対戦よろしくお願いします。
さて、今回ですがタイトル通りヤツが現れます。ご注意を。
それは、ある日の探索のことであった。
ミレニアムの5人が樹海のある小部屋で休憩をとっていた時、そいつと出会った。
「あっ! 見て見てみんな!」
「どうしたのユズ……あら」
「わぁ…!」
樹海の中の木の一つ。手頃な高さの枝にちょこんと座っていたのは、小さな生き物であった。
迷宮で頻繁に襲ってくる魔物たちとは違う、純粋な動物だ。
「リスだ!」
「この世界にも、いるんだね…!」
茶色い毛とふさふさした長い尻尾、身体に入った白い線とくりくりとした目が特徴的な、げっ歯類の小動物―――シマリスだ。
リスは、モモイが大声をあげても逃げる気配などなく、くりっとした目を向けて、小首をかしげるだけだ。
……その姿が、実に可愛らしい。
「ねぇねぇ、ちょっと触ってもいい?」
「うん……こんなに逃げないリス、初めてかも…」
その姿に、いつものお調子者のモモイだけではなくユズまでもが、リスと触れ合おうと言う。
しかし、それに難色を示す者もいる。ユウカだ。
「ちょっと待ちなさいよ。普通のリスなら兎も角、迷宮のリスよ? 何かしらの魔物かもしれないわ」
警戒を怠らない最年長の意見であったが、モモイもユズも食い下がる。
「いやいや!これ見てよユウカ!どう見てもふつーのシマリスじゃん!!」
「それに…魔物なら、もう襲いかかってきててもおかしくない……と思います…」
「そうかしら……?」
小さな生き物であるし、何よりなんの敵意もない。
これが普段通りのモンスターなら、問答無用で襲いかかってくるはずだと。
それは、言い得て妙であった。これまでの魔物たちは、コアラといい、バッタといい、ネズミといい、カブトムシといい、ほぼ全てが人間に対して積極的な攻撃性を発揮し襲い掛かってきていた。
しかし、目の前のリスは違う。襲いかかってこないどころか怯える様子もなく、きゅい、と小さな声で鳴いて近づいてくる。その姿は、ミドリさえ魅了する。
「か、かわいい…」
「でしょ!? ね、いいんじゃんユウカ?」
「…でも毒か何か持ってたらどうするのよ」
ユウカはそう言うが……目の前のリスは疑われているのさえ分かっていないかのようにきゅい、ともう一度小さな声で鳴いて、アリス達の反応を待っている。
………遊んで欲しいのだろうか? もしそうなら、愛らしいものである。
「大丈夫、毒を持っているリスなんていないよ!」
「ほら、怖くないからこっちにおいで」
そう言って、モモイとユズが手を伸ばし、リスに触れあおうとする。
二人の手とリスの距離が、徐々に縮まっていく。
リスは、伸ばされた二人の手から逃げることも無く、鼻をスンスンと動かし、じっくりと見つめて……
次はどっちの手に乗ってくるだろう、とモモイとユズが期待に胸を膨らませた―――次の瞬間!!
「うわぁっ!?」
「モモイ!?」
「お姉ちゃん!!?」
リスは急に俊敏な動きを見せると、モモイに飛びついて身体を駆けあがっていき、背負っていたバックパックの中に入り込んでしまう!
「あ…! こら、出てって!!」
咄嗟にバックパックに手を突っ込んだミドリの言葉に対して、言われなくても、と言った風情でリスは荷物を一つくわえて逃げ去っていく……!
「ウソでしょ……」
「だから言ったじゃない!やめとけばって!」
一体何を奪われたのだろうか。
一同は、バックパックをひっくり返して一つずつ荷物の確認をしていく。
すると……ミドリが、信じられない、といった顔で「やられた……」と呟いた。
いち早く盗まれたものに気付いたミドリに、4人の視線が集まる。
「糸だ…」
「い、糸って……アリアドネの糸のこと!!?」
ミドリがこくり、と頷いた。
全員が再び手を動かして、ミドリに言われたものを探してみる。
……だが非情なことに。確かに、出発前に買ってあることを確認したハズのアリアドネの糸は………バックパックの隅から隅まで探しても、見つける事は叶わなかった。
恐らく……先程、リスが持ち去っていったのがアリアドネの糸だったのだろう…!!
「最悪だぁ! 何とか取り返さないと……!!」
「でもあんな小さいリス、こんな森でどうやって見つけるのよ!?」
5人の総意としては、モモイの悲鳴に同意だ。
冒険の必需品を取り戻したいが……しかし、こんな森の中でリスを追い回すなど無謀だ。危険な魔物があちこちに住み着く樹海なら尚更のこと。
「…どうやら、それどころではないみたいです」
「え?」
「構えて下さい!魔物が来ま―――うぅっ!?」
だがしかし。
樹海は、冒険者に道具を紛失したことを後悔する時間さえ、与えない。
茂みから飛んできたボールアニマルに不意を突かれたアリスが、体当たりを辛うじて盾で防いだ。
「あぁもう!こんな時に!」
糸を無くしたことで後悔している暇はない。
アリス以外の4人も、戦う態勢を整えた。
敵はボールアニマルに針ネズミ。攻撃力が高いはさみカブトは居ない。
だが…より恐ろしい存在が、居る。
「みんな! あの蝶、気を付けて!」
「えっ、蝶?」
「樹海の魔物なら、あの蝶だって絶対只の蝶じゃないわよ!」
丸い魔物と針の魔物の後ろにいる、毒々しい色のアゲハ蝶。
今まで見たことのないそいつが危険だと、ユズから全員に警告が届く。直後、戦闘が始まった。
「はぁっ!」
「燃えろっ!」
「狙いを付けて…!」
アリスが、モモイが、ミドリが、それぞれ魔物たちへ切り込んでいく。
炎の術式がボールアニマルを焼き、針ネズミがミドリの弾丸とアリスの剣で一匹、討伐された。
生き残っているボールアニマルからの攻撃も、ユウカが盾で受け流す。
残りはボールアニマルが2匹と、紫色のアゲハ蝶が2匹。
このままいけば、順調に勝てる。
そう思っていた。
「げふっ」
ユウカが、血の塊を吐くまでは。
「ユウカ!?」
「い…一体、何が…」
ボールアニマルの攻撃をモロに受けていないハズなのに、内臓にダメージが入ったように血を吐いた彼女にうろたえるモモイとミドリ。
一体誰の仕業か……それを最初に看破したのは、ユズだった。
「毒、だ…」
「毒!?」
「あの蝶…多分、鱗粉かなにかに猛毒が入ってたんだよ。だから、それを吸ったユウカ先輩が…!」
「ま、マジ!? そんなの、どうすれば……!?」
ボールアニマルの後ろに何気なくいた、紫色のアゲハ蝶の意外な危険性。
それを知って慌てるモモイにユズは、必死で指示を出す。らしくもないし、得意な事でもないが…すべては、全員で生き残り、ミレニアムに帰るためだ。
「モモイは術式でアゲハ蝶を狙って! この戦いが終われば、対処が出来るから!」
「わ、分かった!」
モモイは狙いを目の前のボールアニマルから紫色の蝶―――毒吹きアゲハに変える。
そして、手甲の機械を作動させて、雷の術式を放った。しかし。
「痛っったぁ!?」
「お姉ちゃん!!」
術式を発動させることに集中してスキだらけだったのか、ボールアニマルが勢いよくモモイに突っ込んできたのだ!
モロに食らったモモイは、ゴロゴロと地面を転がる。
ユズは、まだ動けない。ユウカの治療が終わったばかりなのだから。
「すぐに、そっちに行く!」
「前はアリスに任せて下さい! これ以上、仲間を好きにはさせません!」
「ユズ、お姉ちゃんをお願い!私はこいつらを!」
己の出来る事を行い、懸命にこの戦いを生き残ろうとする5人。
毒は抜けきっていないが体力が回復した状態で、攻撃に備えようとするユウカ。
仲間を傷つけた魔物たちを倒そうと、闘志に燃えるアリス。
吹き飛ばされたモモイに駆け寄るユズ。
銃で確実に魔物の数を減らさんとするミドリ。
攻撃役…特にダメージを負っていないアリスとミドリが、懸命にアゲハを狙い毒の鱗粉を止めようとする。
だが…ボールアニマルは、アルマジロのような固い表皮を持っており……その性質上、武器による直接攻撃はあまり通らないのだ。
集中攻撃によって、一匹完全に倒し、動きを止めた時には、アゲハ蝶たちは更に鱗粉をバラまいてしまっており。
「げほっげほっ…」
「ミドリ!!?」
続いてミドリまで咳込んでしまった。
口元を抑えた指の間から、血が流れているのが見えた。
更に、回復したばかりのユウカも、苦しそうに膝をついてしまっている。
「そんな……皆に毒が…。
まだ、一気に治せないのに…!」
現在、ユズが回復できるのは1度で1人だけ。
このままでは、どちらかが最悪な状況に陥る。
だがそれでも皆、諦めることはしない。
「だい、丈夫…」
「ミドリ?」
「私には薬用弾がある………コレを撃ち込めば、毒の周りを遅くできる……だから、その間に、ユウカの回復を……!」
「わ、分かった!」
どうやらミドリには緊急用の薬品が入った弾丸があり、それで応急処置が出来るらしい。
だがそれも一時的なもの。本格的な治療は、落ち着いてからでしか出来ない。
そのためには……一刻も早く、目の前の魔物たちを倒す必要がある。
この場を収めなければ、明日はない。
そんな状況で、アリスは―――前日の会話を思い出していた。
『フォースブースト、ですか?』
『はい。冒険者になった時に全員が身に付けている、必殺技みたいなものです』
それは、恋する雪見亭で、たまたま先輩冒険者のリノアと出会った夜のことだった。
強くなりたいというアリスが、アドバイスを求めた時に、リノアはアリスにその存在を教えたのである。
『それを使うと、冒険者は一時的に、いつも以上に強くなれるんですよ』
『そうなんですか!?』
『フォースブーストの効果は職業ごとに違って、それぞれ別々の効果を持つのんです。ソードマンだったら、攻撃力や命中が上がるし、
フォースブースト。全ての冒険者が持つ必殺技。
目を輝かせるアリスに、冒険者の切り札はこれだけではない、と続ける。
『フォースブレイク、というものもありましてね』
『どういうものなんですか?』
『フォースブースト中に使う、奥義のようなものですよ。
フォースを使った必殺技がしばらく使えなくなる代わりに、一度限りの強力な必殺技を使います』
それは、フォースブーストよりもさらに強力な奥の手。
探索中に一度しか使えないが、不利な状況すら逆転できる可能性のある技だ、と。
リノアからその必殺技や奥義について訊いていくうちに、夜は更けていった。
あの夜の後、必殺技と奥義のことは一応皆に話したが、急に強力な力を手に入れる展開が現実味がなさ過ぎて、全員半信半疑、といった様子だった。
だが、アリスはもしアレが使えるなら今しかない、と踏んでいた。
今自分に求められているのは、一刻も早い敵の殲滅。
ミドリとユズが戦線を立て直せてはいるが、魔物の群れを倒さなければ、いつジリ貧になってもおかしくない。
「もう……誰も! 誰も、傷つけさせません!!」
決意と共に剣を振り上げると、アリスの身体が僅かに光り輝く。
「フォースブースト!」
「「「「!!?」」」」
誰もが、異変に気が付いた。
アリスに、普段以上の力が溢れている。
体当たりを盾で受け止めた直後、アリスは刃を振るった。
「ミラクルエッジ!!!」
光り輝く一閃は、目の前のボールアニマルはもちろんのこと。
後ろに控えていた毒吹きアゲハも全て、切り裂いていく。
仇なす敵を全て斬り伏せた光が、今度は優しく自分達に降りかかる。
その光が、自分達のキズや毒でズタズタにされた体内さえも浄化していくような心地がした。
「すごい……」
「みんな、大丈夫ですか?」
振り返った時に見えた、普段通りのアリスの笑顔は、間違いなく他のメンバー全員の希望に火を点けたのであった。
「―――というワケで、アリス達は無事樹海から帰還できたんです!」
「フフッ、良かったですね。糸がなくなった時は聞いてるこっちもヒヤヒヤしました」
その日の探索は、アリアドネの糸がない状態で続けるのは無謀だと考え、撤退し。
現在アリスは、恋する雪見亭で見つけたリノアに、今日の冒険譚を聞かせているところであった。
「それにしても、リスが糸を盗んじゃうなんてね」
「はい…それについては、アリスも驚きました。どうして糸なんて欲しがったのでしょう?」
「分からないけど……そういえば、モモイちゃんとユズちゃんは?」
「今日のことでユウカとお話しています」
「あらあら…」
話に出てきた、リスに糸を盗む隙を晒した張本人たちがどうなったのかを聞いて、リノアは納得した。
彼女の想像通り、モモイとユズはユウカにお説教を受けていた。とはいっても、普段ユウカがモモイにやるようなガッツリと絞るタイプのお説教ではない。ユズも油断してしまったということで、これからは樹海の生き物にはより気を付けようと言う反省会みたいな感じになっている事は、知るよしもない。
「ちなみに…帰り道は大丈夫だったの?」
「あ! それがですね、はさみカブト3匹に出くわしたんですが……」
聞き上手のリノアは、アリスの冒険譚をひとつも聞き逃さぬよう、笑顔で話を聞いていく。
その反応の一つ一つに誠意が籠っているのを感じたアリスは、普段以上に冒険の話をする口の滑りが更によくなっていった。
Tip!:フォースブースト/フォースブレイク
新・世界樹の迷宮2や世界樹の迷宮Xで採用されているシステム。フォースブーストとはフォースゲージを消費して発動する、3ターンの間自身を強化できる必殺技。フォースゲージが100%の時のみ使用でき一度使用するとスキル効果終了時に0%になる。フォースブレイクはブースト中のみ使える必殺スキル。探索中に一度しか使えないが不利な戦況が一気に逆転できる冒険者の奥義そのものと言っても過言ではない。
フォースブースト/ブレイクは冒険者の職業に応じて千差万別であり、効果によってどのタイミングで使用するかが変わってくる。今回は特別にヒーローのフォースブースト/ブレイクを紹介する。
フォースブースト・ブレイブハート
3ターンの間、自身の残像発生率と自身の残像の全攻撃力が大幅に上昇する
フォースブレイク・ミラクルエッジ
敵全体に強力な近接斬攻撃をし、味方全体を最大HPを超えて回復する
魔物図鑑
リス
殺すべし慈悲はない。何故世界樹の迷宮を踏破した冒険者から恐れられ殺意を向けられているのかは拙作を読み込むか実際にゲームをプレイするとよくわかる。
毒吹きアゲハ
樹海に住む、猛毒の鱗粉を兼ね備えた毒々しい色のアゲハ蝶。たかが蝶と侮った新人冒険者や蝶に何故か恐怖心を抱く新米冒険者を猛毒で毒殺する厄介者として知られる。世界樹の迷宮において状態異常:毒の恐ろしさを教えてくれる存在。毒を食らえば人は死ぬ。なお、属性攻撃で倒した際に採取できる無傷の複眼は貴重な道具の素材になる。雷属性で倒せば、より複眼の透明性が保証されるようだ。
ここまで読んでくれた君は、この小説に感想を送ってもいいし、高評価をつけてもいい。
もちろん、存在しない記憶を投げるのも、違う世界線の透き通った世界樹の迷宮を創造するのも自由だ。
先生!頭を抱えてどうしたんですか!?
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“シカ……混乱…うっ頭が”
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“カマキリ…うぅぅぅ……”
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“カボチャは…カボチャだけは…”
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“ワイバーンだけは…”
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“殺戮の光刃……ジェダイ……”
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“カンガルー…アッパーはやめて…”
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“ク ラ イ ソ ウ ル”
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※その他の思い出を思い出す