ブルア界樹の迷宮   作:伝説の超三毛猫

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ブルアカ×世界樹の迷宮、略してブルア界樹の迷宮です。
対戦よろしくお願いします。


角鹿をすり抜けろ

 恋する雪見亭にて。

 モモイ達ギルド『ミレニアム』は、そこに集う人々を相手に、聞き込みを行っていた。

 目的はただ一つ。先日樹海で目の当たりにした鹿について、少しでも情報を得るためである。

 

「お前さん方もあの鹿を見たのか」

「有名なんですか…?」

「あぁ、無策にアレに挑んで死んでいったヤツらも多い」

「死っ…!?」

 

 話を聞き出してみると、案外早い段階で手に入る情報であった。

 あそこまでのプレッシャーを放つ強力な魔物なだけあり、もう少し時間がかかると思っていたからだ。

 だが、よく考えれば当然だ。ユウカもモモイも他の3人も実際に見たからわかるが、あんな鹿に初めて会ったのなら…よっぽどのことがない限り戦いを挑むなどあり得ない。

 ならば、あの鹿を見て逃げてきた冒険者も少なからずいるのだろう。

 

「そ……そんなに、危険なんですか?」

「ああ。アイツのステップは人の正気を狂わせるからな。ただでさえ凶悪な力持ってんのに、人を狂わせる能力持ちだから、大抵の駆け出しじゃ歯が立たねぇ」

「っ…」

 

 ユウカの影に隠れながらユズがした質問に、男は即答。

 

「人を狂わせる……ってのはなに?」

「混乱させるんだよ。そうなると誰が味方で誰が敵かも分かんなくなる。

 俺も別の敵に混乱させられたことがあったが、あん時は散々だったな」

「よく生還できましたね…」

「俺もそう思う」

 

 現段階のモモイ達を震わせるほどの力だけでなく、混乱という厄介な状態異常を引き起こすこともできる。

 その鹿の情報を手に入れた5人は、あの時アリアドネの糸を使った判断は間違いじゃなかったとつくづく思い返した。

 

「それでさ、その鹿どうにかならないかな?」

「力づくで鹿をブッ倒せる冒険者は駆け出しにゃいないだろう。普通は、鹿を躱して先に進むんだよ」

「鹿を…躱す?」

「あいつらは近づきすぎると襲ってくるが………大胆に姿を見せても普通は襲ってこない。常に縄張りをぐるぐる回っているだけだ。だから、ヤツらが通り過ぎた後で道を失礼する……って寸法で先に進むのさ!」

「危険じゃないですか…?」

「大丈夫だよ、俺も何度か鹿の前に立ったが、距離さえ取れれば襲ってきやしねぇ」

 

 それと同時に、鹿の対処法を手に入れる事ができた。

 この調子で、何人かの冒険者に樹海の鹿について訊いて回った。

 

 

「鹿? あぁ、アイツらを撒くにはな―――」

 

「彼らは、視界に入った冒険者を積極的に襲うことはまずしないよ―――」

 

「速度は、俺らとおんなじくらいで…」

 

 

 ガタイのいい冒険者、頭の良さそうな装いの錬金術師、優男のような見た目の冒険者、引退した元冒険者、眼鏡をかけた女の子………

 あらゆる人々に一通り話を聞き終えた5人は、恋する雪見亭を後にして、物資の補充のためにイチジョウ工房へ向かう。

 

「うーん…どうやら、確かに脅威だけど、こっちから手を出さなければ大した被害は出なそうだね」

「全員根拠のない推測だったり経験談だったりなのが気がかりだけどね…」

「こんな状況じゃなければソースのない噂話を信じたりしないのだけれど…仕方ないかもね」

 

 技術の最先端を行くミレニアムサイエンススクールは、情報の信頼性も高かった。

 主張の裏付けによく使われていたのは、スマホの内蔵カメラで撮られた画像や動画。数百・数千のデータをまとめたグラフ。研究に研究を重ねた結果書き上げられた論文……などである。当然、リカタ・ジュタにはないものばかりだ。

 インターネットという概念が存在しない、情報リテラシーが大きく退化した世界で、ここまで情報源がアテにならない情報を信用するのは恐ろしかった。

 だが、今はその信用ならない情報しか持っていない。そして、これ以上集めても、信用ならない情報が増えるだけだろう。

 

「信頼できる情報が殆どない以上、慎重に進むしかないわね。ユズとモモイの薬品を買いそろえたら、また樹海に入るわよ。糸も買い忘れないようにね」

「はーい!」

 

 いまいち信用できない情報に、膨らむ不安。

 それらを押し殺すように、彼女達はイチジョウ工房への脚を早めた。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、淡碧ノ樹海の、先日鹿を見つけたフロアまで潜り込んだ一行は、いつでも糸を取り出せるようにしつつ慎重に歩みを進める事にした。

 

「ねぇいつも以上に遅くない? ユウカ」

「仕方ないでしょモモイ。酒場で聞いた事忘れたの?」

「今のアリス達のレベルでは、あの鹿相手に苦戦するかもしれません」

「下手したら、こっちが負けちゃうかもしれないからね」

 

 基本方針は勿論、鹿に近付きすぎないこと。

 あの鹿―――酒場では“狂乱の角鹿”と呼ばれていた―――の異様さは、彼女ら自身が身を以て味わっている。手を出すつもりはさらさらない。

 習性はおおかた聞いた。信頼性が高いデータといっていいかは怪しいが、情報は情報だ。

 

「……! アリスは鹿を見つけました!」

「みんな、下がって! よく見つけたわ、アリスちゃん」

 

 やがて………彼女達は、件の鹿を遠目に見つける。

 鹿は、彼女達を見つけていないのか、周囲をぐるぐる回っているだけのようだ。

 

「ここを、抜けないといけないんですね…」

「近づき過ぎなければ襲ってこない、近付かなければ……!」

「ならば、あそこです!」

 

 アリスは、鹿の周回範囲の端に脇へと逸れる道を指さす。

 鹿の巡回経路から外れた道は、これまで様々な冒険者が通った痕跡がある。

 なるほど、あそこを通れば鹿と戦うことなくすり抜けることが出来そうだ。

 

「あとは、タイミングよく抜けるだけ…!」

 

 アリス達は、すぐさまその抜け道に向かうのではなく、鹿の動きを伺ってから動くことにする。下手に動いて、鉢合わせでもしたら一巻の終わりだ。

 全員が、鹿の動きに全集中を注ぎ込む。そして、鹿が抜け道の近くを通り……姿が見えなくなった刹那!

 

「「「今っ!!」」」

「「っ――!!」」

 

 5人全員が、駆け抜けた。

 すぐさま抜け道へと滑り込み、鹿の巡回経路から逃れた。

 高鳴る心臓の音を押さえつけながら、後ろを振り返ってみる。追ってくる気配は………………ない。

 

「と…通り抜けられた!」

「ほ、ほんと…?」

「ひ、膝が笑ってるよミドリ…!」

「お姉ちゃんだって、声が震えてるくせに…!」

 

 各々が、危険な鹿の脅威から逃れている事に気がつく。

 それぞれ、現実かを確かめたり、軽口を叩きあったりとしていたが、やはり強大な気配は近づいてこない。

 彼女達は、危険な鹿が巡回するエリアを無事、抜けることに成功したのだ!!

 

「やったぁー!」

「これで、安心して探索ができるわね」

 

 安堵の息をついて、いざ先をゆかん、としたその矢先。

 

「ひっ…」

「へ…?」

「うそ…」

 

 ユズが悲鳴をあげ、モモイとミドリが信じられないものを見たとでも言うように言葉を失う。

 5人の目の前に見えてきた光景は……2匹の鹿が巡回している光景だった。しかも、先程すり抜けてきた鹿と見た目がほぼ一緒である。

 どうやら―――鹿は、一匹だけではないようだった。

 

「……………」

「わぁぁあーー!待ってユズ! まだ糸は使わないで!!」

「なんとなく……そんな気はしてたわ…」

「ユウカ?」

「情報が多すぎたのよ。樹海を探索しているほぼ全員が鹿のことを知ってた。あんな強い魔物がいれば噂くらい広まるかと思ったけど……」

 

 そう言えば鹿は群れで子供を育てるんだったわね、なんてどうでもいい事を思い出しつつ、ユウカはこめかみを揉んだ。

 後ろには鹿一頭、前には鹿二頭。

 このまま立ち往生するワケにもいかない。

 かといって、ここで糸を使ってしまえば、前の探索とほぼ何も変わらない。

 だが、モモイ、ミドリ、ユズの3人は、せっかくの強敵をかいくぐった直後のおかわりで完全に動揺している。冷静に行動できるか……

 

「―――――――――よ…

「え?」

 

 しかしそこで、モモイの耳に何者かの声が聞こえた。

 

「ねぇミドリ、なんか言った?」

「え、言ってないよ?」

「えぇ?じゃあ誰?」

「何言ってるのモモイ? 誰も何も言ってないわよ?」

「え…」

 

 初めはパーティメンバーの誰かの独り言が耳に入ったと思ったが、そうではないと言われる。

 そのリアクションを受け、気のせいかと片付けようとして―――

 

我………か…に答…よ……

「!! やっぱり聞こえた!!!」

「え…?」

 

 再び、声がする。

 それを耳にしたモモイは、必死に辺りを見渡し、声の主を探そうとする……が。

 

「何してんのお姉ちゃん!」

「私には何も聞こえなかったわよ?」

「アリスにも何も聞こえませんでした…」

「え!?」

 

 しかし、仲間たちは何も聞こえていないと言う。

 見ず知らずの声は、朧気ではあったが、そこまで遠くにはいない、というモモイの確信があった。自分に聞こえているなら他の仲間に聞こえていないはずがない。

 だが不思議そうな顔をする4人に嘘をついている様子はない。この状況でどう説明するか……そう悩み始めたところで、モモイは気付いた。

 

我…呼…かけに答…よ……

「! これは…道が、分かる…?」

 

 2匹の鹿が巡回する通路……そこをどう通れば安全に通れるかが分かる気がしてきたのだ。

 まるで、声の主が、直接答えを教えてくれているかのように。

 

「…モモイ?どうしたの?」

「ねぇ…聞いて。信じられないかもしれないけど…」

 

 モモイは聞いたことを4人に話す。

 他の人にこの声が聞こえない以上、信じてもらうには真摯に話すしかない。

 今わかっていることをすべて話すと、ミドリが口を開いた。

 

「お姉ちゃん…」

「う…め、めちゃくちゃなことを言ってる自覚はあるよ?」

「そこは疑ってないよ」

「え? じゃあ…!」

「でも待って、よく考えてよ!

 ここはたくさんの人が命を落とした樹海……何があるかわかんないんだよ!?

 今のお姉ちゃんが聞いたのだって、魔物か何かが騙そうとしているのかもしれない!」

「あ、そうか!!」

 

 ミドリの指摘は尤もだ。

 そもそも鹿に囲まれたこの状況で、都合よく打開の道が開けるだろうか。もしかしたら、道に見せかけた猛獣の舌の上である可能性は十分にあるのだ。

 

「でも、ミドリ! そいつはもしかしたら、皆をこの世界に呼んだ存在かもしれません!」

「アリス……」

「確かに、ミドリの言う通り罠かもしれません。でも、モモイ達を呼んだ存在がいるとしたら、この迷宮のどこか以外にはあり得ないと思います!」

「え!?」

 

 しかし、アリスの言う通り、自分達がこの世界に呼ばれた可能性を持つものの言葉であるかもしれないのだ。

 しかもその手がかりは、放っておいたら無くなってしまう可能性すらある。だとしたら急ぐべきだろう。

 モモイ達がここにきた理由…そして、元の世界への帰還。それが、優先すべき事項であるからだ。

 

 ただしミドリの言い分も忘れてはならない。ここはあらゆる危険性があり得る樹海なのだ。

 それを踏まえた上で、モモイは………

 

「―――行こう、皆」

 

 前へ進むことを選択した。

 確かに、魔物の罠である可能性も否めない。だが。

 

「私達は…ここに、元の世界へ帰る方法を探しに来た。手がかりは確かめるべきだよ」

 

 たとえ、どれだけか細い糸でも、手繰り寄せるべきだ、と。

 すべては…ミレニアムに帰るために。

 

「それが、モモイの判断なら……」

「…はぁ、分かった。他に手がかりもないし、しょうがないか」

「いざという時はみんなで魔物を倒せばいいんです!」

「まぁ……慎重に進んでいければいいか」

 

 モモイの決めたことに、反対するメンバーはいなかった。

 そうして、モモイは声の導かれるままに、鹿の闊歩する道を歩き始めたのであった。

 

 

 

 

 

 ―――結論から言うと、『ミレニアム』は鹿の生活圏内を潜り抜けることに成功した。

 モモイだけが聞こえる声に従い、進んでみると、確かに鹿がいるハズなのに、鹿と一向にかち合う気配がまったくなかったのだ。まるで、最適なタイミングで鹿の道を突き進み続けてきたかのように。

 その抜けた先で近道を開通し、いちいち鹿に肝を冷やしていく必要がなくなったのである。

 

「結局あの声なんだったんだろうなー」

「ついにお姉ちゃん以外には聞き取れなかったし」

「不思議、ですね…」

 

 モモイに語りかけてきた声はついぞ分からなかったが、助かったのは事実。

 鹿の危険地帯を抜けた5人はもう帰って休もう、という空気になった。

 現在、帰還した直後、恋する雪見亭の店主・リンダに捕まってテーブルにつかされているところである。

 

「リンダさん、私達をここに連れてきて何をするつもりなんでしょう…?」

「はい、お待たせ~!」

「えぇ、私達まだ何も頼ん…どぉぉぉぉう!!?」

 

 モモイが驚いたのも無理はない。

 何故なら、リンダが持ってきたのは、人数分の分厚いステーキだったからだ。

 

「なに…これ…!?」

「なにってアンタたち、あの鹿の地帯抜けてきたんでしょ?そんなら、お祝いしなくっちゃねェ!」

「わ、悪いですよ、こんなの…?」

「ウチの冒険者には全員やってるよ。アルマリクの二人だってコレをやったもんさね。遠慮するんじゃないよ!」

 

 ほぼ無料で出てきた派手なステーキに、どうすればいいのか分からなくなってしまうが、やがて腹の虫に急かされたモモイが、最初に肉を切り分け、口に運ぶ。

 彼女の口の中で弾けたのは、鹿のやわらかさとうまみだった。それらが、焼かれたことで塩と胡椒の香ばしさも加わり、更に甘酸っぱいソースが、絡みついてうまさを引き上げる!

 

「うっまい!!」

「そ、そんなに?」

「ねぇみんな! はやく食べなよ! 美味しいよ!」

 

 鹿を相手に生き延びた新米冒険者に、鹿のステーキを食わせる。

 周りの冒険者もニヤニヤしているのを見るに、どうやらこれがリカタ・ジュタの恒例行事の一つのようだ。

 モモイに急かされ、他のメンバーも鹿のステーキを食べていく……

 

「「おいしい……!」」

「鹿って、はじめて食べました…!」

「とってもおいしいです!アリスのHPが回復していくようです!」

「気に入ったようで良かったよ。

 まぁ明日からまたこき使うつもりだからねぇ。今くらいは、しっかり食って精力つけとくんだね」

「ありがとうございます!」

 

 他の冒険者も集まって来て、口々に「おめでとう」「大変だったろ、鹿に囲まれかけて」などと労いの言葉をかけていく。約1名ほどテーブルの下に隠れてしまった。

 場所も、料理も、雰囲気も。今まで味わったことのない、所謂“宴”という空気である。ミレニアムからやってきた少女達は、その雰囲気を理解しながらも、リンダの料理に舌鼓を打っていくのであった。

 

 

 




Tip!:メディック
世界樹の迷宮におけるクラス(職業)のひとつ。
回復技術を駆使して味方を回復させる衛生兵。戦闘技術は一切ないが、パーティに一人はいた方が良い、そんな存在。HPの回復は当然のこと、封じや状態異常、果ては戦闘不能まで治癒できる力がある。メディックの中には、先んじて行動し、相手の攻撃を受けた直後に回復させる、医療技術を駆使して敵の身体の弱点を討つなどして戦闘に参加することもある。



魔物図鑑
狂乱の角鹿
樹海で強力な存在に進化した鹿。平衡感覚や正気を奪うステップや並の鎧を貫く角のかちあげで人間を蹂躙する。この鹿を撃破し、角を切り落とし皮や肉を持ち帰る事ができれば列記とした冒険者として認められるだろう。


ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも自由だ。

先生!頭を抱えてどうしたんですか!?

  • “シカ……混乱…うっ頭が”
  • “カマキリ…うぅぅぅ……”
  • “カボチャは…カボチャだけは…”
  • “ワイバーンだけは…”
  • “殺戮の光刃……ジェダイ……”
  • “カンガルー…アッパーはやめて…”
  • “ク ラ イ ソ ウ ル”
  • ※その他の思い出を思い出す
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