魔法少女はおとなのつとめです。   作:多部キャノン

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第三十七話 おとなのめんせつ

 

 初めまして、魔法少女シラハエルと申します。本日はよろしくお願いいたします────

 

 魔法少女とのコラボコーチング配信、という形で相互互助の流れを作り出すことを目的とした企画、アカデミー。

 その最初の生徒候補となる眼の前の魔法少女は、面接官となった自分のこの挨拶に対しても、気後れすること無く口を開いた。

 

「ご丁寧にありがとうございます、ですわ。 おっ…………シラハエル様にコンジキ様ですね、いつもご活躍、応援いたしておりますわ!

改めまして、セレスティフローラと申します……本日は貴重なお時間をいただき、感謝しかございませんわっ!!」

 

(『おっ…………』なんと言おうとしたんじゃろうな白羽殿)

(考えたくありません…………)

 

 

 以前のフローヴェールとの初コラボであった“事件”以来、ミリアモールとの再会にしろエターナルシーズとの出会いにしろ、()()()()()()()()を見られることがひどく多くなった自分は。

 彼女が言いかけて口をつぐんだ言葉を深堀りする気にはとてもなれなかった。

 

(さて……実際に顔を合わせるのは初めてだが……)

 

 そう、気を取り直した自分の前で、放った言葉に負けず力強い立ち姿で佇むのは、事前資料通りの魔法少女の姿だ。

 まずどの角度からも目を引くのは、いわゆるドリル型に両サイドを結い上げられた艶やかなグレーの髪。

 完全なツインテールでなく、長い後ろ髪を残しながら横髪で作られたドリルは、サイズ感的には大人しいものだったがやはり特徴的と言えるだろう。

 そして頭頂部には、花の女神を取り入れた魔法少女名を象徴するような花冠が鎮座し、少女らしい可愛らしさと気品を周りに喧伝させていた。

 

 スラッとしながらも、これまで出会った魔法少女と比べると高めの身長と、大人っぽさを感じさせる体格は、白いドレスに白い長手袋……と、少し自分と似た雰囲気の衣装に包まれ。

 下は黒いスカート、グレーのタイツで覆った両足が、力強いながらも気高さを感じさせる独特の雰囲気で地を踏みしめている。

 

 そして何より、真っ直ぐこちらを見るオレンジ色の瞳。

 それは、花を重ねたような特徴ある神秘的な瞳孔で、目を合わせた全てに強い印象を刻みつけるに十分なものだった。

 

 ────華が、ある。

 

 名前と態度に違わない、彼女が醸し出すナニか。

 それは、紛れもなく彼女の魔法少女配信者としての一つの素質を指し示していた。

 

(…………だが、彼女は)

 

 ……ともかく、自分と同じモノを感じ取ったのだろうコンジキ様は、自分に一度小さく頷く。

 

「こちらこそ初めまして、じゃセレスティフローラ殿、コンジキじゃ。

合否のことなど気にせず自然体で……などと声をかけようとしたが、ぬしには不要そうじゃな。

……ところで、ぬしのマスコットの方は……?」

「ああ、申し訳ないですわ、それなら今、なんとか……どう、出れそう? ギリギリ?

……気張りましょう、わたくしも気張りますので」

 

 コンジキ様の問いかけに、不思議な独り言のような声掛けを一言二言したかと思うと。

 

「ふん、ぬぬぬぬっ……!」

 

 少女の気合の入ったうめき声をBGMにゆっくりと、ずももももっという感じで這い出るように肩に現れたのは、茶色のネズミのようなマスコットだった。

 セレスティフローラと違い、ひと目見てあまり快活にも強気にも見えない彼(?)は、その印象を裏切らず挨拶をする。

 

「あ、あ、お二人ともご挨拶が遅くなってすみません、すみません……僕はブラウネ、と申します、彼女のマスコットやってます……

ここに来る道中で魔力をたくさん使っていて、実体化が難しいので、基本的に中でお話聞かせてもらいますっ……」

 

 ぺこぺこ、と頭を下げる姿にこちらもコンジキ様とともにぺこり、と頭を下げながら挨拶を返す。

 そうこうしているうちに彼は、すぅーっと彼女の中に入るように消えていった……本当にぎりぎりだったようだ。

 

「はあ、はあ……そういう、わけでして……ここからも基本、わたくしが……はあ、げぇっほっ、一人でお話しさせってっ、いただき、ますわ……おえっ」

「お、おう……無理をさせてすまぬな……まま、一旦座ってゆっくり息をいれてくれい」

「こちらです、どうぞ」

 

 すでに息も絶え絶えとなっている様子を見て、ひとまず面接用の椅子に案内する自分たちに、少女は礼を言って歩を進め────

 

 ────ドガシャァンッ!!

 

 直後、その椅子を思いっきり蹴飛ばした音が部屋に鳴り響いた。

 

「うおわっ!?」

「やぶぇっ……! おほん、大変失礼いたしました、歩幅が合わず……げほっ、暴れたいわけでは、もちろんございませんので……!」

 

 そう言って改めて座り直し、恐縮しながらも照れ笑いを浮かべる彼女。

 厳粛な企業面接というわけでない、気楽な顔合わせと考えてほしいと伝えていた通りで、変に固くなられるよりよほど印象のいい愛嬌を少女は見せてくれているが。

 

「その……ぬしがここに来るまでに魔力を使ったというのは……もしかして、こんな感じで……」

「はぁ、ふぅ…………はい、ご推察の通りですわ。わたくしの変身体は、見ての通り子どもでも出来る動作精度すら終わっておりまして。

ここに来るまでにずっこけたりぶつけたりしては目立つ傷を治しての繰り返しで、マスコットブラウネの魔力ごとすっからかんになってしまっていますわ!」

「…………」

 

 一息ついたのか、再び元の自信満々という顔で自分の弱みを開示する少女。

 恐れを知らないのか、と思わず素のツッコみを入れてしまいそうな自分の心を見透かしたわけではないだろうが、少女はそのまま続けた。

 

「ですが、ここにお呼びいただいた時点で、わたくしが“こう”であることは当然ご存知……そうですわよねっ!

さあ、書類では計り切れない魅力をお伝えするためにっ! 面接をお願いいたしますわ~っ!!」

 

 そう、事前に送られていた資料と、彼女自身の配信を見たときからこちらに伝わっていた通り……

 初期のミリアモールのような魔力不足とも、フローヴェールのようなメンタル問題による不調とも全く違う、彼女の特徴。

 

 書類でも『現存する魔法少女最弱』を自ら豪語し、事実少なくとも戦闘面においてその通りなのだろう少女は。

 

 どこまでも不遜に、前向きに挑戦してきたのだった。

 

 

------------

 

 

「それでは初めに……そうじゃな、セレスティフローラ殿。まずはぬし自身のことを教えていただけるか?

どうして魔法少女になろうとしたのか、なぜ今回コーチングを希望してきたのか、などじゃ」

 

 コンジキ様がまずつとめて明るく、軽い口調で問いかけたのは、定番の質問の一つである志望動機だった。

 ある程度は事前書類でも記載されているが、やはり自身の口からしっかりと聞きたい、という気持ちは自分も同じだ。

 

「そちらに関しては、両方いっぺんにお答えできますわっ!

“なりたい自分になるため”……! わたくしはわたくしが憧れた人に近づくための、最も可能性が高い道を選んだつもりですわっ!」

「憧れた人、ですか……」

「なるほどのう」

 

 一切の淀み無く力強く答えた少女の様子に、これが取ってつけた面接用の受け答えで無いことは十分伝わった。

 

「憧れの相手に関しては……申し訳ございません、可能なら今は乙女の秘密とさせてくださいな。

ともかく、わたくしは今のド貧弱能無しミソッカス魔法少女を一刻も早く卒業し、強くあらないといけませんの」

「すごい言いますね……!?」

 

 思わずツッコんだ自分に、少女は椅子に座ったままふっふーんと鼻を鳴らし、ふんぞり返りながら自身を下げたおす。

 

「事実ですもの! わたくしがドカスなことはわたくしが一番存じ上げておりますわ!

しかし当然、それは今だけの話っ! これからも“そう”である理由にはならないからこそ、開いてすらいなかった門戸をぶっ叩かせていただいたのですわ~!!」

「おお……自らの足らざるを知り、そこからの脱却を目指す向上心こそがぬしの武器、というわけじゃな……! 見上げたものではないか、のうシラハエル殿」

「……そう…………ですね、はい、そう思います」

 

 彼女の言葉に高揚しながら促したコンジキ様に自分もなんとか返すと、肯定の意と取った少女はますます意気軒昂に続ける。

 

「ゆえにっ! コーチングをお願いするにあたって、今のわたくしには想像もつかない危険が降りかかるだろうということも当然、覚悟しているつもりですっ!

そもそもこんな有り様でまだ魔法少女にしがみついている時点で、いつおっ()んでもおかしくないに決まってますわ~!」

 

 少しだけ言葉をうわずらせながらも覚悟を示した彼女を気に入ったのだろう。

 コンジキ様はより踏み込んだ話をこの場で開示することを選んだ。

 

「ならば、ここでこちらの事情を明かしてしまうが、現在ここにおるシラハエルたっての願いにより、ワシらは魔法少女とのコラボコーチング配信……

ワシらが『アカデミー』と呼ぶそれを定番企画にするために動いておる。

なのでこのタイミングで声をかけてくれたぬしは、結果次第じゃがそのアカデミー企画の生徒第一弾候補、ということになるじゃろう」

「…………っそれは…………! ええ、ええ、素敵です、素敵、素敵が過ぎますわ~~!!」

 

 当然、事前に声掛けをしていたマスコットや魔法少女との関わりが無いだろう少女は、初めて知らされた情報に想像通りな反応を見せた。

 

「わたくしも明かしてしまいますが、“なりたい自分になるため”という目的は大前提として……それはそれとして、魔法少女としての承認欲求も見ての通りアリアリのアリですの!

皆様に見てもらいながら強くなれる企画の第一人者……こんな素敵な特別扱い、心惹かれないはずがありませんっっ!」

 

 さらに興奮しながら話す彼女。

 そんな彼女を少しだけ落ち着かせようと、自分は姿勢を低くして、探るようなトーンで説明を引き継ぐ。

 

「素敵とのお言葉、恐縮です。ただ、現在アカデミー企画は二人の生徒役からスタートする予定となっております。

つきましては、合格となった場合もほぼ間違いなく、どなたかが同期となり並んで……時に競っていただくこととなるでしょう。

そういった点についてはいかがでしょうか」

 

 成長の軌跡をメインコンテンツとするアカデミーが始まったとしたならば、当然注目の的となる主役は二人の生徒役。

 で、ある以上視聴者の目から見ても二人を比較したり、どちらか一人に肩入れしたりというある種の選別と無関係ではいられない。

 

 配信で人気を得る魔法少女を選んだ時点で、その競争は常に起こっているとは言える。

 だからこそそんな世界に耐えられるよう、アカデミーも二人で切磋琢磨するところから始める、という方針に決めたわけだが。

 とはいえ、二人にフォーカスして比較されるという、ある意味普通よりもシビアな結果もありえるやり方を、『魔法少女最弱』を自認するあなたは受け入れられるか? という質問だ。

 

 そんな自分の心配に対して、彼女は顎に軽く手をかざし目をつむりながらうん、うんと二、三度頷くと。

 改めて、弾けるようなドヤ顔で返してきた。

 

「もっちろん、全く問題ございませんっ! むしろ、生半可な生徒を当てられたなら、お相手の方を心配しなければなりませんわ~!」

「ほう……その辺りのぬしの態度、自信の方についても是非お聞かせ願いたいのじゃが。

こちらで確認したところ、ぬしは少なくとも虚獣との戦闘配信をした記録は無さそうじゃったが……?」

 

 コンジキ様のより核心に迫るような言葉にも、彼女は自信に溢れた態度を崩さない。

 自らも弱い、と断じる彼女の一体何処からこの自信が湧いてくるのか……と内心で慄く自分を置いて、少女は答える。

 

「おっしゃる通り、戦っていない……といいますか、戦おうとするとうちのブラウネが死ぬ気で止めに来ますの。

『せめてまともに身体が動かせるようになるまで、戦場に出ようとしたらキミのドリルの中で暴れ狂ってやる』って。

それは致命傷が過ぎますし、そもそも一から十までブラウネが正しいので反論のすべはありませんわっ……」

「や、やるのう……」

 

 第一印象からは想像出来なかった熱い覚悟に、彼もまた魔法少女のために在るマスコットということをコンジキ様と一緒に認識する。

 が、気を取り直したコンジキ様は、姿勢を正して改めて問いかけた。

 

「が、それならなおさらじゃ。

戦闘はもちろん配信者そのものとしての経験も浅く、まず身体の使い方から学ばねばならないことをしっかり認識しておるぬしが、この企画をやれる、と思う根拠はなんじゃ?」

「この企画が、“コーチング企画だから”、ですわっ」

「……!」

 

 事前に用意していたのだろう、これまでで一番淀み無く、真っ直ぐと答えた少女に少し気圧されながらも、続きの言葉を待つ。

 

 

「昔から言うではありませんか、『出来の悪い子ほど、手のかかる子ほど可愛い』とっ!

ならば、間違いなくこの界隈で一番出来が悪くて手がかかって。

そのくせ向上心があって、おまけに素直で顔まで良い魔法少女なんて────世ッ界一可愛い存在に決まってますわ~~!!

わたくしはどうしようもないクソ雑魚ですが、だからこそコーチング企画としての成功は約束されていますっ!! ならばあとは、ただ強くなるだけで万事解決ですわ~~~!!!」

 

「心が強ぇ魔法少女なのか…!?」

 

 少女が放った、いっそ清々しいまでの開き直りと暴論に、相方もよそ行きの態度が剥がれ妙な煽りを漏らす。

 とはいえ、どこまで行っても人気職、という側面を持つ魔法少女として、彼女に一定以上の理があることは自分も認めざるを得ないだろう。

 

「素晴らしい考え方だと思います。

確かにあなたが持つ唯一無二のキャラクター性は、どんな相手でも埋もれきらないものかもしれません」

 

 そんな、思わず素で出してしまった自分の賛辞。

 その言葉尻に、彼女は乗っかろうとして。

 

「ええ、ええおっしゃる通りっ!

少なくともわたしがアカデミー生として選ばれたなら、相手は選びませんっ!

同じぐらいの新人魔法少女はもちろん、…………っ、そ、それこそ? クラリティベル様……ぐらいの方でも……っ、さすがに大変かもしれませんが、きっと!」

「────────っ」

 

 最後は少しだけ、言葉を詰まらせながらに宣言を終えたのだった。

 

(────さすがに伝説の魔法少女相手ともなると、恐れ多さも出てくるか。

とはいえ、彼我の力量を正確に把握している、という点ではむしろ高評価と言え……どうした、白羽殿)

(…………いえ……おっしゃる通りです……本当に、その通りだ……っ)

 

 

 最後の最後で、少しだけ強気な態度の裏側……素に近いかも知れないところまで見せてくれた少女。

 彼女の回答を受けその場で深く考え込んだ自分に、訝しげに念話を飛ばしてきたコンジキ様に、自分は答える。

 

(面接は……とりあえず自分からは十分です、聞きたかったことはこれ以上無いほどに聞けました。

コンジキ様に問題がなければ、ここは────)

 

「────あいわかった! こちらから伺いたいことはこれで終いじゃ、感謝するぞセレスティフローラ殿。

特に質問などがなければ、これにて面接を終了とさせていただこう」

「承知いたしましたわ! こちらこそお忙しい中わたくしなどにお時間をいただき、心より感謝いたしますっ!」

「うむ、合否については後日、こちらより────」

 

 そうして、自分の念話への返事も兼ねながら、少女に告げたコンジキ様。

 多少の共有事項と感謝をお互いに伝え終えた自分たちは、初めてのアカデミー面接を完了させたのであった。

 

 

(………………さて)

 

 

 その後、自分は。

 彼女との面談や、これまで見た全てを振り返りながら……しばし、深い深い思考の渦にふけることになる。

 

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