第12話「ダーク・シムルグ」
あれからショップで買い物を済ませた俺達は、宇宙と星ちゃんを自宅に招き入れた。
「んー・・・」
「どうした?勇吾?」
自分のデッキのカードを床半面に広げて、悩んでいる様子の勇吾に宇宙が話し掛ける。
「・・・このデッキもそろそろ引退時はなぁって思ってさ・・・」
「引退って、お前そのデッキを崩すつもりなのか?人にはその事を反対してたくせに?」
「いや、そういう訳じゃねぇよ。ただ、このデッキには規制を掛けられたカードが何種類かあって、もう動きがスムーズじゃないからさ。それに俺は後30回は兄貴に勝たなければ、いつまで経っても本当の意味で兄貴に勝った事にならねぇし・・・」
「マジかよ、お前。ただでさえ強いのに更に強くなるつもりなのかよ」
「強さの可能性は無限大、終わりなんて無いんだよ。だから俺は今以上に強くなる必要がある。宇宙、この意味が分かるな?」
「・・・友達ならデッキ構築を手伝えって事か。まぁ別に良いけどな。家に戻ってもやる事も無いし・・・」
宇宙は俺のデッキを研究出来る良い機会になるかも知れないというのに、タメ息をつき半分不満そうな表情で俺の予備のカードが入った箱に手を掛けた。
これが、この行動が俺に何度も敗れた者の、そして友の取る行動なのだろうか。
俺はそう思いつつも、宇宙と星ちゃんのアドバイスの元、新たにデッキ構築を開始した。
デッキ構築からおよそ30分後、デッキは思ったより早く出来上がった。
「よし、こんな感じかな?宇宙、試しに相手してくれね?」
「・・・まぁ良いけどね」
宇宙は「またかよ」と言った感じの態度だったが、そこは流石は親友、何だかんだ言ってもデッキの試運転には付き合ってくれた。
「カオス・ソルジャー-開闢の使者でダイレクト・アタック!!」
宇宙:LP2300→0
「・・・あ、負けた・・・」
宇宙はいつもの事と言わんばかりに、自身の敗北を受け入れると、まるで魂の抜け殻の様な状態であり、何のリアクションも起こさなかった。
「ま、まぁお兄ちゃん、勇吾君にも今のお兄ちゃんみたいな時期があったんだから・・・」
「・・・そうね・・・」
俺に代わって星ちゃんが宇宙を慰めるが、宇宙はボーっとしたままだった。
同じ相手に連敗した事からストレスが溜まり、精神が崩壊しかかっているのかも知れないが、こんな事で挫けていては、一生掛かっても俺には勝てないだろうな。
まぁそれでもデュエルを辞める等と弱気な事を言わないところが、宇宙の唯一の良い所だとは思うのだが・・・。
「・・・ふふ、ははははは!!よっしゃ!勇吾、もう1度勝負だぁぁぁ!!!」
突然、狂った様に笑い出したかと思うと、宇宙は何と再戦を申し込んで来た。
先程までの無気力振りは何だったというのか、相変わらず訳の分からないところがあるが、それでもやる気を見せたのなら、全力を相手をするまでだ。
「地球巨人ガイア・プレートでダイレクト・アタック!!」
勇吾:LP8000→5200
「これでターンエンド!!」
「俺のターン!ドロー!!魔法カード、影依融合を発動!!手札のシャドール・ビーストと超電磁タートルを融合!!来い!エルシャドール・ネフィリム!!」
「・・・またソイツか・・・」
「ネフィリムの効果が発動するが、俺はそれにチェーンしてシャドール・ビーストの効果を発動!!カードを1枚ドローし、ネフィリムの効果で影依融合を墓地に送る。更にライフを1000支払い、簡易融合を発動!!」
勇吾:LP5200→4200
「EXデッキから旧神ノーデンを特殊召喚!ノーデンの効果発動!!コイツが特殊召喚された時、墓地からレベル4以下のモンスター1体を効果を無効にして特殊召喚!!対象は終末の騎士!!更に終末の騎士が特殊召喚に成功した為、闇属性モンスターを墓地に送る!シャドール・ドラゴンを墓地に送って、宇宙の場の強者の苦痛を破壊する!!そしてノーデンと終末の騎士でオーバーレイ!!エクシーズ召喚!!No.101S.H.Ark Knight!!」
「あ、Ark Knightまで・・・」
「俺はArk Knightの効果発動!!X素材を2つ取り除き、ガイア・プレートを自身の素材にする!!バトル!!Ark Knightとネフィリムでダイレクト・アタック!!」
宇宙:LP4500→0
「あぁぁぁ、まーた負けた・・・」
「ゃ、でもお前もなかなかだったよ。今まで俺のライフを精々50ポイントしか削った事の無かったお前が、俺のライフを2800も削るなんて」
「お兄ちゃんも日々成長してるって事だよ。良かったじゃない、お兄ちゃん」
「あ、あぁ・・・ハハハハ」
宇宙は乾いた笑いだったが、左手ではしっかりとガッツポーズを取っている事が分かった。
翌日、日曜日、休日という事もあって、この日もまたカードショップは人であふれ返っていたが、この日はショップに知り合いはおらず、宇宙は星ちゃんの買い物に付き合わされており、不在の為、適当に町の店巡りをしていた。
(・・・ここには誰かいないかな?)
カードショップの次に向かったのは、町のちょっと大きめの本屋だった。
店内は静まり返っており、雑音といったら精々、騒ぎながら店内を走り回る子供に、それを注意する母親の声だけだった。
俺はそこでデュエルに関する情報誌を1冊だけ購入すると、次にレンタルビデオショップに向かった。
面白そうなDVDを探して店内を見回していると、カウンターの方から店の従業員の声が聞こえて来た。
「お客様、こちらの商品は18歳未満と思われるお客様にはレンタル出来ませんけど、身分証明書の提示をお願い出来ますか?」
なにやら18歳にも満たないくせに、アダルトDVDをレンタルしようと目論む馬鹿が年齢確認を要求されてる様だった。
俺はそいつがどんな奴なのか少しだけ気になり、カウンターの方に目をやると、そこには茶色い帽子を被り、茶色いコートを着込んだ某有名映画に出演していそうな役者みたいな格好の男の姿があった。
見た目としては4~50代くらいの男に見えたが、声の感じからするととても若々しい声だった。そして皮肉にも、俺はその声の主を知っている。
「いや、ちょっと今日は身分証を家に忘れて来てしまいまして・・・」
「・・・家まで身分証を取りに戻る事って出来ますか?」
「いや、その・・・」
返答に困ったのか、男は突然キョロキョロと辺りを見渡しだした。
すると、偶然にも俺とそいつは目が遭ってしまった。
そしてその時、俺はそいつの顔をはっきりと見て「やはりお前か」と思った。
顔にはサングラスに白い髭、だがそれに不似合いな程の童顔
間違いない、コイツは・・・
「あ!アイツです。アイツに命令されたんです。これを借りて来いって!!」
「櫻異!!やっぱお前か!!」
俺が偶然、出くわした男の正体、それは俺の通う学園一の問題児で変態の櫻異 閉太(さくらい へいた)だった。
奴は高校に進学するなり、いきなりクラスの女子の体操着を盗むなどという悪事を働き、警察沙汰にはならなかったものの、いきなり謹慎処分を喰らうという超絶的な問題児なのだ。
「・・・君がこの子にこのDVDを借りさせようとしたというのは・・・」
「1万%嘘です。信じないで下さい!!」
俺はそう断言するが、どうやら店員は俺を疑っている様子だった。
人に真実を伝える事は、簡単そうに見えて実はとても難しい。
人間は嘘を付く事のできる生き物だからな。
「あ、じゃあこうしよう。もしも君がボクとのデュエルに勝つ事が出来たら信じてあげるけど?」
ふざけてるのかこの店員は?何故、この局面でデュエルになる。お前んとこの社長はデュエリストなのか。
俺はそうツッコミをいれようと思ったが、デッキも持参しているし今までの勝負から勝つ事には絶対の自信があった為、やむを得ずそのデュエルを受ける事にした。
事務室に連れて行かれ、お互いにデッキをシャッフルする。デッキをシャッフルしている時、俺は何故この様な解決策にしたのかと、問いかける。
すると、店員は突然顎の下に手を置き、そのまま勢い良く上に引っ張り上げた。
そう、今まで店員はマスクを被って仕事をしていたのだ。
そして俺はこの顔にも覚えがあった。
「やぁ」
「・・・やっぱりお前か。四ノ宮 封輔(しのみや ふうすけ)」
まさか1日に2人もの同級生に出会わすとはな思わなかった。それも同じ店で。
一体何なんだコイツ等は?今日の日の為に打ち合わせでもしたのか?
俺はそう思いつつも、シャッフルしていた相手のデッキを相手の手元に置いた。
「アハハ、実は今月、財布がピンチでね。欲しいカードがあったんだけど、金欠で買えなかったから、ここでバイトしてるのさ」
コイツがいきなりデュエルを申し込んできたのも、同級生である閉太相手に正体を明かさなかったのも、ここでバイトをしているという事を知られたくなかったからか。
そしてデュエルを挑んできた事に関しては「このデュエルに敗北したら、学校や他の奴等には黙ってろよ」という忠告だったのだろう。
それというのもウチの学校は、バイト禁止なのだ。
こんな事がバレたら、コイツは即退学処分を受けるだろう。
まぁこんな方法を取らなくとも、俺は人の弱みに付け込むなんて鬼畜な真似はしないのだけどな。どうせだったら、俺じゃなくて閉太を相手に挑めば良かったものを。
あいつがマイデッキを持って無かったなら、店からサンプルデッキでも借りて、さ。
そんな事を思いながらも、俺はじゃんけんをさせられた。
じゃんけんの結果は、相手の勝ち。先攻は四ノ宮からとなった。
「ボクのターン!ボクは速攻魔法、手札断殺を発動!!お互いにカードを2枚捨てて、その後2枚のカードをドローする。ボクは手札から女忍者ヤエと忍者マスター HANZOを捨てて2枚ドロー」
(奴の手札から風属性と闇属性のモンスターが落ちた。このパターンはアイツが出るパターンだな・・・)
「・・・俺は手札から暗黒竜コラプ・サーペントと終末の騎士を捨てて2枚ドロー」
「おっと、手札にモンスターカードは無かったみたいだね。続いてボクは墓地の女忍者ヤエと忍者マスター HANZOを除外して、手札からダーク・シムルグを特殊召喚!!」
(やはり来たか、ダーク・シムルグ)
「カードを3枚セットしてターンエンド」
四ノ宮:手札:0枚 モンスター:ダーク・シムルグ(ATK/2700)魔法・罠:3枚 LP8000
「俺のターン、ドロー!!」
「ボクは君のスタンバイフェイズに永続罠カード発動!!魔封じの芳香!!このカードは魔法カードを発動する際、1度場にセットして自分のターンが来るまでその魔法カードは使用できない。そしてボクの場には全てのセット行為を封じるダーク・シムルグがいる。この意味が分かるね?」
「・・・魔法カードの発動は封じられたか」
「ご名答!更にボクは永続罠、宮廷のしきたりを発動する。これにより、ボクの魔封じの芳香は守られた」
(シャドールデッキは基本、場にモンスターをセットするところから始まる。だが、これで俺を追い詰めたと思ったら、常識に捉われ過ぎだぞ!四ノ宮 封輔!!)
「俺はマスマティシャンを召喚!!そして効果発動!!デッキよりシャドール・ドラゴンを墓地に送り、宮廷のしきたりを破壊する」
「シャドール・ドラゴン・・・そう来たか・・・」
「更に俺は手札からダーク・アームド・ドラゴンを特殊召喚!!」
「なっ!?だ、ダーク・アームド・ドラゴン・・・」
「あぁ、俺の墓地にはさっきお前が発動した手札断殺で捨てられた暗黒竜コラプ・サーペントと終末の騎士、そしてマスマティシャンの効果で墓地に送られたシャドール・ドラゴンの3体がいる」
「く・・・」
「俺はダーク・アームド・ドラゴンの効果を発動!!墓地からシャドール・ドラゴンを除外して、魔封じの芳香を破壊する!!」
「ぐ・・・」
「何もなければ続いて、墓地の週末の騎士を除外し、そこの伏せカードを破壊する」
「・・・伏せてたカードは魔法カード、強欲で謙虚な壺、よって破壊される・・・」
「バトル!!ダーク・アームド・ドラゴンでダーク・シムルグを攻撃!!」
四ノ宮:LP8000→7900
「そしてマスマティシャンで攻撃!!」
四ノ宮:LP7900→6400
「カードを1枚伏せてターンエンドだ」
勇吾:手札:3枚 モンスター:マスマティシャン ダーク・アームド・ドラゴン LP8000
to be continued