深海へようこそ   作:きすことおり

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アーキバスのAC搭乗適性検査は一次検査、二次検査、最終検査の三段階で構成されている。

一次検査はシミュレーター内のプログラムを使用して、AI制御でポップする敵機を既定のアセンでひたすら倒すだけだ。成績は反応速度、武器運用効率、EN運用効率など徹底的に数値化される。アーキバスコーポレーションの全社員が五年に一度の検査を義務付けられており、五段階判定の成績は本人が退職するまで記録される。ちなみに、パイロットだともっと検査頻度が高いらしい。

「それでは試験を開始しますが、気分が悪くなったらすぐ言ってくださいね」

シミュレーターに座った私が検査官に頷くと、検査官は手元の端末を見ながら話す。

「前回の検査は……3年前ですね。マシンは新しくなってますが、非強化人間向けの操作は同じですから。それでは適性検査プログラムを開始します。ヘルメットを被っていただいて、画面の指示に従ってください」

私はシミュレーターにリンクしたヘルメットを被る。娯楽室のシミュレーターはVRゴーグルだが、普通こういうのは世代更新で軽量化とか小型化が常ではないかと思う。形を見る限り、ヴェスパーで正式採用しているものと同じなので、再現性を大切にしているのかもしれない。

 

『これから試験の内容を説明するので、よく──』

 

ヘルメットのバイザーにVR機能を搭載しているようだ。目の前に広がる仮想空間とアナウンスも話半分に、手を軽く握ったり開いたりを繰り返す。

この間も、フロイトが帰ってから必死にシミュレーターで練習した。もちろん『試験に落ちる』ための練習である。

最速の反応速度を敢えて遅れさせるキャリブレーションは3年前もやったところだが、前回よりも調整に時間がかかった。ルビコンへ異動になって暇を持て余したがために、私の操縦は確実に上達していた。だからこそ、意識的に遅らせなければならない動作が増えたために練習が必要だったのだ。雑にやればサボっていると見做されて勤務評定が下がるので、塩梅は繊細に調整しなければならない。期末ボーナスのプラス評価がなくなるのは痛い。

目指すは下から2番目、D判定だ。3年前の結果と同じにしたい。文官にしてはほどほどに頑張りましたよ感を醸し出しつつ、二次検査には到底通らないレベルである。もしパイロットを目指すなら最上位のA判定は必須、B判定でも実績があれば稀に通る、C判定以下は論外といった具合だ。

フロイトの推薦状があるとはいえ、流石にD判定は通らないはずだ。地元で待つ私のメロ男のためにも、生きて帰らなければならない。パイロットなんてごめんだ。

 

『それでは試験を開始します。メインシステム 戦闘モード起動』

 

まずは今回の規定アセンを体に馴染ませる。出てきた4体のドローンに早速仕掛ける。

右肩の4連ミサイルを放つ。オーバーキルだが敢えて左肩のプラズマミサイルも発射。FCSの感覚も、武器感覚もデータとズレなし。

すぐ右隣にポップしたドローンを見て、まずはクイックブーストで距離を取る。機体はVPシリーズ一式、ジェネもアーキバス汎用製、ブースターも性能変わらず。3年前と一緒の使用感にほくそ笑む。後ろに逃げながら右手のパルスガンを発射。弾のバラツキもEN消費量もズレなし。

左手にはレーザーダガーがついているが、今回は封印する。「非戦闘員は敵に近づくことすらビビる」演出にちょうどいい。

(キャリブレーション完了、戦闘開始)

ここからはわざとズレる作業だ。

(0.2秒、0.1秒、1.2秒、あと6秒、無駄撃ち0.4秒、慌てたフリして右肩も全弾射出)

検査プログラムが私のレベルに応じて敵を増やす。手加減したレベルに合わせた敵は正直歯応えがなくてつまらないが、はやる気持ちを抑えてズレる作業に集中する。如何に自然に早く検査を終わらせるか考え続けていることもあり、頭の中はカウントと演算で全て埋まった。シナプスが弾ける寸前の高揚は、中毒性がある。

(6時ドローン4発被弾許容、8時は1発だけ被弾、3時方向に左肩マルチロック。フリでブースト2発無駄に出す、残り3発で四脚ブレード退避)

ポップされた敵のアルゴリズムに私の体の制御をはめ込みながら倒していく。ズレは被弾となり、私のAPが削られる。しかし全ては予定調和。

(AP残り4000……あと30秒で死ぬには?)

プロの指揮者が寄せ集めのオーケストラのタクトを振っているような。計算され尽くした不協和音が鳴る。

(わぁ! このタイミングで四脚MTが出るなんてラッキー! しかもプラズマキャノン付き!)

締めのロングトーンをシミュレーター側が用意してくれるとは。アレに合わせてフィニッシュだ。

(0.2秒、0.1秒、3秒! 被弾いま!)

息切れさせた私のACに、容赦なくプラズマの息吹が貫通した。APゲージが高速で削れてゼロになり、緊張からも解放された私は大きくため息をついた。

終了のアナウンスに従いヘルメットを外せば、検査員が話しかけてきた。

「気になると思うんで、速報値お伝えしますね。D判定です」

「そうですか」

まだ演算のトランスから抜けきっていない私がおざなりにいえば、検査員は顎に手を添えて考える。

「失礼なのは承知ですが……貴女は本当にフロイトさんの推薦ですか?」

「え!? あ、ま、まぁ、はい?」

慌てて現実に戻って弁明する。

「首席隊長、時折変なことするらしいじゃないですか」

「ああ、そうですね」

「多分私の推薦状も、それだと思います。本当に迷惑ですよ……」

私は身を屈めてシミュレーターの中から出る。検査員にヘルメットを渡しながらぼやけば、大変ですね、と言われた。

とはいえ、目標のD判定は取れた。これで私の平穏な生活が戻ってくるはずだ。あとは娯楽室のシミュレーターとは別の、フロイトに見つからずに遊べる場所があれば最高なんだけどな。

「探すかぁ……」

凝り固まった体をほぐしながら、経理チーム詰所への廊下を歩く。頭は疲れているのに、定時まで労働しなきゃいけないのは最悪だが。ひと仕事終えた高揚は、少しばかり心地よかった。

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