた借りがあるからとはいえ……なんて無茶をしようとしてるの」

「え、えっと………ご、ごめんね?」

「別に嫌って事じゃないわ。………リノアさんから聞いた限りだと、相手も厄介そうだし」

 

 ユウカに限らず、『ミレニアム』は事前準備としてリノアから必要な情報は聞いていたのだ。悲劇があった階層、リコの装備の特徴、そして………リコを奪った犯人………その強敵の正体も。

 

「彷徨う砂の霊………姿を隠して、瞬間移動しながら待ち伏せする敵。これからの探索で、そんなのに奇襲されたらひとたまりもないからね。ある意味、チャンスかもしれないわ」

「おっ、ユウカ、ようやく強敵撃破狙いですか!?」

「あくまで目的はリコさんの剣よ。その過程でソイツに出会ったら、攻略の糸口くらい掴めるかもってだけだから」

 

 目的のリコの剣は、リノアの話によると、「ブランの剣を真似て特注した、ひと目でそれと分かる剣」とのこと。大まかな形はリノアからメモを貰っているが、ブラン曰く「見れば一発で分かる」らしい。

 

「ブランさんの剣を真似たって聞いたけど……」

「前衛で、しかも私達くらいの女の子だったんでしょ?……あまり合理的な武器選びとは言えないわね」

 

 私たちみたいに銃弾を受けても平気な身体じゃない。生身の人間が、そんな鉄塊を振り回すなんて、と無謀な武器のチョイスに本音が漏れるユウカ。

 しかし、そこを否定するのは、やはりモモイと……意外にも、ユズだった。

 

「ブランが憧れだったからだよ!あの人も、剣と斧、両方持って前衛を張ってたんだし!」

「それに……シフォンさんも、リコさんの事は知ってた、みたい」

 

 ユズは、リコの剣を探すとなった時に、手がかりになれば、とイチジョウ工房に足を運んでいたのだ。

 

「『自分の武器を褒めてくれた、お姉さんみたいな人だった』……って」

「そういえば、リンダさんも覚えてたね、リコさんのこと」

 

 ミドリが思い出したのは、自分たちが世話になっている酒場……恋する雪見亭の店主・リンダのひとことだ。

 

『確かにあんたらの中だったら……モモイに似てたかもね。もっと元気で、もっと抜けてて……だからね、あんたらもあぁなるんじゃないよ』

 

 全員が全員、リンダのそのエールを聞いていた。

 リコという冒険者が、かつて確かにリカタ・ジュタの街にいたという事実を噛みしめながら、彼女たちは流砂が渦巻く12階のエリアの探索を開始していく。

 

 

 探索を始めてから数十分。

 しばらく、砂を踏み分ける音だけを聞き続け、熱射を浴び、時折水筒の中身をあおりながら進む一行は、砂の迷宮の袋小路に、何かが埋まっているのを見つける。

 

「これって…?」

「折れた……杖?」

「リコさんの……ではないけど…!」

 

 それは、割れたワンドであった。

 

「もしかして、ここまで逃げてきたけど、行き止まりで……!」

「ワンドってことは……この持ち主は、モモイみたいなアルケミストか、私みたいなメディックだったのかも……」

「ここまで逃げてきたけど、袋小路で……?」

 

 ワンドだったものの持ち主の末路を想像してしまい、顔色が青くなるユズ。

 そこにすかさず、アリスが寄り添った。

 

「大丈夫ですか、ユズ?」

「アリスちゃん……ありがとう」

「この人も、仲間を逃がすために最後まで戦ったのかもしれません。悪いイメージの通りとは限りません」

「そ、そう、だよね……」

「あまり共感し過ぎても辛いと思います。今は、リコの剣だけに集中しましょう」

「………うん」

 

 彷徨う砂の霊に限らず、砂漠の樹海の厳しさは一層増しているようである。

 そのことを肝に銘じて、5人は更に探索を続けていく。

 

「―――あそこ! 見て!」

 

 さらに歩を進めること数十分。

 モモイが指さした先には、すり鉢状に大きく窪んだ流砂の溜まり場があった。

 周囲の砂は緩やかに、しかし絶え間なく中心の穴へと流れ落ちている。その中心部、流砂の底に突き刺さるようにして、ひとつの「鉄塊」が残されていた。

 

「あれは……剣、ですよね?」 「間違いないわ。リノアさんのメモにある特徴と一致する」

 

 ユウカが双眼鏡で確認する。

 殆ど砂に埋もれているが、露出している柄と(つば)の形状は、間違いなくブランが背負っている剣を模したものだ。

 だが、決定的に違う点がひとつある。ブランの剣が長年の酷使に耐えうる実用的な「武具」であるのに対し、その剣はあまりにも―――装飾過多で、そして分厚すぎた。

 

「……あんなものを、私たちと同じ背丈の子が振るおうとしていたの?」

「ブランさんに……近づきたかったんだね」

 

 ミドリが痛ましげに呟く。

 重心バランスも、実用性も度外視した、ただ「師匠と同じような剣を持ちたい」という憧れだけで作られた鉄の塊。

 3年の月日を経て赤錆に覆われているが、それは確かにそこにあり、かつての持ち主の生きた証として突き立っていた。

 

「見つけた……! よし、すぐに回収して帰ろう!」

「待ってください、モモイ」

 

 駆け出そうとするモモイを、アリスが制止する。

 アリスの瞳が、周囲の空間異常を捉えていたからだ。

 

「……砂の流れが、変です」

「え?」

「風向きとは逆方向に砂が流れています。これは……もしかして、魔物の反応―――」

 

 アリスが言いかけた、その時だった。

 

 ヒュオォォォォォォォッ…………!!

 

 突如、凪いでいたはずの窪地から、不気味な風切り音が鳴り響いた。

 気温が一気に下がる。肌を焦がすような熱砂の熱気が、瞬く間に冷たい墓場の空気へと塗り替えられていく。

 

「な、なにっ!? 砂嵐!?」

「みんな、固まって! 何か来る!」

 

 ユウカが叫び、全員が円陣を組む。

 リコの剣が刺さる流砂の中心。そこから、砂がまるで生き物のように盛り上がり、形を成していく。

 

 現れたのは、ボロボロの布を纏った、鎧姿の騎士だった。

 ただし、その体は干からびたミイラのように細く、半身が砂と同化して空中に浮遊している。

 兜の奥で妖しく光る二つの眼光が、侵入者である彼女たちをギロリと見下ろした。

 

「こいつが……」

「リコさんを……」

 

 第3階層の徘徊者。リノアが口にしていた、リコの命を奪った恐ろしき砂の魔物―――『彷徨う砂の霊』。

 

 霊騎士は、彼女たちの視線に気づくと、手に持った錆びた曲刀をゆっくりと持ち上げた。

 同時に、周囲の砂塵が濃くなり、視界が悪化する。

 逃げようにも、足元の流砂は中心―――つまり砂の霊の足元へと彼女たちを引きずり込もうとしている。

 

「やっぱり……タダで返してくれる相手じゃなさそうね」

 

 ユウカがラウンドシールドとソードを構える。

 剣を回収するには、あいつの足元へ行かなければならない。だが、回収中に背中を見せれば、その瞬間にあの曲刀で切り裂かれるだろう。かといって、このまま距離を取って戦おうにも、ここは相手のテリトリー……どこまでこちらが本気を出せるか、分からない。

 

「どうするの、ユウカ!?」

「やるしかないわ。……あいつを倒して、リコさんの剣を奪い返す!」

 

 ユウカの号令と共に、ミレニアムの少女たちは武器を構えた。

 3年前の悲劇を繰り返さないために…………そして、砂に眠る小さな冒険者を、故郷へと連れて帰るために。

 

「戦闘開始よ!!」

 

 砂塵舞う窪地にて、過去の因縁を断ち切る戦いの火蓋が切られた。

 

 

 霊騎士が曲刀を振り下ろす。

 想像を絶する砂嵐の中、それを切り裂かんとモモイは、新たな術式を放った。

 

「これでもくらえぇぇぇーー!!」

 

 それは、氷の術式の拡張版。化学反応で生成した氷を、槍のように尖らせ、相手を貫く術式―――氷結の術式だ。

 氷槍は砂嵐の中、霊騎士の脇腹に向かって真っすぐ飛び、突き刺さって……しかし、砂の霊は気にも留めずに、再び曲刀を大上段に振り上げた。

 

「ちょおおーーっ!? 効いてない!?」

「お姉ちゃん下がって!次は私が…!」

 

 呆けるモモイを押しのけて、ミドリが射撃。だが、目を疑う現象が起きた。

 砂嵐が、ミドリの弾丸を直前で軌道をずらしたのだ。弾はそのまま、砂漠の奥へと消えていく。

 

「二人とも下がって!」

 

 ユウカがすかさず防御!

 直後に放たれた、砂嵐と斬撃の猛攻に、全員が踏ん張って耐えようとする。

 だが足元は流砂渦巻く砂漠。そう長く、踏ん張りがきくわけもない。

 砂嵐の轟音と、盾に火花が散る衝撃。

 砂の霊の、生気を一切感じない乾いた眼光が、冷酷にユウカを射抜く。

 

「くっ………話に聞く以上の強敵、じゃないの!!」

 

 ユウカの盾が、悲鳴を上げるような音を立てて斬撃を弾き返す。

 しかし、流砂によってじわじわと体勢が崩れ、守備範囲が狭まっていく。

 

「……ユウカ、限界です。砂の霊、再びワープの予兆あり!」

 

 アリスの剣が虚空を切り、残影が砂の中に消えます。その瞬間、霊騎士の周囲の砂塵が、内側へと猛烈に収束を始めた。

 

「……! 来たわね、ヤツの行動パターン!」

 

 リノアの助言を信じたユウカは盾を構えなおす。

 瞬間、視界を塞いでいた砂塵がピタリと止んだ。代わりに、霊騎士はすべての砂を己の曲刀に纏わせ、禍々しいカウンターの構えを取り……飛び込んだ冒険者を屠ろうとする。

 

「今よ―――ミドリ!」

「うん!」

 

 霊騎士を引き付けているユウカの影から―――ミドリが、必殺技の構えで飛び出した。

 彼女が放つのは、かつてロビックスを討ち取った際に使った―――あの一発だ。

 

「―――至高の魔弾!!」

 

 階層のボスであったロビックスでさえよろめく隠し玉だ。彷徨う砂の霊であっても、ひとたまりもない。

 その魔弾をモロに胸元に食らった砂の霊は、先程の攻撃のダメージが嘘であったかのようによろけ……大きく体勢を崩した。

 

「燃えろぉ!!」

「ショックスパーク!!」

 

 続いてモモイが放つは、火炎の術式。

 これまで以上に、攻撃規模が大きくなった炎の術式を、霊騎士は躱す隙も無くマトモに食らった。

 ダメ押しに、アリスが放ったのは、斬撃の直後に電撃が敵を襲うショックスパーク。

 両技をモロに受け、霊騎士は不協和音のような悲鳴を響かせた。

 

「今だよ!モモイ!!」

 

 ユズの叫び。 モモイは転がるようにして流砂の中心へと飛び込み、砂に突き刺さったままの「鉄塊」――リコの剣の柄を、両手で思い切り掴んだ。

 

「捕まえたぁぁっ!!」

 

 モモイは渾身の力を込めて引き抜く。ずしりと重い手応えを予想して。しかし――。

 

「……えっ?」

 

 あまりの軽さに、モモイは仰向けにひっくり返った。

 砂の中から現れたのは、誇らしく突き立っていた外見とは裏腹に、根元から無残に……ボロボロに折れ曲がった、柄と(つば)だけの残骸だった。

 

「折れてる……そんな、これじゃあ……!」

「モモイ、何してるの! 早く!!」

 

 砂の霊が、怨念のこもった咆哮を上げ、再び砂嵐を形成し始めた。

 モモイは一瞬、呆然と折れた柄を見つめていたが、すぐにそれを胸に抱きしめ、立ち上がった。

 

「アリス、明滅弾を! みんな、一気に離脱するよ!!」

 

 アリスが投げつけた明滅団が砂塵の中で爆発し、視界が真っ白に染まる。

 ユウカが最後尾で盾を構え、迫りくる砂の刃を弾きながら、一行は崖の上へと必死に駆け上がった。

 

「……はぁっ、はぁっ、……ここまで来れば、大丈夫……かな」

 

 砂嵐が届かない安全圏まで逃げ延びた5人は、その場に崩れ落ちた。モモイの手の中には、赤錆びて、半分以上が失われた「剣だったもの」が握られていた。

 

「……ごめん。私、剣を回収するって言ったのに。……こんな、壊れたものしか、持ってこれなかった」

 

 モモイの声が震える。 憧れの人の真似をして、不器用に、けれど懸命に戦ったであろう少女の末路が、その短い柄に凝縮されているようで。

 

 しかし、そのモモイの肩を、ユウカが静かに叩いた。

 

「……いいえ。目的は達成よ、モモイ」

「ユウカ……」

「形なんて関係ないわ。あなたがそれをあそこから取り戻した。……それが全てよ。さあ、街へ帰りましょう。……これを待ってる人がいるんだから」

 

 モモイはゴシゴシと目元を拭い、力強く頷きました。

 あの霊騎士を倒すことはできなかった。けれど、自分たちはリコの生きた証を手に入れ、ここまで戻ってこれたのだ。

 夕闇が迫る第3階層の入り口へと、5人は一歩ずつ、重い、けれど確かな足取りで歩き始めた。

 

 

 

 迷宮を出て、リカタ・ジュタの街に戻ってきた頃には、空は深い群青色に染まっていた。

 『恋する雪見亭』の扉を開けると、いつものように騒がしい冒険者たちの喧騒と、煮込み料理の香りが一行を迎える。

 

 そのカウンターの隅。朝と同じ場所に、ブランとリノアは座っていた。

 

「……お帰りなさい。随分と遅かったわね」

 

 リノアが、努めて明るい声で振り返る。だがその瞳には、無事に帰ってきた少女たちへの安堵が滲んでいた。一方でブランは、ジョッキを持ったまま背中を向け、「フン」と鼻を鳴らしただけだ。

 

「手ぶらで帰ってきたんなら、今日の酒代はお前らのツケにしてやるからな」

「…………」

 

 モモイは何も言わず、一歩ずつ、ブランの背中へと歩み寄った。

 ミドリ、ユウカ、アリス、ユズも、その少し後ろで静かに見守る。

 モモイは背負っていた袋から、布に包まれた「それ」を丁寧に取り出し、カウンターの上に置いた。

 

「……約束通り、持ってきたよ」

 

 布が解かれ、中から現れた赤錆びた「鉄塊」を見て、リノアが息を呑んだ。ブランの手が、ピクリと止まる。

 

 それは、剣と呼ぶにはあまりに無残な姿だった。

 根元からボロボロに折れ、輝きを失った、柄と鍔だけの残骸。

 

「……折れてた。あいつと戦って、回収する時に、やっとわかったんだけど」

 

 モモイの声が、少しだけ震える。

 

「ごめんね、ブラン。ちゃんとした剣のまま、持って帰りたかったんだけど……私、これしか見つけてあげられなかった」

 

 沈黙が店の一部を支配する。ブランはゆっくりとジョッキを置き、椅子を回して「それ」と対面した。大きな、タコだらけの彼の手が、折れた柄にそっと触れる。

 

「…………馬鹿が」

 

 ブランの低い声が響いた。怒りではない。それは、どこか慈しむような、ひどく掠れた声だった。

 

「リノア、言っただろう。あいつは筋が悪いって。……こんなところまで、俺の真似をしやがって」

 

 ブランは、自分の腰に差している剣の鍔を指先でなぞった。

 そこには、かつて激戦でついた、リコの遺品と全く同じ位置の傷跡があった。

 

「俺が教えたのは、折れない剣の使い方じゃねぇ。……折れても、なお立ち上がるための『引き際』だったんだがな」

 

 ブランは折れた柄をぐっと握りしめ、それをまるで大切な宝物のように、自分の懐へと収めた。

 そして、顔を上げずに、乱暴にモモイの頭を大きな手で一回だけ撫でた。

 

「……合格だ、モモイ・サイバ。よく持ち帰った」

「ブラン……」

「……ありがとう、みんな。本当に……ありがとう」

 

 リノアが、溢れそうになる涙を拭いながら微笑む。

 ブランは照れ隠しのように顔を背け、酒場の主人に怒鳴った。

 

「おい、リンダ! こいつらに一番高い肉料理を出せ! 支払いは俺だ。……仕事(クエスト)の、正当な報酬だからな」

 

 その言葉に、酒場が再び活気を取り戻す。

 モモイは、手のひらに残っていた「冷たい鉄の感触」が、少しずつブランの温かさに上書きされていくのを感じていた。

 

 3年前に止まっていた時間が、今、少しだけ動き出したような。

 そんな夜の風が、酒場の開いた窓から、植物の香りと共に吹き抜けていった。




Tip!:砂塵ノ仙閣のFOEの特徴
今回のFOEの特徴は「ワープ&待ち伏せ型」。特定地点を絶えず移動して、近くに来たら待ち、隣接したら襲ってくる(=戦闘に入る)タイプらしい。



魔物図鑑
彷徨う砂の霊
拙作オリジナルFOE。
砂塵と鎧を依り代にした亡霊騎士。実態を持たないため、砂嵐に紛れて瞬時に移動し、奇襲を仕掛ける卑劣な戦法を得意とする。砂で構成されてる身体ゆえか物理攻撃には強いが属性攻撃には脆い。

【挿絵表示】
・耐性(◎…よく効く、○…効く、△…効きづらい、✕…効かない)
スタン
即死
石化
テラー
呪い
眠り
混乱
麻痺
盲目
頭封じ
腕封じ
脚封じ


使用技
通常攻撃
砂塵斬(腕技):全体に命中率低下デバフつきの斬攻撃。
砂の抱擁(腕技):使用ターン、属性攻撃に斬攻撃でカウンターを仕掛ける。
怨念の砂嵐(なし):逃走する冒険者に自動で発動。その逃走を強制的に失敗させる。「砂の抱擁」使用時には発動しない。

備考:怨念の砂嵐によって、普通に逃げることは出来ない。チャンスは、3の倍数のターンで使用する「砂の抱擁」。この技の使用中のみは逃走時に防止機能が発動しません。

ドロップ
砂塵の鎧片(ノーマル)
枯霊の魂礫(レア・物理攻撃で倒す)



ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。
送る感想は短くても長くても構わない。感想があることで作者のモチベーションが上がり、よりハイペースでリカタ・ジュタの樹海の謎が明らかになるだろう。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも、また踏破した迷宮の思い出を語りに来るのも自由だ。

もっと詳しく書いて欲しい部分とかありますか?

  • 樹海の世界観
  • 様々なクエスト
  • リカタ・ジュタの人々との交流
  • 他の生徒達についてのこと
  • ブラン&リノアとの交流
  • 樹海の魔物のこと
  • 強敵との戦闘
  • その他(さり気なく…)
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