魔法少女はおとなのつとめです。   作:多部キャノン

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第三十八話 おとなのせんたく

 

◆◆◆

 

 

 魔法少女セレスティフローラとの面接を終えた直後。

 少女から受けた好印象に、前向きに彼女とのコラボを考えていたコンジキに対し、白羽はこう返した。

 

「同感です。────だからこそ……少し、考えさせてください」

 

 

 その言葉から3日が経った今、コンジキの脳裏にもさすがに一つの心配事が生まれることとなっていた。

 

 ────相方が、悩んでいる。

 

 これまで思慮することはあっても、助けるなら早ければ早いほどいい、と。

 なんだかんだ即座に行動を起こし続けていた白羽、ないし魔法少女シラハエル。

 

 その彼が今明確に立ち止まって、常にシワの寄った眉間に手を当てて……深く、深く何かを考え込んでいる。

 少なくともコンジキが彼と出会ってから今まで、これほどまでに悩んでいる姿を見たことは一度もない。

 これまでを考えると、相談すべき悩み事と感じたならすぐに報告ないし共有するだろう、と彼の決断を待っていたコンジキも、さすがにここまで続くとそうも言っていられなくなる。

 

 タイミング的に彼が考えだしたのは、セレスティフローラの面接直後……そうなるとやはり、悩みとしては“アレ”だろう、と。

 苦しむ相方の気分転換にでもなれれば、と試しにコンジキは声をかけてみることにした。

 

「セレスティフローラ殿……前向きで自己認識もしっかりしておる稀有なお人柄の魔法少女じゃったが。

やはり命のやり取りになりかねない舞台にあげるには、彼女の素質は厳しいものがある、ということかのう…………?」

「…………コンジキ様…………いえ、それは確かに……おっしゃる通りで、彼女と向き合うに当たって重要な問題です……が」

 

 が、白羽はコンジキの憂慮に対し、思いの外スムーズに言葉を返す。

 

「おそらく、ですがその件の解決に向かう……取っ掛かりのようなものは、すでに自分の中である程度あります。

とても難しい道になりそうですが、彼女ならきっと出来るはず、と自分は信じられます……

……そしてそうであるなら、自分が考えていることに彼女ほどの適材はどう考えても存在しない……存在しない、からこそ……っ」

「ふむ……」

 

 そう言って再び考え込もうとする白羽に、自分への相談が難しそうなら、とこれまた試しに提案をしてみる。

 

「今ぬしを悩ませているものはわからんが……ワシじゃなくとも、例えばこれまで出会った魔法少女たちとの相談などはどうじゃ?

若く才能ある彼女たちならではの視点は、取り入れてみて損のあるものではあるまい」

「……ありがとうございます、コンジキ様。相談もせず一人で悩んでご心配をおかけしており、申し訳ありません。

ただ、まずは自分の中で確たる結論を出してから話を出したいので、他の魔法少女……ミリアモールさんやフローヴェールさん、エターナルシーズさんといった方にもまだ…………っ」

 

 と、そこまで言葉にした白羽は、ピクリっ、と身体を跳ねさせ目を見開くと。

 眉間に置いていた手を、胸のあたりに持っていき、そのまま一人でぶつぶつと呟き始める。

 

「あぁ、そうか……そうだった、答えはつい最近、教えてもらったばかりじゃないか……うん、そうだな……そうだ」

 

 そうして最後に深く、深く一度深呼吸をした白羽は……少しだけ、晴れ晴れとした表情でコンジキに向き直った。

 

 

「────決めました、コンジキ様。セレスティフローラさんの合否及び、自分の考えをお伝えしてもよろしいですか?」

 

 

 待っていたぞ、と返したコンジキは、彼が温め続けてきた構想……その話し合いに望むのだった。

 

 

------------

 

 

 後日。

 

 セレスティフローラの合否発表が行われると伝えられたその場に、一人の少女が仁王立ちしていた。

 立っていたのは、『合格にせよ不合格にせよ、可能なら直接お聞かせ願いたい』……先日の面接でそう希望をしていた少女セレスティフローラだ。

 

(…………ドキドキ)

 

 面接で余念なくPRをした通り、彼女は自身がこのコーチング……いやアカデミー企画の生徒として、強い価値があることを確信している。

 少なくとも面接の手応えも、主観では決して悪いものではなく、合格の可能性は十分あると思っていた。

 が、それはそれとして向こうにどのような事情があるか分からない以上、弱く、手がかかり、リスクも相応にあるだろう自分を選ばない理由はいくらでも思い当たる。

 

 直接合否を聞かせてほしいと言ったのは、果たして潔く結果を受け入れるためなのか……

 もしかしたら、縋り付いて駄々をこねる準備を無意識下でしていたからで……今日のこのあとの答え次第で、いっそ本当にそうしてみてもいいかも……だなんて。

 “何が何でもこのコーチング企画に受かりたい”という自分の気持ちを再確認しながら自嘲気味に笑うと、少女はただ約束の時間を待ち続けた。

 

 

「────お待たせいたしました」

「…………っ!!」

 

 

 その時、後ろからかけられた魔法少女シラハエルの凛とした……でも、柔らかでどこか晴れ晴れとしたような声。

 声を聞いた瞬間、セレスティフローラはかぁっと顔に熱を感じ、ガッツポーズすら決めてしまいそうになるのを必死に抑えた。

 

 もし不合格を伝えるだけなら、この場でそれを伝えるのはマネージャーも兼任するマスコットコンジキだけでも良いはずで。

 仮に彼らの誠意としてシラハエル自らが不合格を伝えに来たのだとしても、それならもっと厳粛な雰囲気の声色をしているはずだ、と。

 

 そんな、跳ね上がりそうな心をなんとか抑えて、あくまで優雅に粛々と。

 “なりたい自分”に恥じない動きを心がけて、少女は微笑みながらゆっくり振り返る。

 

 そうして回った彼女の視界にあったのは、予見した通り柔らかく微笑む魔法少女シラハエル。

 そしてその横にいたのは、ハラハラとした表情で目配せするマスコットコンジキと。

 

(ん…………?)

 

 ────そのシラハエルに引っ付きながら、これまたニコニコと視線を回す、一人の白髮(はくはつ)の少女だった。

 

 ……セレスティフローラは、この少女の顔を“とても”よく知っている。

 つい最近もチェックしたシラハエルの配信に現れた、清楚な服装と白い肌、白い髪に帽子で影を落とした少女。

 無邪気な態度ながら、恐るべき力を持て余すように虚獣を瞬く間に屠った少女が何故か今、眼の前に立って自分を感情の読めない瞳で見つめていた。

 

「……………??????」

 

 そうして直前に覚えた喜びごと、完全に思考が彼方へと飛んでいったセレスティフローラに……シラハエルは、告げる。

 

「ええと……では、紹介します、セレスティフローラさん。合格したあなたと一緒にお勉強していただく、五つの虚念(クィンク・ネブラ)の偏愛、ルクスリアさんです。

……さあルクスリアさん、自分に寄りかかってないで挨拶しましょう……おほん。

ともかく、キャラクター性、実力……何者にも負けまいと上を目指すセレスティフローラさんの心意気、応援いたします。高め合って頑張っていきましょう!」

「おーいえーす、ぴーすぴーす」

 

「……………………」

「あ、宇宙猫じゃ。初めて生で見た」

 

 

 その日の打ち合わせは、まず空を仰いだまま完全に固まった、セレスティフローラの介抱から始まったのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

------------

 

 

 

「ふ、ふふ……ふふふーん……? ほーん……っいえ、まあそこ、そこそこ驚いた、と言ってもよろしいです、けどっ……?

ええ、ええ、このわたくしと張らせようってんならこ、これ、マジかっ、いや、これくらいのっ、相手でないと……ねえっ?

…………お、面白いじゃないですのっ……! やってやりますわぁっ!!」

「…………いけるっ!」

 

 ……その後、正気を取り戻した彼女に、こちらの事情と狙い……つまり、人々に一切の敵意を見せず討伐も難しいが、かといって放置することも出来ない虚念、偏愛のカタチルクスリア。

 彼女に力の使い方と情緒を育ませるため、アカデミー第一弾の生徒として肩を並べてもらいたいということを説明した際、言い放った言葉がこれだ。

 当然まだ何も始まっていないこの段階、彼女がルクスリアとの共演を拒否する意志が少しでもあるのなら、それは最優先で守られるべきもの。

 コーチング企画を降りる、もしくはルクスリアを排除して別の誰かと共にコーチングするよう要求する……どちらも当然の希望と言えたからだ。

 

 だが、自分たちがしたその問いかけに対し、ぷるぷると子鹿のように震えながらも虚勢を守った彼女の姿を見て、確信する。

 最初に売り込んできた彼女のプロフィール、動画、そして面談で掘った人となりを見ての直感は間違っていなかった、と。

 

 自分は、改めて思い出す。

 ミリアモール、フローヴェールとのコラボを経て魅せられた、魔法少女たちの強さ、成長の可能性を。

 そしてエターナルシーズとの共闘で学んだ、ここから先の不鮮明な世界を戦い抜いていく、魔法少女としても配信者としても大事な心構えを。

 

 どう動いても、どう選択してもリスクはある。

 どの選択にも、確かな正解など無い、というのなら自分は────

 

 

 ()()()()()()()になりそうな方を選ぼう、と、そう決めた。 

 

 

 自分もまた、この世界で生きる……一人の配信者なのだから。

 

 

「…………ぬしも大概灼かれとるのう」

 

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