ゲヘナへの道〜先生の熱愛疑惑騒動〜   作:星組

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多分1話じゃ収まらないので章にしようかと思います
連邦生徒会長関連、他本編で出た先生の秘密やらに触れる物語です。
だいぶ趣味やら自己解釈やら色々入ってます。本編とも雰囲気はかけ離れてるかもしれません。あしからず。
それでもよいという方だけこの先へはお進みください。
プロローグなので短めです


NOSIGNALを追って
浦和ハナコの告白


 某日、早朝。

 歌住サクラコは目眩を覚えながらも、現実を受け入れようと必死になっていた。

 誰もいない静穏に満ちた礼拝堂で朝のお祈りをしてから、他のシスターフッドのメンバーを笑顔で迎える。それがサクラコにとっての日常だった。

 だが、今日はいつもと少しだけ毛色が違う一日の始まりと相成った。そこには先客が……浦和ハナコがいたのである。

 

 勿論、これだけならば何の問題も無かった。ハナコがお祈りに来てくれたのは純粋に喜ばしいことであるし、ちょっとしたガールズトークに興じるのも女学生らしくていいではないか。サクラコはそう思い、ウキウキしながら朝の挨拶をしようとして……絶句した。

 

 横顔を絵画に描いたらさぞ素晴らしいものになるだろうと想像できる程に、それは完璧な所作のお祈りだった。

 彼女が身に纏うのが、男物のYシャツ一枚だけでなかったなら(誰かの返してぇ〜という情けない声が何故か聞こえた気がした)

 

「ハ、ハナコさん!?」

「あら、こんにちは♡ サクラコさん」

「はい。こんにちは。――ではなく! ハナコさん、その格好は一体……!?」

「……?」

「いえ! そんな不思議そうに首を傾げられても! 傾げたいのは寧ろ私ですから!」

 

 だってYシャツ一枚だ。スカートなんて当然穿いてない。なんかよく見たら派手目な赤い下着? 水着? が透けて見えてまでいる。

 彼氏の部屋で同棲中♡という状況ならばまだギリギリ。かろうじて。どうにか納得出来たかもしれないが、ここは礼拝堂である。

 礼拝堂である(重要なので二回)

 勿論、ハナコには以前水着でやってきたという前科……もとい実績があったので今更と言えば今更なのだが、この場にいるのは根が超真面目なサクラコなので、そうそう流せる問題ではなかった。

 

「何か間違っていましたでしょうか?」

「Yシャツ一枚でお外に出るのは……些かはしたなく……」

「でも、今日は裸や何故か皆さんが慌ててしまう水着ではなく、ちゃんと一枚上に着ていますよ? ワンピースを着ているのと変わらない……そう思いませんか?」

「うっ……」

 

 そう言われたらそうかも知れません。なんて一瞬思いかけて、サクラコは慌てて首を横に振る。恐ろしいことにこれが浦和ハナコである。

 理詰めで常識をひっくり返す。その気になればトリニティを半日で転覆させられる女の子。という先生の評価は誇張ではないのである。

 ただ……――。

 

「それに……気に入ってるんです。コレ」

「…………そうでしたか。ならまぁ、仕方ありませんね」

 

 同時に、ただ青春を楽しみたい普通の女の子でもある。それが、先生からサクラコが聞いている彼女の印象だった。

 何処か安心するように、リラックスした表情で袖を通したYシャツに浸るハナコをしばらく見つめてから、サクラコは肩を竦めつつ優しく微笑んだ。

 それは正しく、ちょっとわんぱくな後輩を呆れながらも受け入れる先輩の姿であった。

 ……Yシャツは盗品な上に、それはサクラコの敬愛する先生のものという、わんぱくでは済まない所業の産物だったりもするのだが、残念ながらここで真実は明かされなかった。

 

 

「何か、ありましたか?」

「……!」

 

 今度はハナコが目を見開く番だった。それを見たサクラコは自分の推測が間違っていなかったことを察して少しだけ安堵する。

 

「……この時間に、ここに来れば、サクラコさんと二人きりになれると思いまして」

「そうですね。皆様が来られるまで……四十分程は猶予があるかと」

「……理由は、聞かないのですか?」

「友人が会って、お話に花を咲かす。それにいちいち理由はつけないでしょう? 二人きりになりたいのは……内緒話であれば何の不思議もありません」

「……ありがとうございます。サクラコさん」

 

 ハナコはそう言ってYシャツのボタンに手をかける。

 サクラコはそれを阻止するのに全力をあげた。

 

「止めないでくださいサクラコさん! これは懺悔です! なので取り敢えず水着に……!」

「なる必要は! 一欠片も! ないでしょう!」

「そんな……!」

「どうしてそこでここ一番の哀しげな表情になるのですか! いちいちふざけなくてもちゃんと聴きますから!」

「……ウフフ♡」

 

 不思議な取っ組み合いを挟んでから二人は礼拝堂にある長椅子に腰掛ける。

 しばしの沈黙。やがてハナコは……ここにきて初めて、弱々しいため息をついた。

 

「私は……いえ、“私達”は罪を犯してしまいました」

 

 動揺はない。聡明で優秀であるが、ハナコも一人の女の子で、サクラコにとって大切な後輩だ。

 故にサクラコは己の心に従い、彼女なりの方法で迷える子に歩み寄った。

 

「回心を呼び掛けておられる神の声に心を開いてください。――神の慈しみを信頼して、あなたの罪を告白してください」

 

 略式ながら体裁を整えて、サクラコは今一度心から祈りを捧げた。

 どうかこの子が抱える何かが、少しでも軽くなりますよう……。

 

 

「私は、先生のYシャツを借りたまま返してません。このYシャツがそうです」

「…………」

 

 少しでも、軽く……。

 

 

「そればかりか、先生のセーフハウスを特定し、あえて雨の日を選んで濡れた身体で突撃し、そのままお風呂を借りました」

「…………」

 

 す、すこしでも……。

 

 

「挙げ句、ちょっとびっくりしていただこうと思い、私に譲ってくださったベッドを出て、ソファーベッドで休む先生の元へ突撃――。流石に軽く怒られて、おでこを指で優しく弾かれました」

「一体何をやっているのですか貴女は!」

「余談ですが、ベッドから微かですがミネさんと同じ匂いがしました」

「ミネ団長ズルいです!」

「調度品も一部可愛らしいものがあり、アレも明らかにミネさんのチョイス……」

「ズルすぎます! 私だって先生に選んで差し上げたか……っ、ではなくっ!」

「まぁ軽いものはこれくらいにして……」

「待ってください! 軽い!? これが!?」

「深夜にミラクル5000に使われてる牛乳とバニラエッセンスを使ったソフトクリームを食べてしまいましたが……些末な罪です」

「……そ、それの入手経路については後程詳しく……!」

 

 ダメだこの後輩、早く何とかしなくては……。ついでにミネ団長も。

 サクラコはもうこの時点で嫌な予感がしていたのだ。これがワンクッションならば、本題は一体どれほどの……

 

 

「先日、ある事件が起きました。私は偶然……いいえ、告白します。何らかの事件が起きることを期待して、そこへ行きました」

 

 サクラコの目が細まった。

 意図的に。何かを察してという事実には驚かない。

 トリニティのティーパーティーが一翼、桐藤ナギサのセーフハウス全てとその不規則な運用を把握していたという分かりやすいな前例がハナコにはあるのだ。

 トリニティの全てに通じてるとは、すなわちその周りに関わる存在についてもある程度は掌握しているということに他ならない。

 

「メモリアルロビーの破棄が正式に発表されたと同じタイミングで連邦生徒会の七神リン首席行政官が珍しく休暇を取った。“だから”私もミレニアムに足を伸ばしたのです。そしてそこで……」

 

 ハナコは言葉を切り、ちょっとだけ躊躇いながら口を開いた。

 

 

「エンジニア部が……どうせ破棄されるなら最後に思う存分やろうと。予算無視ではっちゃけた結果……前回以上に改良が重ねられた、メモリアルロビーMK2が誕生したことを知りました」

「な、なんてことをされているのですか! あの御三方は!」

「因みに途中から深夜テンションも入り、改良の概要すら偶然が混じり、もはや言語化やテキスト化も叶わない……まさにブラックボックスなモンスターマシンになったと……」

「ど、どうしてぇ……」

 

 もはや突っ込みようがない惨状に、へにゃへにゃ顔になりながらサクラコは必死に平静を保とうとする。

 ハナコ曰く、七神リンはメモリアルロビーを破棄する前に使用許可を求めに行ったのだろう。そう当たりをつけていたらしい。

 だからこそ、策略を抱えたままリンの行く先に現れたのだという。

 万事ハナコの思惑通りだったのだ。……何かすんごい怪物が現れるまでは。

 

 

「怪物……ですか」

「はい。アレはそう言って差し支えないものです。前回のメモリアルロビーが可愛らしく見えてくるくらいに。故に私達はそれを破壊しました。ですが……その前に、その恐ろしさに触れることになったのです。ああ……私達は……」

 

 

 ハナコはYシャツの袖を握りしめながら俯いている。その表情が今はサクラコからは見えないが、声が震えているのは間違いなかった。

 

「先生がずっと隠していた秘密を。そして……きっと彼が誰にも知られないようにしていた想いや弱み。痛みを……彼が知らぬ間に暴いてしまったのです」

 

 

 

 ※

 

 

 きっかけは、先生が出したNO SIGNALだった。

 それが好奇心に火をつけて。最終的に地獄の業火となり……かの事件を生み出した。

 

 題して「秘匿戦〜Laplace's Demon〜」

 

 ミレニアムタワー内の会議室で勃発し、ごく一部の生徒らによって秘密裏に処理された、改良版メモリアルロビーの暴走事件である。

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