「だから、マントルまで行くぞ」
空かなかった。ロックスミスがバチバチとプラズマを纏う。
(パルスアーマー!? なんで!?)
海底に来たはずなのに。引き摺り込んでアンタの肺を潰そうとして、失敗して。アンタの右手が数ミリ動けば私は溺死する。そのはずでしょ!?
ねぇロックスミス!
私という可能性は詰んでいると、君の中にいるフロイトとかいうクソガキはもう気づいてるはずだ。フロイトの視線がもう私を向かないように、私に錠をかけるべきなのに、なんで……深海の底を開けちゃうの! やること違うって!
たどり着いた深淵の底、硬い地盤にロックスミスはあろうことか鍵を刺して、マントルへの道を作ってしまった。またもや生まれた余白のおかげで、あれだけ苦しかった水圧から解放され、呼吸が容易くなる。星の重力に抱かれ、灼熱のマグマが生まれるコアに向かって、私もフロイトも落ちていく。
……そうだった。娯楽室で深海に潜っていた私を星のフロイトが見つけてから、私は何もかも全てフロイトに奪われていたのだ。
パルスアーマーを纏ったロックスミスの黄色い瞳が、検査開始時と変わらず煌々と輝いている。初めてフロイトに会った時の瞳の輝きと重なる。底なし沼に時折兆していた輝きは、煮えたぎる星の輝きだったのか。
(本当のACは、キスする時に瞳を閉じない)
ギャルゲーのロックスミスちゃんを思い出す。目を伏せてキスをしたロックスミスちゃんは、アーマードコアとしてパイロットを守り、ここまで来るための酸素をくれたのだ。
せめて鉄巨人の黄色の光も、人間らしく瞼の下に隠されていたのであれば、もうちょっとマシだったのだろうか。もっと何も奪われずに、自分を保てていたのだろうか。フロイトも私もACが無ければ、灼熱に焼かれることはなかったのかもしれない。
だが、私もフロイトもACに乗っている以上、目を瞑るなんてできやしない。そんな機能は最初からついていない。今更私たちはお互い興味を逸らすなんて……できない。
フロイトが作ったパルスアーマーの余白のせいで、枯れた樹形図からまた枝葉が伸びる。その余白があれば、まだ私の勝ちパターンは存在する。
スタッガーを抜けたジンチョウを後退させて、勝利の樹形図をしっかりと握りこむ。私たちの可能性が尽きるまで、この身に灯った火が燃え尽きるまで戦おうじゃないか!
「フロイト! 今、私、すっごく楽しいっ……!」
人間の可能性を拡張し続ける錠前職人め、私はアンタを一生恨む。負けたくない、悔しいと思ってる私も、まだ戦えることに嬉しいと思ってる私も、ああもうよくわかんない! とにかく、目の前のフロイトを殺すだけだ!
「ミラ! 行くぞ!」
「もちろん!」
この後どうやって戦ったのか、全然覚えていない。ただ、結局ジンチョウのAPが先に尽きて、検査終了の文字が中央に浮かんだのを見て──アドレナリンが切れた私の意識は闇に落ちた。