ゲヘナへの道〜先生の熱愛疑惑騒動〜   作:星組

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エピローグ:多分いつか来る本当の熱愛騒動

 入浴シーンでのカポーン。って擬音、誰がどんな気持ちで考えたんだろう?

 温かいシャワーを浴びながらホッと一息ついた先生はそんなとりとめのないことを考えていた。

 場所は最近ほぼ自宅みたいになりつつあるセーフハウスの浴室の中。広さと実用性を完備し、シャワーヘッドもミレニアムの最新式。お風呂には小さめのジャグジーにテレビのディスプレイまでつけちゃった、高性能仕様である。

 

 こんなお風呂に全力出すことある!? と物件を選んだ際にミネに伺いを立てたが、QOLを上げることは心身の癒しに直結する。つまりはこれも救護なのです! というありがたいお言葉を頂き、最終的には先生絶対に癒やすゾーンは完成した。

 ミネの熱弁と圧に負けたともいう。でも、結局使ってみたら心身ともにリフレッシュするわ、冷たい炭酸飲料を持ち込んでみたら天国を味わえたりと最高だった。

 他にもセーフハウス内にはミネチョイスのQOLぶち上げ設備が採用されているが、全部大当たりな辺り、流石としか言いようがない。因みにお値段はユウカが仰天するレベルのものだったりするが、ここは内緒のセーフハウスだから大丈夫な筈だ。……多分。

 見つかったら……コブラツイストならぬユウカツイスト(太ももでぎゅ〜)されるだろうが、そこは甘んじて受けることにしよう。……それは罰ではなくご褒美では? と言われても否定しきれないのは御愛嬌だ。

 

「ふぅ……」 

 

 身体が温まり、無意識にため息が漏れる。大変な1日だった。

 

 いや、大変じゃない1日の方が少ないのだけれども、それはいい。ただ、当たり前の事ではあるが、何らかのイベントが始まる時は、必ずその引き金となる要因や始まりの序曲的なものがあるものだ。

 

 例えばデザートイーグルを突きつけて、盗んだ……否、借りたバイクで走り出すマリー。

 ミレニアムの予算がめっちゃ使われた後に来たバニーチェイス。

 電車が消える。あるいは乗り間違える。

 リゾートの所有チケットが当たる。

 幼子パラダイス。

 他色々。

 

 ならば今回のイベント……もとい事件は何だったか。

 ……言うまでもなく、チナツとの熱愛疑惑映像の流出だろう。

 事が終わった後、リンちゃんに「では、先生熱愛騒動事件の顛末の報告書を宜しくお願いいたします」なんて言われた日には目のハイライトが消えそうになった。

 報告書作るの!? と震え声で尋ねたら、視聴覚室にてミレニアムの技術展覧と生徒らとの交流会という、立派なシャーレの活動ですので。何て言われたらぐうの音も出なかった。

 

「……記憶と、思い出……か」

「何か思うことでもありましたか?」

「まぁ、ちょっと、ね。…………んんっ?」

 

 それはそれとして、その機能については個人的にもう少し深堀りしたかったな……なんて思っていた矢先に、先生は背後からの声で硬直する。

 場所はセーフハウスのバスルーム。

 この時点でここに現れる人物は限られている。加えて冷えた風を感じないということは、そもそも“扉自体が開かれていないということ”

 シャーレのセキュリティすら突破し、まるで幽霊のように何もないところから現れる。そんな離れ業が出来る生徒を先生は一人しか知らなかった。……知らないんだけれども。

 

「あの、セリナ? セリナさん?」

「はい。先生のセリナです」

 

 さり気なく腰元にフェイスタオルを添えつつ振り返ると、バスタオルをしっかり身体に巻きつけたセリナがにこやかに佇んでいた。

 よかった。いや、よくはないんだけども、とにかくよかった! 先生はそんなことを思った。流石にタオルがなかったらヴァルキューレ案件だった。……今もそうでは? なんて話は聞かないものとする。

 

「ここ……お風呂なんだけど」

「はい。そうですね? ……何か問題がありましたでしょうか?」

「いや、その……流石に生徒とお風呂は……」

「でもチナツさんとは入りましたよね? 2回も」

「ッ、スゥ〜」

 

 回り込まれたどころか、退路を爆破された瞬間だった。

 何も言えねぇとはまさにこれ。同時に今後この総力戦チケットならぬ免罪符(チナツチケット)突きつけられたら、私抵抗出来ないのでは? そんな恐怖に戦慄するしかなかった。

 

 

「お背中、お流ししますね」

「いや、あの……」

「……チナツさん」

「……よ、よろしく」

 

 何が怖いって、三徹が発覚した時よりセリナの圧が強かったことであった。

 先生はもうされるがまま。これ自宅のような場所の時点でチナツよりヤバいのでは? バレたらチケットグレードアップしちゃわない? 大丈夫? そんなことを思ってるうちにわしゃわしゃとシャンプーされ、背中も流された。

 

「前の方も……」

「それはダメぇ!」

「……チナツさん」

「うっ……わかっ――いや! チナツもそこまではしてないからね!?」

「……メモリアルロビーで出てなかっただけで、本当は……という可能性も……」

「ないないない! ないから!」

「むぅ……わかりました」

 

 アレ? でもどうすんのコレ? 私が前洗ってる間は?

 そんなことを考えていたら……背後で微かに衣擦れめいた音がした。

 横から白い手が伸びてきて、ボディソープをちょっとだけ拝借してまた引っ込んでいくのが見える。目の前の鏡からは……全力で目を逸らした。

 

「……セ、セリナさん?」

「あっ、先生。洗い終わりましたら、先に湯船に入っていてくださいね? 私も身体を清めたらすぐに――」

「待ちなさい。待って! 一緒に湯船はマズイから!」

「でもチナツさんとは入りましたよね?」

「入ったの温泉! ここは普通のお風呂……よりは広いけども、狭いの! マズイの! 何なら今も!」

「でも、ミヤコさんやミカ様とはドラム缶風呂に入るんですよね?」

「待ってそれ私OKしてないよ!?」

「……なんとなく押し切られそうな気がしまして」

「ないから! 今の状況よりもっとマズくなるから!」

 

 流石にない。ミヤコならと一瞬思いかけて必死に先生は首を横に振る。

 何かあの子もチナツに並んでこちらのガードをすり抜けてきがちな生徒の一人だが、やっぱりドラム缶風呂はアカン。

 ミカ? 絶対に色々終わるので勿論ダメである。先生だって男なのだ。

 

「よぉし! 私は今日シャワーだけにしようかな! そうしよう! セリナはしっかり暖まってから来てね!」

「あっ――先生!? も〜!」

 

 取り敢えず、今は逃げた。湯船は一般家庭の湯船に比べたら大きくとも、流石に成人男性と女子生徒が一緒に入ると……ちょっと宜しくない距離感になるのは目に見えていたのである。

 脱衣所に逃げ込んだ先生は、そそくさと身体を拭き始める。さり気なく、ここで更についてこられてたらもっとヤバかったのでは? なんて背筋を寒くしてたりもしたが、結果的にセリナの方は折れてくれたらしい。

 実際は先生のセーフハウスでお風呂に入れてもらう。他、チナツさん同様に髪を洗って背中を流す。といった実績を解除してニコニコだったというのが真実だったが、先生は知る由もなかった。

 

「……先生」

「ん〜? 何だい?」

「シャーレの十三人にて話し合い、賛成12反対1で、先生にメモリアルロビーの封印を提案しよう。そんな話が上がりました。多分ユウカさんが代表でモモトークを送ってくださるかと」

「……まぁ、多分そうなる気はしてたよ」

 

 チヒロやもしかしたらアヤネ辺りからも危険性についての相談等が来そうだし、多分リオも動きそうだ。なんならエンジニア部からの批判を承知した上で独断による破壊と製作データの破棄くらいはやるかもしれない。

 今回やった楽しい(?)使い道ならばいいのだが……残念ながらキヴォトスには困った運用をしそうな子や、外道な手段に利用しそうな大人がいるのも事実である。

 先生もまた……この発明を自分の個人的な目的の為に使用したい。そんな欲望が無いかと聞かれたら……ちょっと答えに窮しそうだった。

 

「先生は……どう思いますか?」

「そうだね……メモリアルロビーの破棄。それが生み出した生徒達の決断ならば尊重すべきだ。エンジニア部はどう思うだろうか」

「文句の一つや二つはあるのでは? という声がありましたね。なんならコタマさんはこんな凄いのを破棄するくらいなら私に下さいと」

「あ、反対1はやっぱりコタマだったんだね。まぁ、本当に凄いのは間違いない。流石の三人だよ。でもその反面、危険性も沢山ある。それを指摘された上で彼女達はどう考えるか。これだけはちゃんと確認してから動いて欲しいと思うかな」

「賛成も反対もなく、まず話し合った上で……ですね?」

「うん。繰り返すけど、想像以上に凄い技術だったからね。もう既に多くの人がその存在を認知してしまった以上、模倣や再現しようだとか、技術を手に入れようとする人達は必ず現れるだろう」

 

 一度生まれてきて確認されてしまった技術を闇へ葬るのは、想像より難しい。それは歴史が証明し続けている。

 性質上対抗策を作るのも難しいだろう。一応考えつく落としどころはいくつかあるが……これを先に提示するのはまだ早い。

 

「投げっぱなしにはしないよ。それに伴う何らかの被害が出たならば、そこは私がしっかり責任を取るつもりさ」

「みなさんの決定と選択を聞きたいし、信じたい。……と」

「うん。その通り」

 

 すると、バスルームからフフフッ。と嬉しそうな笑い声が聞こえてきた。

 

「セリナ?」

「いいえ。ただ、納得しただけです。そうやって先生が寄り添ってくださるから……エンジニア部のみなさんは、あれだけ凄いものが作れたのかな……なんて」

 

 それはちょっと大げさじゃない? と、先生はつられて笑う。

 困った側面はあれども、あの三人が優秀なのは元からだと先生は思う。でも……。

 そっと想いを馳せるように先生は宙をみる。

 

「そうだね。ほんの僅かでも、私の存在が彼女達の安心に繋がってくれていたら……」

 

 刹那、透き通るような原風景が瞬いた。

 水色と桃色が混じり合った色彩の世界で……湖面に立つ誰かが、寂しそうにほほ笑んでいるような……気がする。

 

「それがあるから、彼女達に限らず生徒の誰かが全力で青春を謳歌出来るなら……」

 

 知らない筈なのに知っている誰かの顔。それは酷く懐かしく。胸を締め付けるような切なさを伴って、先生の脳と感情を揺さぶっていく。

 

「私は、この上なく嬉しいよ」

 

 なんとなくだが、メモリアルロビーを先生が使う機会はもう来ないだろう。そう察しながら、少しの念を断ち切った。

 仮に使うとしても、今日みたいな形になるだろうし、きっとそれでいい。間違いなく、正しい使い方なのだから。

 こうして、慌ただしかった一日の夜がふけていく。

 数日後、メモリアルロビーは致命的な欠陥や破綻があるとされ、ミレニアムプライスでの発表を取り下げる旨が発表された。

 

 

 ※

 

 

 ティーパーティーメンバーがプライベートでお茶会するベランダにて。百合園セイアは必死に目の前に広がる光景を夢として片付けようとした。

 

「ほら! 可愛いでしょ?☆ せっかくだからピンクに塗ってみたんだ〜!」

「あばばばばば…………!」

 

 が、ダメ。理解を超えたものを目の辺りにした時、人は本当に頭や胃を痛めるんだなぁとセイアは実感していた。

 これは現実だ。仮にもかつては同じティーパーティに所属していた友人が……お茶の席にデコったドラム缶を持ち込んできた。たたそれだけの話だ。……いや待って意味が分からない。

 意味がわからなすぎて、ナギサはお嬢様にはあるまじき濁った呻きを上げつつ、白目を剥いて気絶した。よっぽどショックだったらしい。

 

「……前衛的なティーカップだ。そんなに喉が渇いていたのかな?」

「あははっ、何言ってるのセイアちゃん。これはドラム缶だよ? これで紅茶なんか飲めるわけないじゃん」

「勿論皮肉だとも。……最近勘がいいと自負しているんだが、これはまさか……」

「うん! 週末の慰安旅行に持ってくの! 丁度ドラム缶同盟がそろうからね!」

「ど、どらむかんどうめ……きゅう」

 

 一瞬復活しかけたナギサが即気絶する。そりゃそうもなる。

 因みにかの同盟はミヤコとキキョウ、ミカの3人による、先生の体温を感じながら絶対に同じ墓……じゃなくてドラム缶のお風呂に入ろうというものらしい。きっと頭がおかしいのだろうとセイアは思う。

 仮にも元生徒会長と治安維持組織の参謀と特殊部隊の隊長が揃ってこのザマである。何でドラム缶で他校同士の友情を育んでいるのか。意味が分からない。

 

「それを? 持っていくのかい? 立派な温泉旅館に?」

「露天風呂でやったら、きっと風情があると思う!」

「あってたまるか。品性も常識ないのかい?」

「セイアちゃんひっど〜い! でもキキョウちゃんのとか凄いよ? 檜で出来てるの!」

「それはドラム缶じゃなくて樽と言うんじゃないかな? 気をつけたまえ。同盟とか言っておきながら、きっと一人だけ裏切るやつだ。……ちょっと露天風呂には合うかもしれんが」

「せ、セイアさん!?」

「おっと、おはようナギサ。すまないね。ちょっとセクシーな冗談だったのさ」

 

 でも檜のいい感じな桶風呂は少し興味深いな。なんてことを本当は思っていたりしたが、それを言わないのはセイアなりの優しさだった。ナギサも流石に1日に3回気絶はしたくないだろうし。

 

「まぁ、ほどほどにしておいてあげなよ。先生はこれから大変だろうからね」

 

 見て見て〜☆ と、ミカにミヤコから送られてきた、Rabbit小隊のロゴ入り(わざわざ入れたのか……)ドラム缶の写真を見せられて泡を吹くナギサを横目に、セイアは作戦を練る。

 

 慰安旅行とやらは、先日のメモリアルロビー検証の後に発足した、何回かに分けて行くシャーレ所属生徒らと共に泊まりがけで遊びに行こう! という企画である。

「ダメ? でもチナツさんとは行かなかった?」という最高に便利な脅し……ではなく免罪符と共に成り立っており、コレの第一弾は厳正なくじ引きの末に順番が決められている。

 今回はティーパーティー、Rabbit小隊、百花繚乱紛争調停委員会の三団体だ。

 何故集団で行くんだい? と聞かれたら、個人で順番に行ったら絶対に抜け駆けする奴が出るから……。というあんまりな理由があるからだったりするのだが……それはいいだろう。

 セイアにとって重要なのは、いかにして先生を個室に連れ込んでやるかということ。

 なにせ火宮チナツとは宿泊しているんだ。まさか断るなんてツレないことはしないよね?

 流石にミカほど重い感情は持ち合わせてはいないけど……カオスを引き起こして引っ掻き回してやろうという魂胆である。勿論貰えるものは貰う主義。

 

 「ああ……、楽しみだね」 

 

 案外彼女はわんぱくなのである。

 尚、何か色々あって旅行先で先生とナギサが夫婦に間違われる事件が起こったりしたりして、ドラム缶同盟らの目からハイライトが消えたりもするのだが……それはもう少し未来の話である。

 

 他にもアビドスとゲヘナ風紀委員会(なぜよりにもよってそこを混ぜた!)がすっごいグイグイ来た果てに、またもやチナツに先生がラッキースケベをかまし、ヒナがシナシナになってアコが激怒したり。

 

 美食研究会と放課後スイーツ部がシスターフッドと給食部も巻き込んで、帰ってきた巨大パンちゃんと対決したら、マリーが色々と大変なことになったり(先生はあやうく前屈みになりかけた)

 

 ゲーム開発部と忍術研究部と補習授業部によるスーパー双六大会でハナコが水着になってコハルが大騒ぎ……(多少ミドリはしっとりしてたが、先生は癒された)

 

 C&Cと正義実現委員会が湯けむりバニー&水着メイドパラダイスを勃発させたり(流石の先生も頭をかかえた)。

 

 ミモリ攻める。キサキもルミもイロハまで何か攻め込んでくるといった具合に、先生包囲網は日に日に強力になっていくのだが……それはもう避けられぬ運命というべきだろう。

 

「諦めろ。先生。全ては、火宮チナツと混浴しちゃった先生が悪いのだよ!」

 

 とは、マコトの弁である。

 

 余談だが、慰安旅行での入浴は、先生は皆と一緒に温泉に浸かることになったのだとか。

 二人きりを希望した生徒は多かったが、流石に全員と二人きりはアカンでしょ。という声が先生から上がり、希望者だけは? いやダメ絶対。アイアムティーチャー! でもチナツさん……。ふぐぅ。というやりとりがあったりなかったりした結果、そんな形で落ち着いたのだという。

 ……因みにセミナー、連邦生徒会、レッドウィンター事務局と救護騎士団による慰安旅行の際に……深夜に二人きり混浴(故意にあらず)スリーアウト事件が起きてチナツチケットがグレードアップする事案まで出てきてしまったのだが……それはまた別のお話だ。

 

 取り敢えず。ユウカは太ももを震わせながらブチ切れたらしい。

 

 キヴォトスは今日も平和であるが、それはそれとして、また明日には新たな事件が起きては消えて……そうやって繋がっていくのだろう。

 

 

〜Fin〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ボーナストラック〜

 

『ナイショの話』

 

 

 

 某日。

 シャーレオフィスの13階にあるベランダのすみにて、先生はいつかと同じく一人、缶コーヒーを傾けていた。

 普段は誰も近づかない、死角の空間。

 何か先日はハナコに普通に見つかったりもしたし、多分セリナとかアスナみたいなタイプにはそのうち辿り着かれたりするかもしれないが……。とにかくここが先生にとっては隠れ家にして酸いも甘いも噛み砕いて飲み干す……そんな秘密の中庭なのだ。

 だから、ここがそういう場所だと知っているのは……知ってしまった生徒の“二人目”であるハナコと、もう一人。

 

「……やぁ」

 

 現れた生徒に先生は微笑んだ。二人だけの当番の日にここで少しだけブレイクタイムを交わすのは、先生とその生徒の定番のようなものだった。

 特に取り決めた訳でもなく。甘い何かがあるわけでもない。ただ他愛のない話をしたり、ちょっとした哲学したりする時間。

 それをひっそりと楽しみにしているのは、誰にも明かさぬ先生だけの秘密だった。

 今日話すことは……エンジニア部が発表した、発明品の封印についてだった。

 

 

「え? メモリアルロビー? 別に私自身は使いたいとは……」

 

 そう言う先生に、生徒は何かを語りかける。逃げ道を防ぐように。ここでなら、誰にも言えぬ心情を吐露していいのだと。

 偶然とはいえ、先生の“秘密”と“弱音”を聞いたことのあるが故に。

 チラリと先生は背後や周りを確認する。本当はいけないことだ。こんな言葉を吐くのは先生が先生たるものを壊しかねないこと。

 だが……彼もまた人間だった。彼にとってはその生徒は……それこそ墓まで持っていくレベルの秘密ではあるが、特別だったから。

 

 

「……そうだね。嘘をついたよ。私は……機会さえあれば完全に私用で、あれを使ってみたかった。だってメモリアルロビーなら――私が失っている記憶も再生できるかもしれないからね」

 

  

 それは、その生徒と、なし崩し的に知ることになったシッテムの箱に宿るアロナとプラナしか知らぬ、先生の秘密だった。

 記憶がない者がメモリアルロビーを使用して、失われたものを取り戻すことは出来るのか?

 最後の最後まで、先生はそれを確かめることが出来なかった。

 

 

「ウタハ達は頼めばもう一度メモリアルロビーを作ってくれるかもしれない。でも、やっぱりそれは出来ない。生徒達が封印を決めたものを、先生である私が自分の都合で掘り起こすなんてことはやっちゃいけない」

 

 それでいいのか? 生徒はそんなニュアンスの言葉を投げかける。自分だったら耐えられない。きっとそれを手に入れるために騒動を起こすだろう。その誘惑には抗えないだろうと。

 すると先生は困ったように肩をすくめながら、胸ポケットにある大人のカードを無意識に指でなぞった。

 

「消えているのは、キヴォトスに来る前の記憶の一部なんだ。だから……気にはなるけど、それだけだよ。私は何よりも、“先生”でいたいんだ。だから――」

 

 偽りなき本心を述べながら、先生はまるで自分のことのように悲壮な表情を浮かべている生徒の頭を撫でる。

 あっ、ヤバい。これ下手したらセクハラにならない? とやった本人がやった直後に内心で冷や汗を流したが、当の生徒が嫌がるどころか目を閉じて身を委ねているのでそのまま実行した。

 役得とも言う。先生でいたいと言ってるそばからこのザマだよ。そう自嘲しながらも、今はその矛盾も心地よい。

 なんやかんやで先生はやっぱりダメな大人だった。

 

 

「そんな顔しないで。大丈夫。……忘れていても、きっと心の奥ではちゃんと生きているから。それは存在しないという意味にはならないなんて――痛い痛い痛い! ちょ、待っ――! 痛い!」

 

 途端にギュギュギュ〜と、先生の二の腕が強めにつねられた。思いもよらぬ肉体言語的な抗議に、今日という日に思いを馳せる。

 

 平凡な日でかまわない。今日がいつもより、幸せな一日でありますようにと願いながら。

 もっとも、幸せについては既に言うまでもないのかもしれないけれど。

 もう知りません。と、むくれてご機嫌斜めになった生徒にお気に入りのカエルチョコレートを献上しながら、先生はもう少しだけこの秘密の逢瀬を楽しむことにしたのだった。

 




ここまで読んでくださりありがとうございました。
前話からかなり間が空き申し訳ありません。
最後のボーナストラックは作中で示唆されていた先生の秘密的な部分に触れるもの。です。
作者的にこの子。というのは決めていますが、一区切りなここまででは明確に名前は出さない形にしました(わりとヒントやら匂わせはいくつか出したつもりではあります)
ブルーアーカイブ自体がいくつもの世界線の存在が示唆されていますので、ここのお相手もきっと世界によって変わるものなんだと思いますので、ここはお好きな生徒さんで補完していただいてもかまいません。明確に名前を出すのは番外編にするつもりです。

さいごに多角的次回予告と初めて使うアンケート機能を使わせていただきます。宜しければ今後も楽しんでいただけたら幸いです



①『こちらRabbit1。問題しかありません。どうぞ』

「というわけで、昨今先生に迫る生徒さんが多すぎるので、手っ取り早く既成事じ……コホン。ぴょんぴょんする作戦を考えましょう。宜しくお願いします」
「バーカ」
「アッハッハ! バカがいる〜」
「えっと。その……ミヤコちゃん、ちょっとバカかな。って」

シャーレにて先生に迫る……あるいは羨ましいことにいい雰囲気な生徒のエピソードをプンスコ怒りながら語るミヤコと、それを呆れながらご飯の付け合わせとして楽しむRabbit小隊の三人による日常ストーリー。
もうこれ、私がゴールしてもいいですよね? んな訳あるか。までがお約束。
膝に乗っかる座敷わらしみたいな子。ツッコミどころ満載な(主に服装)シスターさん。同じ兎でも種族値(スタイル)が違いすぎる件。なんやかんやで実家みたいな太もも。実家通り越して嫁にしたいナンバーワンなゲヘナ生。など。

 

②『【撮れ高】シャーレの先生密着取材を実況する【大量】』
 

「というわけで、数日程、密着取材を宜しくお願いします!」
「えっと……うん。まぁいいんだけど。そんなに面白いのは撮れないと思うよ?」
「メモリアルロビー事件だけで撮れ高ありまくりだった方が何を言いますか! むしろどうして私達は今までこの企画を実行しなかったのか……!」

朝からシャーレに張り込み、先生に密着取材を申し込んだクロノススクール報道部の二人。今、謎に包まれたシャーレの実態が明らかに……! ところで、1日目の当番はチナツさんですか! 偶然ですね〜(棒) そんな生放送をとあるスレが実況する。色んな意味で阿鼻叫喚(またか)な掲示板形式のお話。



③『NO SIGNALを追って』

「懺悔いたします。私は……罪を犯してしまいました。取り敢えず反省も込めてたった今、水着になりました」
「(何故!? どうしてですか!?)」
「ですが、これだけでは足りません。それ程までに“私達”の罪は重い。嗚呼……私達は……先生を凌辱してしまいました。強化されたメモリアルロビーを用いて、先生に無断で。彼の秘密の場所を……暴いてしまったのです」

歌住サクラコに緊張が走る。
浦和ハナコがシスターフッドの礼拝堂にやってきたこと……ではない。彼女が水着になったこと……は未だに理解は出来ないが、もう何かコレは日常だ。
先生の秘密を暴いてしまった。そう言った時、ハナコの声色が普段とはあまりにかけ離れた不安に満ちたものだったから。
これは、誰にも語れない真実と罪の物語。


④『五ツ星料理人簒奪事件』

「……I want you to die」

 光を灯さぬ瞳のまま、彼女は探究者の在り方も、食べるか死ぬかの理念も捨てて、ただのテロリストに成り下がった。

それは、シャーレ黎明期に起きた事件の一つ。
連邦生徒会長の失踪により生じたキヴォトスの混乱は悪しき企みを企てる者達にとっての福音だった。始まりは池の大掃除。水を全部引っこ抜いたシャーレのメンバーが発見したのは……四肢をもがれ、完全に沈黙したロボット市民の残骸だった。


※補足
基本アンケートに挙げた4つ全部と他にもいくつかは書く予定ではあります。あくまでどれが気になるか知りたかった&優先して書く順位を決める為だったりします。

読むとしたらどれが一番気になりますか?(内容はエピローグあとがき参照)

  • こちらRabbit1、問題しかありません
  • シャーレの先生1日密着取材を実況する
  • NOSIGNALを追って
  • 五ツ星料理人簒奪事件
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