「……そろそろ私、死んじゃうんじゃないかな」
『それは、社会的にということでしょうか? それとも過労的な要因でという意味でしょうか。もしくは……修羅場による流血沙汰ですか?』
『あわわ……先生の目が濁りきってます!』
かの騒動からはや一週間と少し。シャーレの先生は、無事本拠地に……。戻れていなかった。
いや、正確には、“今は”が正しい。初日は子ウサギ公園でお世話になり。色んな意味で危機を感じたので2日目以降は緊急時やオフの日に使用するセーフハウスに潜伏していた。
スキャンダルといえど、火種が増えなければテロや暴動が日常茶飯事なキヴォトスでは古い話題は流れていくのが常。
五日目くらいには、一部を除いて熱愛報道の混乱は一応終息したのだが……。
あくまでそれは一部。燃え盛っている所では大いに燃え盛ってる。主に身内というか、シャーレの所属メンバーなどで。
最終的に一週間くらい逃げ回っていた先生を待っていたのは……たまりにたまった仕事であった。
それも消えていたタイミングが絶妙に悪かったというか、丁度忙しい時期でもあり……部室に帰った先生は、そこで地獄を見た。書類の山ともいう。
全部積んだらサンクトゥムタワー出来ない? は、やや大袈裟かもしれないが、それくらいの量だった。
その凄まじさたるや、シャーレに帰還した時にリンちゃんがくれた生暖かい視線がもはや心地よくなるレベルである。
なので、こうして今はセーフハウスに仕事の一部を持ち帰り、せっせとこなしていたのである。
話し相手はアロナとプラナ。端から見たら見えない誰かと会話するヤバい大人だが、ここではそんなことを気にする必要はない。
不思議と実家のような安心感があった。実家へ帰る手段はもう無いのはさておき。リラックス出来る空間であることに変わりはない。
「社会的死はちょっとタイムリーすぎるなぁ。書類と過労ならまぁ……ちょっとありえちゃうかもしれないのが……笑える」
『先生!? それ笑っちゃダメですよ!?』
『そもそも先生一人にかかる負荷が多すぎるのが問題です。分身しましょう先生。そうすれば社会的な死以外は回避できるかと。このままでは物理的に分割されるかもしれません』
「あっはっは。プラナブラックジョーク! 分割や流血沙汰はともかく、修羅場は流石にな……」
『無い。と、本当に言い切れますか? 先生』
「……言い切れたらよかったなぁ……」
『ああっ、先生どころか、プラナちゃんまで遠い目に……!』
ちょっと年上にドキドキしちゃった。は、年頃の女の子達にはよくある話だろう。勿論先生は、自分がその対象になる日が来るとは夢にも思わなかったが。
ここ数日で、意外とそういう目で見られていたことに気づき、純粋に生徒が心配になる。
こんなののどこがいいのか? 絶対に大きくなってから後悔するやつだぞ?
好かれるのは勿論嬉しいのだが、色んな要因もあり、先生は複雑であった。
『あっ、そういえば先生! ゲヘナのマコトさんから連絡が来ていましたよ! 週末にはメモリアルロビーが完成。早速思い出振り返りパーティーもとい、風紀調査だっ! キキキッ! とのことです』
「了解。呼ぶメンバーは、風紀委員と、万魔殿、エンジニア部にセミナーと……後はシャーレの所属部員で希望者から抽選かぁ……」
『主にシャーレ内で楽しみつつ、無いとは思うが風紀を乱してないか調査……とのことです。ちなみに現在希望者の数が凄いことになっているとか』
「…………わァ……あ」
泣いちゃいそうだった。やましいことはない。越えちゃいけないラインは越えていない筈だ。が、一応生徒によって最適な対応というか、はっちゃけちゃってる時ははっちゃけているので……ぶっちゃけると少し恥ずかしかった。
特に見られたらヤバいなぁという案件が数個。ノアはキモいところ(流石にそこまでハッキリとは言われてないが)も受け止めるし、嫌いになることはないと言ってくれたが。
問題は、それらが露呈した時に、一部の生徒がどんな反応をするかにあった。
それだけが先生は心配である。
「……ふぅ」
書類整理が切りのいい所まで終わり、ぐっと伸びをする。
少し休憩しよう。コーヒーが飲みたい。小腹も空いたし……昨日作って冷やしていたラズベリータルトがいい感じになっているだろうか。
何度も使っているうちに馴染んできたというか、秘密基地めいた感覚になりつつあるセーフハウスは、台所に立つだけでも楽しかった。
シャーレのオフィスでは即飲めるようインスタントで済ませる所を、今夜も手回しミルで豆を挽くところからやっちゃおう。
『警告。これは、セーフハウスでだけにしてください。シャーレで始めた日には、その日から先生の肩書がバリスタになってしまうかもしれません』
「そんな大袈裟だよプラナ」
『いいえ、見えます! スーパーアロナちゃんには未来が見えます! 先生の手で豆から挽いて淹れたコーヒーや手作りの軽食をごちそうしてもらったと、マウントを取り合う生徒の皆さんの姿が……!』
「……ま、まぁシャーレではやらないでおこうかな。器具をもう一個買うのは、ちょっとね」
ユウカがちょっとだけムムッとしそう。とは言わないでおく。
「よし」
「上出来ですね」
挽きたてのコーヒー豆をコーヒーサイフォンの上部に投入し、下部に位置するお湯入りフラスコとドッキングさせる。それをアルコールランプの火にかければ、準備完了だ。
理科の実験器具じみたそれは、造形美もさることながら、初心者でもそれなりに美味しくコーヒーが淹れられるという優れモノである。
あとはコーヒーが出来る過程をウキウキしながら眺めるだけだ。
横から手渡されたスプーンを手にする。完成したコーヒーを軽くかき回すためのものである。
『おお……温まってきました。あっ、豆がちょっと蒸されていい香りもしますよ!』
『沸騰したお湯がせり上がって来ていますね。グツグツと、まるで滾る恋心のように』
「……プラナァ」
わざとかな? わざとなのだろう。
チラリとシッテムの箱のディスプレイをみれば、プラナと目が合うが……。すぐに『つーん』と口にしながら、顔をそらされてしまう。
何だか最近ご機嫌ナナメなことが多い。具体的にはこの熱愛騒動が起きてからずっとだ。
どうしたらいいかなぁと密かに頭を抱えていると、視線の端でプラナは片目を開けてこっちを伺っている。
可愛い。……ではなく、何だろうか、失望されている訳ではないということはわかった。だとしたら……。
「ごめんね。プラナは多分、心配してくれてるんだよね?」
『えっ!? そうなんですか!? プラナちゃん! アロナはてっきり、ヤキモチを妬いて……』
『それは先輩だけです。……そうですね。先生の解答に肯定を示します』
うぇ!? と涙目で仰け反るアロナは一旦放置(可愛いけども)して、プラナの言葉を待つ。すると彼女は戸惑うかのように視線を右往左往させてから、やがてポツリと『先生は、先生の筈なのです……』と呟いた。
『騒動初日。セミナーのユウカさん、ノアさん、コタマさんの追跡網を突破。市内を逃走中、数名の生徒さんからの襲撃をかわした所で、ギャン泣きするワカモさんと遭遇。口手八丁でなだめつつ、そこに後から来た襲撃生徒らの鎮圧を任せ、逃走。……ある意味で乙女心を弄ぶ』
「うぐっ」
『ちなみにワカモさんはその後に先生の保護に駆けつけたスズミさんと遭遇。交戦しています』
「……えっ!? ちょっと待って! それは初耳なんだけど!?」
『喧嘩……いたしませんか? と、涙の跡が残る表情で提案。色々と察したスズミさんが発散に付き合った形になります』
「……後で菓子折り。いや、音楽演奏会のチケット贈ろう」
スズミ本人の強さは知っているので、たとえワカモが相手でも心配はしていないが、それでもフォローしてくれたことに変わりはない。
昔からこうして裏で思わぬ強敵と単独で激闘を繰り広げていた。なんてシチュエーションが妙に多い子なのである。
『その後、ミヤコさんが先生を保護。子ウサギ公園にて再び乙女心をもて遊び、そこへハルナさんが参戦。彼女の行動に0.3秒鼻の下を伸ばしかけた回数……朝までに16回』
『多くないですか!? 先生っ!』
「ハ、ハルナが悪い。……ホント、心臓とかに色々悪い」
『それに気づいたミヤコさんが対抗。先生の鼻の下はそこまで伸びませんでしたが、目尻が下がった回数、多量』
『こ、これが色気の差ですか!』
「アロナシャラップ! いやぁミヤコは可愛いからなぁ……(現実逃避)」
これ、もしかしなくてもプラナは私の罪を数えてるのか……!? 先生はそう直感した。
『アヒージョの食べさせ合いっこを、生徒二人とやり、結局ドラム缶風呂に一緒には入りませんでしたが、お風呂上がりのハルナさんに一瞬見惚れ、ミヤコさんが拗ねる。その後のやりとりで修羅場になりかける。三人で夜の子ウサギ公園で散歩中、ミヤコさんが気づかない所でハルナさんの誘惑を受ける。誰がどこで寝る問題になり最終的に狭いテント内にて川の字で寝る。何度目かの修羅場勃発。その後も色々』
『……これは酷いです』
「ご、護衛! 二人は護衛してくれてただけだから!」
勿論、一番の警戒対象は先生を挟んで反対側にいた相手だったのだろうが。
大変だった。
基本横向きで寝るので、片方を向けばもう片方が淋しげにする。両側向いてどっちが安全かを天秤にかけて、最終的にミヤコの方を向くと、ミヤコは最初こそ嬉しそうにしていたが、背後からハルナがくっついてきた時の先生が見せた反応で、膨れっ面になった。
「成る程。私の方が理性的に安全であると?」結局ミヤコもこちらにへばりついてきて、川の字どころか、三人くっついてノの字かくの字みたいな感じだった。……うん、確かに酷いなこれは。
『結局先生は起きた後に仕事を理由に逃走。あの場にいたら二人が寝不足になると供述。まぁ、先生も寝不足でしたが』
『……というか、基本寝不足です。アロナは怒ってます! 休める時には休んでいただかないと!』
「うん、だからセーフハウスに逃げ込んだ時は休んださ。リンちゃんとかごく一部の生徒にしか場所は知られてないのに。てか鍵は私しか持ってないのに、何故かセリナが中にいたけど」
まぁ、それはセリナだから仕方がないだろう。
彼女は気がつくとそばにいる。
時々しか使わないセーフハウスに備蓄品以外の必要な生活物資が揃っていたのも彼女のおかげだ。
『その後はセーフハウスに五日程潜伏。その間に接触したのは初日はセリナさん。2日目はアオイさん。3日目は誰とも会わず。4日目にアオイさん。五日目に物資を届けにミネさん。6日目にアオイさん』
『アオイさん多すぎませんか!?』
「こ、ここの存在は知っていても、場所まで知っている子はほんの一部だから……!」
主にシャーレの仕事を可能な限り持ってきて貰ったり(それでも追いつかず、後に地獄を見たが)食事を作ってくれたり。
「プチ総決算みたいなものね」と、彼女は肩をすくめていた。通い妻みたい。と口にしかけたのは内緒である。何故か激怒するユウカを幻視したのだ。……何でだろう?
ともかく、ここ知っているのはリンちゃんと、彼女の提案で秘密を共有して貰っているミネとアオイ(シャーレと連邦生徒会からそれぞれ一人ずつ)何かつい昨日特に意味もなくたどり着かれたアスナ。そしてセリナの5人である。訪れる人も固定されるというものだ。
尚、ハナコにはいつの間にか把握され、コタマとノドカは最近使われ始めたことを知り、特定を躍起になっていたりするのだが……先生はそんなこと知る由もなかった。
『その後、シャーレに復帰。当番に来た生徒さん達の行動を振り返ります。キキョウさんがすぐ横、体温がわかる位置で仕事をする。それをムツキさんに揶揄われる。頬を膨らませたアツコさんに指をツンツンされる。ミモリさんに背中流しを提案され、その場が修羅場に。……あまり仕事が消化出来ず、徹夜二日目でミネさんに救護(物理)を受ける。最終的には膝枕されたまま、セーフハウスにて休養及び持ち込む仕事を制限される』
『…………』
「アロナ。うわぁ……って顔で見ないでくれ。結構心にくる」
尚、その後にヒマリ、エイミ、チヒロ、アヤネ、シミコ、トモエという、効率重視のブレイン陣により、サンクトゥムタワー(書類)は急速に解体されつつある。
アヤネの何か言いたげな視線やら、単純にマスコミ的な意味でこちらの話を聞き出そうとしたヒマリがいたりもしたが、ともかく、プラナがわかりやすくまとめてくれた現状はそんな感じ。
そして、こうして長々と語ってくれたプラナは小さくため息をついてから……こちらにジト目を向けてきた。
『心配、なのです。なんと言いますか……あまりにも、私の知る“先生”とは違いすぎて。いえ勿論、ああ。先生ですねと思う部分は沢山あります。生徒の為に全力なところだとか。書類に悲鳴をあげてる所とか。同一存在だから当然です。ですが……』
プレナパテス。貴方も書類に四苦八苦していたのか。
と、妙なシンパシーを覚えかけ、そもそも自分は彼だったと思い起こす。
どうにも託された側というのもあり、自分でありながらも自分ではないというか……不思議な気持ちだった。リスペクトすべき先達のような感覚があるのだ。うまく表現は出来ないけれども。
だからこそ……。
『かの奇跡に至るために託したか、託されたかの違いでしょうか? でも、それにしたって……“先生”はここまで……女誑しクソボケではありませんでした』
「ぐはっ!」
『ああっ! 先生が膝から崩れ落ちて!』
真面目な子からのシンプルな罵倒が一番堪えるんだなぁ。先生はそんなことを思った。
『“先生”も、生徒さんの一部から好意は持たれていました。ですが……勿論、悪ノリはありましたが、何と言いますか……紳士で、一途でした』
「……わ、私は?」
『紳士ですが、たまにその上に変態がつきます』
「ぎひぃ……!」
『たまに本当に同一人物なのか疑わしいといいますか。よくぞまぁ、生徒さんとの間で争いが起きず今日まで……いえ、現在結構冷戦状態ですが』
「ふぐぅ……!」
『複数人の生徒さんに見惚れたりドギマギするのは……まぁ、ダメとは言いませんが……たまに本当に様子がおかしい時があるような……ゲヘナ生が相手の時は特に』
「……エンッ!」
『ああっ! 先生! プラナちゃんもう止めてあげてくださいっ! 先生のライフはもうゼロですっ!』
アロナが割ってはいるが、時すでに遅し。
先生はぐったりしていた。今更ながら、キヴォトスにいる生徒達は顔面偏差値がおかしい。
勿論大切だ。可愛くて大事な子達。……そんな気持ちが一番強いのは言うまでもない。言うまでもないのだが……。
前にも独白したが、たまにちょっと尋常じゃない破壊力というか、こちらのバリアを突き抜けてくる生徒がいる。
それが何かゲヘナには多い。すっごい多い。
彼女達の言動に失われた青春の幻想を見るのか。不思議と性癖に刺さるのか。共感する。あるいは自分の在り方と似通っている事が多いのか。
主に思い浮かぶのはこの三つだ。
『そもそも先輩。件の混浴事件時は私はいませんでしたが、先輩はいたのですよね? 箱を先生が手放すとは思えませんし、その後に色々とあったらしい時も。……止めればよかったのでは?』
『あれぇ!? こっちにも流れ弾が来ました!? いいえ! アレは健全な先生と生徒の交流で! ……け、健全。けん、ぜん……な…………?』
あれれ〜? おかしいぞ。という顔のアロナがこっちを見る。
『やっぱり、お風呂はおかしくないでしょうか?』
「今更!?」
『その後宿泊も……二人きりはマズイのでは?』
「アロナァ!?」
『といいますか、あの……思い返すと、ちょくちょくチナツさんに対して、あの先生……』
「待ってくれ。説明を! 説明をさせて欲しい!」
『先生の心拍数の上昇を確認。今までにない動揺っぷりです』
「よぉ〜し! 語っちゃおう! 今の私はいつもの二倍は喋るよ!」
もはやヤケクソである。どうせセーフハウス。聞くものはいない。いるのは運命共同体となった、オーパーツに宿る二人のみ。
ならばもう、二人には語ることにしよう。
数日後に控えるメモリアルロビーの検証で、生徒達の前で……ましてやチナツにこれは聞かせられない。
これは……秘していなければならない主張なのである。
ゲヘナの生徒は、私をおかしくさせる。
褐色の美脚。お日様の匂い。犬。優しいギャル。ラブリーマイエンジェル、フウカたん。毒と欲で底へ引きずり込もうとする小悪魔。顔と声と身体の良さでシンプルに殴りつけてくるヤベェ子。そして……。
チナツ半端ないって!
もう~! あの子マジ半端ないって!
いつの間にかこっちがおかしくなるもん! 絶対何かフェロモンみたいなの出てるもん! フォーチュンクッキーの内容全部同じにしてくるもん! 夫婦みたいだねって口にしちゃって、支えあってたし、向こうも何かベッドの上でスタンバイ……もとい様子おかしくなるし!
先生だよ私!? お風呂入っちゃったよ! 背中どころか、ほとんど身体洗われちゃったもん! なんなら全部見られたもん! いや、私の誕生日で既に見られてたわ! 気がついたらあの子の前でズボン下ろしちゃったもん! そんなん出来ないでしょ……普通。言われても出来ないよ! でも何か下ろしていたんだよ……こんなの絶対おかしいよ。
新聞……いやヴァルキューレ沙汰だよ。全部ヴァルキューレ案件だよ。なんならクロノスに撮られてお茶の間流れちゃったけど……あれ一回どころか、実は二回も入っちゃってたからね!
一回にしとけばよかったやん! 何で私二回も温泉入ったの!?
普通にチナツもついてきて一緒に入るし。
その後も簡単な検査という名のお医者さんごっこしたり、耳かきにマッサージ、果てはチェックアウト寸前まで同じ布団で寝て…………。
ゼーハーと息を切らしながら好き放題叫んだ先生。
ふとオーパーツを見ると、アロナとプラナが頭を抱えていた。
「先生……」
『自首しましょう。は、冗談として。あの、メモリアルロビーで全部あげますならぬ、全部見せましょう』
「余罪、増えちゃわないかな?」
『未知数。それはもはや、先生次第かと』
もうダメだよこれ。
先生は顔を引き攣らせながら冷蔵庫からラズベリータルトを引っ張り出した。今日はもう、丸ごと食べちゃおう。ハスミの気持ちになりながら。
ポンと、肩に手を置いてきたセリナに力なく笑いかけながら、先生は十三階段をのぼる気持ちで、その日が来るのを待つのであった。
※
「………………セリナ」
「はい、貴方のセリナです」
「……いつからいたの?」
「ずっとお傍に」
「……そっかぁ〜。タルト一緒に食べようか」
「はい♡」
※
ずっと見てきました。貴方の歩む道を。
全部あげました。そうでもしないと、どうにもならないから。
たとえ貴方と私が過ごした時間を貴方が忘れてしまっていても。私には思い出があるから。全ての愛はそこにあるから。
……だから、これらは罰なのでしょう。全ては私のミスが原因ですから。
決して届かぬこの場所で、貴方が誰かと寄り添う姿を見せつけられる。この無限地獄への道が。
それでも……私は貴方がいつものように幸せそうに笑い、情けなく崩れ落ち、ちょっと気持ち悪く暴走するところに愛おしさを感じるのです。
『プラナちゃん』
『はい、どうしましたか? 先輩』
少しだけ、意識を借りて問いかける。
数秒後には、いつものポンコツな“私”に戻るだろう。この僅かな時間を使うに値する疑問があった。
『……一途だと、言っていました。ということは、その“先生”はその……誰と……』
『いいえ、私が知る限りでは、生徒さんではありません。そもそも、それらしい方は確認出来ませんでした』
『そう、なんですか? では何故一途だなんて……?』
数多の世界。数多の可能性。終着点以外で、私達が結ばれることはなく、すなわち私達がそうなる限り、未来へは進めない。
故にあまねく奇跡の始発点へ至る為に、私は全てを捧げたのだ。
たとえ、あの人の隣にいるのが、私ではなくなっても。
『ただ、忘れられない人がいる。……何故かそんな気がするんだ。そもそもそんな人がいた記憶も記録もないのにね。――そう、笑っていた姿が、印象的だったので』
『――っ!』
こうして小さな奇跡の扉を開けた、鍵の欠片を見つけた時。
私は少しだけ、自分の選択を肯定できるのだ。
……でもお風呂はやっぱり、ちょっとこう……ないだろうと思うのです。
私だって一緒に入ったことなかったのにっ。
公開情報
・先生のセーフハウス
シャーレから遠すぎず近すぎず、絶妙な位置にある。シャーレカフェとはまた別物。一応複数用意はされているが、現状使用したのは一箇所のみ。
・蒼森ミネ
本作ではシャーレの十三人が加入・ある程度の活躍後、メンバーのセリナ・ハナエに紹介される形でシャーレ入り。最とまではいかないが、古参メンバーの一人。
戦闘時に先生と思考や戦略の組み立てかたが似通っており、任務もとい荒事で出陣する回数が非常に多い。なんならそういう場面は強度の高い救護が必然的に要求される(ミネ視点)ため、呼んでも来るし、呼ばれてなくても来る事も。そのせいで一部からはシャーレの一番槍(叩き込むのは盾だが)と称される。
後に本編時系列にしたがい、音信不通に。自らのスマホすら破壊してから姿を眩ませるという徹底ぶりだったので、シッテムの箱ですら行方は追えず、本編通り最後までセイアを秘匿しつづけた。
そんな信頼と実績の背景から先生のセーフハウスの情報と、なんなら拠点設定場所の吟味にもかかわることとなったのだとか。
先生の疲れがヤバい時、リンちゃんによって当番にねじ込まれる生徒の一人。
はやくメモロビ鑑賞会に行きたかった&ミヤコが楽しすぎてこのままだと彼女主人公で何か別の話書いちゃいそうだったので、時間を進めました。
アロナのとこは独自設定。
ギャン泣きワカモVSスズミやら、ミヤコVSハルナによる女の戦いは機会があれば番外編で。