対戦よろしくお願いします。
5人が淡碧ノ樹海を進んでいると、遂に恐れていた事態が起きた。
先程すり抜けた恐竜とは別の恐竜が闊歩しているフロアに入ったのである。
「うげ…またあの恐竜」
「参ったわね…あいつ、道を塞いでいるわ」
しかも、部屋の近くに別の道への扉があった前回とは違い、先の道は奥へと続いており、恐竜がその行く手に立ち塞がっている形になっている。これでは、恐竜をすり抜けて行くのは難しいだろう。
「どうする…?」
「えっと…あの魔物が好きそうなエサで気を引くっていうのはどうかな…?」
「アイツが好きそうなエサって私達でしょ!」
「まずいわね…あんなのと戦って、無事でいられるかどうか…」
どうしたものかと言い合っていると、不意にユズがアリスの袖を引っ張り、指をさした。
指は、魔物よりも手前……さきほど調べた石畳を指していた。
「あの床って、確か…」
「ミドリが叩いたり、モモイが飛び跳ねたりしてたあれですね!」
「うん。もしかしたら、あそこにあの恐竜を誘導すれば……」
「大体分かりました!」
ユズの言葉に、ミドリが見つけた石畳のことを思いだしたアリスは、彼女が考えていることを理解した。
石畳の床下は空洞だったハズだ。そして、目の前には、明らかに重量級で獰猛そうな恐竜。
アリスとユズのやり取りを聞いていた他の3人も、その意図を理解した。
「オッケー! じゃあ、こっちにアイツを誘い込んでみよう!」
「間違っても捕まらないようにしなくちゃね」
「でも、どうやっておびき出す?挑発でもしてみる?」
「え、えーーっと……やーい!ノロマー!お前の太ももぶっといぞー!」
「何ですって???」
「うわァーーーーッ!!待って!ユウカのことじゃない!!」
「うわーん!モモイ、ユウカじゃなくて恐竜を挑発してください!」
あまりに緊張感のないやり取りの騒ぎを聞きつけたのか、恐竜がこちらに眼光を向け、真っ直ぐに駆け寄ってくる。
ズシンズシンと大きな音を立てて、最前列にいた、盾を構えたユウカとアリスに襲いかかろうとした、次の瞬間!
ズガッシャァァーーーン!!
恐竜が踏みしめたと同時に石畳だと思ったそれは、大きな音を立てて床が抜けた!
そして、そのまま下の空洞に恐竜を閉じ込めてしまったではないか!
「や、やった…!」
「これ…まさか、大型の魔物の動きを封じるための罠だったの…!?」
ユウカの腑に落ちたような言葉に、全員が納得した。
自然によってつくられた迷宮の中に、明らかな人工物の石畳があったことに違和感は多少なりとも覚えていたが、おそらく前の時代の人々が大型の魔物の対策に造ったものだったのだろう。
「なるほど、要はあの石畳の上に魔物をおびき寄せたら、ズボッとはまって動けないってことか…」
「これで魔物は動けません! 魔物を倒すチャンスですね!」
「流石にソレは無茶でしょ。先に進めるってことじゃないの?」
恐竜に対処する方法が判明したところで、罠にハマッて動けない襲撃者を横目に、ミレニアムの5人は先に進む事にする。
恐竜をやり過ごした部屋を抜け、しばらく進んだ先に新たな……3階へ続く階段が見えてきた。
その階段のある小部屋に入ると同時に、何者かの気配が、彼女達のすぐそばにあることに気付く。
「おい、お前ら」
「「「「「!!!!」」」」」
……それは、一人の青年だった。
重厚な鎧を全身に纏っていて、兜をかぶっていない赤髪と、まだ幼さが残るその顔つき、そしてギルド『ミレニアム』で最も背の高いユウカよりも頭ひとつぶん高い背丈だけでしか年齢を推測できない。
剣を腰に差して、斧を背負っているその青年は、不機嫌そうな表情と冷たい視線を隠すこともなく、ユウカ達に問いかけた。
「新人の冒険者だな?」
「…えぇ、そうよ。貴方は?」
その問いかけに真っ先に答えたのはユウカだ。
敵意とでも言いかねないほど凶悪なオーラは、人見知りのユズだけでなくミドリさえ足が竦むほどだ。そんな見ず知らずの男を前に、面倒見のいいユウカが前に出るのは当然であった。
その様子のユウカの問い返しには、男は鼻を鳴らす。
「…貴様らみたいな樹海をナメきっているヤツに名乗るのも面倒くせぇ。どーせ半月後には故郷に帰ってるか魔物のエサになってるだろうに」
「なんだとー! 私達が樹海を舐めてるって言うのか!?」
「今のは聞き捨てなりません。アリス達は樹海の危険をわかっています」
「そんな事をほざいている内は分かってねーんだよ」
「何を!」
「…言っても分からんか。まぁ俺の言葉は侮られがちだから解り切っていたが。論より証拠だ」
そう言って背を向けると、「ついてこい」と一言だけ告げて、男は上層へ続く階段をさっさと登ってしまう。
「なんだよアイツ! すっごいムカつくんだけど!!」
「見るからにアリス達を馬鹿にしています! 嫌味なライバルキャラです!」
「でも、あの人も冒険者なのよね」
「あそこまで言い切れるのも気になる。どのみち先への道は一つしかないし、着いていくしかないかもね」
初対面から自分達を貶してきた男にイイ感情など持てるワケがない。
だが、男が先に階段を上ってしまった以上、アリス達は男を追いかける形で上層へと昇っていく形になる。
男の言い分に腹を立てているモモイやアリスだけではなく、他の3人にとっても、非常に癪な話ではあるが、先への階段が1つしかない以上、男の言う事に半ば従う形で階段を上るしかない。
「遅いぞ」
「お前ー!さっきはよくも…」
「黙れ。黙ってアレを見ろ」
淡碧ノ樹海・3階。池のような水溜まりが点在する、大部屋のような空間。
階段を上り切り、男に追いついたモモイの抗議を切り捨て、男は指をさす。
5人が男の指した方向を見てみると……
「な…」
「げっ…」
「なに、あれ…」
「あ……」
「………っ」
皆、一様に言葉を失った。
彼女達の視界に見えたもの。
それは―――ザリガニとヘビを足して2で割ったような姿をした、真っ赤な魔物であった。その大きさは、ユウカよりも背の高い剣士の男よりも、なお大きい。
しかも。5人が言葉を失った原因は、その奇妙な姿の
「運が良いな、お前ら。やっこさん、飯時のようだ」
その
大きく鋭利な鋏を器用に動かし、背を向けたままでいるところを見るに、男の言う通りあの鹿は蝲蛄のエサになった哀れな鹿であり、蝲蛄は食事の真っ最中なのだろう。
だがそれでも、ユウカ達は鹿や恐竜よりも強烈なプレッシャーを感じていた。同じ空間にいるだけで、周囲の気温ががくっと下がっているかのようだ。
「お前らみたいに、威勢のいい奴らなら俺も掃いて捨てる程見てきた。
だが、ほとんどの連中は無謀にもあの
「っ!!?」
剣士の男は、そこまで言ってようやく、ユウカ達『ミレニアム』の5人と目を合わせた。
「良いか? この世界樹の迷宮には、あんなヤツがうじゃうじゃいる。
己の力量も弁えず、片っ端から魔物に突っ込むようなバカは
彼の言葉には、遠慮の欠片もない。
だからこそ、なのだろうか。彼の言葉に反論の材料が見つからないのは。
「あんな魔物程度にたたらを踏んでいる時点で、迷宮制覇なんぞ夢のまた夢……それを理解しておくんだな」
それ以降、言葉も出ないユウカ達を更に蔑むかのように再び鼻を鳴らす。
「……言葉も出ないか。当然だな、今の貴様らに勝てる相手じゃ―――」
「――いつか、勝ってみせます」
「「アリスちゃん!!?」」
男の皮肉にまみれた言葉に、真っ先に反論したのは…アリスだった。
「確かに、今のアリス達では勝てないと思います。
でもそれは、レベルが足りないからです。樹海の探索を続け、レベルを上げて、より熟練の冒険者になった時には……あのザリガニに勝ってみせます!」
「いやでも、私達がここに来たのは…」
「手がかりを探すにしても、強くなる必要は出てきます! 逃げてばかりでは、手がかりが得られないかもしれません!」
男が脅威だと断言した、あのザリガニにいつか挑む必要は、ハッキリ言って現段階では存在しない。
だが、アリスの言う通り……樹海に手がかりを探す時、強さは必ず必要になるものだ。何故なら…樹海で散ってしまっては意味が無いからだ。この樹海において弱い者がどうなるのかは、現在進行形で目の前で起こっている。
せっかく手がかりを見つけても、強大な魔物がその行く手を阻むのなら……アリス達は、それと戦って退ける必要があるのだ。
故に、退かない。今は勝てなくとも、ずっと勝てないと決めつけない。
「…そう、だね。そういう可能性も、あるよね。考えないようにしていただけで…」
「わ、私も……必要なら、頑張るよ! 元の……私達の目的のために…!」
ユズやミドリでさえ、アリスのその意見には賛成だった。ユウカやモモイについては、言うまでもない。
「そ、そうだね! わ、わ、私達だって、いつまでも弱いままじゃいられない!」
「怪我はしないように、無理せず樹海の探索に慣れましょ。私が守るから」
「………フン。強くなる意志は結構だが、強くなる前に死んだら無意味だって事を忘れるなよ」
水を差すかのようにそう吐き捨てた男は、「ひと月たっても生きていたら名前くらい教えてやる」などと言いながら、樹海の奥へと颯爽と去っていった。食事中の蝲蛄のことなど、欠片も気に留めている様子はなかった。
「はぁーー! 何アイツ! 最後の最後までイヤなヤツ!!」
「でも、実力は確かっぽかったよね。あのザリガニを全く気にせず先に行っちゃったから」
「後で見返せば良いだけです!」
「そう、だね……私も頑張るよ!」
「でも…あいつの言ってること、一理あるかもね」
男の言動に腹を立てずにはいられないモモイや男を完全にイヤミなキャラとして見ているアリス・ミドリと違って、ユウカはある程度冷静だった。
「樹海は相当危険な場所みたい。気をつけて行かないといけないわ。ひとまずは……」
と、ユウカは
「―――仕切り直すわよ!」
「「「「うわぁぁぁあああああああああッッ!?!?!?」」」」
この後、猛追する
ちなみに圧勝であった。下り階段が真後ろにあったからである。
そんなザリガニと謎の男の一件があった探索の帰り。
アリアドネの糸を使用し樹海入り口に帰ってきた彼女達は、一人の冒険者と出会った。
「あれ、あなた達見ない顔ですね!新しい冒険者?」
「はい!あなたは?」
それは、黒く美しい髪をストレートロングに伸ばし、スタイルの整った美少女だった。年齢は、ユウカと同じくらいだろうか。モモイの手甲と似たような装備を両手につけている所から見ても、彼女はアルケミストだろう。
「私はリノア。『アルマリク』ってギルドのアルケミストです」
アルマリク。何処かで聞いたことのあるようなギルド名だ。
リノアと名乗った彼女は、5人の自己紹介を聞くと、自分の用事を話してくれる。
「私、今からメンバーを迎えに行く所なんです」
「メンバー?」
「はい。目つきがとても悪くて、赤い髪のソードマン。分かります?」
リノアの言う、迎えに行くメンバーの特徴に心当たりがあり過ぎるアリス達。モモイは「あいつかよ…」と呟いて頭を抱え、アリスは頭に電球が浮かび、ミドリとユズは目を逸らす。だが、リノアはその各々の反応で察した。
「……まさか、何かイヤなことでも言われましたか?」
「実は……」
実はさっきまで迷宮でその人と会ってきました。
そのことを、彼に言われた言葉も含めて、リノアに伝えていく。
すべて聞き終えたリノアは、こめかみを揉みながらため息をついて……努めて5人には笑顔を向けて頭を下げた。
「ほんっとうにごめんなさい!
まさかブランがそんな失礼な事を…!」
「いっ…いえ!頭を上げて下さい!」
「大丈夫だよ!リノアさんには怒ってないから!」
「悪い人じゃないんです……ただ、目つきがメチャクチャ悪くて、性根がひねくれてて、言葉選びが終わってるだけですから」
「それを普通悪い人って言うんじゃないの…?」
ミドリの呟きに、苦笑いで答えながら「あのバカにはしっかり言っておきますね」と言って樹海の中へと去っていく。
そんなリノアは、モモイ達にとっては世話焼きな苦労人のように見えた。
だがその一方で、彼女の姿を見送るまで、言葉を失っていた人物がいた。………ユウカである。
「…ユウカ?」
「!? …なに、アリスちゃん?」
「どうかしましたか?」
「………何でもないわ」
ユウカが思い出したのは、元の世界に残してきてしまった、彼女のことだ。
自分にとって、最も近く…最も付き合いが長く…そして、信頼している親友。
見送ったリノアという人間とは……髪色こそ違うし、ヘッドドレスもヘイローもなかったが…よく似ていた。
「(名前も似ているなんて……どんな偶然よ)」
そうは思ったが、ユウカの口から、その言葉が出る事はなかった。
アリスも、ユウカがそれ以上何も言わないことに気になりはしたが、街に帰ってしまえば、そのような事は些細な事として忘れ去ってしまうのであった。
ユウカもまた、この出会いで抱いた既視感も、世界が違う事で起こり得る偶然、という形で片付けたのであった。
Tip!:ガンナー
様々な銃器を扱うことを得意とする銃士。戦況に応じ、攻撃や封じ、回復といった汎用性の高い行動を行える。
高い火力は勿論のこと、属性攻撃や封じ、回復とさまざまなことが出来る。中には跳弾を敵全体への攻撃手段として用いたり、より火力が高い射撃を即座に撃てる技術にも富んでいる。懐に入られると弱い為、基本的には後衛でパーティの火力・援護役を担う事が多い。
魔物図鑑
紅鉄の蝲蛄
水辺に棲息する、ザリガニとヘビを足して2で割ったような姿をした巨大な甲殻類。頑丈なハサミを刃物で切り落とし、持ち帰ることが冒険者の強さの証となるという。とはいえ強さは生半可なものではなく、氷を纏ったハサミの斬撃『アイススライサー』は多くの冒険者を両断したとも言われている。加えてリカタ・ジュタに生息するソイツは、縄張りに入り込んできた者に対する攻撃性が強い傾向があるらしく、目を付けられたら撒かれるまで追いかけるという。
ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも自由だ。
先生!頭を抱えてどうしたんですか!?
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“シカ……混乱…うっ頭が”
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“カマキリ…うぅぅぅ……”
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“カボチャは…カボチャだけは…”
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“ワイバーンだけは…”
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“殺戮の光刃……ジェダイ……”
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“カンガルー…アッパーはやめて…”
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“ク ラ イ ソ ウ ル”
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※その他の思い出を思い出す