休憩! 休憩〜!
先生がそんな号令をあげたのは、出力:お嫁さんにてまた修羅場が巻き起こりそうになった時だった。
15分後にね! と、言い残した先生は、脱兎のごとく逃亡。
シャーレオフィスの13階にあるベランダのすみにて、一人、缶コーヒーを傾けていた。
普段は誰も近づかず、誰も使わない物置と化した部屋の裏口から行ける空間は、先生にとってのちょっとした隠れ家のようなものだった。
少し思案に耽りたい時や……反省、後悔、そして郷愁。その他ネガティブだったりセンチメンタルな感情を吐き出し、時に飲み込みたい為に利用する、秘密の中庭。
少し前から利用し始めたセーフハウス然り。大人には、明日頑張る為のこういった逃げ場所めいたものが必要だったりするのだ。
勿論、生徒には見せられないし、ここに誰かを招くつもりも……。
「せ・ん・せ・い♡ 隠れんぼですか?」
「内緒の場所だった筈なんだけどなぁ〜」
なんか秒で見つかった。
おかしい。シッテムの箱まで駆使して電子的には追えぬようにして来た筈なのに。尾行されぬようフェイントを入れて曲がったりとか、わりと頑張ったのに。
こうしてここに生徒と立つのは、セリナみたいなどうしようもないパターンを除けば二人目だった。
綺麗な桃色の髪に、少々下世話な喩えになってしまうが、肉感的なスタイル。確かな知性と目が吸い込まれそうな虚無を混在させた翡翠の瞳。
浦和ハナコ。……こんな気分で、ここに来ている時に。よりにもよって先生が出会った中で、最も賢い生徒が立っていた。
「やぁ、ハナコ。こんな倉庫の奥に入ってきちゃダメじゃないか」
「うふふ。ごめんなさい。でも、先生。……奥まできちゃダメぇっ! て言われたら……もっと奥の方まで侵入したくなりませんか?」
「あはは。まぁ、押すなよ。絶対押すなよって言われたら、押したくはなるかぁ」
「はい♡ そうして奥の方までトン、トンとされているうちに、やがてこんな所で出会った二人は身も心もほぐれきり、そのまま――」
「よぅし、ハナコ。私が悪かった。取り敢えずこんなとこで会うとは思わなかったって言いたかったのさ。よくたどり着けたね」
色々とアカン方向に話が行きそうだったので、先生は無理矢理話題を軌道修正する。
もう話し方然り。芝居がかった仕草然り。
ハナコがこちらをからかって来たり、イタズラしてくる時のノリだった。
……もっとも、そう見せかけてただ息抜きや肩の荷を下ろしたい……なんて想いを抱えていたり。何かを伝えようとしている時もあるから油断ならないのだが。
聡明で不器用。遠回しなようで意外と一直線。そういった要素が変態……ではなく、変容し、まるで攻守を入れ替えるかのように淫ら……もとい入り乱れる。
それが浦和ハナコ。――結局、一纏めにしてしまうと底知れない一面もあれど、やはり可愛い生徒の一人なのではあるが。
ちょっと。たまに洒落にならないイタズラをする困った所があるだけで。
だから止めなさい。身体を意図的にクネクネさせるんじゃない。絶対わかっててやってるでしょ君! 流し目向けてきてるもん!
ほら何処とは言わないけどスッゴい揺れてる! ヤッバい揺れてる! 特級大玉な神秘の振動が、先生の色んな装甲を貫通して社会的に爆発させにきている!
最高かよと口にしたくてもポーカーフェイスを貫くのは、先生に残された最後の意地だった。
「ウフフ……♡ いいえ、先生が凄い勢いで逃げちゃいましたから、つい。これはもう追いかけるしかないなぁと思いまして。勿論、他の方々にはバレないように。……一応、微笑ましい(?)思い出達とはいえ、先生からすれば次々と意図せぬ暴露をされたような形ですので……休憩(意味深)させてあげましょうと伝えておきましたので」
「……今、休憩に変な要素入れてなかった? 大丈夫?」
「そんな滅相もない。……ああっ、でも、先生がお望みでしたらこの浦和ハナコ。先生を癒すべく一肌といわず……全裸になってご休憩を……!」
「やめなさい! 今度こそ私が社会的に死ぬから! もうわりと致命傷受けてる気もするけど!」
「ああ、でも一応皆さんの所に戻る時は……先生のワイシャツだけでも貸していただけると……」
「ハナコォ! よし、チョコ食べるかい? 美味しいぞぉ!」
「ありがとうございます♡ 今度お返ししますね。水着で当番に……フフッ、申し訳ありません。いじめ過ぎちゃいましたね」
ペロリと舌を出すハナコに苦笑いしながら、先生はポケットから特製のチョコレートを取り出す。
「はい、どうぞ。生徒へのご褒美だったり、不良生徒鎮圧用だったり、多用途な優れものなんだ。味もわりと好評だよ」
「あら。これってたまにSNSで流れてくる。先生手作りの?」
「私が元いた場所で売ってたチョコでね。キヴォトスでは売ってなかったから……パッケージ込みで再現してみたんだ」
クラフトチェンバーの無駄遣いともいう。
因みに、二徹からの深夜テンションで材料にチェリョンカをぶち込んだら、味の再現性まで上がったので、先生は密かにレッドウインターから名物ミルクチョコレートを箱で定期購入していたりもする。
閑話休題。
流石のハナコも何か方向性が間違った先生の情熱に苦笑いしていた。
「……そ、そんなにお好きだったんですね」
「一時期ちょっとね。
似ているようで違う。ある日に気まぐれで先生がいた世界由来のものを探してみたが、ことごとくハズレだった。
慣れ親しんだ味の料理やお菓子。愛読していた書籍の数々。好きだったロックユニットの曲。初めて飲んだお酒(そもそもキヴォトスはお酒そのものが希少だった)。買おうか迷って結局買ってなかったプラモデルやゲーム等の娯楽の数々。何もかもがここには存在していなかったのである。
落胆しなかったかといえば嘘になる。全てがないと受け入れた時は結構心にくるものがあった。
だが、食べ物……お菓子ならば作れるのでは? そう思った時に浮かんで来たのが、思い出深いこのチョコレートだった。
これもまた、先生にとってはメモリアルであり……あまり生徒には語ったことがない、キヴォトスの外についての話だった。
「それは……何だか寂しいですね」
「ああ、ごめん。悪い意味じゃないんだ。むしろだからこそ、知りたいことが海みたいに広がってく。比例して思い出も増えていって……まぁ結局私は間違いなく幸せになれた」
ハナコを見る。なんでチョコレート(まだ未開封)を胸の上に置いてるの? 何に挑戦する気なの? ってツッコミは全力で封じた。
もの言いたげな顔をする彼女に、先生は優しく微笑みかけた。
「まぁ、ミカじゃないけど、アイスブレイクはこの辺にしよう。賢い君のことだ。多分何かに気づいたんだね?」
「…………はい」
神妙な顔で頷くハナコ。果たして何についてだろうか?
どうか杞憂であってくれと思う反面、先生はこの子なら多分たどり着いちゃいそうだなぁ。どうすっかなぁと頭を抱えていた。
「先生。私は……あのお嫁さんについての出力で……先生が隠しているものに気づいてしまったんです」
「……うん。どんなことか聞いてもいいかな?」
「はい。先生は……――」
ハナコに習い、全裸で床に手をつくべきだろうか。
いや、ハナコが実際にそれをやった訳でもないし、なんならそれやったら逮捕案件だけれども。
そんなアホなことを考えながら、先生は引導を待つ。
答えという名の銃弾が放たれる時がきた。
「先生はキヴォトスにて、ハーレムをご所望なのですね!」
「……ああ、やっぱり君はたどり着い…………んえぇ!?」
尚、飛んできたのは弾ではなく巡航ミサイルだった。
お腹に風穴なんて可愛らしいものではない。先生の思考をどっかの聖堂もかくやに吹き飛ばす発言に、流石の先生も目を白黒させた。
「ハナコ? ハナコさん? 聞き間違いかな? そうだよね? もっかい言って?」
「先生はぁ! このキヴォトスにて! ハーレムを! ご所望なのですね!」
「そんな大声でとは言ってないよぉ!」
なんでぇ!? どうしてそうなったのさ! と先生は盛大にテンパった。
勿論、誤解である。そんなこと考えたことは一度もない。変態とプラナやイオリによく罵られたが、価値観は一般人なのだ。
ハーレムなんて物語だけだし、羨ましいと思ったことすらない。どっちかといえば、一途になりたいタイプだった。
するとハナコは急にスンと冷静になり、胸元からチョコレートをつまみ上げると、ゆっくり。ゆっくりとパッケージを剥がしていく。……ちょっと手つきがやらしかった。
「先生。ですがあのメモリアルロビーを見ると、私はそうだとしか思えないのです」
「えっ? えぇ……? な、なんでぇ?」
そんな要素あったかなぁ! そう先生が叫べば、ハナコは取り出したチョコレートを優しく手のひらに乗せた。
カエル型のチョコレート。何か震えてるように見えるのは気の所為だ。蛇に睨まれた的な状態になっているのはむしろ先生だった。
「では、思い出してみましょうか」
ハナコが向けてくる流し目に先生はコクコクと頷くしかなかった。
ちゃんと、お嫁さんを出力して! という要望に先生は了承しつつ、密かに抵抗した。大人は汚いのである。
結果、何か意外と効果があってNO SIGNAL。
が、それと同時に周りからめっちゃ圧が来て……結果ちょっとだけ“緩めたら”……ボロボロと出てきた。
ヤンキーに「ジャンプしろ。まだ金目のものあるだろ?」と言われてる状況って、こんな感じなのかな。なんて思ったり、思わなかったり。
そうして現れた生徒達は、実に個性豊かで、そこにいる先生の様子もまた色々だった。
まずは家庭料理を作るフウカに内心で大興奮する先生。控えめに言って気持ち悪いとしか言えない言動だったのだが、明確にお嫁さんに欲しい。毎日お味噌汁作って。とまで内心で言い切っていた。
これには生徒らも嫉妬を燃やし……なんてことはなく、逆に先生のあまりの気持ち悪さに皆がドン引きしてそこまで詰めよったりしなかった。
むしろフウカを背中に庇うハルナがいたり、「先生、こんな状態にならないようにちゃんと食事と睡眠は取りましょうね」というノアの大正論に皆が苦笑いする始末であった。
流石に過労と空腹が極限だったとはいえ、ラブリーマイエンジェル、フウカたん呼びした挙句、後ろから抱っこして角にひっかけた髪しゃぶりたい……まで心の中で思っていたりしたのは……多くの生徒らにキモい認定されてしまったようだ。ぜひもなし。
むしろよく逮捕されなかったな。と今更ながら先生は思う。
「お疲れだったのは明らかでしたからね。正気ではないと皆さん思ったのでしょうね。……それはそれとして、お味噌汁のくだりは本気っぽかったですが」
「ちょっとテンションおかしかったのは認めるよ。疲れていたんだね。普段フウカたんだなんて呼ばないもの」
清々しい程に先生は嘘つきだった。でも仕方がない。フウカは可愛い天使だから。
その後に出てきたのはアオイと総決算した後、ちょっとだけコーヒータイムやランチを楽しむ先生だ。
シャーレは連邦生徒会由来の組織故に定期的にアオイと仕事をすることが多い。ちょっと通い妻っぽいな。なんてアホなことを考えたのが多分原因だろう。
「ユウカさんが、凄いお顔になってましたね」
「何か対抗意識というか、ライバル視してる気がするんだよね。何でだろ?」
「(……あらら。これは酷いです)」
そんなことを言う先生。一方でハナコは心の中でユウカに十字をきった。
礼拝堂に水着で行く女がやったところで意味あるのでしょうかね? と自嘲しながら。
「続いて、ヒナタさん。サンドイッチを食べながら、ピクニックされてましたね」
「う〜ん、あの時にお嫁さん意識したことはない筈なんだけどなぁ」
「いいお嫁さんになれそうと、お嫁さんの違いがもしかしたら先生の中では曖昧なのかもしれませんね」
なお、ヒナタが大人びてるせいか、なんか普通に夫婦に見える……! と、精神的に大ダメージを負った生徒が多数いたことをハナコは伏せた。
他にはアオイと総決算した後、クリスマスプレゼントを交換する先生。ユウカの太ももが震えていた。
ユウカに確定申告や年末調整を手伝ってもらう先生。ユウカはニコニコになった。
直後、アオイと総決算した後、ついでに初詣に行く先生。ユウカはキレた。
「……先生ってもしかして、好きな子はいじめちゃうタイプです?」
「いや、そんなことは……。ただ、ちょっと反応可愛いって思っちゃったから、あの怒涛のアオイだったのかなぁ」
因みにこんな感じで散々ネタにしているが、仕事上ユウカとアオイが同席した時も勿論ある。
思考が近いのか、いつもより仕事をやりやすそうにしていたのが印象的だった。
そして……最後。
先生が逃げた原因は……。
「そして、またしても登場。チナツさん……ですか。しかも……まさか先生のお口から直接、夫婦みたいだね! ってお言葉が出るだなんて……」
そうなのである。ゲヘナムチムチ赤タイツサキュバス(シロコが命名)もといチナツが、何かまた出てきちゃったのである。
出てきたのは、ちょっとした日常の一コマだけだったが……選んでいた言葉のチョイスが最悪すぎた。
「ちゃうねん。ハナコ。……ちゃうねん」
「先生、動揺されているところに申し訳ありませんが。もうお嫁さん出力でこんなに不特定多数の女性が出てくるのは、ハーレム願望があるとしか……あっ、いっそもう、全てをさらけ出してみるのはいかがでしょう?」
「ハナコ。アイ・アム、ティーチャー。オーケー?」
「ウフフ。ノー♡」
うわーん! もうおしまいです! と先生はどっかのヒヨリみたいに泣き叫びたかった。
「まぁ、冗談はさておき、本当にハーレム願望とやらはないんだよ」
「……えー、そうなんですか?」
「何でそこはかとなく、残念そうな顔するのさ。……そうだね。ここで私が学生時代に、自分の困った性癖に悩む友人Kに送った言葉を引用しよう」
翡翠の瞳は、笑っていなかった。おちゃらけているようで、ハナコはこっちをじっと観察していた。
なので先生は、ここでカードの一つをきることにした。
ミヤコにも使った、あの手。すなわち……。
「……ハナコ、どうか幻滅しないでくれたら嬉しい。私は時々、ただ理由なく君が遊びに来てくれた日とか……凄く嬉しいんだ。君に少しは頼りにされているんじゃないかって思えて、先生冥利につきるってやつだ。……だからこそ、隠さない」
「……はい。聞かせてください」
静かに。ハナコは頷いた。
「君たち皆が私にとっては大切な生徒なんだ。……でも、私も一人の男だ。絶対に理性で抑えきる自信はあるが、どうしても。おかしくなっちゃう時がある。イオリにとか、チナツにとかフウカとか」
「見事にゲヘナ生ばかりですね」
これは許せません。許しませんよ〜陸八魔さん。……あの人もゲヘナじゃないですか。と、セルフツッコミしながら、ハナコは先生に続きを促す。
「そもそもね。ハナコ。男は皆変態なんだ。男が変態で何が悪い――ってね」
「…………」
こんなことを君に言う日が来るなんてね。と、先生は落ち込んだ。
ハナコは震えていた。震えながら、静かに。
「……先生、私は女性も少なからず、変態だと思っていますよ?」
「じゃあ、あれだ。人類皆スケベなんだよ」
何の話してるんだ私は。と思わなくもないが、よくよく思い返してみると、ハナコと他愛ない雑談をする時は、だいたいこんな感じだったなぁと気がついた。
そう気づいてから、ハナコの顔を見ると……彼女は笑いをこらえていた。
意図的に先生が変態になったのを、彼女は気がついたのだろうか。多分気がついているのだろう。
「……だから、アレだね。いけない妄想の結果がアレで。そんなに深刻に捉えなくていいんだよ。そんな序列を決めるものでもないし、全員お嫁さんに。なんて考えてもない。そもそもお嫁さんって、なんていうのかな。その人が一番幸せじゃなきゃ。旦那さんに一番に愛されてなきゃダメだと思うんだ」
「まぁ……先生のそういった言葉は、信用していますよ。私達を意図的に傷つけることは絶対にしない。そう思ってもいますから」
そう言ってハナコは小さく息を吐いた。
「……ごめんなさい。本当はこんな尋問みたいな会話にするつもりはなくて。ただ、先生が嫌な思いされてないかなぁ……と、気になって追いかけてきたんです。……信じてくださりますか?」
「勿論。ハナコは、優しいからね。……それと、私なら大丈夫。これもまた、生徒との交流だからね」
その瞬間、ピピピ。と、先生のスマートフォンが鳴動した。
15分。その5分前アラームだった。
「……戻ろうか。というか、私のデータだけじゃなく、皆の思い出も見てみたいんだけどなぁ。こうも私のだけだと、皆も飽きちゃうだろうに」
「あっ、それはないですね〜。間違いなく」
そんな先生の呟きをハナコは笑顔で否定する。
そうなのかい? と問えば、そうですとも。と返事が返ってきた。
並んでベランダを出て、薄暗い倉庫を歩く。
クスクスと、ハナコは笑っていた。
「だってみ〜んな。先生が大好きですから♡」
気になる人を知りたいって思うのは、当然でしょう? そう言うハナコに、先生は降参というように肩を竦めた。
「みんなちょっと物好きすぎない? こんなのの、何処が……ん?」
呆れながら倉庫のドアをあけ、廊下に出る。コハルがいた。
「あっ、せんせーこんなとこにいたんだ。ねぇ、ハナコ知らない? 姿が……見え……なく。見え……」
コハルの顔が真っ赤に染まる。猫みたいな目が、先生の背後からひょこっと顔を出した……ハナコに向けられていた。
先生はなんとも味のある顔で天井を仰ぎ見て「タイミングぅ……」と呟いた。
「ハナコ、先生。……ア、アンタたち、こんなトコでナニしてるの? ナニしてたの!?」
「い、いや! コハル! これは……」
「ナニって……秘密の場所で、ちょっとお互いをさらけ出し合いながら……甘〜い一口を味わいあってただけですよ♡」
チョコレート食べながら楽しくお話していました。が、ハナコにかかればこうなるのかぁ。
先生は笑うしかなかった。
「味わ……さらけ……! っ、エッチなのはダメぇ! 死刑!」
そしてコハルは、当然ながら爆発した。
余談だが、ハナコがわざわざ先生の手作りチョコレートを視聴覚室で食べだした為……。一部が大変ざわついたのだとか。
先生の気苦労はまだまだ続きそうである。
※
あまくて、にがい。
浦和ハナコは、秘密のチョコレートを飲み込みながら、自身の推測が間違ってなさそうなことを確信していた。
確信した上で、彼女はそれを己の中に封印した。先生には……ハーレムという適当なことを言って誤魔化した(半分くらいは本気で問いかけてもいたが)のでハナコが考えを外したと思っていてくれたら……僥倖だろう。
理由は簡単。真実を突き詰めたところで、誰も得しないから。先生のことも多分……困らせてしまうから。それをハナコは良しとしなかったのである。
「(メモリアルロビーにはオーパーツが使用されていると説明がありましたが……確か先生も、何らかのオーパーツを所持している可能性があるんでしたか)」
メモリアルロビーの実験にて、わかったことがある。
出力される映像は真実ではあるが……質問に対する抵抗は恐らく有効であること。
その規模がどれほどかは分からないが、少なくとも先生は何らかのオーパーツによる対抗措置を取っているか、そもそもそういった精神的な頑健さか記憶術的なスキルを元々持ち合わせているのだろう。
でなければ質問に対してカウンターのように先生なりの解釈を入れて出力することも。“本当に見せたくない記憶”を隠し通したり、見せても大丈夫な記憶の開示をするという芸当が出来る筈もない。
先生はわりと生徒を言いくるめたりする時に意図的に変態的になる様子も見受けられる。
誰もがフウカに対する濃い目な反応に目を奪われて、記憶を読み取る機械が一瞬とはいえ『NO SIGNAL』という反応を示した重大さをスルーしてしまったばかりか、そりゃ見せたくないだろうなという解釈をしてしまった。
あの場ではメモリアルロビーに対して優位性を保っていたのは間違いなく先生で。
加えて彼はハナコのわざと的を外した答えに対して、“たどり着いた”という反応を見せてしまった。
つまり……隠している何かがあると言っているようなものだった。
「(先生。……嘘をバレにくくする方法をご存知ですか? 真実の中にそっと嘘を潜ませるんです。同時に嘘を信じさせる方法は……その嘘の中で真実を開かせること」)」
後は……今までの先生のスタンスや言動と照らし合わせれば、自ずと答えは出てしまう。
お嫁さんという質問に対するガード。
先生も一人の男。男が変態で何が悪い。
人類皆スケベ
生徒は大切。
序列はつけたくない。
お嫁さんは一人であるべき。
他……色々。
先生の中の真実を引きずり出し。矛盾点を削除し、その真実を貶めかねない毒とは何かを考える。
アイ・アムティーチャー。それが揺らぎかねないもの。
何としても、先生として隠したい秘密。それは――。
「(シャーレの十三人。あるいは、この会場。はたまた、キヴォトスのどこかに……先生が本当に。女性として。心から意識してしまった生徒がいたということ。その記憶の流出を先生は恐れていた……?)」
勿論、全ては推測であり、ハナコも追うのは止めてしまったので、真実はわからない。
ただ、もし本当にそうだとしたら……。
生徒らに引っ張りだこにされる先生を見ながら、ハナコはクスリと笑う。
幻滅なんてしませんよ。
むしろ先生のプライベート的な所が垣間見れて嬉しく思います。
「まぁ、その誰かが羨ましくはありますけどね〜」
「何の話よ?」
「……エッチな話です」
「はぁ!? 死刑よ!」
心の中で囁いていた筈が、つい口に出してしまっていた。おかげでコハルがまた可愛らしく騒いでいたが、そこは許して欲しい。
……ただ、ハナコをもってしても、その誰かがまるで分からなかった。
先生は何だかんだで線引きが上手い。尻尾を掴んだと見せかけて、その尻尾すら幻に見えかねない徹底ぶりだ。
さり気なく、シレッとメモリアルロビーに登場させているかもしれないし、徹底して隠しきっているかもしれない。……ちょっと悔しくなってきた。
やっぱりもう少し、探りを入れたい。勿論、ハナコだけの秘密にするつもりで。
「(やはり次の当番は、水着でいきましょうか。先生もお好きでしょうし?)」
「ちょっとー! ハナコー? 聞いてるの〜?」
「――勿論ですよ〜。次はもう少し……大胆に行ってみようかと」
「は、はぁ!? ナ、ナニする気よアンタ!」
淑やかに笑いながら先生を見るハナコの目は……獲物を見つけた蛇のそれだった。
ハナコぉ! 難しいぞ君! おかげで文字数最長になりました。
箸休めとは?
この話で匂わせましたが、今更ながら、本作のヒロイン的なのは便宜上チナツですが、本作は裏ヒロインが設定上存在します。
誰とは言及しません。ハナコが推測した通り、チナツかもですし、チナツじゃない誰かかもしれない。なんなら生徒ではなくベアトリーチェかも(多分違う)ですし、ハナコだったりするかもしれない。
ただ、ハナコ当人が封印した&先生が意地で隠したので今後本編にそれっぽいのが出てくることはありません。想像する最推しを当てはめるなりしてどうぞ。