ゲヘナへの道〜先生の熱愛疑惑騒動〜   作:星組

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進撃のお姫様《後編》

 黒舘ハルナは目の前の映像から目が離せなかった。

 “ゼブル”と先生に呼ばれたあの機体。見覚えのない筈であるそれに不思議な既視感と親近感。そして……僅かながら畏怖している自分がいることに気がついた。

 理由はわからない。ただ、湧き上がる感情は複雑そのもので、ハルナ自身もどう捉えればいいかわからないものだった。

 

 突然生き別れた姉妹がいたと告げられた。

 あるいは大切な人が知らない所で親類と楽しげにしていた。

 片思いの彼が頼りにしているのは、自分にそっくりな別の人だった。

 近しいシチュエーションを思つくだけ浮かべてみるが、どれもいまいちしっくりくるような、こないような。

「釈然としませんわね……」と首を傾げるハルナは、知らぬうちにあの機体を人として見ていることに最後まで気が付かなかった。

 

「(というか……私の大切なお姫様ってなんなんですの!? ちょっと聞き捨てなりませんわね……)」

 

 尚、そんな感じで戸惑ってはいても、時間差で怒りは再燃したらしい。因みにそうなったのはハルナだけではなく。

 

「(なんだあのカード! なんだあのマシーン! ちょっと後で調べさせてもらおう。……それに、お姫様とな。なかなか大胆なこと言うねぇ先生)」

「(ゲヘナのロゴが一瞬見えたような……。よくわからない技術。まさか雷帝が絡んでたり…………私だってお姫様って呼ばれてみたかった。は、ちょっと高望みしすぎかしらね」

「(先生の指示が、生徒にする時と同じ? もしかして、パワードスーツか何かを着た誰かなのかしら? でも突然出てきたようにも見えるわね……てか、は? 私の大切なお姫様? ……は?)」

「(時々謎の技術で流れ弾を避けてたのは記憶にありますが……。アレはその力の一端でしょうか? …………お姫様。へぇ)」

 

 

 先生が秘めていた謎の力。平時ならばそこに注目が集まってもおかしくなかった。だが、悲しいかな。お年頃の少女らにとってはもっと気になるものがあったのである。

 弾薬よりスイーツ。

 愛銃をデコりながらする恋バナ。

 戦車と駆ける青春。

 大半の女の子からしたら重要なのは、胸熱なメカよりも、そっちの方に決まっている。

 私の大切なお姫様なんて発言、ちょっと羨ましいにも程があった。

 結果、さる世界線では神様だったり、大悪魔だったりする先生の切り札の一角は、こんな感じで流された。これには流石の“彼女”も苦笑いを禁じ得ないだろうが、現実なんてそんなものである。

 ちょっとした日常で当のお姫様から賜るお言葉を借りるならば……。

 先生はわかってない。女の子は甘くないのである。

 

 

 ※

 

 賛否両論あるお姫様ショックの後は、ちょっと反応に困る映像の続出だった。

 おそらくはエデン条約やアリウス絡みの事件が一応の終息を見せた後の話なのだろう。

 謹慎中。お買い物デート。この時点で先生側の違和感に気がついた者は、ごく少数だった。

 続けてメモリアルロビーが映したのはボランティアに勤しむミカの様子を見に来る先生の姿。ここだけならば、先生がまた誰かの為に行動を開始する……言い方がアレだが、よく見る光景である。しかし……。

 

「せ、先生が変だ……」

 

 ボソリと最初に呟いたのは、何の因果かイオリであった。

 例えば、ミカの体操服。少なくとも生徒が何らかの装いをすれば「似合うね!」だとか、「体操服キャッホォイ!」といった具合に狂喜乱舞する筈なのだ。

 だが、ドライ。というか、なんとなくそっけない。

 今まで散々生徒達と過ごしている姿をメモリアルロビーで見せられているからこそ、生徒達の一部は不思議な不安に囚われた。

 冷たいまではいかない。だが、明らかに意図して距離を取っていた。

 

 

 これ、どうすればいいの? 

 お姫様とか言っておいて何か凄い……こう……。

 ミ、ミカ様……。

 体操服や、教科書の紛失、……ですか。それに先生のこの反応は……

 モモイ! モモイ! 何か空気が重いです!

 シッ! アリス! ダメ! 今は偵察フェイズだよ! ……た、多分。

 

 誰もが何も言えなかった。一部の生徒……というかハナコはこの時点で色々と察して、目を伏せている。

 画面では帰っていく先生の背中を淋しげに見つめるミカの姿。……続けて、モモトークでも忙しいと言われてしまい、屋根裏部屋でしょんぼりと項垂れる様子が映し出されている。

 

「おいカムラッド! どうなっているんだ! 何かこの生徒だけ扱いが明らかに違うぞ!」

 

 そこで堪らず立ち上がり、先生に抗議する生徒が一人。チェリノだった。

 ぶっこんだー! と、リモート中の誰かが叫んだ気がしたのは決して気の所為ではないだろう。なんなら会場にて既にモモイが叫んでいた。

 レッドウィンターにてデイリーミッションもかくやにクーデターの危機に立たされている書記長はやはり格が違うのか。

 一部の生徒らから畏怖の感情すら浴びながら、チェリノはモニターを指さした。それを目で一瞬追ってから、先生は少しだけ眩しげにチェリノに微笑みつつ、どこか自嘲気味に肩を竦めた。

 

「私は、ただ信じるしかなかったんだ。でもまぁ……そうだね。この時私が思うことは一つだったよ」

 

 そう先生が独白すると、画面が切り替わる。

 夜のシャーレオフィス。いつものデスクに先生は突っ伏していた。どよ〜んという効果音が出そうなくらいに陰鬱な空気を醸し出しながら。

 

『……水底で物言わぬ、ただの貝になりたい』

 

 め、めちゃくちゃダメージ受けてる……。

 よかった! 何かいつもの先生っぽい!

 プラモ買いすぎちゃってミレニアムの会計さんに怒られてる時の……いや、こういうタイプの落ち込み方とは違うけど。

 先生は、色んな意味で精神が鋼の類いかと思っていましたが……。そうですよね。私がウサギではないように、先生も常に鋼のようにはいられないのでしょう。

 貝、ですか……。ナメクジ、ウミウシ、ミジンコに並んで先生が落ち込んでる時に変身したがる生き物の一つですね。

 ち、ちょっとノア!? それ初耳よ!? てか何なのそのラインナップ!

 

 実はほとんど見たことがない、あからさまに意気消沈した姿にその場にいた生徒達は動揺する。

 当然普段の先生は律して見せないようにしているのだが、メモリアルロビーはそんなの関係ねぇとばかりにガンガン映していた。

 

 

『でもダメだ。今は本当に……ミカにとっては大事な時間だから。だからこそ……』

 

 

 

 ペシンと両頬を叩き。先生は奮起する。

 それを見た生徒達は思った。本当にこの人は……生徒の為なら何でもしちゃうんだと。

 それは美しくもあり、危うく。だがどうしようもなく嬉しい事実であった。

 

 ヒナやホシノは何処か眩しげに。

 ユウカとノアはしょうがない人を見るように、画面の先生を見つめていた。

 その場にいた皆が、似たような視線を先生に向けている。

 気晴らしに先生がSNSを眺めて、温泉開発部が投稿した落とし穴に落ちたイオリの写真を保存してたりもしたが……。それくらいは誤差であった。

 だからこそ……。

 

『……先生は、騙されたんだよ。……どうしようね? もう朝までここにいるしかないよ?』

 

 女子生徒のベッドに隠れる青年の姿がそこにあった。というか、先生だった。

 そのすぐ傍には何かあからさまにいつもより薄着なミカがベッドの枕元に腰掛けている。

 

 門限破り、もとい事実上は閉門した女子寮での逢引。

 というか、最早先生の軟禁である。

 これにはその場にいた全員が口をあんぐり開けざるを得なかった。

 因みに、この一連の流れを観たリモート中のナギサは、落ち着こうと震えながら紅茶を淹れようとした結果、カップから外して盛大にテーブルにぶちまけていたりした。

 憐れ傍で一緒に見ていたセイアのスカートは大変セクシーに……ではなくビッチャビチャにされてしまう。

 

「何やってんだミカァー!」

 

 と、セイアがお嬢様学園では完全にアウトな叫びをあげたのは言うまでもなかった。

 

 

「(私だって先生を部屋に連れ込んでみたかっ……いや、考えてみたら来てくれたこと結構あったわね)」

「(今までの経緯的に、先生のお時間を頂きたかった……といった所でしょうか?)」

「(大問題……なのは確かなのだけど、何故かしら……)」

「(慣れてる自分が怖いわ。これくらいなら……いや、これくらいで済ませちゃいけないんだけども!)」

「(作戦が甘い。もっと自分に有利に立ち回るべき。私なら一緒に布団に潜る)」

 

 

 尚、この光景を見せられたガチ恋勢らはわりと冷静だった。

 ヒナはまたシナシナに……と見せかけて、スンとしていたし、ミカの動機は大体ノアの推測通り。ユウカも、カズサも、キキョウも心は穏やかだった。

 慣れとは恐ろしいもので、事前に混浴とかいう特大ヘヴィーな事実を突きつけられているせいで耐性がついてしまっていたとも言う。……マジでなんなんだ火宮チナツ。(お前は)

 

 

「(……あっ、これ先生が怒るやつですわね。多分キヴォトスでよく怒られてる生徒ベスト5に入る(わたくし)が言うんですから間違いありませんわ)」

「(テント……ちょっと改造すれば、先生を連れ込んで逃げられなく出来るのでは? テント立て籠もりを想定した訓練として先生をお呼びして。…………ふむ)」

 

 一方、他とはちょっと違う反応を見せる二人もいた。

 ハルナは他より比較的に長い付き合い故、この後に起きる事態を察して顔を引き攣らせている。

 ミヤコは……何かもう、いっそ清々しいくらいにミヤコだった。「また何か変なこと考えてるな……」と頭を抱えるサキの明日は何処にあるのか。

 そんな生徒らの反応をよそに画面の先生は無言だった。

 普段の先生からは想像もつかないほど静かに。目には少しの悲しみを灯しながら。

 

『……ミカ。私はこれから、この場にはいないものとして振る舞うよ。いいね?』

『………はい』

 

 少しでいいから先生と一緒にいたかった。そんな少女の吐露に対して、ベッドから這い出てきた先生はそう告げた。

 悪い前例は作らない。ここで楽しくお話しようものならば、ミカの目的は達成してしまう。

 だから先生は、本当に朝まで何もしなかった。ベッドの上で寂しそうにこちらを見つめるミカに顔を向けることなく時間を過ごした。

 眠りなさいという気遣いの一言も。出ていく時に一瞥はおろか声もかけずに、早朝にそっとその場を離れるまで、先生はスマホ一つ弄らない徹底ぶりだった。

 

 その場の空気がまた重くなる。というか、ミカ本人の行動も展開も重いよ! どうすんのこれ! なんて思っていたら、今度は陰湿なトリニティの一面まで出てくるわ、先生に買ってもらった水着までボロボロにされるわでさぁ大変だった。

 

「キキッ! 水着だけでよかったな。ゲヘナなら水着がある建物ごと破壊されていただろうよ!」

「ええ〜っ、そんなこと……」

「あり得るから笑えないのよね」

「ついでのように近くの人や店が犠牲になりますからね」

「何それこわい」

 

 ある意味最低な茶化しを披露したマコトが癒しになるのだから相当である。

 

 そんな中、映像を目の当たりにした一部の生徒らは想像する。

 もし先生からのプレゼントがこんなことになったら? 自分に置き換えて、誰もが震え上がり、ミカに痛ましげな視線が集まった。

 

 その一方でちょっと前にミカの無双を目撃した一部の生徒は別の意味で震え上がった。

 こいつら頭おかしいんか? 隕石かパンチが飛んできたらどうするつもりだったのか。チキンレースの方がまだ安全だろう。怖いもの知らずにも程がある。

 

 

「あ~何かあったね☆こんなこと。まぁ、この時は確かにショックだったけど……えへへ……」

 

 

 ところが、周りから同情やら畏怖が集まるなか、当人のミカはケロッとしていた。寧ろ何故かデレッとしているくらいだ。

 それを見た先生は少しだけ安心しながらミカに話しかけた。

 

「そういえば、今更だけどあの時どうして私が怒ったのか……今のミカならわかるかな?」

「……ウソついたから。だけじゃないよね。あの時の私は謹慎中で。だからこそ、あんなことを起こしたら先生と、特に私の弁護に回ってくれていたナギちゃんにも迷惑をかけちゃうから。……でもそれだって一部に過ぎない。先生が本当に怒っていたのは、別のこと」

 

 祈るように指を胸の前で組みながら、ミカはまるで思い出を懐かしむように目を伏せてから柔らかく微笑んだ。

 

「私が、私自身を大切に出来なかったから。そうでしょう?」

 

 その答えを、先生はただ嬉しそうに頷いて噛みしめる。

 生徒の眩しい姿や成長は、いつだって先生に幸せを運んで来てくれるのだ。

 最近ではトリニティの各方面からもミカは少しずつではあるが前向きに受け入れられつつある。

 元々のカリスマ性もさることながら、ボランティアによる幅広い慈善活動。果てはトリニティ生徒が被害に遭うことも多い誘拐犯の撃退まで。

 事実、ミカの精神的成長は凄まじく……。

 

「ありがとう、ミカ。私は君の成長が何よりも嬉し……」

「先生、ちょっといいですか?」

 

 だが、残念ながら、先生が感動に浸れたのはそこまでだった。むんずと肩を掴まれた先生が横に顔を向けると……なんか妙に生暖かい笑顔を浮かべたユウカがいた。

 

「えっ?」

 

 画面を見る。ついさっきまで、水着をズタズタにされて嘆き悲しむミカがいて。それを直してもらいに連れ出す先生……という思い出が流れていた。

 これには皆がホッとしつつ、さっすが先生! と拍手にスタンディングオべーションしそうな勢いというか、立ち上がる生徒らが多数いた。そこまではよかった。

 何か気がつくと、夜のプールで二人きりの個人授業が始まった。……またたくまに全員がスン。として着席したのは言うまでもない。

 

『どうどう? 似合う? 学校指定の水着でもいい感じ? ねぇねぇ?』

『えっと……ミカさんちょっと……近すぎます』

『あははっ、なになに、女子生徒の水着だよ? 逃げるなんて傷ついちゃうなぁ』

 

『先生も入ろ〜? 気持ちいいよ?』

『遠慮しときます……』

 

 心身共に本当に近いなぁ!?

 先生、何か照れてる。照れてない? そんなことある?

 なんなら私、毎週あれより近づいたのにあんな反応してくれたことないんだけど!?

 ん、ここはアビドスの姫を出して対抗するべき。セリカの出番。

 シロコ先輩!?

 てか、スタイル……良すぎ……。反則すぎない?

 

 距離感。珍しく照れる先生。とんでもねぇお姫様エロボディ。それらに気を取られていたら、再びチェリノがプンプン怒り出した。

 

「やっぱりだ! カムラッド! 何かこう、扱いが違う! すっごい大事にしてる! 本当にお姫様ではないか!」

 

 そこで初めて、他の生徒達はチェリノの最初の憤慨を思い出す。

 成る程。確かに扱いが違うというか……ミカの感情が激重だと思ったが、これ先生も大概では?

 心を鬼にするってことは、裏を返せばそうしないと甘くしてしまうから?

 そもそも“私の大切なお姫様”発言自体が相当……。

 あれ? もしかしてチナツよりヤバい?

 

 そんな生徒らの反応に、ミカはニッコニコになる。先生もあの時苦悩してくれていた(させてしまったという反省は勿論ある)。

 察してはいたし、自分が問題児だからこそでもあると分かっていても、こんなにも大切にしてくれていたという事実。

 私のお姫様発言、多分他の誰にもしていない(グレーっぽい人はいるけど)

 他にも色々。

 

『痛くないかい?』

『平気〜☆』

 

 画面にはつい最近の出来事。ちょっとお話しよっ。のノリでシャーレに遊びに行った時に、羽のブラッシングをしてもらった思い出だった。

 ライン超えだろコレ! と、他の生徒らから浴びる嫉妬の視線が心地よい。気分は正ヒロインだった。

 

「(大勝利じゃんね☆)先生、すっごく手つきが優しかったの」

 

 完全に恋する乙女状態なミカ。

 ぐぬぬ……となるガチ恋勢。

 他、楽しむ生徒もいれば、何か面白くなくて膨れる生徒もちらほらと。

 そんな中で先生は一応疚しいことはない筈なのに、何故か肩身が狭くて縮こまるしかなかった。あとやっぱりハナコの観察する視線が怖い。

 

 

「(私の羽も……無理ね。恥ずかしい)」

「(耳のブラッシング……いや、ない。流石にない。絶対変な声出そうだし)」

「(チョコの時みたく耳をやってもらう作戦を……また苦労しそうね)」

「(髪のブラッシングに、羽と尻尾のオイルケアを夕食の後に……いえ、午後のリラックスタイムにでも美味しいですわね。(わたくし)も先生にマッサージを……)」

 

 ヒナは場面を想像したのか、一人恥ずかしさで茹で上がりそうになっていた。仮にされたら超ツヤツヤになるのは間違いないのだが、元来の性格もあり羞恥が勝った。

 

 キャスパリーグもといカズサも同じく。普段はあれだけ距離感がバグっているくせにそこは遠慮していた。仕方がないのだ。猫は主導権を取られるのが苦手なのだから。……場合に寄るけれど。

 事実、主導権を取ろうとしてるが、多分素直に頼めば最速で結果を出せるのに気づけない猫ちゃん作戦参謀もいるのだから。

 

 だが、そんな“ある”ガチ恋勢の中でドストレートに色々ヤッたりヤラれたりしようとするエロテロリストもいたりした。事が終われば匂わせ投稿も忘れない所存である。シャーレ最古参の一角は色んな意味で雑に強かった。

 一方、“ない”組はというと……。

 

「(ぐぅ……何か先生、やっぱり羽が好き? ……どうすれば……! ミレニアムの技術で、エネルギーの羽を作る? いや、ダメね。予算も櫛も通らないわ)」

「(シャーレにお泊りでお仕事する際、髪を梳かしてる私の方に平均四回ほど視線を向けていました。……メンテナンス的な事がお好きなんでしょうね)」

「(ハッ! ヘッドセットを本物のウサギ耳に近づければ、バニー好きな先生の需要を満たしつつ、お手入れして貰えるのでは!? Rabbit2! 今すぐ装備の強化検討を……!)」

「(そんな余裕が私達にあってたまるか! 強化が必要なのはお前の頭だよバカ隊長!)」

 

 それを装備したら間違いなく先生のテンションが爆上がりするのだが、予算とかの関係で断念するユウカ。

 さり気なく先生の性癖に触れるノア。

 別の方向へ振り切るミヤコと苦労人なサキ。

 これもう収集つかないなぁ。誰かがそう思いかけたその矢先。

 テンションが上がったお姫様がふと呟いた。

 

「先生はこの時、静電気除去ブラシ初めて見た〜って言ってたけど、もしかして羽のお手入れは……私にだけだったりするのかな?」

 

 それは、そうであって欲しいな。という、可愛らしい独占欲からくる、ただの独り言だった。

 何かメモリアルロビーがめっちゃ輝いた。

 

「……え?」

「あれ?」

 

 全員の目が丸くなる。

 虹色に輝くさまは、質問を受けて稼働している時の挙動そのものだった。

 

「ああ、今のメモリアルでの主役からの質問だから……これ幸いと拾ってしまったのかもね。優秀なAIも搭載してるから」

 

 シレッとウタハがそう告げるのと、映像にてその人物が映し出されたのはほぼ同時だった。

 場所は……夕方のシャーレらしかった。

 

『申し訳ありません、先生。私としたことが……うたた寝なんてお恥ずかしい姿をお見せしました……』

『ははっ、いいんだよ。ナギサもいっぱい頑張ってるからね。ここでくらいは気を抜いてくれていいんだよ?』

『……もう。先生、あまり私を甘やかさないでくださいな』

 

 寝起きなのだろうか。いつもより少しだけ眠たげな目でナギサは身嗜みを……羽をスタイリング用の櫛で整えていた。

 そんな様子を先生は珍しいものを見るような。あるいは懐かしむような目で眺めていた。

 

『……先生?』

『っと、ごめんよ。マジマジと』

『いいえ、それはいいのですが……先生にないものとはいえ、それ程気になるものなのでしょうか?』

 

 ナギサの問いに先生は頬を掻きながら頷いた。

 

『小さな頃から、鳥……特に白鳥に心惹かれるものがあってね。冬になると、よく湖に行ったものさ』

『まぁ、そうだったのですね』

『うん。だからつい見惚れちゃったんだ。ナギサの羽は白鳥みたいに綺麗だから』

 

 先生(お前)マジでいい加減にしろよ?

 と、一部の生徒は内心で毒づいた。

 案の定、ナギサはただでさえ白い頬を紅く染めながら、もじもじしてしまっている。

 そして……。

 

『それでしたら……触って、みますか?』

 

 妙に色気のある流し目で、他の方々には内密に。と付け足しながら、ナギサは先生に櫛と片翼を差し出した。

 

 その瞬間。あばばばば……という乙女にあるまじきうめき声が上がる。白目になったミカだった。

 

「こ、これ……寝取られじゃんねー!」

 

 いや寝てから言え。という総突っ込みが入ったのはいうまでもなかった。

 




リアルが忙しく、間が空いてしまいました。申し訳ありません。ちゃんと完結させるのでそこはご安心いただけたら幸いです。

次回から軽めのダイジェストを入れてから本作ヒロインチナツさんによる脳みそオーバーキルに入っていきます。
阿鼻叫喚をお楽しみに
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