ブルア界樹の迷宮   作:伝説の超三毛猫

34 / 36
ブルアカ×世界樹の迷宮、略してブルア界樹の迷宮です。対戦よろしくお願いします。
さて、今回はリカタ・ジュタのアツアツ夫婦の片割れが暴れます。


砂漠の珍味を求めて

「うふふふ、やっぱりこれもいい食材になりそうね」

 

 世界樹の迷宮、第三階層・砂塵ノ仙閣。

 迷宮階層12階にて。

 

 短く切りそろえた金髪の美女……宿屋の女将・リーシェナが、喜ばし気な声をあげていた。

 

「カイルに見せるのが楽しみだわ~」

 

「「「「「…………」」」」」

 

 その反面、彼女に付き添う5人の少女たちは、先程から言葉を失ったままだ。

 少女たち―――ギルド『ミレニアム』は目の前の女性を見ながら、自分たちの行動を振り返る。

 

 なぜ、このような事態が起こってしまったのか、を………

 

 

 

 ―――始まりは、カイリーの宿の主人・カイルからのこんな依頼を受けたところからだった。

 

『すまないが、僕の妻の「食材調達」に付き合ってやってくれないかな?

 最近、新しい階層の食材を見てみたいとかで、一人で迷宮に行こうとしていてね……。危なっかしくて見ていられないんだ』

 

 愛妻家の宿主からの、切実な護衛依頼。

 前日のブランの依頼で「第3階層のプロ」との連携を学んだばかりのユウカたちは、「宿の奥さんの食材調達なら、周辺の安全な場所で山菜でも摘むくらいだろう」と、軽い気持ちで引き受けたのだ。

 

 だが、現実は違った。

 

「いい?みんな。 あの鳥、胸肉がパンパンで美味しそうよ!あんまり黒焦げにしないでね?」

「え、えぇ……?」

 

 リーシェナが指さした先には、人を煽るように舞い踊る、巨大でカラフルな鳥がいた。

 その名を、バウンスオウム。体長は150センチ以上。足には鋭い爪を持ち、酒場の情報によれば不用意に攻撃をした冒険者を「オウム返し」で腕ごとひきちぎるという凶暴な魔物だ。

 だが、リーシェナの目には、それが「特売の鶏むね肉」にしか見えていないらしい。

 

「あ、危ないですから下がっていてください! ……もう、食材調達って『魔物狩り』のことだったの!?」

 

 ユウカが悲鳴交じりに叫びながら、ラウンドシールドを構える。

 そう、カイルの依頼した「食材調達」とは、市場への買い出しなどではない。

 ………自らの足で迷宮に潜り、新鮮な魔物を現地でさばく……究極の産地直送ツアーだったのだ!

 

「来るよ! 普通のモンスターとはいえ、動きが速い!」

 

 モモイが警告する。

 ケタケタと笑うかのような鳴き声をあげながら、跳ねるように近づいてくるバウンスオウム。

 普段なら反撃を受けないよう、モモイの術式で焼き尽くしたり、ミドリの射撃で腕や脚を封じるのだが、今回は「食材を傷つけない」という縛りプレイが課せられている。

 

「アリスちゃん!胸肉はお料理に使うんだから、あまり思い切り傷つけちゃダメよ〜!」

「むむっ、リーシェナが言うなら仕方ありません。ならばこうです!」

 

 アリスは思い切り剣を振るった。

 しかしそれはバウンスオウムを傷つける事なく空振る。

 その隙を突いてバウンスオウムがその爪を振るったその時———アリスの姿がブレた。

 勇者のスキル………ミラージュソードによる残像である!

 

「そこです!」

 

 バウンスオウムの爪が空を切った瞬間、アリスは背後から剣を叩きつけた!

 意識外からの強烈な斬撃が、バウンスオウムの平衡感覚を奪う。

 

「モモイ!ミドリ!」

「オッケー!」

「任せて!」

 

 トドメの一撃は、モモイとミドリの攻撃だった。

 雷の術式と雷の弾丸が、バウンスオウムの頭を貫くと、砂漠に鈍い音が響き、ピクリとも動かなくなった。

 見事な一撃による撃破、もとい「活け締め」である。

 

「お見事! これですぐ血を抜けば鮮度抜群ね~!」

「やりました! 食材ゲットです!」

 

 倒れたバウンスオウムに駆け寄り、手際よくナイフを入れて血抜きを始めるリーシェナ。その手つきは、ベテランの解体業者が如く洗練されていた。

 普段の穏やかな女将の顔とは違う、獲物を前にした狩人のような真剣な眼差しに、ユウカは頬を引きつらせた。

 

「……ねえ、あの人、本当にただの宿の奥さんなの?」

「ショウさんから聞いた話だと、昔は冒険者として世界樹の浅い階層までは潜ってたらしいですよ……」

「道理で肝が据わってるわけね。カイルさんが心配するのも分かるわ」

 

 冷や汗まみれのモモイとミドリは、ぐったりと肩を落とす。

 

「はぁ……神経使うね、これ」

「お姉ちゃん、今のうちに採取も済ませちゃおう。リーシェナさん、付け合わせの野菜も欲しいって言ってたし」

「こんな砂漠の階層に野菜ってあるの…?」

「ない……訳では、ないんでしょうけど」

 

 気を取り直して、ミドリとモモイ、ユズは周囲の採取ポイントへ向かう。

 今回のクエストのもう一つの目的。それは、このバウンスオウムの料理のための付け合わせの野菜・サンドモロコシやネバヘイヤ、砂漠でも育つという豆・ピヨピヨ豆の確保だ。

 

「えっと……サンドモロコシは乾燥した砂地に生えてるんだよね」

「あ、あったよユズちゃん! あと、こっちの岩陰に豆っぽいのがなってる草も……!」

「それがピヨピヨ豆よ~」

 

 リーシェナの声を遠めに聞きながら、ミドリがナイフで丁寧にサンドモロコシの実を切り取り、ユズが小さな指先大の豆を摘み取る。

 戦闘でのドンパチとは違う、地道な素材集め。

 ゲーム内ならボタン一つで終わる作業も、実際に行うとなると宝探しのようで意外と楽しい。

 キヴォトスでは見たことのないような造形の野菜からは、どんな味か想像できない分、猶更であった。

 

「サンドモロコシって、なんだかトウモロコシみたいだね」

「私たちの知ってるトウモロコシより、色が違うけどね」

「じゃあこれって……ひよこ豆、なのかな?」

「確かに似てるわね…トウモロコシもひよこ豆も乾燥した地域で育つっちゃ育つけど、ここまで砂漠の中で育つなんて」

「……へへ、なんだか本格的なサバイバルゲームみたい」

「うん。……これ、持って帰ったらカイルさん、驚くかな」

 

 素材袋がパンパンになった頃、ようやく一行は安全な岩場を見つけ、小休止を取ることになった。

 

「はぁ……戦闘するより疲れるね、これ」

「でも、リーシェナはすごく嬉しそうです!」

 

 アリスの言葉通り、リーシェナは汗だくになりながらも、満面の笑みを浮かべていた。

 ふと、その休息の合間にユウカはリーシェナに尋ねた。

 

「あの、リーシェナさん。どうしてそこまでして、ご自分で食材を?」

「?」

「カイルさんに頼めば、市場で仕入れてくれるんじゃないですか?お金なら、お店も繁盛してますし……」

 

 危険な樹海に、護衛を雇ってまで来る理由。

 ユウカに問われたリーシェナは、ハンカチで汗を拭いながら、少し照れくさそうに笑った。

 

「そうねえ。でもね、カイルはいつも、私のために最高の料理を作ってくれるでしょう? 忙しいのに、私の体調や好みに合わせて、毎日メニューを考えてくれて……」

 

 彼女は、愛おしそうに食材の入った袋を撫でた。

 

「だから私だって、カイルを驚かせたいの。『こんな良い食材があったのか!』って、あの人が目を輝かせる顔が見たいのよ。……それが、私なりの愛情表現、かな?」

 

「愛、情……」

 

 その言葉に、ミレニアムの少女たちは顔を見合わせた。

 カイルとリーシェナのバカップルぶりには慣れていたつもりだったが、その根底にあるのは、互いを思いやる深い献身だったのだ。

 自分たちがキヴォトスに帰りたいと願う気持ち。先生や他の生徒たちに会いたいと思う気持ち。形は違えど、誰かを想って危険を冒すその姿は、どこか自分たちと重なる部分があった。

 

「……わかりました。そういうことなら、最後まで付き合います!」

「えぇ。カイルさんをびっくりさせましょう!」

 

 ユウカとモモイが力強く宣言する。それに、残り3人のパーティーメンバーも拳をあげた。

 

 

 

 

 ―――その後も、食料調達は進んだ。

 

「ちょ、ちょっと、リーシェナさん!あれは蟻の油ですよ!? 食べ物には…」

「これ、ちょっと舐めてみて」

「はぁ!? どうして……」

「!!? ユウカ!みんな!これ舐めてみて!ラー油だ!!!」

「え、ラー油!? ファイアアントの炎が!!?」

 

 ファイアアント。

 ユウカ達を苦しめた、炎を吹き付けてくる巨大アリ。

 それを仕留めた後で、解剖したリーシェナによって、口元付近に貯められていた油は、すべて「ラー油」………「火蟻の辛味油」として回収され。

 

「ひぃぃぃぃぃ!!? リーシェナさんやめてください……!それは食べ物じゃありません!」

「でも、見て、ユズちゃん。ここから……ほら! こんなに美味しそうな身がいっぱい…!」

「こ、これは……!!? 確かに、リーシェナの言う通り、蟹の身のようです!」

「でしょ~?だから、これも入れて……」

「いや、それはアリの腹でしょ!!?」

 

 キラーアントやガードアントを討伐した際にリーシェナが解剖したものの中から、魚介類のように身の詰まった―――蟻型魔物の腹部を、戦利品として持ち帰ろうとしたり。

 

「はい!見ーつけた♪」

「何をですか?」

「見て~! じゃ~~ん!! 痺れゼミの幼虫~~!!!」

「「「イヤァァァァァァァァァァァァアアアアアアア!!!?」」」

「あれ~、三人ともどうしたの? これも美味しい栄養よ?」

「「「でも虫じゃないですか…!!!」」」

 

 痺れゼミを撃破した周辺を探したリーシェナが痺れゼミの幼虫を掘り出して……ユウカ・ミドリ・ユズに全力拒否をされたりとして。一行がヘトヘトになって宿屋に帰り着いたのは、夕日が沈みかけた頃だった。

 

「た、ただいまぁ……」

「お帰り! リーシェ、無事かい!? 怪我は!?」

 

 カウンターから飛び出してきたカイルが、妻の体をまさぐるように確認する。

 リーシェナは「もう、大袈裟ねえ」と笑いながら、戦利品の詰まった袋をドンとカウンターに置いた。

 

「怪我なんてないわよ、この子たちが守ってくれたもの。それより見て、カイル! 今日は大収穫よ!」

 

 袋から取り出される、新鮮な(そして危険な)食材の数々。

 それを見たカイルの目が、冒険者さながらに見開かれ、そして料理人としての喜悦に輝いた。

 

「こ……こんなにっ!?」

「バウンスオウムにアリの身、カブトの身に樹海産ラー油……!もちろん、お野菜もいっぱいよ!」

「こ、これだけあるならなんでも作れるぞ!!」

「でしょ? あなたなら、これで最高の料理が作れると思って」

「ああ、もちろんだとも! リーシェ、君は最高の女神だ!」

「あなたこそ、私の最高のシェフよ!」

 

 人目もはばからず抱き合う二人。

 疲れ果ててカウンターに突っ伏していたモモイたちは、その熱量に当てられて苦笑いするしかない。

 

「……ま、終わりよければすべてよし、かしらね」

「はい。クエスト達成です!」

 

 その夜。

 『カイリーの宿』の食堂は、かつてない熱気と香りに包まれていた。

 

「お待たせ! 本日のスペシャルディナー、第一弾だ!」

 

 カイルが威勢よく運んできたのは、大きな土鍋。蓋を開けた瞬間、赤黒いソースがグツグツと煮え立ち、刺激的な香辛料の香りが鼻を突いた。

 

「まずはこれ、『火蟻のラー油と鳥と蟹の麻婆豆腐』だ!」

「ひぇぇっ、赤い! 真っ赤だよこれ!」

 

 モモイが叫ぶ。

 あのファイアアントから採取した「ラー油」がふんだんに使われ、中にはリーシェナが「蟹の身のよう」と豪語した羽ばたきカブトの身がぎっしりと詰まっている。

 ユウカが恐る恐る一口運ぶと、目を見開いた。

 

「……! 辛い、けど……美味しい! このカブトの身、本当に蟹みたいな甘みがあるわ。ラー油の刺激的な辛さと絶妙にマッチしてる……!」

「次はこれだよ、アリスちゃん。リクエストの『砂漠のスタミナジャンバラヤ』!」

 

 続いて登場したのは、バウンスオウムの腿肉がドカッと乗った、色鮮やかな炊き込みご飯だ。サンドモロコシの黄色と、ピヨピヨ豆の緑が彩りを添えている。

 アリスはフォークを構え、豪快に肉に食らいついた。

 

「むぐっ……! お、美味しいです! お肉がすごく弾力があって、噛むたびに勇者の力が湧いてくる味がします! まさにスタミナ回復アイテムです!」

「ふふ、こっちも食べてみてね。ユズちゃんにはこれ、『砂漠蟻のつみれ入りポトフ』よ」

 

 リーシェナが優しく差し出したのは、透き通ったスープに、ふわふわとした白い団子が浮かぶ一品。あの「蟻の腹の身」を丁寧に叩いてつみれにしたものだ。

 ユズは最初こそ少し引いていたが、スープの優しい香りに誘われて口に含む。

 

「あ……甘い!……全然、虫っぽくないです。ネバヘイヤのとろみがスープに溶け込んでて、なんだか……すごく落ち着く味です…!」

 

 そしてテーブルの真ん中には、色とりどりの根菜とハリのある鶏むね肉が並ぶ『砂漠の夏野菜カレー』が鎮座していた。

 

「このサンドモロコシの甘さとむね肉のサッパリさがカレーのスパイスを引き立ててるのね……。コユキみたいな野菜嫌いでも食べられそう…」

「すごい…ものすごく美味しい!……まさかあの砂漠のど真ん中で採ったものが、こんなに豪華な料理になるなんて…!!」

 

 最初は「食材調達」という名の魔物狩りにドン引きしていた一同だったが、目の前で美味しそうに料理を頬張る宿泊客たちと、それを見て満足げに頷くカイル、そして夫を支えるリーシェナの笑顔を見て、いつの間にか疲れは吹き飛んでいた。

 

「……『誰かのために』…か。こういうのも、良いのかもしれないわね」

 

 ユウカはオレンジジュースで喉を潤しながら、小さく微笑んだ。

 窓の外には、リカタ・ジュタの冷たい夜風が吹いている。だが、宿の中だけは、ミレニアムの少女たちが持ち帰った「愛情」という名の食材によって、いつまでも温かな熱気に包まれていたのだった。




Tip!:アリ系モンスター
世界樹の迷宮シリーズに出てくる蟻はかなりデカイ節足動物で、蟹かエビみたいに身が詰まってるんじゃないかって程である。………食材としてはグロテスクっぽそうだけど。


魔物図鑑
ファイアアント
初出は世界樹の迷宮Ⅴ。5層の敵として登場し、蟻らしからぬ火力で冒険者を焼きに来る。このリカタ・ジュタでもその火力は健在。

キラーアント・ガードアント
世界樹の迷宮に登場するアリ。攻撃隊列や防御隊列で攻撃力・防御力を上げる戦法を好む。リカタ・ジュタでは食材アイテム「死蟻の腹」をドロップするとか。


ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。また、ゲーム開発部+ユウカのリベンジ攻撃ボイスを考えてくれても構わない。
送る感想は短くても長くても構わない。感想があることで作者のモチベーションが上がり、よりハイペースでリカタ・ジュタの樹海の謎が明らかになるだろう。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも、踏破した迷宮の思い出を語るのも自由だ。

もっと詳しく書いて欲しい部分とかありますか?

  • 樹海の世界観
  • 様々なクエスト
  • リカタ・ジュタの人々との交流
  • 他の生徒達についてのこと
  • ブラン&リノアとの交流
  • 樹海の魔物のこと
  • 強敵との戦闘
  • その他(さり気なく…)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。