さて、今回はリカタ・ジュタのアツアツ夫婦の片割れが暴れます。
「うふふふ、やっぱりこれもいい食材になりそうね」
世界樹の迷宮、第三階層・砂塵ノ仙閣。
迷宮階層12階にて。
短く切りそろえた金髪の美女……宿屋の女将・リーシェナが、喜ばし気な声をあげていた。
「カイルに見せるのが楽しみだわ~」
「「「「「…………」」」」」
その反面、彼女に付き添う5人の少女たちは、先程から言葉を失ったままだ。
少女たち―――ギルド『ミレニアム』は目の前の女性を見ながら、自分たちの行動を振り返る。
なぜ、このような事態が起こってしまったのか、を………
―――始まりは、カイリーの宿の主人・カイルからのこんな依頼を受けたところからだった。
『すまないが、僕の妻の「食材調達」に付き合ってやってくれないかな?
最近、新しい階層の食材を見てみたいとかで、一人で迷宮に行こうとしていてね……。危なっかしくて見ていられないんだ』
愛妻家の宿主からの、切実な護衛依頼。
前日のブランの依頼で「第3階層のプロ」との連携を学んだばかりのユウカたちは、「宿の奥さんの食材調達なら、周辺の安全な場所で山菜でも摘むくらいだろう」と、軽い気持ちで引き受けたのだ。
だが、現実は違った。
「いい?みんな。 あの鳥、胸肉がパンパンで美味しそうよ!あんまり黒焦げにしないでね?」
「え、えぇ……?」
リーシェナが指さした先には、人を煽るように舞い踊る、巨大でカラフルな鳥がいた。
その名を、バウンスオウム。体長は150センチ以上。足には鋭い爪を持ち、酒場の情報によれば不用意に攻撃をした冒険者を「オウム返し」で腕ごとひきちぎるという凶暴な魔物だ。
だが、リーシェナの目には、それが「特売の鶏むね肉」にしか見えていないらしい。
「あ、危ないですから下がっていてください! ……もう、食材調達って『魔物狩り』のことだったの!?」
ユウカが悲鳴交じりに叫びながら、ラウンドシールドを構える。
そう、カイルの依頼した「食材調達」とは、市場への買い出しなどではない。
………自らの足で迷宮に潜り、新鮮な魔物を現地でさばく……究極の産地直送ツアーだったのだ!
「来るよ! 普通のモンスターとはいえ、動きが速い!」
モモイが警告する。
ケタケタと笑うかのような鳴き声をあげながら、跳ねるように近づいてくるバウンスオウム。
普段なら反撃を受けないよう、モモイの術式で焼き尽くしたり、ミドリの射撃で腕や脚を封じるのだが、今回は「食材を傷つけない」という縛りプレイが課せられている。
「アリスちゃん!胸肉はお料理に使うんだから、あまり思い切り傷つけちゃダメよ〜!」
「むむっ、リーシェナが言うなら仕方ありません。ならばこうです!」
アリスは思い切り剣を振るった。
しかしそれはバウンスオウムを傷つける事なく空振る。
その隙を突いてバウンスオウムがその爪を振るったその時———アリスの姿がブレた。
勇者のスキル………ミラージュソードによる残像である!
「そこです!」
バウンスオウムの爪が空を切った瞬間、アリスは背後から剣を叩きつけた!
意識外からの強烈な斬撃が、バウンスオウムの平衡感覚を奪う。
「モモイ!ミドリ!」
「オッケー!」
「任せて!」
トドメの一撃は、モモイとミドリの攻撃だった。
雷の術式と雷の弾丸が、バウンスオウムの頭を貫くと、砂漠に鈍い音が響き、ピクリとも動かなくなった。
見事な一撃による撃破、もとい「活け締め」である。
「お見事! これですぐ血を抜けば鮮度抜群ね~!」
「やりました! 食材ゲットです!」
倒れたバウンスオウムに駆け寄り、手際よくナイフを入れて血抜きを始めるリーシェナ。その手つきは、ベテランの解体業者が如く洗練されていた。
普段の穏やかな女将の顔とは違う、獲物を前にした狩人のような真剣な眼差しに、ユウカは頬を引きつらせた。
「……ねえ、あの人、本当にただの宿の奥さんなの?」
「ショウさんから聞いた話だと、昔は冒険者として世界樹の浅い階層までは潜ってたらしいですよ……」
「道理で肝が据わってるわけね。カイルさんが心配するのも分かるわ」
冷や汗まみれのモモイとミドリは、ぐったりと肩を落とす。
「はぁ……神経使うね、これ」
「お姉ちゃん、今のうちに採取も済ませちゃおう。リーシェナさん、付け合わせの野菜も欲しいって言ってたし」
「こんな砂漠の階層に野菜ってあるの…?」
「ない……訳では、ないんでしょうけど」
気を取り直して、ミドリとモモイ、ユズは周囲の採取ポイントへ向かう。
今回のクエストのもう一つの目的。それは、このバウンスオウムの料理のための付け合わせの野菜・サンドモロコシやネバヘイヤ、砂漠でも育つという豆・ピヨピヨ豆の確保だ。
「えっと……サンドモロコシは乾燥した砂地に生えてるんだよね」
「あ、あったよユズちゃん! あと、こっちの岩陰に豆っぽいのがなってる草も……!」
「それがピヨピヨ豆よ~」
リーシェナの声を遠めに聞きながら、ミドリがナイフで丁寧にサンドモロコシの実を切り取り、ユズが小さな指先大の豆を摘み取る。
戦闘でのドンパチとは違う、地道な素材集め。
ゲーム内ならボタン一つで終わる作業も、実際に行うとなると宝探しのようで意外と楽しい。
キヴォトスでは見たことのないような造形の野菜からは、どんな味か想像できない分、猶更であった。
「サンドモロコシって、なんだかトウモロコシみたいだね」
「私たちの知ってるトウモロコシより、色が違うけどね」
「じゃあこれって……ひよこ豆、なのかな?」
「確かに似てるわね…トウモロコシもひよこ豆も乾燥した地域で育つっちゃ育つけど、ここまで砂漠の中で育つなんて」
「……へへ、なんだか本格的なサバイバルゲームみたい」
「うん。……これ、持って帰ったらカイルさん、驚くかな」
素材袋がパンパンになった頃、ようやく一行は安全な岩場を見つけ、小休止を取ることになった。
「はぁ……戦闘するより疲れるね、これ」
「でも、リーシェナはすごく嬉しそうです!」
アリスの言葉通り、リーシェナは汗だくになりながらも、満面の笑みを浮かべていた。
ふと、その休息の合間にユウカはリーシェナに尋ねた。
「あの、リーシェナさん。どうしてそこまでして、ご自分で食材を?」
「?」
「カイルさんに頼めば、市場で仕入れてくれるんじゃないですか?お金なら、お店も繁盛してますし……」
危険な樹海に、護衛を雇ってまで来る理由。
ユウカに問われたリーシェナは、ハンカチで汗を拭いながら、少し照れくさそうに笑った。
「そうねえ。でもね、カイルはいつも、私のために最高の料理を作ってくれるでしょう? 忙しいのに、私の体調や好みに合わせて、毎日メニューを考えてくれて……」
彼女は、愛おしそうに食材の入った袋を撫でた。
「だから私だって、カイルを驚かせたいの。『こんな良い食材があったのか!』って、あの人が目を輝かせる顔が見たいのよ。……それが、私なりの愛情表現、かな?」
「愛、情……」
その言葉に、ミレニアムの少女たちは顔を見合わせた。
カイルとリーシェナのバカップルぶりには慣れていたつもりだったが、その根底にあるのは、互いを思いやる深い献身だったのだ。
自分たちがキヴォトスに帰りたいと願う気持ち。先生や他の生徒たちに会いたいと思う気持ち。形は違えど、誰かを想って危険を冒すその姿は、どこか自分たちと重なる部分があった。
「……わかりました。そういうことなら、最後まで付き合います!」
「えぇ。カイルさんをびっくりさせましょう!」
ユウカとモモイが力強く宣言する。それに、残り3人のパーティーメンバーも拳をあげた。
―――その後も、食料調達は進んだ。
「ちょ、ちょっと、リーシェナさん!あれは蟻の油ですよ!? 食べ物には…」
「これ、ちょっと舐めてみて」
「はぁ!? どうして……」
「!!? ユウカ!みんな!これ舐めてみて!ラー油だ!!!」
「え、ラー油!? ファイアアントの炎が!!?」
ファイアアント。
ユウカ達を苦しめた、炎を吹き付けてくる巨大アリ。
それを仕留めた後で、解剖したリーシェナによって、口元付近に貯められていた油は、すべて「ラー油」………「火蟻の辛味油」として回収され。
「ひぃぃぃぃぃ!!? リーシェナさんやめてください……!それは食べ物じゃありません!」
「でも、見て、ユズちゃん。ここから……ほら! こんなに美味しそうな身がいっぱい…!」
「こ、これは……!!? 確かに、リーシェナの言う通り、蟹の身のようです!」
「でしょ~?だから、これも入れて……」
「いや、それはアリの腹でしょ!!?」
キラーアントやガードアントを討伐した際にリーシェナが解剖したものの中から、魚介類のように身の詰まった―――蟻型魔物の腹部を、戦利品として持ち帰ろうとしたり。
「はい!見ーつけた♪」
「何をですか?」
「見て~! じゃ~~ん!! 痺れゼミの幼虫~~!!!」
「「「イヤァァァァァァァァァァァァアアアアアアア!!!?」」」
「あれ~、三人ともどうしたの? これも美味しい栄養よ?」
「「「でも虫じゃないですか…!!!」」」
痺れゼミを撃破した周辺を探したリーシェナが痺れゼミの幼虫を掘り出して……ユウカ・ミドリ・ユズに全力拒否をされたりとして。一行がヘトヘトになって宿屋に帰り着いたのは、夕日が沈みかけた頃だった。
「た、ただいまぁ……」
「お帰り! リーシェ、無事かい!? 怪我は!?」
カウンターから飛び出してきたカイルが、妻の体をまさぐるように確認する。
リーシェナは「もう、大袈裟ねえ」と笑いながら、戦利品の詰まった袋をドンとカウンターに置いた。
「怪我なんてないわよ、この子たちが守ってくれたもの。それより見て、カイル! 今日は大収穫よ!」
袋から取り出される、新鮮な(そして危険な)食材の数々。
それを見たカイルの目が、冒険者さながらに見開かれ、そして料理人としての喜悦に輝いた。
「こ……こんなにっ!?」
「バウンスオウムにアリの身、カブトの身に樹海産ラー油……!もちろん、お野菜もいっぱいよ!」
「こ、これだけあるならなんでも作れるぞ!!」
「でしょ? あなたなら、これで最高の料理が作れると思って」
「ああ、もちろんだとも! リーシェ、君は最高の女神だ!」
「あなたこそ、私の最高のシェフよ!」
人目もはばからず抱き合う二人。
疲れ果ててカウンターに突っ伏していたモモイたちは、その熱量に当てられて苦笑いするしかない。
「……ま、終わりよければすべてよし、かしらね」
「はい。クエスト達成です!」
その夜。
『カイリーの宿』の食堂は、かつてない熱気と香りに包まれていた。
「お待たせ! 本日のスペシャルディナー、第一弾だ!」
カイルが威勢よく運んできたのは、大きな土鍋。蓋を開けた瞬間、赤黒いソースがグツグツと煮え立ち、刺激的な香辛料の香りが鼻を突いた。
「まずはこれ、『火蟻のラー油と鳥と蟹の麻婆豆腐』だ!」
「ひぇぇっ、赤い! 真っ赤だよこれ!」
モモイが叫ぶ。
あのファイアアントから採取した「ラー油」がふんだんに使われ、中にはリーシェナが「蟹の身のよう」と豪語した羽ばたきカブトの身がぎっしりと詰まっている。
ユウカが恐る恐る一口運ぶと、目を見開いた。
「……! 辛い、けど……美味しい! このカブトの身、本当に蟹みたいな甘みがあるわ。ラー油の刺激的な辛さと絶妙にマッチしてる……!」
「次はこれだよ、アリスちゃん。リクエストの『砂漠のスタミナジャンバラヤ』!」
続いて登場したのは、バウンスオウムの腿肉がドカッと乗った、色鮮やかな炊き込みご飯だ。サンドモロコシの黄色と、ピヨピヨ豆の緑が彩りを添えている。
アリスはフォークを構え、豪快に肉に食らいついた。
「むぐっ……! お、美味しいです! お肉がすごく弾力があって、噛むたびに勇者の力が湧いてくる味がします! まさにスタミナ回復アイテムです!」
「ふふ、こっちも食べてみてね。ユズちゃんにはこれ、『砂漠蟻のつみれ入りポトフ』よ」
リーシェナが優しく差し出したのは、透き通ったスープに、ふわふわとした白い団子が浮かぶ一品。あの「蟻の腹の身」を丁寧に叩いてつみれにしたものだ。
ユズは最初こそ少し引いていたが、スープの優しい香りに誘われて口に含む。
「あ……甘い!……全然、虫っぽくないです。ネバヘイヤのとろみがスープに溶け込んでて、なんだか……すごく落ち着く味です…!」
そしてテーブルの真ん中には、色とりどりの根菜とハリのある鶏むね肉が並ぶ『砂漠の夏野菜カレー』が鎮座していた。
「このサンドモロコシの甘さとむね肉のサッパリさがカレーのスパイスを引き立ててるのね……。コユキみたいな野菜嫌いでも食べられそう…」
「すごい…ものすごく美味しい!……まさかあの砂漠のど真ん中で採ったものが、こんなに豪華な料理になるなんて…!!」
最初は「食材調達」という名の魔物狩りにドン引きしていた一同だったが、目の前で美味しそうに料理を頬張る宿泊客たちと、それを見て満足げに頷くカイル、そして夫を支えるリーシェナの笑顔を見て、いつの間にか疲れは吹き飛んでいた。
「……『誰かのために』…か。こういうのも、良いのかもしれないわね」
ユウカはオレンジジュースで喉を潤しながら、小さく微笑んだ。
窓の外には、リカタ・ジュタの冷たい夜風が吹いている。だが、宿の中だけは、ミレニアムの少女たちが持ち帰った「愛情」という名の食材によって、いつまでも温かな熱気に包まれていたのだった。
Tip!:アリ系モンスター
世界樹の迷宮シリーズに出てくる蟻はかなりデカイ節足動物で、蟹かエビみたいに身が詰まってるんじゃないかって程である。………食材としてはグロテスクっぽそうだけど。
魔物図鑑
ファイアアント
初出は世界樹の迷宮Ⅴ。5層の敵として登場し、蟻らしからぬ火力で冒険者を焼きに来る。このリカタ・ジュタでもその火力は健在。
キラーアント・ガードアント
世界樹の迷宮に登場するアリ。攻撃隊列や防御隊列で攻撃力・防御力を上げる戦法を好む。リカタ・ジュタでは食材アイテム「死蟻の腹」をドロップするとか。
ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。また、ゲーム開発部+ユウカのリベンジ攻撃ボイスを考えてくれても構わない。
送る感想は短くても長くても構わない。感想があることで作者のモチベーションが上がり、よりハイペースでリカタ・ジュタの樹海の謎が明らかになるだろう。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも、踏破した迷宮の思い出を語るのも自由だ。
もっと詳しく書いて欲しい部分とかありますか?
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樹海の世界観
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様々なクエスト
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リカタ・ジュタの人々との交流
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他の生徒達についてのこと
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ブラン&リノアとの交流
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樹海の魔物のこと
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強敵との戦闘
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その他(さり気なく…)