海賊王が最期の言葉は、腕に覚えのある
希望に背中を押される者もいれば、疑念を抱えたまま
空は死人の眼のように
海賊王が残した
報復、手打ち、解散、合併。裏切りは
出現と消滅を繰り返す
空位となった海賊王の座を巡る覇権争いは
想像すらしていなかった超越者の一撃は天災と変わらず、
下位の海賊は、稼いだ金を上納しなければ立場すら維持できず、
強盗、博打、密輸、人身売買、
全ては“貢献度”によって命運が決まる世界。上納した額が天秤にかけられ、裁きが下る。生死すら金次第。世界政府における世界貴族と同じ構造が、
嵐は止む気配すらなく、遠くの雷鳴が
◆◆◆
“海賊殺し”が足を踏み入れた島には、すでに地獄が根を張っていた。
一年前——。凶暴な部下を率いた女海賊が突如として王国へ侵攻した。平らかな日々は一夜にして崩れ去り、島は海賊団の暴力に
民には重税が課され、街では非道が公然と横行した。国は獣性を
女王を騙る海賊は、国民への“定時連絡”と称し、日々処刑を敢行した。王を侮辱した者。
囚人が
――そして、今日。
“海賊殺し”が島に上陸して最初に行った仕事は、血の匂いが濃い“殺処分”だった。港町でみかじめ料を強要するチンピラを斬り伏せると、その喧噪に気づいた兵士たちが
曰く——「殺人罪の現行犯で逮捕する」。薄汚れた
だが、その剣士は一切意を介さない。腰の刀が、乾いた音を立てて
——国を侵した海賊たちは、今や“国の兵士”として女王に仕え、悪徳の
——処刑と収容を司る、森のさらに奥の“禁断の区画”が存在すること。
市民が「森には近づくな」と口を揃えて訴える。しかし、剣士は刀についた血を地に払い落とし、簡素に礼を述べただけだった。
そして、誰の制止も聞かず——一人、森へと歩みを進める。
冷酷無比な女王とその一味。圧倒的な力で島を支配する暴虐の象徴。
それらを、この手で討つために。
静寂を切り裂く風が、剣士の背を押した。
◇◇◇
―――やはり、海賊は滅ぼすべきだ。
森は夜の底で息を潜め、ただ“結果”だけが木々に残されていた。枝から吊るされた小さな影――その無念が、湿った空気に濃く沈んでいる。
奥から、焚き火の揺らぎと
そこでは
「たすけて……誰か……」
震える声。少年は木に縛られ、何人もの兵に押さえつけられていた。剣士は瞬間、呼吸を忘れた。あらゆる善意が踏みにじられる光景に、胸の奥で何かが軋む。
その時だ。
「ハキャキャキャキャキャ!」
頭上を裂くような笑い声。見上げると、空中に“女”が浮かんでいた。人の形をしてはいる。だが背に生えた透明な羽は、虫のそれ。高速で振動する二枚の
女王。悪魔の実の能力者にして、この国を
ひと振りで空気が裂け、彼女は一直線に少年へと襲いかかった。毒針が閃く。少年の体がびくりと跳ね、口から押し殺した悲鳴が漏れる。兵士達はその
剣士は、拳が震えるのを感じた。
―――海賊は嫌いだ。
怒りが、限界まで
刃を抜くと同時に、剣士は
剣光が走るたび、血が
「誰だ! 誰だ、誰だ!!」
空気が震えた。巨大な蜂の羽音――蜂女が急降下してくる。
だが剣士は、わずか半歩、空へ向かって跳んだ。刃が水平に薙がれる。
―――速い。
女王の身体が横に流れ、左肩から黒い羽が舞い落ちた。深々と刻まれた傷から、怒りが噴き出す。
「よくも……よくも……ッ!」
触角が震え、複眼がぎょろりと剣士を射抜いた。空へ退き、甲高い鳴き声で
「同じ言葉を繰り返すな」
挑発に、蜂女の怒気が爆ぜる。
「うるさいッ! うるさいッ!!」
半月刀が火花のように閃き、下から上へ
「化け物が……」
剣士の白刃が、深い闇を吸い込んだように――黒く染まる。
◆◆◆
「死ねッ、死ねッ、死ねぇッ!」
狂気を振り絞るような絶叫とともに、“蜂女”が空を裂いた。毒の羽音が鋭い弧を描き、半月刀が閃光のように振り下ろされる。
剣士は一歩、身体の軸をずらすだけでその猛撃を受け流した。刃が地を噛む直前、黒刀の切っ先が逆に女王の喉元を射抜く——はずだった。
だが複眼がわずかに揺れ、蜂女の頭部が反射的に傾く。切っ先は喉を外れ、触角から
蜂女は息を呑み、即座に腹を折って毒針を突き立てようとする。剣士はすでに一歩後方へ跳び退き、その動きを寸前で断ち切る。
女王は舌打ちし、血の
三合、四合——火花と
「アアァァッ!!」
だが剣士の黒刀は、その一閃を真正面で受け止めた。火花が夜空に散り、重圧が地を震わせる。
蜂女は跳ねるように地を蹴り、甲高い笑い声を響かせながら宙へ逃げた。
―――剣士風情が。空で生きるアタシに敵うはずが……。
空中での優位を確信し、距離を取って女王が羽を震わせる。
対して剣士は、懐から短柄の武器を取り出した。そのまま、ひと呼吸を置いて
―――そんなもの、当たるわけ——。
蜂女は軽やかに身をひねり、軌道を逸らす。勝ち誇った瞬間、背後で閃光が弾けた。
爆音。熱風。衝突。
女王の身体は空中で弾かれ、無様に地上へ叩きつけられた。視界が揺れ、羽が焦げ落ち、感覚が消し飛んでいく。
剣士が歩み寄る。焼け
黒刀が静かに掲げられた。刃に宿る死の光は、ひどく冷たい。
一閃。首が落ち、森の土に静かに転がった。
「悪党が作ったものでも……たまには役に立つんだな」
押収した海賊製の小型爆裂武器を手に、賞金稼ぎは淡々と呟いた。
爆風の
【狂瀾怒濤】ひどく乱れて手の施しようのないさま。荒れ狂いさかまく大波の意から。
【鬼哭啾啾】悲惨な死に方をした者の浮かばれない亡霊の泣き声が、恨めしげに響くさま。転じてものすごい気配が漂い迫りくるさま。