ブルア界樹の迷宮   作:伝説の超三毛猫

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世界樹の迷宮の新作が待ち遠しいのです。
分かってるんですよアトラスさん。今はペルソナ6とペルソナ4リバイバルに力入れてるって事は。世界樹の迷宮が……その。ペルソナに後れを取ってることは。番長がアトラスを立て直した大御所であることも。
でもSwitch2での新しい世界樹の迷宮Ⅵも見てみたいんだ俺ァ…!

過去回「砂被りの電影」にて、挿絵を追加したのでそっちも見てください♡

あ、あと言い忘れていましたが、この物語の時系列は『鋼(・)鉄(・)大(・)陸(・)編(・)よ(・)り(・)も(・)前(・)』です。連載中にケイが受肉しちゃったんで………


飢えた地の人影は幻か否か

 ユズの治療所での依頼が終わってから2日後。

 ギルド『ミレニアム』は、中断していた樹海の探索を再開した。

 

 ———砂塵ノ仙閣。世界樹の迷宮・第13階。

 

 砂漠と、巨人のようなサボテン達と、砂に埋もれた廃墟がぽつぽつと見え始めた階層を進んでいく。

 相変わらず猛暑と砂交じりの風と、過酷な環境に適応したであろう魔物たちの襲撃に襲われながらも、なんとか歩を進め、地図を広げていく。

 

「どっかに休憩スペースない~?」

「休憩、かぁ」

 

 暑さにやられたモモイがそう言うが、相手は大自然の象徴たる世界樹の迷宮だ。そんな都合のいいものはない。

 しかし、偶然にも、巨大サボテンの陰や砂に半ば埋もれた機械の陰が、過酷な日光から守ってはくれる。

 とはいえ、それだけでは不十分だ。

 

「ふぅ……どこかで、水を確保できないものかしら」

「もう水筒がカラです……」

 

 この階層の敵は、襲い来る生物たちや、迎え撃つ覇王樹、砂中の遊撃者といった強大な魔物だけではない。

 過酷な猛暑。乾燥した熱風。代り映えのしない荒涼とした景色。

 それらが、じわじわと冒険者たちの精神と体力を削っていくのだ。

 

 その時、先頭を歩いていたユウカが、ふと足を止めた。

 

「……あれは?」

 

 ユウカの視線の先。

 遠くの砂丘の向こうに、きらきらと光る水面が揺らめいているのが見えた。周囲には青々とした草木さえ生い茂っているように見える。

 

「わっ、水だ! 本当にあんなところに……!」

「待って、モモイ!」

 

 飛び出そうとするモモイ。

 その腕を、サッと掴んで制止したのは、ユウカだった。

 

「えっ、なんでよ、ユウカ!」

「まだ水とは限らないわ!」

「そ、そうだよ、モモイ……ユウカ先輩の言う通り、だよ」

「ユズ?」

「ユウカ先輩……なんかあれ……水面が近づいているように見えないんです」

 

 ユズの指摘に、ユウカははっとした。

 知識としては知っている。だが、実際にここまで大規模なものを目の当たりにしたのは初めてだった。

 この砂塵ノ仙閣の気候からすれば、十分に起こりうる自然現象。

 地表の熱と空気の層が織りなす幻で、別名を「デザート・ミラージュ」や「逃げ水」とも言う。

 その現象の名は………

 

「下位蜃気楼……ここでも起こりうるのね…!」

 

 ミレニアムサイエンススクールでも、猛暑日にアスファルトに水たまりが見える現象があった。

 だが、砂塵ノ仙閣においてこの現象は、決定的な危険性がある。

 それは、大きなオアシスがあり水を確保できると思い込んだ冒険者が水のない方向に彷徨い、そのまま水が枯れて野垂れ死ぬ事だ。これを避けるためには、正確なマッピングと慎重さが求められる。

 

「さ、砂漠って水まで嘘つくの!?」

「正確には水じゃなくて地面に映し出された空の色だけれどね」

 

 騙されたら危険よ、と締め、幻のオアシスから視線を切り、本来歩く予定の道の先へ歩き出す。それに倣い、ほかの面々も多かれ少なかれオアシスを惜しむ気持ちを出しながら、ユウカに続いた。

 

 

 砂漠が幻を見せる広場を抜けて、サボテンの大樹たちが入り組む地帯の、巨大サボテンの陰にて、ギルド『ミレニアム』は休憩を取った。

 水筒の残り香を確認し、アリスが持ってきた携帯食糧を分け合う。乾燥した空気は相変わらず喉を焼き、疲労の色は隠せない。

 

「ねえ、さっきの逃げ水だけどさ……実は、あそこに人がいたかもって話、知ってる?」

 

 休憩中、モモイが小さく呟いた。

 何でも、出発前の酒場で一足先に向かっていた冒険者が話していたのが耳に入っていたのだ。それを、ふと、休憩中のこなタイミングで思い出したらしい。

 

「人? こんな砂漠の真ん中に?」

「うん。何でも、ぼんやりとした影がオアシスのあたりを歩いてて、こちらを手招きしてるように見えたって。でも、近づいたら消えちゃったんだってさ」

「それって、ただの蜃気楼のせいで人の形に見えただけじゃないの?」

「だといいんだけどさ……。でも、みんなが同じ場所で『人影を見た』って言ってるらしくて、ちょっと気味悪いんだよね」

「人影、ねぇ……」

 

 その話に、ミドリは地図から顔を上げて小さく首を傾げる。

 ユウカも、その話には眉をひそめた。

 

「光の屈折でそういう風に見えることもあるかもしれないけれど、手招きするなんておかしな話ね。怪物の罠か、あるいは疲れた脳が見せた幻覚よ」

「そうだよね。この階層、暑すぎて頭がおかしくなりそうだし……」

 

 モモイが納得したように頷く。

 だが、その輪の中で、アリスだけがじっと遠くの砂丘を見つめていた。

 

「アリスちゃん? どうかしたの?」

「いえ……。確かにさっき、蜃気楼を見てきました。だとしても、目撃証言が多すぎませんか?」

「目撃証言?」

「見間違い…にしては、多くの人が同じものを見過ぎている気がするんです」

 

 アリスの純粋な疑問に、ユウカは少し考え込む仕草を見せた。

 確かに、ただの光のイタズラにしては、目撃証言の一致が気になるところではある。

 しかし、この世界樹の迷宮に、こんな灼熱の砂漠を好む人間以外の生き物がいるだろうか。

 

「まさか、この階層に迷い込んだ他の冒険者ってわけでもないだろうし……。ま、どちらにせよ、私たちには関係ないわ。余計な深入りはやめましょ。それよりも、次のルートの確認よ」

 

 ユウカがミドリの持つ、地図を記した羊皮紙を指し示すと、一同は「そうだね」と頷き、人型の目撃証言についての話題を一旦打ち切った。その際、モモイが「あーあ、せめてあのオアシスが幻じゃなかったらなぁ!」というぼやきが、熱風に乗ってどこかへ流れていった。

 

 

 探索を再開した『ミレニアム』は、13階を少しずつ進みながら、その様相を地図に書き起こしていく。

 自らの足で踏み固めた様子を地図に書き込んでいけば、それは立派なデータだ。

 確実なデータを集め、それを描きこんでいけば、地図に裏切られることはない。

 その先にも、いくつか蜃気楼が見える場所があったが、それらも注釈をつけて地図に書き込んでいく。

 

 例えば、サボテンの大樹たちに囲まれた一本道の先に、水たまりが見える地点もあった。それらも迷わない程度に進んでいけば、水たまりが幻だと証明できた。

 他にも、樹海の凶悪な魔物の住処も記録した。しぶとく生き残り、生存本能で攻撃力を上げてくるディアトリマや、巨大なヒュージアントの居場所を書いておけば、次回以降の奇襲の対策になり得る。

 

 しばらく進んだ先。

 何度目かの扉を開けてすぐのことだった。

 

 ―――シャカ、シャカ、シャカ……。

 

「……っ! 止まって!」

 

 先頭を歩いていたユウカが素早く手を挙げて一行を制止した。

 耳を澄ませば、乾いた砂を掻くような異音が聞こえる。

 音の出処は、すぐ近くに見えた、砂が大きく凹んでいるような窪地。

 

「何か来る……!」

 

 モモイが手甲を構え、アリスが盾を前に出す。

 砂煙を巻き上げながら、その姿を現したのは―――

 

「シャアアアアアッ!!」

 

「なに…あれ……!?」

「巨大な……蛇!!?」

 

 窪地の砂を押し退けるようにして現れたそれは、これまでギルド『ミレニアム』が遭遇してきたどの蛇型の魔物とも、あるいはミレニアムサイエンススクールのデータベースで見たどの蛇とも異なっていた。

【挿絵表示】

 

 白磁のような鱗に覆われた巨大な胴体。

 その身体から伸びるのは、花弁を思わせる赤や紫の長大なヒレだった。陽光を受けるたび、それらが鮮やかに輝き、まるで巨大な花が砂漠の中で咲いているかのようにも見える。

 頭部には、植物の枝にも、獣の角にも似た複雑な突起。

 その姿だけを見れば、どこか神聖な生き物のようですらあった。

 だが――。

 

「シャアアアアアッ!!」

 

 血走った赤い瞳が、五人を捉える。

 ―――その瞬間!

 

「来るわ!」

 

 ユウカの声と同時に、巨大な尾が横薙ぎに振るわれた。

 

「うわっ!?」

 

 五人が一斉に散開する。

 地面が大きく抉られ、砂が宙へ舞い上がった。

 

「速い!」

 

 ミドリが叫びながら銃を構える。

 

「見た目に騙されちゃダメってことね!」

 

 モモイもすぐさま戦闘態勢に入った。

 先ほどのひと薙ぎの威力を、全員が言わずとも察したのだ。

 あんなものをまともに食らったら、骨の一本や二本程度では済まされない。

 

「アリス、前をお願い!」

「了解です!」

 

 アリスが盾を構えて前へ出る。

 巨大な白磁の蛇は、アリスを獲物と認識したのか、鎌首をもたげた。

 

「シャアッ!」

「っ!」

 

 頭部が弾丸のように突っ込んでくる。

 アリスは盾を構え、真正面から受け止めた。

 

「くっ……!」

 

 衝撃を殺し、受け流す。

 それでも弾かれた衝撃で、砂の上を数メートル滑らされるアリス。

 

「アリスちゃん!」

「大丈夫です!」

 

 すぐさま体勢を立て直す。

 その隙にミドリが狙いを定めた。

 

「今!」

 

 銃声。

 ミドリの銃から放たれた、二連発の銃弾だ。

 しかし、白い大蛇は身体をくねらせ、その巨体とは思えないほど素早く射線から逃れた。

 

「避けた!?」

「ただの力任せの魔物じゃないわ!」

 

 ユウカが叫ぶ。

 彼女は、今の一瞬を見逃さなかった。

 突如現れた白い大蛇の、恐るべき身体能力を。

 

「動きをよく見て! あいつ、こっちの攻撃を見てから避けてる!」

「じゃあ、どうするの!?」

「追い込むわ!」

 

 ユウカが周囲を見渡す。

窪地の先には、巨大なサボテンがいくつも立ち並んでいる。

そのさらに向こうには――。

 

「……あっち!」

 

ユズが素早く指差した。

 

「少し開けた場所があります! あそこなら囲めます!」

「よし! そこまで誘導するわ!」

 

 五人は一斉に動き出した。

アリスが前から注意を引き、ミドリが逃げ道を塞ぐように射撃する。

モモイは蛇の側面へ回り込み、ユウカは全員の位置を確認しながら指示を飛ばす。

ユズは最後尾から全員の体調や姿勢の乱れに目を配り、的確な位置取りの声をかける。

 

「右だよ、モモイ!」

「了解!」

「アリスちゃん、あと三歩下がって!」

「はい!」

 

 少しずつ。

少しずつ。

白い大蛇の進路が限定されていく。

 

「今よ!」

 

 ユウカが叫ぶ。

アリスが盾を構えて正面に立つ。

逃げ道を塞がれた飢えし祝蛇は、一瞬だけ動きを止めた。

 

「いまだぁっ!」

 

 モモイが術式を起動させながら飛び込む。

だが――。

 

「シャアアアッ!」

「えっ!?」

 

 飢えし祝蛇は突然、しなやかに身体を反転させた。

そして、五人の間をすり抜けるようにして、開けた方向へと走り出す。

 

「逃げた!?」

「待って!」

 

 ユウカが叫ぶ。

 モモイが咄嗟に起動させていた炎の術式を放つが、白い大蛇にはかすりもしない。

 

「追うわ!」

「追いつけるかな!?」

「全力で走れば何とかなる!」

「わかりました!」

 

 五人はその後を追った。

砂煙を上げながら、巨大な蛇が砂漠を疾走する。

長大な身体が砂丘を乗り越え、その向こうへ消えていく。

 

「速すぎるよぉ!」

 

 モモイが叫ぶ。

 

「モモイ、前を見て!」

「見てるよぉ!」

 

 それでも諦めずに追い続ける。

やがて、白い大蛇が向かった先に――。

 

「……あれ?」

 

 アリスが足を止めた。

そこには、青々とした植物に囲まれた場所があった。

砂漠の中にぽっかりと開いた緑の空間。

中央には、透き通った水を湛えた小さな湖がある。

 

「オアシス……?」

 

 ユズが呟く。

 

「今度は本物みたいね」

 

 ユウカも目を細めた。

 先ほど目にした、砂漠の熱が放つ幻とは似ても似つかない。

水面は太陽の光を反射してきらめいている。

植物は風に揺れ、先ほどまでの乾いた砂漠が嘘のようだった。

 

「やった! 今度こそ水だ!」

 

 モモイが喜ぶ。

 

「でも、先にあいつを――」

 

 ユウカが言いかけた、その時。

純白の大蛇がオアシスへ向かって身体を滑らせた。

水場に逃げ込んでいく……ように見える。

 

「待って……?」

 

 ところが、蛇の身体が水面に触れようとした瞬間――。

 

「シャアアアアアッ!?」

 

 大蛇は、まるで熱湯にでも触れたかのように大きく身をよじった。

 

「えっ!?」

 

激しい拒絶反応を起こし、慌てて後退していく。

巨体が砂の上を滑り、オアシスから必死に距離を取った。

 

「な、何!?」

 

 モモイが目を丸くする。

白い大蛇は血走った瞳で水面を睨みつけている。

そして、先ほどとは違いゆっくりと、もう一度近づこうとする。

しかし――

 

「シャアッ!」

 

水辺から数歩のところで、身体を痙攣させるようにして苦しそうに身を引いた。

 

「……水を嫌がってる?」

 

 ミドリが呟いた。

 

「いや……嫌がってるというより……」

 

 ユウカは目を細めた。

 

「生物学的に見ても不自然よ。あの乾ききった皮膚状態で、水を拒絶するなんて……」

「近づけない……?」

 

 ユズも水面と蛇を交互に見る。

 

「どうして……?」

 

 五人の誰にも答えは分からない。

オアシスの水そのものに異常があるようには見えない。

ユウカは慎重に一歩、湖へ近づく。

何も起こらない。

 

「……私たちは平気ね」

 

 モモイも恐る恐る水へ近づく。

 恐る恐る、指を水の中に入れてみる。

 ……が、何も起こらない。色がおかしいわけでもなく、異臭もしない。

 

「ほんとだ。普通の冷たい水だ」

 

 アリスもしゃがみ込み、手で水をすくう。

 

「異常はなし…普通の水です!」

 

そして、白い大蛇を見る。

蛇は依然として水から離れた場所に佇んでいる。

 

「もしかして、あの魔物だけに効く何かがあるのでしょうか?」

「分からないわ」

 

ユウカは首を横に振る。

 

「でも、一つだけ確かなことがあるわ」

 

その視線を、佇んでいる大蛇へ向ける。

 

「あの魔物は、水を避ける」

「……覚えておいた方がよさそうだね」

 

ミドリが地図に目を落とす。

 

「このオアシスの位置も書いておこう」

「うん。それと……」

 

ユズは白い大蛇を見る。

その巨体は、水を恐れるように距離を取りながら、こちらを狂暴に睨みつけていた。

 

「アイツが、このオアシスに近づけなかったことも……」

「そうね」

 

ミドリが羊皮紙に書き込んだ。

 

 ――白い大蛇の出現地点。オアシスあり。大蛇は水を避ける?

 

疑問符付きの、小さな記録。

 

「原因は分からない。だから、今は仮説として残しておく」

 

ユウカが言う。

 

「こういう小さなデータと観察記録が、後で役に立つかもしれないから」

「なるほど……! さすがユウカです!」

 

アリスが頷く。

その頃には、大蛇の姿は消えていた。

 大方、諦めて去っていったのだろう。

 

「……行っちゃった」

 

モモイが呟く。

 

「放っておきましょう」

 

ユウカは即答した。

 

「水を嫌う理由も分からない以上、無理に追跡する必要はないわ。それに――」

 

ユウカはオアシスを見る。

 

「今は安全に水を確保する方が重要よ」

「賛成!」

「わたしも……」

 

モモイとユズが水筒を取り出す。

五人はオアシスで十分な水を確保し、しばらく身体を休めることにした。

 

…こうして、白い大蛇―――のちに迷宮の命名係に『飢えし祝蛇』と名付けられる―――との遭遇は終わった。

なぜあの魔物が水を恐れていたのか………その理由を、彼女たちはまだ知らない。

ただ一つ。

 

 ―――飢えし祝蛇は水を避ける。

 

その事実だけが、データとしてギルド『ミレニアム』の記録に残った。

 

 

 

 

 

 

 オアシスでの休憩を挟んでからしばらくして。

 『ミレニアム』の5人は灼熱の迷宮を歩いていた。

 先ほどの戦闘での疲労は回復でき、水筒の水を補給できたとは言え、この環境が体力を奪う事には変わらない。

 

「この先は……大きなサボテンが三本並んでる場所を抜けて、その先を左」

 

「よし! 迷ってないね!」

 

「当たり前でしょう」

 

 ミドリが地図を見ながら確認する道。

 それによって迷うことがないと、モモイが元気を取り戻したように言う。

 ユウカがそれに呆れたように答える。

 その後ろで、ユズも周囲を見回していた。

 

 砂、岩、大樹のようなサボテンの数々。遠くに見える、謎の廃墟。

 変わり映えのしないそんな景色の中。

 

 ユズは、見つけたのだ。

 遠くの砂丘。先ほどまで誰もいなかったはずの場所に――人(・)が(・)立(・)っ(・)て(・)い(・)た(・)。

 

 小さい。

 あまりにも遠いため、顔も服装も分からない。

 それでも、人間の姿であることだけは、分かった。

 

「……あれって―――」

「ユズ?」

「!! アリスちゃん、あれ!」

「あれって、どれの事ですか?」

「え?」

 

 ユズが目を見開き、慌てて砂丘へ目を凝らす。

 だが、そこには何もない。風に舞う砂、赤茶けた岩、そして…青空のみ。

 

「どうしたの、ユズ?」

 

 ユウカが近づいてくる。

 

「い、今…さっきまで…あそこに……人がいました」

「人?」

 

 ユズが指を差す。

 四人が一斉にそちらを見る。

 だが、やはり、というべきか、何もない。

 

「……蜃気楼じゃないの?」

 

「でも……」

 

 モモイが呟く。

 ユズは言葉を失う。

 

 さっきのオアシスの幻とは違う。

 人影が立っていた場所は、明らかに空気が揺らめいている様子ではなかった。

 そもそも――。

 

「さっきの人影……蜃気楼が起きるような場所じゃなかった……と思います」

 

 ユウカが黙り込む。

 ミドリも地図を手にしたまま、視線を砂丘へ向けている。

 アリスだけが、何かを確かめるように目を細めていた。

 

「……また、人影です」

「アリスちゃん?」

「モモイが聞いたという話と、今のユズの話。似通っていると思いませんか?」

 

 アリスは静かに続ける。

 

「どちらも『人の姿をした何か』を見ています」

 

 誰も答えない。

 ザァァァ、と砂漠を風が吹き抜ける。

 ユズは自分の胸元に手を当てた。

 

 以前なら、不安になっていただろう。不安に、ふたをして、見なかったことにしていただろう。

 自分が何かを見間違えたのではないか。疲れているせいではないか。………そんな風に考えて不安になっていたかもしれない。

 

 けれど。

 

「……分かりません。私の見間違いかもしれないです。でも……」

 

 ユズは小さく息を吸う。

 そして、その目を見開いた。今度はしっかりと前を向いていた。

 

「私は、確かに見ました」

 

 ミドリが静かに頷く。

 

「じゃあ、記録しておこう」

「ミドリ?」

「見間違いだったとしても、記録すること自体は無駄じゃないよ」

 

 そうして、ユズに向かって地図を開いた。

 

「見た場所、教えて」

 

 ユズは少し迷ってから、「あそこだよ」と、砂丘の位置を指差した。

 ミドリはそれに印をつけていく。見間違いかもしれない。けれど、そうではないかもしれない。

 

 地図へ印を書き込んだのを確認して、五人は再び歩き始めた。

 

 だが、まだ彼女たちは知らない。

 

 自分たちが地図に記した小さな印が。

 この階層に隠された、ある「場所」を示すことになるなど――。

 

 そして―――

 誰もいなくなった砂丘の向こう。

 

 ほんの一瞬だけ。

 先ほど消えたはずの人影が、再び姿を現していた。

 こちらを見つめるように立ったまま。

 

 やがて、その姿もまた――砂塵の向こうへ消えていった。




Tip!:オアシス
砂漠地帯の地下水脈から湧き出る噴水。
人々の癒しの泉でもある。
だが、砂塵ノ仙閣の生物の一部には、水を嫌う生物もいるようだ。



魔物図鑑
飢えし祝蛇
【挿絵表示】

オリジナルFOE。儀式のような頭飾りを持つ、真っ白だが巨大な蛇。見つけた冒険者を追いかけてくるが、オアシスに入るとダメージを受けて逃げていく。動き方は新世界樹2の迎え撃つ覇王樹とほぼ同じ。オアシスに入ってから逃げていく間に接触すればHP85%の状態で先頭に入れるほか、確実に先制を取れる。

・耐性(◎…よく効く、○…効く、△…効きづらい、✕…効かない)
斬○
突△
壊○
炎○
氷◎
雷○
スタン×
即死◎
石化×
テラー○
呪い○
毒○
眠り○
混乱○
麻痺○
盲目△
頭封じ△
腕封じ○
脚封じ〇


使用技
通常攻撃
枯渇の祈祷(頭技):全体TP減少+防御デバフ
白蛇の呪い(頭技):全体に無属性小ダメージ+呪い付与+回復量減少デバフ
水狩り(なし):アイテム使用者に斬属性の攻撃。アイテム使用後に割り込んで1回発動。威力が高い上に1ターンの上限使用回数はない。

備考:『水狩り』の使用条件はアイテムを使用すること。もたもたしているとTPを減らされるため、すぐに逃げるか短期決戦で挑もう。

ドロップ
乾きの抜け殻(ノーマル)

もっと詳しく書いて欲しい部分とかありますか?

  • 樹海の世界観
  • 様々なクエスト
  • リカタ・ジュタの人々との交流
  • 他の生徒達についてのこと
  • ブラン&リノアとの交流
  • 樹海の魔物のこと
  • 強敵との戦闘
  • その他(さり気なく…)
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