ゲヘナへの道〜先生の熱愛疑惑騒動〜   作:星組

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出力:膝枕〜先生は脚フェチ?〜

 後頭部に伝わる柔らかなぬくもりと共に、先生は静かに目を開いた。

 最初に知覚したのは痺れる関節と、全身を覆うような脱力感。明らかにたんこぶが出来ている頭の痛み。そして……優しい紅茶と百合の花を思わせる香りだった。

 

 成る程、救護(物理)されたのか。

 

 ぼやける視界が回復する前に、そう結論づける。

 もう慣れちゃって実家みたいな安心感があるなぁ。なんて言ってしまうと、もっと強度が凄い救護と無言で圧をかけてくるセリナまで飛んでくるので、先生は沈黙した。

 確かニ徹目だったかな。そう思いながら、自分に膝を貸す人物に目を向ける。

 蒼森ミネ。先生が有事の際に頼りにすることが多い生徒の一人である。

 

「(ああ、……やっぱり、綺麗だな)」

 

 彼女の水色の髪と、その中にアクセントとして一筋だけ差されたピンクのメッシュ。……何故かその色彩の組み合わせは不思議な郷愁を呼び起こし、先生の目をしばらく釘付けにする。

 その感情は彼女自身の美貌もあるが、胸の中に何故かある、原風景らしきものも由来するのだろう。

 ……らしきものというだけあり、先生にはその根本へ至る記憶自体はないのだけれども。我ながら厄介な脳細胞である。

 

 

「おはようございます、先生。今日もキヴォトスの平和の為……と言いたいところですが。今日はダメです。絶対に休みましょう」

「おはよう、ミネ。また苦労かけてごめんよ。でも確か仕事はまだ……」

「休みましょう。私を当番にねじ込んだリン行政官も、それをお望みです」

「い、いや。あの……」

「休みましょう。もしや、救護の威力が足りませんでしたか? ならば――」

「はい! 休みます! うん! 休もう!」

 

 パチン。と、グローブをはめなおす仕草をするミネに、先生はさっきまでのセンチメンタルな気持ちを投げ捨てて、猛烈に頷いた。

 何だよ救護の威力って。何でダメージが発生するのさ。という言葉は全力で飲み込んで、先生はゆっくりと辺りを見渡す。

 使用上の都合で日当たりは控えめ。2LDKの広すぎず。だが狭すぎもしない間取り。密かにこだわった家具の配置されたリビングのソファーにミネは腰掛けて、横たえた先生の頭を自らの膝に乗せていた。

 いわゆる膝枕。実はわりと色んな生徒にこれをされている先生ではあるが、ミネが相手の場合は基本的に救護(物理)されて気絶した後や、先生の疲労が凄い時。他、ちょっとした休憩時間にも実行される。

 

「ここは……私のセーフハウスか。シャーレから運んで来てくれたんだね」

「はい。――ああ、ご安心ください。ちゃんと先生はトランクケースに詰めて運びましたよ。ここに入る所は誰にも見られておりませんので」

「そ、そっかぁ……」

 

 扱いが死体だ……とは言わなかった。ミネと一緒にいてツッコミが追いつかなくなるだなんて、よくあることなのである。

 

「まだ、お昼前ですが……お腹は空かれていませんか? 必要とあらば、ご用意いたしますよ?」

「ありがとう。大丈夫だよ。しっかりお昼になったら、一緒に食べよう」

「承知いたしました。では……今一度お眠りください。本日はまだ2時間と少ししか眠られておりませんので」

「うん……ありがとう。そうさせて貰うね」

 

 動けば救護され。眠らずとも救護されてしまうので、先生は諦めざるを得なかった。

 実際に疲労はあったので、この辺で溜まりに溜まった睡眠負債なども返していくべきだ。ただ……。

 

「ミネ、寝室もあるから、私はそっちで眠るよ。このままじゃ、ミネが動けないでしょ?」

「寝室で仕事をしないとお約束いただけるならば」

「…………モ、モチロンダヨー」

「ダメそうですね。ベッドへ行くというのであれば、私がお供します。それが条件です」

「それはマズイ。アイ・アム、ティーチャー」

「でしょう? では、私のお膝で我慢してください」

「我慢とかとんでもない。これ以上ない贅沢なんだけども……ミネの時間を奪ってしまっているのがね」

「問題ありません。私は必要な救護の為にここにいるのですから。それに……お好きでしょう? 膝枕」

「……………………………はい」

 

 いたずらっぽく微笑むミネに先生はたっぷり時間をかけて肯定の意を示す。

 仕方がない。特に疲れてる時はものっ凄い効くのだ。こんなの抗えるか。

 先生は今度こそ観念して目を閉じると全身の力を抜いていく。

 柔らかい指が髪を梳いてくる。それは優しくこめかみと頬をなぞるようにマッサージして、先生を眠りの世界へ……。

 連れて行く直前に、スマートフォンが鳴動し、安らぎの静寂は引き裂かれた。

 うーん、タイミング。と思いつつ先生は起き上がろうとするが、それは「私が取ります」と申し出たミネに制止される。

 丁度スマートフォンはテーブルの上。ミネがその場で屈んで手を伸ばせば届く位置だった。

 

「(ん? 待て、この状況でそんなことしたら…………おっふ!)」

 

 次の瞬間、先生は目の前が真っ暗になり、ふにょんとした素敵な柔らかさに顔面が包みこまれる。

 硬めの下着の感触では抑えきれず、決壊したマシュマロ爆撃が行われたのは、ほんのわずかな間だけ。だがそれっぽっちでも先生の疲労はマノントロッポ。もとい、どこか遠くへ吹き飛ばされた。

 ……解放された瞬間に伸びかけた鼻の下を戻したのは、先生なりの意地。でも救護(おっぱい)最高! とか心の中で叫んでしまったのは許して欲しい。

 

 そんな夢心地のままでスマートフォンを受け取ると、相手はモモカ。……先生はたちまち現実に引き戻された。

 

「ッ、スゥ〜。……フゥ〜」

 

 目を盛大に泳がせながら、先生は深呼吸を繰り返す。

 これがリンだったら、仕事関係の電話だろうと推測でき、沢山の選択肢が脳内に浮かぶ。だが、モモカの場合は……事実上、要件は一択になってしまう。

 昼行灯な態度で誤解されがちだが、モモカは相当優秀だ。キヴォトス中の交通機関でテロや暴動が起きようと、最終的には既定路線に戻るよう的確に処理するため、先生に仕事を依頼すること自体がほとんどないのだ。

 唯一、指名手配犯に関してだけ先生に丸投げしているが、これは緊急性がない為「空いた時間に気が向いたらやっといて〜」「了解〜」といった緩い感じの協定が結ばれている。

 そんなモモカが唯一先生に連絡してくるのは……決まって、総力戦や大決戦案件。つまり、キヴォトスにてちょくちょく起きる災害的存在の討伐依頼だった。

 

「や、やだよぅ……今日はミネのお膝でゆっくり休むんだいっ!」

「せ、先生!? いかがなさいました!? そんなに怯えるなんて、一体誰から連絡が……?」

「……モモカ」

「………………ああ、なるほど」

 

 ミネはシャーレの十三人に次いで古参のメンバーだ。故に状況を理解したのか、無言で先生を己の豊かな胸に抱きしめると、ポンポンとあやすように背中を叩いた。

 救護(おっぱい)に癒され、勇気づけられた先生はスマートフォンの通話をフリックする。

 

もふぃもふぃ(もしもし)

「やっほ〜先生。……何か声くぐもってない? 電波悪い?」

「っと、ごめんよ。ちょっと深刻な事情でね。どうしたんだい? 明太子チップス買ってきて。とかなら、喜んでデリバリーさせてもらうよ?」

「マジで? じゃそれもついでにお願い〜。ああ、因みに本チャンはそんな頼み事とは無縁な、悪い知らせだよ〜」

「あはは……知ってた」

 

 魅惑の桃源郷(ミネのおっぱい)から離れ、先生はソファーに座り直す。

 さぁ誰だ? 取り敢えずミカやヒナと一緒に雑に吹っ飛ばせる相手だといいなぁ。ゴズとかもうしばらくは来ないで欲しい。

 クロカゲの怪談相手にハナコが猥談で対抗したら何か打ち倒せちゃったって面白案件もあったのは記憶に新しい。

 ……最悪だったのは新年早々に初日の出と一緒に海から昇ってきやがったペロロジラか。

 年末調整をミレニアムの皆と新年にやるという、ダメな大人を発揮してたら現れて、呼吸困難を起こしかけた記憶がある。あの時もそういえば、気がつけば膝枕されていたっけ。

 ありがとう、太もも。じゃなかった。ユウカ。……ノアが誰にも悟られないように、しっとりとした視線をこちらに向けてきた時は背筋が凍ったけども。

 

「ビナー」

「よし、ミカ! 出番だ!」

「と、見せかけてホド……」

「でぇじょうぶだ。ミカなら()ってくれる」

「実はケセド……」

「やっぱすげぇよミカは! …………マジかぁ、その3体じゃないの? ヒエロニムスとか……」

「でもないねぇ。てか先生トリニティのティーパーティー……あ、今は元だっけ? 何だと思ってるのさ」

「毎度こういう場面ではヒナやホシノ並に頼もしすぎて、たまに変な笑いが出そうになるんだよ。そりゃナギサも頼りにするよねって」

 

 私のお姫様、可愛くて強すぎィ! とまでは口にしなかった。

 

「まぁ、茶番はこの辺にしとこうか」

「ゲブラがまた来たとかはないよね? カイテンジャーはこの間来たし。ワカモがヒャッハーしたならまたミカとスズミ辺りに……アレ? これ除いたらあともう面倒くさいのしか……」

「御明察〜! いらっしゃい先生♡ グレゴリオにする? グレゴリオにする? それともグ・レ・ゴ・リ・オ?」 

 

 先生は味のある顔で天井を仰いだ。スーツ姿の二首怪人紳士の姿が目に浮かんできた。

 

「(ウオオオオオオオオ―――!! くたばれぇ! マエストロォ!)」

 

 生徒の前でおどけることはあっても、汚い言葉は使うべからず。その矜持のもと、先生はどうにかシャウトを抑え込んだ。

 

「……OK。グレゴリオだね。言い方からして、一カ所じゃなく、複数かい?」

「うん、まさに大決戦ってやつ」

「了解。場所は?」

「トリニティ自治区郊外の廃墟化した地下神殿」

「屋内戦……か。了解」

 

 概要を口にしつつ、先生はミネに目線とハンドサインで合図する。するとミネは小さく頷いて、セーフハウスの奥に消えていった。

 通話を終えた先生は素早く洗面所に向かい、手早くシャワーと整容を済ませ、今度は寝室へ赴いて新しいスーツに着替える。

 リビングに戻ると、ミネが用意してくれたノートパソコンのディスプレイが光を放っていた。

 シャーレに所属する生徒に向けた協力要請のテンプレートメールが、送信待ち状態になっている。

 メンバーは既にミネが選出してくれていたらしく、そのチェックを終えた先生は一人一人に向けたメッセージを追加して、順次送信していく。

 全てを終えた後、モモトークのあるグループを開く。

 グループ名は『シャーレ13』その中へ手短にトークを投下した。

 

「トリニティ郊外にて大決戦勃発。時間と余裕があったら、周りを気にかけてくれると嬉しい」

 

 多くは語る必要はないだろう。思想も所属も何もかも違うのに、キヴォトスが最も混乱していた時期を共にかけぬけた(たまに仲間割れした気もしなくもないが)メンバーだ。それぞれの状況に応じて独自の判断で動いてくれる筈。

 大決戦や総力戦のような定期的な災害が起きると、一部自治区の治安が悪化する。

 そんな時でも背中を気にせずに戦いに向かえるのは、ひとえに彼女達を筆頭とした素敵な生徒達が人知れず頑張ってくれたり、不安を抱えた誰かに寄り添ってくれるからだ。

 

 ポンポンポン。と、モモトークの通知がくる。

 華やかなスタンプや了解の返事。お気をつけてといったこちらを気遣う声。もしもの時はお呼びください。といった頼もしいメッセージが13件。それを見た先生は自然と笑みを浮かべていた。

 

「――よしっ!」

 

 気合いを入れるように先生は頬を叩く。

 リビングを出てダイニングキッチンへ。そこにはお出汁と炊き立ての米、そして魚の焼ける匂いが。

 軽食を用意し終えたミネが、エプロンを畳みながら待ってくれていた。

 

「選出メンバーに不備は?」

「無いよ。流石だ」

「それは何よりです。では、食事にいたしましょう。お昼はお鍋にしようと思っていたのですが、出陣ならば、先生はこれでしょう?」

「ありがとう、本当に助かるよ」

 

 用意されていたのは鯛茶漬け。先生の好きなもの兼勝負飯のようなもの。それを向かいあって掻き込みながら、二人は英気を養っていく。

 ちょくちょくこうして食を一緒することはあるけれど、ミネが和食を食べてる姿って新鮮だな。いや、でもナギサもわりとお味噌汁とか飲むとか言ってたっけ? そんなことを先生は考えつつやがて二人は箸を置き、両手を合わせた。

 

「ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」

 

 食器は自動洗浄機へ。歯磨きもすませて、二人は玄関へ。

 

「じゃあ行こうか。ミネ、最近結構な頻度で悪いけど、今回もよろしく頼むよ」

「おまかせを。何があろうと先生は私がお守りします」

 

 つかの間の安らぎを置いて、青年と守護天使は戦地へ赴く。

 また明日へと続いている、日常と平和を共に守る為に。

 

 ※

 

 

 早瀬ユウカは感情が迷子だった。

 眼前に流れてきた、たぶん最近の出来事であろう膝枕の思い出に反応したいが……いかんせん変数もとい情報量が多すぎた。

 

 やっぱり脚フェチ疑惑がある膝枕好き宣言。かと思えば何か母性の塊に虜となり、一部生徒達からの怒りを買う。

 だが株を下げっぱなしかと思えばそんなことはなく、続けて仕事へ行く爽やかかつ何か妙に色気のある身支度風景を叩きつけて、やっぱり一部生徒達を熱狂させ……。てからのミネとの熟年夫婦ばりなやり取りで大多数の脳はこんがり。

 ジェットコースターなんて可愛くなるレベルの振り回されっぷりである。

 多分この場にいる誰もが同じ気持ちになっているだろう。

 周りを見渡す。まず、エンジニア部の三人はソワソワ、ワクワクしていた。

 

「(先生……やっぱり救護騎士団の団長さんがタイプ……?)」

「(説明したいというか、して欲しいです……青い髪にちょっとのピンクがツボなのか、否かを……)」

「(フム、あの食器洗い機、ちょっと改造したいな。お湯による温めで膝枕的な感触のクッションを出せる……ん? 良くないか? コレ。今度作ろう)」

 

 約一名はアイディアが浮かんでホクホクしていたが、それはさておき。

 さり気なく叩きつけられた情報にリンが疑惑で眉をひそめていたのには、ハナコ以外の誰も気づかなかった。

 それよりも……。

 

「主殿! お茶漬けがお好きだったんですか!? 百鬼夜行の辺境に創業100年の老舗があるんです! イズナも行ったことがあるのですが、絶品でしたよ!」

「実は大好きなものの一つでね。仕事前なら気合いが入ったり、頑張った後に食べてもホッとするんだ。……てか、待って、そんなお店があるの!? スッゴい気になる!」

「やった! では部長やツクヨ殿も誘って皆で行きましょう!」

 

 先生の好物、発覚。意外と生徒のお話を聞くことはあっても自分のことはあまり話さないので、この情報に沸き立つ生徒は多かった。尚…。

 

「(先生がキヴォトスに来たばかりの日……なんの変哲もない任務前の朝にご一緒した梅茶漬け。あの味は忘れられませんわ)」

「(懐かしいですね。帰宅が朝になってしまった日に、皆で……)」

「(わさびが、美味しい〜)」

「(食べると眠くなるんだよね〜。……ん? いつもかな?)」

「(古参メンバーはやっぱり知っていると。まぁ、作戦参謀たる私も勿論知っているのだけど。クロカゲ討伐時に……ね。何かピンクの痴女も一緒だったけど)」

「(先生が作る熱くて白いのを……お口に……なんて♡ あの日は、明太子でしたか)」

「(お茶漬け……そういえば、泊まり仕事明けによく召し上がってましたね。確かに、いつもの食事より口角が数ミリ上がっていました。一番は……鮭、でしょうか?)」

「(そういえば、お夜食でよく一緒に食べましたし、大好物っておっしゃってましたよね)」

 

 

 現地にいるハルナ、スズミ、チセ、ツバキ。及びシャーレの13人のメンバーはちゃんと把握してたりする。

 他は成り行きで知ってマウントを取るキキョウと、何か同じく知ってしまって得した気分だったハナコ。

 さり気なく作り、作られしていたノア。

 そして、そもそも13人の一人なので当然だが、やっぱり知ってて。なんならセリナと並んでダントツでご一緒しているチナツ。この辺の反応は穏やかだった。

 当然、ユウカもである。

 

「(ま、まぁ初期メンバーなら皆知ってることよ! ……アレ? でも私……つ、作ってもらったことはあっても、作ったことはない!?……くぅぅ! てか膝枕! やっぱりミネ団長のが一番なんですか!? 先生! 私の時にも、まるで実家って言ってくれたのに、ミネ団長にも……! それから……それからぁ!)」

 

 訂正。ユウカはわりとテンパっていた。太もも褒められたり、膝枕はそこそこ先生から高評価だと思っていたので、ダメージも大きめ。

 更に、ここにお茶漬け知らなかった勢も加わって、軽めのパニックが起きかかっていた。

 

「(あはは……私、先生のこと何も知らないのね。大変な時によく頼ってくれるって、胡座をかいて……それに、きっとチナツは知ってて……でも私は……うう……)」

「(こんなのおかしいよぉ。次は私と先生が主役の筈が……てか、朝は和食派でお菓子作るの好き。前にインテリアとかお部屋いじりも好きって言ってたし……知れば知るほどに、先生ってナギちゃんと趣味が合いまくりじゃ……あぅ……)」

「(てか、待ってよ。こんな熟年夫婦みたいなやりとりしておいて、救護騎士団の団長は嫁の出力には影も形もなかったわけ? ……もう私、先生がわからない……)」

 

 ヒナはシナシナ。ミカはアワアワ。そしてキャスパリーグはぐにゃぐにゃしている。

 どうすんだこの状況。と、サキは冷めた目で周りを見つつ……。そこで、ふと、自分の小隊長が目をガン開きにしているのに気がついた。

 

「ミ、ミヤ……」

「先生。ちょっと質問よろしいでしょうか?」

 

 全員が反応に困り、心の中でコメントする中で、彼女は切り込んだ。

 注目が集まる中で、ミヤコは犯人を追い詰める名探偵のごとく、鋭い目で……目で。

 その時、全員の意見は一致した。

 

 いや、ミヤコ(さん)(ちゃん)目つき悪っ!

 

 

「な、何かな? ミヤコ……」

「ここ、シャーレではありませんよね。セーフハウスと。……つまり……プライベートの部屋、ですよね? ……私、入ったことないです」

 

 時が止まった。ユウカは勿論、チナツも警護役だった生徒らも息を飲む。

 アレ? じゃあ何で団長はいるの? おかしくない? まさか……!

 

「それは勿論、セーフハウス……つまり、いざという時に確実に先生の安全が確保されるべき場所だからこそ、一部の生徒を除いてこの場所は秘匿されているのです。この場所も、私を含めて生徒は三名しか知りません」

 

 先生が口を開くより早く、警護役に徹しているミネがそう補足した。

 警護上の問題であり、やましいことはないのだと、そう言い切り、反論を封殺する。

 尚、それをリモートでみていたサクラコは「ミネ団長(先生と秘密を共有するなんて)ズルいです!」と叫び、シスターフッドに更なる誤解を招いたという。閑話休題。

 

 でもおっぱい押し付けてた! 二回も!

 先生デレデレしてた!

 てか、あそこで先生と過ごしたの、絶対一回や二回じゃないですよねぇ!?

 ご飯普通に作ってたし……距離感もなんか……。

 

 そんな文句も出かかったが、相手は話を聞かない(噂)もといトリニティ救護騎士団の長。色々壊してる女傑。

 誰も何も言えなかった。……何かそれもズルいなぁ!?

 てか、膝枕が最初から濃すぎる! もう少しマイルドな……いや、マイルドな膝枕って何!? そう生徒達が思いかけた矢先――。再び、メモリアルロビーは虹色に輝いた。

 

「おっと、次が来たぞ。……こ、これは」

 

 全員が沈黙し、そっちを見つめる。映し出されたのは……。

 

『さぁ、耳掃除の時間ですよ』

 

 白いブラウスを押し上げるすんごい膨らみと、柔らかな笑みを浮かべる少女が大写しになる。

 その瞬間、一部の生徒は口をあんぐりと明けてしまう。

 デッッッ!

 いや、そうじゃなくて!

 

『モゾモゾしちゃダメです〜。うんうん。いい子ね。よしよし』

 

 先生が、膝枕で、耳掃除されている。ただそれだけだ。

 ただそれだけなのに……。

 生徒達はもうその様子に釘付けだった。

 

『(あ~。いけません、ノノミ。ノノミさん! ダメになる。何か怖い! 私これダメになりそう! うっわ、やっべ超気持ちいい……!)』

 

 先生の内心は荒ぶりまくり。

 ついでに、ノノミが耳かきの時に身体を屈めるものだからもう先生の後頭部はどたぷん! と、大変なことになっている。

 おかげで生徒らも「なんじゃこりゃあ!?」と、別の意味で荒ぶっていた。

 

「ん、これがノノミ。ご覧の通り、故意に見せかけて素で押し当ててくる。あと、超いい匂いもするし、日常で超揺れるし、色んなとこに“乗る”――これがアビドス」

「いや、シロコ先輩。そこはアビドス違うでしょ。全部ノノミ先輩だけよ。……因みに反対側って奥の手がこの先にあるわ。顔をノノミ先輩側に向けるの。後はどうなるか……わかるでしょ? 私は飛んだわ」

「うへ~。おじさんはキヴォトス最高の神秘とか言われた日もあったけど……黒服、見なよ。最強の神秘はそこにあったよ」

「(黙らなきゃダメ。アビドスはちょっとバカって思われちゃうから黙らなきゃダメ……! でもノノミ先輩の耳かきは皆経験してるから……正直マウント取れちゃうくらい気持ちいいのも事実。ホシノ先輩がビナーのビーム耐えた時並の衝撃は確実……!)」

「あ、あの……皆さん、流石に恥ずかしいのでその辺で……あうぅ……でも先生って“いつも”耳かきしてあげると、反応が可愛いんですよねぇ☆この時も……えへへ♪」

 

 アビドス四人(見かけは三人)が胸を張り、ノノミはワタワタしながら、やっぱり天然で特大のマウントを取る。まさに少数精鋭を体現する攻勢っぷりだった。

 

 先生は逃げ出したかった。でも無理だった。気がつけば背後にユウカがいて、左右をカズサとキキョウが。正面にはミヤコがすんごい目でこっちを見ながら包囲網を敷いていたから。

 

「先生……!」

「ユウカ、待ってくれ! 弁明を要求す……」

『ひゃっ! も〜先生! くすぐったいです〜♡』

 

 再び生徒らが画面に目を向けると、先生の顔は、文字通り埋まっていた。

 でも今は地面に埋められそうだった。

 

 数秒後。やっぱりおっぱいですか!

 おっぱいなんですか! という叫びがシャーレに響き渡ったという。

 




感想、ここすき、誤字報告等感謝です。励みになります。

次回イベント、チナツも活躍してくれそうで嬉しい作者です。
オチにもチナツをと思いましたが、やっぱりノノミさんに。チナツは次回最初でちょっとだけまた爆撃してからミカ編に行きます。
お楽しみに。
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