キヴォトスにて起きる騒動には、結構な確率でシャーレの十三人の誰かが関わっている。
これは、先生がこのキヴォトスにやってきてから、よく巷で囁かれていた通説である。今はほとんど、シャーレの十三人から完全にシャーレになりつつあるが、それは大した問題ではない。
ただ、事件が起きてそれにシャーレが関わっていると、あの十三人は何気ない日常の中に身を隠しつつ、もしもの事態に備えるのだという。
普段わりと仲間割れしたり、出し抜きあったりしているくせに、そういった部分では妙な連帯感を発揮しているのである。
故に今回もまた誰かが異変に対応し、いずれ先生の元にたどり着くだろう。
最初に先生を確保した時から、月雪ミヤコはそんな予感はしていた。
そもそも、この騒動が始まってから一番はじめに先生を捕捉していたのが音瀬コタマという事実が既に宜しくなかった。
彼女と更にその場には早瀬ユウカがいる以上、シャーレ古参の十三人には間違いなく情報共有が行われている筈(騒動の主役がメンバーにいる辺りがらしいといえばらしいが)
そして、今のような状況になった時、この十三人は先生にどのようなアクションを起こすだろうか。
答えは、混沌。カオスである。
たとえば単純に先生に身の危険が迫っていると感じて守りに来る者。
スズミやセリナとハナエがそれに該当するだろう。「仕方ありませんね」と駆けつけたり、補給品やチェーンソーを構える姿が目に見えるようだ。また、本来ならチナツもこのポジションにいるのだろうが、今回はそれどころではないと思われる。
たとえば、「先生何やってるんですか!」「説明を求めます」と怒り、迫る者。これはユウカ、コタマだろうか。一応守りたい気持ちはあるだろうが、今回ばかりは追いかける。だって羨ましいから! ……気持ちはわかる。超わかる。
一方で純粋に騒動を楽しむ者もいる。こちらは取り敢えず、先生が困る……もとい面白い反応をするよう行動する傾向がある。アカリ、ジュンコ、イズミの三人。
こんな困った面がある上に隙あらば先生と楽しい時間を過ごそうともする。油断ならない連中だ。
更には中立。そもそも騒動に気づかない(忙しかったり、お昼寝してたり、ぼーっとしてたり)あるいは状況に応じて柔軟に動いたり、静観する者。ハスミやツバキ。チセ辺り。
特に百鬼夜行の二人は本当に行動に予測がつかない上に神出鬼没。ある意味では一番厄介かもしれない。
そして最後に。もっとも読めず、ミヤコがもっとも警戒する相手。
黒舘ハルナ。
それぞれの対応をどれもやりうる生徒だ。
先生との付き合いも長く(羨ましい)
SNSでも先生とのデートやお食事を匂わせ(凄く羨ましい)
先の騒動ではメモリアルロビーの思い出でよく出てきたり、声も入っていたので、先生からの印象も強め(ズルい!)
戦闘力も十三人の中で上位に食い込む(自分だって負けるつもりはないが)
何より……先生への好意を隠そうともしない(絶許)
……チナツも大概だが、この女も何か強くないか? ちょっと顔が良くて見るからにスタイルもいい、仕草や声が上品なだけなのにっ!
……なんということか。ミヤコは内心で愕然とする。コイツ、欠点がないではないか。しいていうならテロリストだというくらいだ。
だが、それもキヴォトスじゃちょっと過激なアクセサリーみたいなもの。
そんな女が……今、先生と自分の時間に割って入ってきていた。
「……盗聴器の類は、全て外した筈です」
「普通の生徒でしたら、気づかない代物なのだと、コタマさんが嘆いておられましたわ。流石ですわね。でも……こう見えて私……インフルエンサーとしての顔も持っておりましてよ」
「…………なるほど」
今の先生の行方などはSNSなどで追跡されている可能性が高い。それすらも振り切れるよう細心の注意ははらったが……それでも限界はある。せめてあと一人、Rabbit小隊のメンバーがいてくれたら(協力してくれるかはさておき)
「……尾行や周囲の目を警戒したことが、裏目に出ましたか。偽装に完璧を求めすぎて、先生と同行する人物を絞るきっかけになってしまい、そのまま潜伏しそうな場所もバレたと」
「はい。最後に先生の反応が消えた位置。わずかな目撃証言。周辺監視カメラのハッキン……っと、こちらは口止めされていましたわね。ともかく、一番近くに来ていた私がこうして現場に急行させていただきましたの」
「……先生」
「うん、コタマは後でお説教だね。……ミヤコもどいてくれたら嬉しいかなぁ……なんて」
「どいたら、一緒のドラム缶に入ってくれますか?」
「……お、お墓だったらプロポーズだったね」
「なるほど。ではお墓にしましょう。あるいはお墓がドラム缶でもかまいません」
「いやお墓がドラム缶は流石に嫌だよ!?」
ミヤコは再び激怒した。ダメだコイツ、この状況下でおちゃらけやがった。早くなんとかしないと。
やはりちょっと痛い目もとい、年頃の女の子を弄ぶ罪を数えてもらうべきでは? そんなことを思いながらハルナの方を観察すると、案の定彼女も目を細めながら、先生に抗議の眼差しを送っていた。
「時に先生。何故ミヤコさんに押し倒されていたのでしょうか? 一応私、先生の安全のため馳せ参じましたので……確認させていただいても?」
「……単純なようで、複雑な事情があったんだよ。ただ、もう解決して……そうだね。これからミヤコと夕食にしようかと思っていたところなんだ」
この人、流れるように誤魔化したなぁとミヤコはいっそ感動を覚えた。
だが、ミヤコにお風呂を迫られていたと言った日には、ハルナとの衝突は避けられず。かといって嘘をついたらついたでややこしいし、ミヤコも共犯になってしまう。
先生は誰かを語る時に他の者を下げることは絶対にしない。だからここを丸く収めるべく、彼はにこやかにミヤコのあやまちを水に流した。それが……申し訳なくて、嬉しかった。
「ごめんなさい、先生。今、どきますね? 重かったですよね?」
「まさか。羽のように軽かったとも」
「……フフッ、先生ったら……もう」
「………………」
それはそれとして、さりげない褒め言葉を引き出すことをミヤコは忘れない。目の前には匂わせ常連女がいるのだ。これくらいは許されるだろう。なんなら、エネルギー弾っぽい銃弾が掠ったところ、ちょっとだけ痛かったりもしたのだ。
ハルナのジト目を涼しく流しながら、ミヤコは先生を解放する。
さっき夕食と言ったのをウサギの耳は逃してない。寂しいと言っていたことを、彼は覚えてくれていたのだ。
つまり今夜はちゃんと二人きり。
ウキウキ月雪。そんな心持ちでミヤコは一緒に何を食べようか模索しかけて……。
「よかったら、ハルナもどうだい?」
ミヤコは激怒した(三回目)こんちくしょう、そうでした。貴方はそんな人でしたよね!
誘わない訳がないのである。この状況でハルナだけさよなら〜だなんて、この男がやる筈もない。
でも、なんというか、もうちょっと乙女心に手心をくわえて欲しかった。
「あら、よろしいのですか?」
そして、この女が遠慮もとい、先生とミヤコの二人きりを許す筈もなかった。
断りなさい。お願いします断ってください。というミヤコの視線を嘲笑うかのごとく。というか上品に口元隠しながら、彼女は本当に笑っていた。
おのれ許さんぞ黒舘ハルナ。あとついでに陸八魔アル。
そんなことを思いながらミヤコはため息をつきつつ、もうヤケクソとばかりに先生と手を繋ぐ。
「構いませんよ。シャーレ周辺が危ないので、先生は今日ここに泊まるんです。ハルナさんも夕食だけでも召し上がっていってください」
暗に飯食べたら帰れと伝えつつ、ミヤコはしっかり指を絡める恋人繋ぎ。卑しい兎は侵入者にも容赦はなかった。
「まぁ! では今宵はキャンプ飯と参りましょうか。ふふっ、愛する殿方と二人きりも理想ですが……志を同じくする方も交えて食卓を囲むのも、私嫌いではありませんわよ?」
この女、ハルナは「お泊りキャンプ、楽しみですわね?」と、さり気なく帰らないことを主張しつつ、ミヤコとは反対側に回って先生の腕を取り……いっそ清々しくなる程に彼の腕を自身の胸に押し付けながら、耳元で囁いた。
「では先生、ちょっとお時間いただきますわ」
繰り返しになるが、黒舘ハルナは顔も身体も声も最高なエロテロリスト(先生がそんな目で見てそうというミヤコの予想)である。
そんなことするものだから、先生の鼻の下が一瞬だけ伸びたのを―それでも大人の意地で隠す辺りは流石である―ミヤコは見逃さなかった。
ついでに愛する殿方と先生を公言した挙げ句、こちらをスパイスのごとくな扱いである。
ふざけるな、最初に時間貰うのは私の筈だったのに!
むむむぅ……! とミヤコは唸りながら頬を膨らませる。
よろしい。ならば戦争だ。
「……美味しい海老と新鮮なブロッコリーやキノコがあります。アヒージョなど、いかがでしょうか?」
取り敢えず胃袋掴もう。ミヤコはそう決意するのであった。
本日の子ウサギ公園での食卓withハルナ
『海老とブロッコリーのアヒージョ』
見た目はコラボカフェのメニュー参照。尚、贅沢に食料庫から材料を引っ張り出してしまった為、後にちゃんと補充したらしい。
『キャロットジュース』
見た目はコラボカフェのメニュー参照人参ベースにジューサーで作成。
『焼きたてのパン』
ハルナ推薦のお店から。
尚、隣でハルナが先生と食べさせ合いっこをしようとしたせいで、ミヤコはまた激怒する模様