(自称)海賊王にとり憑かれたんだけど 作:ポブコ
一発ネタです。
いや、ここワンピースの世界じゃん。
地面に落ちていた一枚の手配書──そこに載っていた見覚えのある写真を見て、私は前世の記憶を思い出した。写真に映っているのは手配書とは思えない様子で笑っている
ONEPIECEの主人公、モンキー・D・ルフィ。
しかも懸賞金が何か見た事ないくらいに跳ね上がっている。いや、懸賞金15億ベリーってどうゆうこと? ……は? え? 私がまだ見てた所賞金3000万ベリーだったはずなんだけど? 魚人族のアーロンをぶっ飛ばして
「おい! 麦わらの一味が『四皇』ビックマム海賊団の結婚式をぶち壊したって本当なのか!?」
「ああっ、信じられねぇが本当にそうらしい。しかも、結婚の主役はなんと麦わらの一味のメンバー『黒足』のサンジとビックマムの娘プリンとの政略結婚だったらしいぞ!」
──は?(宇宙猫)
◆◇◆◇
その町の開発区──言わゆる浮浪者の溜まり場で、私は記憶を取り戻した衝撃のまま空を見上げていた。
「意味ワカラン、意味ワカラン、意味ワカラン」
あまりにも突拍子もない異世界転生。もといこの世界が前世でハマって間もなかった漫画──ワンピースだったという事実。そして、その世界が私すら知らない展開を迎えているという新事実。
絶望した。
そして心の底から足がガグガクと震えまくった。
無理、ムリです。私詰みました。間違いなく数日後、どっかの道で野垂れ死んでいます。
だってさっきフラッシュバックで今世の身の上も思い出したけど、今の私──親なし金なし寝床なしの孤児少女(15歳)だよ?
ねぇ、この要素合わせて私がこの世界で生きていけると思う?
異世界転生テンプレの特殊能力とか、めちゃくちゃ強い悪魔の実とか、まあそんなのあれば話は変わりますよ?
でもね、そんなのないです(切実)
荒くれ者の海賊漂うこの世界でモブとして生きて行くのは過酷すぎるし……身寄りもなくて、原作知識が全く意味をなさい世界線なんて……ああっ、もうダメだ何も考えられない。
良くて奴隷堕ち、最悪餓死か、海賊に殺される未来。
ッゥプ………オロロロロ!!!!!(虹色)
ていうかルフィ……なんで15億も懸賞金掛けられてるの?
アーロン倒した時は懸賞金3000万ベリーだったよね? そこから計算したら50倍だよ50倍。上がるにしても上がり過ぎでしょ。もうちょっと1億とかせめて5億ベリーとか……ねぇ?
まぁ予測するならアーロンの時と同じように凶悪な犯罪者・手配書の人物をぶっ飛ばして名を揚げて、政府から目を付けられて懸賞金が上がった、こんな所だよね。
さっき一般人の人達が口にしていた『四皇』ビックマム海賊団の件も絶対ルフィの懸賞金に関係してるだろうし……それに、さ、サンジ君が、けけっ、結婚式を上げた事も(キャパオーバー)
ッゥプ………オロロロロ!!!!!(虹色)
ウン……この世界、マジで私が想像しているよりも物語の進行がヤバいかも。
『四皇』ビックマム海賊団……異世界漫画とかで言うなら四天王みたいな人達だよね? 私が漫画とアニメ見てた時は絶対出てこなかったキャラだし、『四皇』の単語すら見た事ない。恐らくまだ私が見てない先の話で出てきた人物……名前からしてなんかめちゃくちゃ強そうだし、そんな連中に喧嘩を売れるぐらいルフィ達も強くなってるって事は……ああっ、麦わらの一味のメンバー絶対増えているんだろうなァ(絶望)
まだ手配書とかは見てないけど、仲間が加わるストーリー全部すっ飛ばしてお顔拝見とかマジで、もうホント…………まぁでもルフィの事だし、政府に狙われてるヤツとか、改造が大好きなヤツとか、最早人間じゃない異形のヤツとか、そう言う人達を仲間にしてる可能性ありそうなんだよね。
そんでもってルフィの恩師『赤髪』のシャンクスが実は『四皇』の一人になっているとか……いや、これは流石に考えすぎかな?
グゥゥゥーー!
まあ、今更そんな事考えても今の私に原作をどうこうする事なんて出来ないし、今は我が身を……この空腹で死にそうになってる肉体をまずはどうにかしないと。
「……ん? 何このめちゃくちゃいい匂い?」
その瞬間、下町の方から美味しそうな匂いが漂ってきた。これは肉特有の脂身がのった焼けた匂いっ!?
「ジュルリ……一体何処からなんだろう」
私は匂いに釣られるように人通りが少ない入り組んだ裏路地へと進んだ。そのまま歩き続けること数分。☠︎マークを付けた小さな看板のお店を見つけた。どうやらここからお肉の匂いがするらしい。
えーと、お店の名前は
ん? あれ? ここって、もしかして……?
ルフィがアニメで牛乳飲んでいたあの酒場なのでは!!?
「5番目の『海の皇帝』モンキー・D・ルフィに……!」
「──マスター! ここってあの『麦わら』のルフィがやって来た酒場ですよね!!?」
「っどうわぁぁぁ!!? な、なんだいきなり!?! 誰なんだお前──っうわァ?!!」
──ガタンッ!!!
……あっ、ヤバい、どうしよう。
アニメの聖地に辿り着いた興奮のあまりいきなりお店の中に突撃したら、店主のおじいさんが驚いて椅子ごと倒れてしまった。テーブルにはお祝い事でもやっていたのかアニメで見たあのデッカイ骸骨とルフィの手配書、それに匂いの発生源とされる美味しそうな料理が置かれていた。
ジュルリ、美味しそう……いや、そうじゃなくて。
「……だ、大丈夫ですか?」
「痛っテテ! ──誰だテメェは! 失せな! ここはオメェみたいなボロガキが来るような場所じゃねェ!!!」
「ぼ、ボロガキ……」
お祝いの席を邪魔したのが悪かったのか相当カンカンのご様子だ。確かに今のは私が100%悪かったけどボロガキって……ボロい服を着ているからかな?
「全く、最近のガキは……これじゃあ偉大なる海の男の祝杯が台無しだ」
「! コホンっ──それってやっぱり、あの『麦わら』のルフィの事ですか?」
図星なのか私の言葉におじいさんはピクリと肩を震わせる。そして、初めて私に視線を合わせてくれた。うわぁ……本当にアニメと同じ紫色のニット帽被ってる。確か、漫画では登場しないアニオリのおじいさんだったよね?
「そう言えばオメェ、どうしてこの店にあのモンキー・D・ルフィが来たのを知っているんだ? おれは確かに麦わらの名前をよく出すが、店に来る客にその手の話をした覚えはねェぞ」
……あっ、マズイ。余計なこと言い過ぎたかも。
実はアニメを見て二人の出会いを知ったんですよ〜とか、そんな話絶対信じて貰えないに決まってる。
ど、どうしよう。一体なんて言い訳すれば……。
「あ、あのー、それはですね? ………………じ、実は私、あのモンキー・D・ルフィと知り合いなんですよ」
「なに? あのモンキー・D・ルフィと知り合いだと? バカを言うな!!! お前のようなボロガキの小娘があの偉大な海の男と知り合いな訳がないだろう!!!」
うん、普通そうですよね。
私バカなの……?
一体何を口走ってんの???(テンパり中)
「……ほ、本当ですってば! 現に私はルフィの過去を幾つか知っています!!! 話を聞いてもらえばルフィがどうして『海賊王』を目指しているのか話すことだって出来ます!!!」
「……なに? それは本当なのか?」
あっ、食い付いてくれた。
よし、このままそっちに話を持っていて流れをこちら側に──アッ、ヤバい、こんな時にっ……。
──バタンッ!!!
「!? いきなりどうした! 具合でも悪いのか!?」
「な、なんでも……」
「なに? よく聞こえん! もう一度大きな声で言ってみろ……!」
「なんでも……良いですから──ご飯食べさせて下さいっ……」
「ハァ……?(唖然)」
◇◆◇◆
「──という経緯が、ムシャシムャ、ありまして。『麦わら』のルフィは、ムシャシムャ、『海賊王』になろうと海に出た訳なんです」
「食うか喋るか1つにしろ」
私はルフィがどうして『海賊王』を目指すのかその理由を教える代わりに、ご飯という命綱を掴み取る事ができた 。おじいさんはルフィの事になると凄く熱中するのか、私の話を疑うことも無く真剣に耳を傾けてくれた。
まあ、本物の『海賊王』が訪れたこの酒場で『俺は海賊王になる!』って宣言したルフィが、今や世界中を騒がせる15億ベリーの海賊になってるなら絶対気になるもんね。もし私がおじいさんの立場なら絶対同じことしてるし。
「『赤髪』と『麦わら』……なるほど、それであの麦わら帽子がモンキー・D・ルフィに。……くくくっ、ワハハハっ!!! こりゃぁ良い! ロジャー! オメェは死んでもこんな老いぼれをあの頃のように昂らせてくれるのか!!!」
「!? ど、どうしたんですか急に? いきなり『海賊王』の名前なんか出して……?」
「何、嬢ちゃんが気にすることじゃねェ……それよりも嬢ちゃん! 今夜はオメェのお陰で祝杯の酒が更に上手くなりそうだ!!! お礼に、店にある料理あるだけ振舞ってやる! いや先ずは風呂に入ってなかったな! 服は用意してやるから風呂に入ってこい! 身体が汚れたままだと飯が不味くなるだろうからな!!! ワハハハっ!!!」
えぇっ……?(困惑)
本当にどうしたのこのおじいさん……?
ルフィとシャンクスの話聞いてそんなに嬉しいことあったの?
私ただ知ってる原作を少し話しただけなんだけど……。
「あ、ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えてお風呂借りますね」
「ああ! ご馳走を用意して待ってやる!!!」
「あっ、はい。……そう言えば何ですけどこのお店。やっぱり『ローグタウン』に海賊があまり訪れないから毎日こんな客足なんですか? 私以外まだ誰もお客さんが来てないからちょっと気になっちゃって……」
「…………」
「……あ、アレ?」
丸っきり分かるぐらい一気におじいさんの顔が不機嫌になった。いや、別に今のは煽りとかそう言うのじゃなくて純粋に……純粋によ? アニメで見てた時ルフィのお陰でこの店の閉店が長引いたって覚えてたから、今も店が不景気で私の訪問のせいで更に経営不振になったら一原作ファンとして流石に見過ごせなくなるから……ね?
「──逆だ」
「……えっ?」
「逆だ。寧ろ、この町には海賊達が以前よりも多く訪れるようになりやがった。まるであの24年前のように……」
そのままおじいさんは神妙な顔で話し続ける。
「この町に訪れる海賊達はここ数年、あの大海賊時代の始まりに迫る勢いで増えている。最近じゃこの町も昔のように活気が戻って、大勢の海賊達が
おじさんの憑き物が落ちたその力説に私は酷く驚いた。
あのお調子者で、マイペースで、周りの仲間を巻き込みながら無茶苦茶なことをやって、偶に何処か大人ぽくなって……仲間の為なら命を懸けて戦うあのルフィに。それだけの影響力を及ぼす力が宿っていたなんて正直信じられなかった。
確かにこの世界線のルフィは私が知っているルフィと全然違うし、懸賞金も50倍だし、絶対仲間のメンバーも増えているし、強さだって私が想像してる100倍はパワーアップしてる筈だ。
でも、それら全部含めても今の私はあのルフィが、それ程の影響力を及ぼせる人物だとは到底思えなかった。
それは何故か。
だって、私は今のルフィを本当に何も知らないからだ。
ただ話を聞いて、手配書を見て、懸賞金を見て、凄いだの、成長してるんだの、物語が進んでるんだの。それだけにしか目を向けないで肝心の中身には視線を向けなかったからだ。
……まあ、でも仕方ないよね。
私この世界に転生してきてまだ一日目なんだし。
最初はお腹が空き過ぎてヤバかったし、死にたくなかったし。
やる事しなきゃいけない事多すぎて、そんな事考えている暇なかったし。
てか、普通こんな状況になったらそれこそ無理ゲーの類だし。
でも、あのおじいさんの話を聞いて、不思議と今の私は知りたくなってしまった。
──私が知らない、この世界のモンキー・D・ルフィを。
「……でも、今の様子を見る感じだと客足が全然ないですよね? それはなんで……?」
「……ああそりゃそうだ! 何故なら最近になってあの
◆◇◆◇
「──
『ローグタウン』の中枢に位置する海軍派出所、その部屋の一室を埋め尽くすのは白い煙──その中で険しい顔を浮かべているのはトレードマークの葉巻を咥えながら一人ドミノ崩しを行っている白髪の壮年の男。
海軍本部『中将』〝
──ガッシャン!!!
「チッ、一体何隻の船がこの町に来やがる。やはりこれも『麦わら』の名が挙がった影響か……おれだけでも早く『ローグタウン』に戻ってきたのは正解だったな。今の状況はどうなっている?」
「ハッ! 現在、第1等部隊が港に、第2等部隊が商業区に。何方とも隠密状態のまま待機しており、他支部からの増援部隊も正午には到着するとの事です……!」
「残っているヤツを全員集めておけ。追い込み漁で、一斉にこの町に降りた海賊共を拿捕する。無線兵には常に通信を繋げていろと伝えろ、以上だ」
「ハッ!」
無駄のない迅速な指示を下すと、スモーカーは『正義』と掲げられている白コートを肩にかけ、最近様になっているサングラスをはめて蒸し暑い外へと出る。
数年前までは自身が駐在していた町でもあるせいか、その足取りは乱れず一直線に港へと向かっている。町の人々は数年ぶりのスモーカーの姿を目にしては驚き、少し声を掛けては手を振ったり、上層部から〝野犬〟と煙たがれている男とは思えない歓迎を受けている。
「相変わらずこの町は変わらねェな……」
『麦わら』のルフィを追い求め、新世界へと進出したスモーカー。それ以来久方ぶりに訪れたこの町に少なからず本人も悪い気分ではいなかった。
今回『ローグタウン』に単独で訪れたのも海軍本部直々の任務であり、本来ならばGL第5支部の部下を連れ訪れる筈だったが『特別な日に間に合わねェ』と部下を全員置いて来てしまっていた。
「あれからもう24年。今回ばかりは『麦わら』のような事が起こらないと祈るばかりだァ……」
葉巻の白い煙を漂わせながらスモーカーは蒸し暑い日差しの中を歩き続ける。かつて2年前、この日、この町で初めて海賊を逃したあの失態を思い返しながら。
◇◆◇◆
「──ムシャムシャ、ゴックン。……ご馳走様でした。おじいさん、ご飯ありがとうございました。お陰で本当に助かり──あっ、寝ちゃってる」
お風呂から上がって新品同然の服を着込んだ私は、おじいさんが作ってくれた料理を全部平らげてお礼を口にしようとした。けど、肝心のおじいさんがめちゃくちゃ気持ち良さそうに寝ていたのでそのまま放置して毛布を持ってきた。
「……それじゃあ、大変お邪魔しました」
私は机に突っ伏したおじいさんに毛布を被せてアニメの聖地、
正直言うともう数日だけ酒場に居候したかったけど、流石にこれ以上おじいさんのお世話になる訳には行かない。
だって、私はこのワンピースの世界に転生したのだ。
それをハッキリと受け入れたならば、私はこの世界に順応しなければ行けない。他人に甘えていたら絶対にこんな世界では生き残れないから。
モブとして生きるのにも、先ずは安定した生活水準を整えないと。その為には先ずはお金が必要だ。お金を手に入れる方法は漫画の世界だろうとコレが最善で確実。
──そう、バイトをする事だ……!
働かざる者食うべからずということわざがある通り、今の私は絶賛ニート中の一般孤児だ。
それならばキチンと働いてお賃金を貰えば、少なくともこの世界で普通の生活が送れるはず。
フゥーー、よし! やるぞ私……!!!
なんたって私、面接にはちょっと自信あるからね!
『えっ、自分の身元が分からない? それじゃあ、ウチではダメダメ!』
『前金が払えない? 他をあたりな!!!』
『身元が分からない? ああっ、ウチはそういうの気にしないから全然大丈夫。 えっ? どんな仕事かって? ちょっと白い粉を運んで貰う簡単なお仕事だよ』
そんな事を言っていた自分も居ました(現在)
……まさかの回ったお店全部に断られて、一部受け入れてくれた所も関わったら絶対マズイやつとか意味が分からない。
面接の印象が良くても履歴書の内容がダメなように、孤児である私をそう簡単に受け入れてくれるお店なんてそうそうないみたいだ。
……ワンピースの世界ちょっと舐めてかも。
でもなー、だとするとなー、本当にどうしよう。
うん、せっかくあの『ローグタウン』に居るんだし、ちょっと観光でもしよう。
漫画の世界に転生したならやっぱりコレだよ。そもそも今の私は少し焦り過ぎているんだ。ちょっと町の風景でも眺めて頭を冷やして、それから今後のことを考ればきっと何かいい案が思い浮かぶはずだ。うん、そうしよう。
よし、じゃあ観光となったらやっぱりルフィが行ったあの『処刑台』に行ってみたい。流石に登ったりはしないけど『海賊王』が死んだ場所を私もこの目で見てみたい。原作が始まった場所としても大変興味があるし。……となると誰かに道を聞かないといけないな。
うーんと。
よし、次に私の目の前を通過した人に聞いてみよう。
「──あのすいません。ちょっと道を聞きたいんです……がァっ!?!」
「……どうした? おれに道を聞きたいんじゃないのか?」
「そ、そうなんですが……」
う、嘘でしょ? この町で一体どうゆう確率でこの人に当たるって言うの?
あのルフィの天敵だったモクモクの実の能力者──海軍本部『
「用事は早くしてくれねェか。おれは今急いでいるんだ」
「あっ……ご、ごめんなさい!」
あれっ、よく見て見たら何かサングラス付けてる。イメチェンかな? って言うかほぼヤクザにしか見えないんだけど……(戦慄)
「あ、あのー、『処刑台』ってどの方向に行けば良いか教えて貰っても……」
「なに? 『処刑台』だと?」
……あ、アレ? 私、もしかして地雷踏んだ?
スモーカーさんの目付きがサングラス貫通するぐらい鋭利なものになったんですけど(ガクブル)
「なぜ『処刑台』に用がある」
「えっ、えーと、そのー、『海賊王』が死んだ場所を一回ぐらい見てみたく……ヒッ!?」
スモーカーさんの額に青筋が浮かび上がったのを見て、私は産まれたての子鹿のように足をガクガクと震わせまくった。
……あっ、私ここで終わるんだ(確信)
第二の人生がこんなに早く幕を閉じるなんて想像もつかなかったけど、原作キャラに殺られるなら悔いはないや。
さあ、どうぞスモーカーさん。せめて楽に終わらせて下さい(十の字)
「……何をやっている。煙の方角だ」
「えっ? ……私を、殺さないんですか?」
「何を言ってやがる。おれは快楽殺人鬼じゃねェぞ。行くならとっとと行け!」
「は、はい……! 本当に、ありがとうございました!!!」
私はお辞儀をして指してもらった方角へ全速力で走った。それはもうスモーカーさんから一秒でも速く遠ざかる為に。
助かったマジで助かった……!!!
ガチで今のはもうダメだと思った!!!
何なのあのスモーカーさん!
何であんなに私のこと睨んできたの!?
私はただの一般人なんだよ?!
心臓飛び出るかと思ったよマジで……!!!
「はあっ、はあっ、はあっ……! やっとっ、着いたっ……!」
恐怖のあまり全速力で走ったせいか酷く息が乱れる。だけどそのお陰でもう『処刑台』の広場へと辿り着いてしまった。流石に『ローグタウン』の観光名所でもあるせいか人の数が他の場所よりも数倍多い気がする。
「フゥ……、ようやく落ち着いた。ここまで来たなら一番目の前まで行ってみよう」
息が整ったのを確認して心機一転。私はまた人の波を乗り越えながら『処刑台』の目の前へと移動する。やっぱり原作ファンとして実物は真正面から見てみたい。
「うぬぬぬ……よっと! はあっ、はあっ、やっと着いた。──うわぁ、これが……!!!」
目の前に聳え立つ鉄骨で造設された『処刑台』。蒸し暑い日差しに照らされた中だったが、私は一原作ファンとしてその光景に胸を高鳴らしながら深く感動した。あの漫画とアニメでしか目を通さなかった光景、原作の始まりの舞台に自分が立っているという高揚感。ルフィの一件があって、もしかしたら修復が終わってないかと心配したけど杞憂だった。
「ここが『海賊王』の死んだ場所。そして、原作の始まりの場所……!」
転生して記憶を取り戻した時は本当に絶望したけど、こうやって原作の聖地に赴けるのは転生したお陰なんだなと、改めて転生の特権を実感した。
──カーン、──カーン、──カーン!!!
その時、正午を知らせる合図なのか『ローグタウン』全体に鐘の音が響き渡った。私は不思議にもその音色に聞き覚えがあったので、一体何の場面だったかなーと軽く頭を捻って思い出してみる。
『──なんだ、もう一年が経ちやがったのか』
その時だった。
私の頭上から中年の男性の声が響いたのは。
私は思わず反射的に『処刑台』をゆっくりと見上げる。
するとそこには──手枷を嵌めた大男が『処刑台』に座っていた。
えっ、誰あのおじさん……?(呆然)
『流石に数十年も動かねェと身体が訛っちまうなァ……さて、今年の新聞を持ってるヤツはいねェか?』
『処刑台』に居座る謎のおじさんはそんな事を言うと、辺りを見下ろすように鋭い三白眼を動かし始めた。
……え? あの『処刑台』って確か、乗っちゃダメな場所だよね?
なんで警備員の人、あのおじさんのこと注意しないの?
と言うか……
……は? え?(困惑)
「……す、すみません。なんか『処刑台』に変なおじさんが座ってるの見えませんか?」
「『処刑台』に? ……いやぁ、何も見えないんだけど? アンタの気のせいなんじゃない?」
近くに居た人に質問してみたけど変人のような眼差しで見られてしまった(解せぬ)
でも、あんなデカイおじさんが『処刑台』に座っているなら私以外の人が気づいていても絶対におかしくない。
……そう、
もしかして私、幽霊が視えるようになっちゃったの?
だとしたらなんで? 前世でも私、霊感とか全然これぽっちも無かったタイプだよね?
理由が本当に見つからないんだけど……。
『──おい、そこのお嬢ちゃん』
「ビクッ!!?」
突然、背後から幽霊のおじさんの声が響いてきた。
ヤバい、コレは絶対に反応したらダメなヤツだ……!
『お嬢ちゃん、もしかしておれの姿が視えるんじゃねェのか? さっき隣のヤツとおれの事について話していただろう? 悪いんだがおれは耳が良い方なんだ』
マジでさっきの行動全部知られるじゃん!
死んでいるのにどんだけ良いのその耳!?
このままごかましても絶対に意味無いだろうし……ああっ、もうどうにでもなれ……!
「いっ、一体何でしょうか……?」
『お嬢ちゃん、本当におれの事が視えるのか!? わっはっはっは!!! こりゃぁ良い! 人と会話するなんて一体何十年ぶりだろうなァ!!!』
幽霊のおじさんはカイゼル髭を揺らしながら白い歯を見せるように『処刑台』の上で笑いまくった。こっちからしたら何が面白いのか全く分からないのに。
「あ、あのぉ……」
『ああっ、悪い悪い! おれだけ勝手に盛り上がっちまったな!』
「い、いや別にそれは良いんですけど……まず、貴方は一体誰なんですか?」
『そういや、まだ名乗っていなかったな……!』
幽霊のおじさんはそう言うと手枷を嵌めたまま立ち上がり、ボサボサの黒髪と立派なカイゼル髭を揺らしながら──先程と同じように白い歯を見せながら不敵な笑みを浮かべ出した。
『おれの名は〝海賊王〟ゴール・D・ロジャー ! ここで出会ったのも何かの運命だ! お嬢ちゃん──オレを海に連れて行ってくれねェか!!!』
……は? このおじさん何言ってるの?
ゴール・
海賊王の名前は、ゴールド・ロジャーなんですけど……?
続きはないです。