一度冷静になろう。
誰がそう口にしたかは分からない。だが、一旦の休憩を経た生徒達は、メモリアルロビーが想像以上に危険だということに気がついてしまった。
……勿論、プライバシーの問題だとか、そもそも内包している機能そのものが、アレ? これもしかしなくても悪用されたらとんでもないこと起きない? といった具合に危機感を抱く者も確かにいた。
現地では、アヤネとユウカ、ノアの二人が。会場外ではミレニアムのビッグシスターを筆頭に、チヒロとヒマリ、モエやカヨコ等の面々は、この技術……闇に葬った方がいいのでは? なんてことを考えていたりもした。
……訂正。モエだけは内心ではハァハァと興奮していた。どうしようもないくらいの、破滅の匂いがプンプンしていたからだ。傍で見ていたミユは震えるより他になかった。
だが、そんな危険がその辺でポンポン湧いてくるのもまたキヴォトスである。故に大部分の……というか、一部の生徒らが抱いた危機感は別のものだった。
これ、先生に対して重い感情を持ってる人……更に暴走しない? そんな心配が浮上してしまったのである。
事実、このメモリアルロビーのイベントにて先生の新たな一面を見れたりだとか、踏み込んだ生徒の姿を見てダメージを受けるなんて事象が頻発した。
この仁義なき足の引っ張り合い。……もといマウント取り合戦は、あの子にこうしたんだから、私にも! という欲望が次々と生まれてくるという、悪循環をもたらしていた。
つまるところ、ガチ恋勢らの情緒はもうボロボロ。だからちょっとこう……箸休め的なエピソードが見たい。
具体的にはそう。先生がカッコよかったとか、可愛かったとか、面白かった的な思い出を、今度は生徒側に聞こう!
因みに本音は、貰い事故を防ぐ目的だったりする。
すなわち、先生に何らかの質問をした結果、またゲヘナムチムチ赤タイツがポップしてきたら……今度こそ耐えられない! という、わりと切羽詰まった事情があったからである。
事実、お嫁さん出力でまたもやチナツが現れた時は、流石にざわつきが大きかった。
「何なんですかもおおぉ! またですかぁ!? やっぱりこれ、ヤッてないと説明つかないんじゃないですかねぇ!? 風紀委員が風紀投げ捨ててどうするんですかぁ!」
「ア、アコ行政官、ちょ、やめ……! め、目が回りますぅ〜!」
「キキッ! おいやめろ犬……じゃなくて行政官! あんまり笑わせてくれるな! ……時に一番最後の発言だが、ブーメランをご存知か?」
「よくよく考えたら、ムラムラした。可愛い。お嫁さん。全部に出てくるのなんなの? 何かもう……ズルいわよ!」
「ん、ちょっと解せない。メインヒロインである私が……アレ? 私も出てない! その三つ、私出てない!」
「い、いや。シロコ先輩、わりと出てない人いっぱいいるんじゃ……。アレ? アビドス誰も出てない!?」
「むむむ〜。先生、どうしてですかぁ!」
「うへ〜、ステイステイ。三人ともステイ……って、アヤネちゃん!? ほっぺが! 何かほっぺが……!」
「何かこう……釈然としないといいますか……。そう考えたらちょっと、ムカッと……」
「(お嫁さんがいっぱい……もしかして……実はカムラッド、ダメ男というやつなのか?)」
またしてもシナシナになったヒナを見た結果、ついにアコがブチギレてチナツをガックンガックンと揺すり。
その横でマコトが爆笑し。
ユウカの発言にうんうん頷く者は多数。
ついでにアビドスの一部は暴走した。
だから事態を一度クールダウンさせる必要がある。そういうことになった。
そもそも、本日のイベントで大トリが確定していて。混浴とか凄い爆弾を抱えてる筈の奴が、小出しでちょくちょく爆破していくんじゃない。ゲリラか何かかお前は。
なお、ここで待ったをかけたのは先生だった。
「べ、別に私を無理に入れなくてもよくない? 誰かと何かをして、楽しかっただとか、思い出に残ったとか……そういうのでもいいと思うんだ」
次の展開を聞いて、物凄く嫌な予感がしたから。ともいえる。
が、例によってそんな足掻き……もとい裏の思考をマコトが読める訳もなく。
「フム、ならば例によってクジ引きで引いたやつに委ねよう」
それ、また交通事故起きないかな! 大丈夫!? と先生は叫びたかった。
というか、自分にくる質問の防壁は殆どがアロナが担当している。このアロナちゃんマインドバリアは知られたくない・知らせちゃいけないものに関しては、先生自身の心をある程度反映し(あくまである程度)ちゃんと守ってくれたり、ちょっと誤魔化したりはしてくれたが……。
それ以外は、結構ポンコツもとい、ガバガバだった。
加えて先生自身も無意識ながら「生徒との思い出だしなぁ」と思っている節もあってガードは緩かったし、プラナはプラナで「戦争を終わらせるべく、“全部”を公開することを推奨します」というスタンスだった。
確かにオーパーツと先生の精神力による、絶妙な情報公開。というハナコの推測は、ほとんど当たってはいた。
いたのだけれど、思いの外、綱渡りというか……凄そうに見えてしっかり先生が社会的致命傷は負いまくっていたのは、こういうカラクリが背景にあったりした。
そして当然ながら生徒らはシッテムの箱を所持していない。つまり、選ばれた生徒によっては……先生はそれにストップをかけられないのである。
「む、私ですか。では……そうですね。せっかくなので、私が楽しかったコレクションを紹介します」
そんな中で選ばれたのは、飛鳥馬トキ。
「くじ運〜!」と先生は叫びそうになるのを必死に堪えていた。勿論やましいことは全くない。なのに胸騒ぎがするのは、多分気の所為ではなかった。
メモリアルロビーが、虹色に輝く。そうして出力されたのは……。
『二十四時間、私と繋がっていてください』
場の空気が、一瞬で凍りついたのは言うまでもなかった。
何を言っちゃってくれてるんだこのメイドは。と、全員の視線がトキに集中するが、トキは涼しい顔。
『う、うーん……それはちょっと……』と、先生が何とかかわしたのもつかの間。私とは遊びだったのですか! という発言が飛び出して……直後、バニー姿のトキと先生が同衾している映像に切り替わる。
「待って! 悪意あるよ! この場面切り替え悪意あるよ!」
流石の先生も悪徳ゴシップ誌みたいな流れに抗議する。が、トキは無表情でピースピースしていた。
箸休めって言ったのにこれである。当然、生徒らは何とも言えない表情で先生を見た。
「先生? ちょっと説明を求めます」
「ユ、ユウカ……説明も何も、これに関しては私はどうしようも……!」
「(…………私と一夜明かした時は、くっついてもくれなかったのに。私が悪いって分かってるけど……いいなぁ。……いいなぁ……)」
「ミ、ミカ? ミカさん? スッゴい泣きそうに……」
「反吐が出るくらい女心が分かってないのね。先生?」
「キキョウ!? いつになく辛辣……」
「先生……兎なら、ここにいるのに……先生のご命令なら、バニーガールにだって……!」
「待ってミヤコ! 早まっちゃダメだよ! 何か私がバニー好きみたいな風潮が……」
「そういえば、一時期噂になっておりましたね。シャーレに入っていくバニーガール姿の生徒を何度も見た……と」
「誤解だ! 誤解だよハルナ! それは多分、トキとかアスナとかカリンにアカネ、ネル……………。ん?」
弁明していて、自分でもおかしいぞぉ? と思い始めたのか、先生は顔を引き攣らせる。
……多いなぁ。バニー。なんでC&Cの皆はナチュラルにバニー姿でシャーレに来ちゃうのかなぁ?
「10時25分、先生が冷や汗をかきながら、弁明を中断」
「ノア……誓って、私からこうなった訳では……バニーを要求したことも、率先して一緒に寝たなんてことも……」
でもバニーを侍らせる先生はわりとキヴォトスにて目撃されているのが救えなかった。
一応、メモリアルロビー内にて、机で寝オチした先生を任務帰りのトキが捕捉。
ベッドに叩きこんで、そのまま本人も寝たという結末はキチンと語られた。
これにより、胸を撫で下ろす生徒らが多数いたことは言うまでもなかったが……。その一方で、一抹の不安を覚える生徒もいた。
「襲われちゃうよってアレほど注意したのにさぁ……」そう言って頭を抱えるカズサ。他の生徒らも先生に危ういものを見る目を向けていた。
先生は貧弱なのに、時々無防備。押しに弱いというか、押したら抑え込めてしまう。
トキがおもしれー女(画面上では暇だ、構えと先生にじゃれついていた)だから、これくらいで済んでいる節があるようなないような。
「先生、私が言うのもアレだけど、心配だからあまり無理しないで。徹夜しても終わらない仕事があるなら、私も手伝うから」
「ありがとう、ヒナ。でも、流石に泊まり込みで仕事を手伝って貰うのはね?」
遅くまで頼ってしまう時もあった(ユウカにとかアオイにとか)が、基本的に生徒はちゃんと夜に帰すし、場合によっては送迎するのが先生だった。
たまに遊びに行ったり、何らかの活動やトラブルで深夜になっちゃった。なんて場合もあるけれど、その時はちゃんと全力で先生を遂行する。そう決めているのである。
何かメモリアルロビー上ではバニーガール姿のトキと腕を組んでクルーズ船を闊歩していても。
氷河地帯にてトキを優しく温めていようとも。
流れ弾的な感じですんごい水着を着たエイミとも暖をとっていようとも(色んな意味で全員の目が点になっていた)
先生はブレることはないのである。
なお、この一連の思い出のせいで、ますます先生の危うさが周知されてしまったのだが……当然、先生は把握できるわけもなかった。
「素敵な思い出の数々ですね。先生」
「あっはっは。そうだねぇ。たまに振り回されてるけど、トキが頼もしいことには変わりないよ」
「褒められました。いぇーい」
たまにか? これ? と、一部の生徒は思ったりもしたが、誰も口には出さなかった。
トキはご満悦。先生も笑ってる(ちょっと現実逃避気味)それでいいじゃない。
「ふむ、何といいますか。これは楽しいですね。私と接してる時の先生を見て! といいますか。この体験はもっと皆さんと共有したいです」
「……………トキさん?」
先生の顔が凍りついた。もうどうにでもなぁれなんて思っていたら、更に嫌な予感がするテーマがぶっこまれてきたのだ。
「我こそはといいますか。見せたい方はいらっしゃいませんか? 私も気になります」
「いやいやいや! トキ、そんなこと思う子なんてそんなに……って、皆ぁ!?」
バババババッ! と、一斉に手が上がる。
嘘でしょ君たち! と叫ぶ間もなかった。
「ん、先生。私との思い出はたくさんある筈。当然アビドスの皆とも」
「まぁまぁ、そんな固くならないで〜」
「アレよね。何だかんだで……先生。してくれてたし? バイト先とかでも」
「うんうん♪ 私もお耳掃除やマッサージでふにゃふにゃしてる先生を皆さんに見てもらいたいです〜☆」
「の、ノノミ先輩!? いつの間に先生とそんなことを!?」
早かったのはアビドスの五人。なんやかんやでシャーレの十三人と数名を除けば、先生との付き合いも長い精鋭達。
思い出だってたくさんある。何か聞き捨てならないものが混じっていて一部の生徒らの目が険しくなったのは御愛嬌である。
「主殿! イズナとの思い出も振り返りましょう! 本当に! 本当にあの時は嬉しくて……! 主君を決めた瞬間でした! 忍術研究部に入ってからは、もっと楽しくなって――!」
キラキラした目で手を挙げるイズナ。癒しのパワーが凄すぎて先生は泣きたくなった。
尚、横で目を細めながら手をひらひらさせるキキョウを見てもっと泣きたくなった。多分これ、色んな子との交流を見て、機嫌を悪くするやつである。間違いない。
「………っ!」
一方で、物凄く胸が痛い光景も見えた。ミカだ。
なんというか……他の生徒との関わりを、ある意味で一番見せたくはなかった子。
「う〜。あう……」
特に彼女は語らず、手を上げることもない。ただ、見るからにしょんぼりしているのだけはわかる。
理由は多分、他の生徒らとの接し方。その違いについてだ。
勿論、先生はあの頃にした自分の選択は最善だったとは思うが……もう少し何とかならなかったのか私! という後悔がなかった訳でもない。先生だって人間だもの。
というか、あの時も自分は結構……そりゃあもう我慢に我慢を重ねて心を鬼に。いやもはや修羅と化して……。
「み、ミカ……!」
「わかってるよ。わかってるっていうか、今の私ならわかるの。先生……。アレは私の為だった。そう、なんでしょう? あはは……実際に昔の私って、結構危うげだったろうし……」
仕方ないよという顔で儚げに笑う彼女に、先生は追加ダメージを受ける。
一方で、周りの生徒らは困惑していた。
トリニティティーパーティーの一翼“だった”聖園ミカ。色々なゴタゴタがあったことはミレニアムやゲヘナ。他にも一部の有力校の上層部には伝わっていた。
生徒会長クラスの生徒が失脚したのだから当然だ。
だが、それでも全てを把握しきれていた訳ではない。今回の昆布茶騒動で色々と親しみやすくなったナギサだが、その辺の手腕が卓越しているのは変わらないのである。
絶妙な塩梅で情報封鎖と開示を行い、トリニティに複数ある各首長らに統一させる。その様は三大学園の長にふさわしい老獪ぶりだったと言えよう。市販の紅茶でお腹壊しちゃうのくらい誤差である。
故にみんなは気になった。
あの先生が、ちょっと後悔……まではいかないが複雑そう? 何があったの?
このトリニティの子、先生ガチ恋勢な頭お花畑枠だと思ってたけど、違うの?
ん、いけない。なんか波動を感じる。具体的にはヒロインの……。
そんな中で、弱々しくも明確な意志と決意を持って小さな手が挙がる。震えながら主張したのは……。
「………っ」
「フム。沢山の方々が手を挙げてくださりましたが、そうですね。ここは……貴女に。下江コハルさん」
何かを感じ取ったのか、トキは次なるメモリアルロビーの担い手としてコハルを指名する。
ビクリと人見知り故に肩を震わせたりはしたが、コハルは横から「大丈夫ですよ」と励ますハナコに支えられながら、毅然と立ち上がった。
「色んなことが、あったの。……先輩達や、仲間のみんな、勿論先生も頑張って。大変なこともいっぱいあったし、まだ解決しきれてないこともあるけど……始まりは誰かの幸せの為で……」
補習授業部にして、正義実現委員会の一人でもあるコハルが全てを語ることは出来ない。だから断片的な語り口になりながらも、コハルは心に抱えるものをゆっくりと紐解いていく。
「だから、私は……勿論ミカ様と先生がいいならだけど。二人の思い出が知りたいです。きっとその中には……今の
ハナコが静かに目を閉じて感慨に浸り。カズサとアイリはいつかのデモを思い出して神妙な顔になる。
先生がチラりとミカの方に目を向けると、ミカは眩しいものを見たかのように目を細めた。
「……本当に、コハルちゃんは……凄いよ」
何かありそうに語ってはいたが、要はシンプルな理由である。
ミカが悲しげで、先生も困ってそうだから。だからコハルは真っ先に何かしようと動いただけ。そんな所が素敵なんだよってそろそろ本人には自覚して欲しい。
それで思い出を晒したら解決するのかと言われたら……聖園ミカは考える。
アレ? それはアリじゃんね? ワンチャン先生が何を考えていたか知れるし、先生は、実際凄く先生しててカッコよかった。あの姿は確かにちょっと色んな人に見て欲しい。さっきまでのキモ可愛い(ミカ視点)とことのギャップだとか、バニー好きの汚名もまとめて返上出来るというものだ。
「私は大丈夫。ちょっと先生に惚れちゃう人がまた出そうで、それだけ心配だけど」
「そんな物好きいないよ〜。ミカがいいなら。コハルが望むなら、私も構わないよ」
自分の恥というか不甲斐なさを晒してしまうが、これは構わないだろう。先生はそう思っていた。
メモリアルロビーがゆっくりと虹色に輝く。どうでもいいけど、ゲーミングPCみたいだなアレ。と、この時先生は呑気なことを考えていた。
コハルが「あっ」と小さく声をあげるまでは。
「あっ、あと! 調査! これは調査だから! さっきアビドスの人が、膝枕でふにゃふにゃとか言ってたから……! エッチなことしてないかの調査します! 膝枕の思い出とか! 見たい!」
先生の心は、一瞬で静寂を迎えた。コハルは黄金の精神だなぁなんて思ってたら……しっかりとピンクでもあった。あと、他の生徒らも啞然としつつ「やりやがった!」という顔をしていたのだとか。
「こ、コハルゥ!? コハルさんんっ!? 何言っちゃってるのぉ!?」
「あ、あくまで調査! 調査だから!」
「コハルちゃん! 最高です!」
「ハナコォ!」
「わぁ☆ 先生の! ふにゃふにゃするとこ見ってみた〜い! 1回、2回、3回、4回、5回〜♪」
「ノノミィ!? 私そんなに沢山色んな子に膝枕は……あれ?」
意外とされてる!? マ、マズイ!
先生。何がマズイんですか? 言ってみてください。
わちゃわちゃと大騒ぎする中で、ウタハが「じゃあまず先に膝枕だな!」とメモリアルロビーを操作する。
箸休めとかもう投げ捨てて、全員の視線がモニターに集中したのは言うまでもなく……。結局みんなそういうのが気になるお年頃なのである。
……因みに、膝枕した面子の中にまたもやチナツが滑り込んでいることを、生徒達はまだ知らなかった。
この1年生強すぎぃ! と誰かが叫ぶのは、ほんの数分後の出来事だ。
次回は膝枕回&私のすーぱーなお姫様回。分割するかも。
今更ながらですが、本小説は完全に趣味やら全振りです。あらかじめご了承ください