2人の時間 -4月-   作:嵐山田

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4月編です。


2人の時間 -4月-

 4月。新しい学年がやって来た。

 

 美鶴先輩たちのいない新しい学校生活。

 

「結城君、ほら!行くよ!」

 

 彼と新学期を迎えられる喜びがいまだに胸を打ち震わせる。

 

 私は逸る感情に任せて彼の手を引き、始業式の学校へと向かった。

 

 校門の前に着くと、たくさんの生徒で賑わっていた。

 

「はあ、人に酔いそうだ……」

 

 彼が呟く。

 

 最近は出会った頃に比べて、喋る様にはなってきているけど、やっぱりにぎやかなところは嫌いみたいだ。

 

「人酔いしてるとこ悪いけど、ちょっと部活のとこ行ってくるから、先に行ってて」

 

「ええぇ……」

 

 今年で最高学年、3年目になる弓道部も今年の夏には引退だ。

 

 そんなことを思いながら部活の皆に一通り声をかけて教室に向かうことにする。

 

 昇降口まで戻って来るも、まだ賑わいは収まらずなかなか校舎に入れそうになかった。

 

 そんな私の目によく目にする不愉快な光景が映った。

 

「あのぉ……先輩?ですよね?お名前教えてもらってもいいですか?」

 

 私の彼氏がナンパされていた。

 

「結城です。」

 

「結城先輩って言うんですね。私今年入学した篠崎って言います。わからないことだらけなのでいろいろ教えてください!」

 

「はあ……」

 

 彼はいつもいつもこうだ。

 

 ちょっと目を離すとすぐに知らない女の子に捉まって……。

 

 ここでイライラしてても仕方ない……。

 

 私がそう思ったとき……。

 

「ごめん、今は彼女を待ってるから。また今度で」

 

「え……」

 

「え……」

 

 ……いや、なんで私が驚いてるのよ。

 

 でも、彼がちゃんと拒否してくれている状況はすごく珍しい気がした。

 

 普段の彼なら、取り合わず飄々としていそうなものだから。

 

 なんだろう……すごく……嬉しい。

 

 私ちゃんと、彼女なんだ。

 

 いや、もちろん当たり前なんだけど……彼を彼氏だと思うことはよくあっても、自分が彼女だって、こう自覚させられるシチュエーションは中々ない。

 

「ごめんね、そういうことだから!」

 

「あ、ゆかり」

 

「さぁ、いこ!」

 

 心なしか足取りも軽い気がする。

 

「ゆかり、何かいいことあった?」

 

 実際に足取りが弾んでいたようだ。

 

「いや~なんでもないよ!」

 

 今年はいい学生生活になりそうだ。

 

 

 

 ――――――――――

 

 帰り道。

 

 まだ始業式の帰りだって言うのに、桜の見ごろは終わりそうな散り方をしている。

 

 

 横を歩く結城君が少し立ち止まって、近い枝に手を伸ばす。

 

 

 花を愛でる趣味でもあるのだろうか。

 

「桜、好きなの?」

 

「いや、なんていうか……わからないけどすごく大切な気がするんだ」

 

「ふーん?じゃあ、全部散っちゃう前にお花見でもする?」

 

「花見か……」

 

「もう終わりの時期だし、人もそんなに多くないんじゃないかな?」

 

「確かに」

 

「よし!じゃあ決まり!次の休みの日にお弁当持って来よ!」

 

 

 

「晴れてよかったね」

 

「そうだね」

 

「それで、なんで桜が大切なの?……ってこれ聞いてよかった?」

 

「別に隠しているわけじゃないから気にしないで。でもなんで……か」

 

 何だか不思議な表情だ。

 

 まるでふとしたうちに消えてしまいそうな、そんな表情だった。

 

「やっぱいい。言わないで」

 

 無意識に体が動いていた。

 

 彼の頭を抱え込むように抱きしめる。

 

「ゆかり?どうしたの?」

 

 自分でもわからない。

 

 でも、捕まえておかないと零れ落ちてしまいそうな、そんな気がした。

 

 

 

 彼の質問に答えずにいると、私の方にも腕が回される。

 

「……落ち着いた?」

 

「……うん、急にごめん。」

 

「何かあった?不安そうな顔をしてる」

 

 その問いに私は腕を広げて応じる。

 

「……これでいい?」

 

 私の要求通り今度は彼から抱擁をしてくれた。

 

 この温度をもう絶対に離さない。

 

 

「うん、ありがと」

 

 

 それからは普通にお弁当を食べながら、散り際の桜を楽しんだ。

 

 

 

 一通り食べ終わると空に暗い影が落ちてきていた。

 

 

 

「はぁ、一雨来そうだね。帰ろっか」

 

「そうだね。帰ろうか」

 

 片付けをしていると、ぽつぽつと早速に雨が降り始めた。

 

「あぁもう!片付くまで待ってよ」

 

 思わず雨に悪態をついた。

 

 

 

 残りの片付けを手早く済ませ、一先ず屋根のある所へ移動する。

 

「あーあ、散っちゃうね。この雨じゃ」

 

「……そうだね」

 

「名残惜しいね」

 

「うん、でも散る前に花見ができてよかった」

 

「……来年も、さ。どこかでお花見しない?」

 

「!いいね、春の恒例にしようか」

 

「恒例……そうだね。これからずっとだね」

 

 彼は何気なくそう言ってくれたのだと思う。

 

 いや、もしかしたらさっきの私の様子を見て言ってくれたのかもしれない。

 

 でも、暗にこれから先もずっと一緒に居ると、そう言ってくれたことがすごくうれしい。

 

 

 

 いつの間にか雨で曇った空に再び太陽が顔を見せていた。

 

 

 

「……通り雨だったね」

 

「桜を散らすだけ散らして、いやな雨」

 

「まあ、もう帰るだけだし。それに来年もくればいいよ」

 

「そうだね。でも来年か~、このまま何事もなくいけば大学生なのかな?」

 

「ゆかりは進学予定?」

 

「う~ん……そうだね。とりあえず何かやりたいってことも見つからないし、進学かな」

 

「そっか」

 

「理は?何かやりたいことでもあるの?」

 

「僕もとくには……ないかな。だから進路も進学にするつもり」

 

「……そっか、じゃあ……その……」

 

「どうかした?」

 

「いや……えっと……。ううん、なんでもない」

 

「……そう?」

 

 彼は不思議そうな顔をしていた。

 

 でもさすがに言えなかった。

 

 ……同じ大学に行って一緒に住みたいなんて。

 

「さ、帰ろ!また降ってくるかもしれないし!」

 

 わかりやすかっただろうか。

 

 でも勢いでごまかすくらいしか、理との同棲生活を想像して茹で上がってしまった頭では考えられなかった。

 

 

 

 寮に変えると懐かしい人が顔を出していた。

 

「おかえり、ゆかり、結城」

 

「美鶴先輩っ!?どうしたんですか?」

 

「いや、大学は入学式の後始まるまでに少し間があるからな。近くに寄ったついでに顔を見に来たんだよ」

 

「そうなんですね。なんだかすごく久しぶりな気がします」

 

「そうだな。私も懐かしい気分だよ」

 

 久しぶりの再会に心が躍った。

 

 すると奥から風花の声が聞こえてくる。

 

「あっ、ゆかりちゃん、理君おかえりなさい。お花見はどうだった?」

 

「よかったけど、お弁当食べ終わったところで急に雨降ってきてさぁ」

 

 話しながら風花はティーポットと人数分のカップを持ってくる。

 

「ほう。二人は花見に行っていたのか」

 

「はい、最後にはさっきの雨で大分散っちゃってましたが……」

 

「そうか。仲が良いのはいいが、同じ寮だからとあまり羽目を外さないようにな」

 

 

 ……

 

「あはは、もちろん。分かってますって」

 

 チラッと彼に目を向ける。

 

 いつも通りのポーカーフェイス。

 

 何を考えているのか読めないがこういう時は羨ましかった。

 

 

 

 

「そういえば3人は進路のことは考えているか?」

 

 タイムリーな話題だ。

 

 紅茶を飲みながら談笑をしていると美鶴先輩が聞いてくる。

 

「私は進学予定です。工学系の学部で勉強しようかと……」

 

 風花が最初に答える。

 

「ふむ、山岸は工学部に進学予定か。確かによくあっていると思う。二人はどうだ?」

 

「ちょうどさっき帰り道に話していたんですよ。私たちも進学予定です」

 

「そうか、学部は何か志望はあるのか?」

 

「その辺はまだ……ですかね」

 

「僕は心理系の学部を目指そうかと思っています」

 

 驚いた。

 

 彼がここまではっきり宣言するのはとても珍しい。

 

 それより、さっきは特にやりたいことがないって言っていなかっただろうか。

 

「ほう。心理系か。確かに言われてみれば言い得て妙なものだな。前から考えていたのか?」

 

「いや、今思いつきました。でも心理、心の力について気になることがあったので」

 

「そうか。ゆかりも考えなくてはな?」

 

 少しからかい気味に私にそう言う美鶴先輩の姿は、去年のこの頃からは考えられないもので……。

 

 心理学……か。確かに面白そうかも。

 

「私も心理学勉強しようかな」

 

 誰にも聞かれないくらいの声量でそう呟いた。

 

 




続きもゆっくり書いていこうと思います。
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