魔法少女はおとなのつとめです。   作:多部キャノン

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第十八話 おとなのサービス

 

 ファンミーティング。

 

 その響きから想像出来る通り、ファンサービス企画の一種。

 画面を通してでしか関われない芸能人や歌手と、ファンが直接交流を行える貴重な場となり。

 ライブやコンサートでも味わえない、より"素"に近い憧れの相手と触れ合うことが出来る、そんなイベントだ。

 

 ファンミーティングでは限定のグッズなども数多く販売され。

 モノによってはグッズ購入することが握手券になっていたり、時間制限つきの食事同席権が付いていたり、一緒にゲームをするコーナーが設けられていたり……

 とにかく行われるイベント企画の種類は、枚挙にいとまがない。

 

 また、最近ではTVで見るようなアイドルだけではなく、専業ストリーマーなどが行うケースも増えている。

 当然、応援の熱が力に直結する魔法少女にとっても他人ごとでは無い……どころか、より強い意義を持った行事と言えるだろう。 

 

「自分が、か……む、むむ……」

 

 が、当然自分は元々ただの一般社会人男性でしかなかったわけで。

 本物のアイドルそのものな企画の、ましてや主役になるなんて現実に、戸惑いが無いはずもなく。

 思考を回しながら唸っていると、コンジキ様から助け舟が出た。

 

「まあまあ、初回からいきなり大規模なイベントをやったり、なんてことはせんせん。

参加者との質疑応答コーナーにお試しで握手会、他には物販……魔法少女ファンミなら、必殺技のモーションリクエストあたりも人気じゃな。

まあ、ぬしがいきなり歌って踊ってのアイドルライブをしよう、なんて考えているなら、大いに悩んだほうがいいじゃろうが……」

 

 助け舟かと思ったら、とんでもないハードルが設置されかけていることに気づき、ブンブンブンブンッと勢いよく首を振って否定する。

 当然、そんな経験もなければ心構えも出来ていない自分がやれるとは思わないし、やろうとすること自体おこがましいとすら感じる。

 

「そうじゃろうとも。だからまあ、固く感じる必要はない。

ちょっとした座談会の延長として、ぬしの自然なまま喋ったりポーズとったりを楽しめばそれでいい。

多少緊張もあろうが、そういう普段とはちょっぴり違う固さや頑張りも、全部含めてファンは楽しむもんなんじゃ」

 

「そういう、ものですか……まあ、確かに……」

 

 初回の雑談配信も随分固いことになっていたが、リスナーはむしろ緊張する姿こそを新鮮なものとして楽しんでいた気がする。

 完璧を求める立ち回るばかりが人を楽しませるものではない、というコンジキ様の励ましは、ともすれば潔癖になりがちな自分に染み渡った。

 

「ん…………? 第二回以降の開催も確約されてるのか……?」

 

 若干落ち着くことが出来た頭に、遅れて響いてきた『初回から』という言葉。

 ちゃっかりと次回の予定も組み込んできた抜け目なさに苦笑しながら息をつくと、具体的な話を進めることにした。

 

 

------------

 

 

「────うむ、こんなところかのう。

ほれ見てみぃ、白羽殿。公式前売りグッズの販売ページが出来たぞ」

 

 ファンミーティングの開催と、関連情報の告知が行われてしばらく経った後日。

 ピンピン、と軽やかに操作してページを飛ばすと、コンジキ様は自分にその画面を見せてきた。

 

「おお……本当に自分のグッズが……いや、魔法少女体ではあるのですが……なんというか、反応に困りますね……」

 

 アクリルスタンドに、キーホルダーに缶バッジに……と、『シラハエル』が様々なポーズで撮られているグッズが、画面に並ぶ。

 商品開発に関しては、魔法少女として活動を始めて軌道に乗り始めたら、早いうちに進めていく傾向があるらしい。

 特に自分の場合は早期から「絶対に必要になる」とコンジキ様に強く推され、まだまだ固い笑顔が張り付く第一弾グッズが生成されていた。

 

 

 余談だが、当時こういった魔法少女としての商品を売買することに抵抗が無いか、ということをちらっと心配されたことがある。

 自分が「魔法少女たちのために」魔法少女を始めたことを承知しているからこそのコンジキ様の心配だが、その辺りは自分も問題なく割り切れていた。

 

 ここで自分が仮に良い格好をしようとグッズの無償配布などをやったとしても、他の魔法少女からしたら迷惑でしか無いだろう。

 コンジキ様はもちろん、裏方スタッフへの見返りなどを考えても、ここで営利が絡むことに異を唱えるのは大人のやることではない。

 なにより、実際に身銭を切って手に入れるからこそ得られる喜び、というものは、自分にもよく覚えのあるものだ。

 

「さて、問題も無さそうじゃから予定通りこのあと、18時から販売を開始するぞ。

くふふ、楽しみじゃのう白羽殿」

「ぅ……ま、まあ……はい」

 

 さて、そんなわけで実際に作られたグッズが画面に並べられ、これから売られるわけだが。

 無事販売までいったとなると、それはそれで生まれる心配もある。

 

(これ……本当に売れるか……? バズったとはいえまだ魔法少女としては若輩もいいとこで……何より、元は男だぞ……?)

 

 魔法少女として配信上では人気でも、それは珍しさや場の雰囲気に流されてのものであり、実際にこういうグッズとしてまで欲しい人なんて居ない可能性もある。

 

 コンジキ様は楽しみだとある種楽観視しているが、もし全然見向きもされなかったら、どうだろうか。

 

 少なくとも、そうなったら自分は気まずい雰囲気になる……いや、分かった。

 多分自分は、ちゃんとショックを受ける。

 

 まだ魔法少女としての自分に順応しきった訳でもないのにどういう立場なんだ、と自分でも思わなくも無いが。

 これまで配信でかけてもらっていた言葉と、乖離するような結果になるのは、まあ……嫌だ。

 

(っ……あと、五分か……)

 

 そうこうしているうちに、不安が心の多くを占める販売開始時間が間近に迫ってきた。

 

 そわそわ、そわそわ。

 

 大事な商談前か、それ以上とも言える得体のしれない緊張に、少し身体が揺れる。

 どういう願掛けをしたのか、自分は気がつけば魔法少女シラハエルの姿に変身していた。

 

(落ち着け落ち着け、あまり期待しすぎず、いつも通りだ)

 

 ここ最近の悩みもあるとはいえ。

 妙に落ち着きのない精神状態になっているのをこの辺りで自覚し、戒めの言葉を心中で唱えた。

 

 心まで大人でなく、年頃の魔法少女になったわけでもあるまいに。

 

 そうだ、ダメで元々、大人として静かな気持ちで、平常心をもって販売時間を迎え────

 

「あ、売れた」

「早っ!?」

 

 18時となったとほぼ同時、コンジキ様があくまで軽く呟いた言葉に、自分の平常心は剥ぎ取られた。

 事前告知をしていたとはいえこんなに早く……

 ありがたいとともに驚きを隠せない自分と対照的に、コンジキ様はうんうんと分かっていたことのように頷く。

 

「わはは。ぬしに熱心なファンがいることは分かっておったからな。

見ろ、他の商品も────

ん? え、なにこれ怖っ。ちょ、白羽殿、見て」

 

 自然体で成功を喜ぶ姿にさすがだなあ、なんて思っていたら。

 急に真顔となると、こちらに手招きするコンジキ様。

 

 なんだなんだ、と画面を見てみると、そこにあったのはショップ管理者ページの画面。

 別にウイルスなどで表示がおかしくなったわけでもない、普通の購入履歴だ。

 

 ただ、その内訳は。

 

「え……ひ、一人でぜ、全商品一つずつ買ってる……? こんないきなり……?」

 

 この手のグッズは、大量生産される大企業の商品などとは違う、ファン人気ありきで作られた限定品だ。

 当然、値段もそれなりに割高……いや、はっきり高いと言っていいかもしれない。

 中にはお金に余裕があるファンが複数商品を買うことは想定される事態だが、それにしても開始と同時に迷いなく全購入する人がいるとは……

 と、自分はもちろんコンジキ様も驚いた様子だった。

 

「いやあ、ありがたいことじゃのう、なむなむ」

 

 相方がそう、手を合わせて拝んでいる間も、自分の想定を遥かに上回るペースで商品がはけていく様子に。

 この活動を始めて以来何度目になるかわからない、むずむずとした感覚が背中を撫でる。

 

 ありがたさやら少し感じる恥ずかしさやらに戸惑いながらも。

 ひとまず、ファンミーティング開催前にあった試練は、無事乗り越えられたのだった。

 

------------

 

 そうして、ある程度推移を見守ったあとその場は解散となり。

 一人になった今、人心地ついた自分は感慨とともに小さく呟く。

 

「しかし、全ての商品をあっという間に買っていった、ハンドルネーム『めぐるんるん』という方……一体何者なんだ」

 

 名前の印象だけだと一見女性っぽいが、今の世の中誰がどういう名前で活動しているかなど、分かったものではない。

 ただそれも、ファンミーティング当日になれば分かることのはずだ。

 ……当日来て名乗り出たりしてくれたら、だが。

 

「…………ふぅっ」

 

 今の時点からにわかに感じてきた緊張を吐き出すように、意識して息をつく。

 商品が無事売れたなら、次は本番のファンミーティングに備える必要がある。

 

 とはいえ、雑談配信をしたときもそうだったが。

 未知の領域に身を乗り出すこういう活動は、毎回慣れるまで時間を要しそうだ。

 

「やるとなったからには、当然期待に応えるようにするのが大人のつとめ……

こんな感じかな」

 

 そう呟くと、まだシラハエルの姿のままだった自分は、鏡の前で予行演習を始める。

 

「えっと……来てくれてありがとうございます、シラハエルですっ! 応援の声、いつも届いてます!」

 

 まず、最初の挨拶はこういう感じとして。

 これまでのコメントの感じから想定される返しとしては……こんなものか。

 

「……っはい、◯◯さんありがとうございます!

これからもしっかりつとめを果たします!

さすがです、しらなかったです! すごい、センスあると思います! そうなんですか!?

……最後のは違うか」

 

 ああでもないこうでもないと、自分の姿を映しながら、角度を変えポーズを変え様々なリアクションを見せてみる。

 

 そういえば、初めて配信をしたときに比べれば、少なくとも技術という面では随分こなれて来た……気がする。

 それが良いことか悪いことかは、わからないが。

 

 ……少しずつ、この自分が"こういうこと"をするということへの気恥ずかしさや抵抗感を、相手に喜ばれるというメリットが上回ってきた気がして、少し怖い。

 まさかとは思うがこのままいったら、男の姿である方が違和感を覚えるように……なんて脳裏によぎった瞬間、背筋に鳥肌が立ったことを自覚し、ブンっと首を振った。

 

「自分は……ノーマルだ。そのはずだ、問題ない」

 

 なんとか正気に戻すようにそう言い聞かせた自分は。

 とりあえず本番は先程の練習よりも、少し声を低くしたいつもの感じでしよう、と決めたのだった。

 来てくれる人が期待してくれているのも、普段の延長線上の姿のはずだ、と。

 

「来てくれる人、か……」

 

 ぽつり、と呟くと。

 改めて、無力を嘆くだけの何者でもなかった自分が、こんなことになっている現実を想う。

 

 普段配信でコメントしてくれている人はもちろん、最近は熱が怖くて見れていないが、『シラハエルスレ』住人の中にも参加者はいるだろう。

 彼らも、楽しみだ、と期待の声を上げてくれているのだろうか。

 

 こうして自分がしたいことが出来ているのは、コンジキ様たち周りの人はもちろん、応援してくれる人たちのおかげなのは変わらない。

 ならば、実際にやってみてどうなるかはまだ予測は出来ないが。

 来てくれた人はもちろん、来れなくてレポートや振り返り配信を待っているという人も。

 みんながみんな、楽しんでもらえたらいいな、と。

 

 素直に、そう思った。

 

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