魔法少女はおとなのつとめです。   作:多部キャノン

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引き続きよろしくお願い申し上げます


第五話 見上げた空の先から

 

★★★

 

 

<え?> ポロンッ

<救援? 釣りじゃなくて?> ポロンッ

 

 そのコメントを認識した、私の心を代弁するかのように困惑するリスナーたち。

 私の半端な威力の攻撃では、倒すどころか数を増やすだけにしかならない、新種の分裂型虚獣。

 逃げ場も塞がれ、どうしようも無くなった私にまだ戦えというコメントに、どう対応すればいいのか分からず、固まる。

 

「…………────」

 

 虚獣はまだ、徐々に包囲網を狭めているだけで、いつでも刺せそうなトドメを刺しに来る気配が無い。

 ……もしかしたら、私の反撃を誘い、さらに増えることが狙いなのかも知れない。

 それなら、なおさら虚獣の思惑に乗らず、大人しく死ぬべきなんじゃないか……理性ではそう判断出来ている。

 

 ────でも。

 

(まだ……助かる可能性がある……? 本当に……? 戦って、いいの……?)

 

 どれだけか細くても、一度降って湧いた希望は、私に残酷なほど甘い毒を流し込む。

 もし、リスナーの言う通り悪質すぎる釣りコメントだったり……それこそ、虚獣を勝たせたい誰かのものだったりしたら。

 私がこれからする判断で、取り返しのつかない事態が起こる可能性は十分ある。

 

「ぁ……ぅ……っ」

 

 乾いた唇から、声ともつかないうめき声があがる。

 

 こわい、こわい、こわい。

 ただ死ぬのとは違う、それ以上の何かがのしかかる重大すぎる決断。

 その重圧に押しつぶされ私は、意識が暗い闇に落ちていくような感覚に陥り────

 

「────いい! 戦おう、ミリアさん!」

 

 私の武器に乗り移っていたマスコットハクシキの、覚悟を決めたような声にハッ、と意識を戻される。

 

「後のことなんて、いい! 敵が増えたからってどんなに怒られてもしらない!!

あんなに頑張ってきたミリアさんがここまでなんて、やだ、絶対やだよ!」

 

「ハク……シキっ……!」

 

<言ってくれた 頼む戦ってくれ まだ可能性あるんだ> ポロンッ

<どうなってもいいからしなないで> ポロンッ

 

 涙をこらえながら声を張り上げる相棒に、後押しされたように追従するコメントが響く。

 ……力が、湧いて来る。こんな、全然主人公じゃなかった私でも、まだ信じようとしてくれる人たちがいる。

 

「ぅ、ぅぅ……ぅううぅう~~……ッッ!」

 

 ああ、怖い。本当に怖い。

 でも、それなら私も、あと5分。

 言われた5分だけ、信じて戦ってみよう。

 それぐらいならもしかしたら、私でも出来るかも知れないから。

 

 

「……やってやる! みんな、最後まで力を貸してっ!」

 

 

------------

 

 

 そうして、私は戦った。

 

 どんどん増える虚獣を前に、逃げ場が無くなっていく緊張に押しつぶされそうになりながら、一片足りとも集中を切らさず、抗った。

 

 5分保たせられるかは……正直ギリギリだと思ったけど。

 不可能じゃない、不可能じゃないなら、やれる、やり遂げてみせる、と。

 かつて見た『主人公』な魔法少女のように、意識を強く持って戦い続けた。

 

 ……そんな私に突きつけられたのは、虚獣が見せたのは。

 またも、冷たい現実だった。

 

「が、ふぅ、ぁあっ!?」

「み、ミリアさんッ!?」

 

 迫る虚獣をインパクトで散らし、数が増えていたところまでは想定通りだし、問題無かった。

 

 ただ、一定以上集まった虚獣たちは突如、一番奥に居た虚獣の元へ集まり、重なりだすと。

 これまでより一回り大きく……そして何より、明らかに存在としての密度が増したような。

 そんな、これまで感じたことのない圧を放つ虚獣(バケモノ)となって……完成した。

 

「ァ……ア”ッ……! ア"、ア"ディ"……ア"ディ"……」

 

 

「ア"ディ”ガ、ドウ"」

 

 

 グシャリっ、と裂けた口からノイズ混じりに嘲笑う声が、完成虚獣から届いたと思った次の瞬間。

 私は信じられないような速度と威力で吹き飛ばされ、地面を転がっていた。

 

「ミリアさん、大丈夫!? ちょ、直撃じゃなかったよね!? なんとか立って────」

 

 ハクシキの言う通り、完成虚獣の振るう腕は、構えていた私の武器に当たっていた。

 致命傷じゃないなら、立てばまだ時間を稼げると、奮起させようとしたハクシキは正しい。

 

 だけど。

 

「……あはは、ごめん、無理……いまので肩、外れちゃった……」

「ぁ……ぁぁ……!」

 

 なんとか身体を起こし、膝立ちで座り込むような姿勢を取るも。

 だらん、と力なく垂れ下がった自分の右腕に、乾いた笑いを漏らす。

 

 私の唯一の対抗手段、インパクトは両腕で精密な調整をすることで、初めて発動できる技術だ。

 たとえ万全の状態でもまず勝ち目なんて無いだろう相手に、この武器まで奪われた私が出来ることなど、いよいよもって何もなかった。

 

(……今、あのコメントからどれくらいだろ……多分、3分ぐらいだよね……ごめん、せっかく助けがあるって言ってくれたのに)

 

 その時、私が思い出したのは、普段は居ないリスナーから送られたコメント。

 本当かどうかは分からないけど、どちらにせよ期待には答えられなかったな、と諦念と罪悪感が少し押せ寄せた。

 

「…………っ」

 

 ……もしかしたら、もしかしたら。

 言ってた5分より、早く来てくれるかも知れない。

 そんな淡すぎる希望を浮かべて視線を回すが、魔法少女用道路を見てもこちらに向かう光は無いし、地面を蹴って走る音も聞こえない。

 

(……そりゃ、そうか)

 

 そうしている間にも完成虚獣と、合体に混ざらず逃げ場を塞いでいる虚獣が、じっくりといたぶるように包囲を狭める。

 分裂させる役割を果たした私はもはや用済みなのだろう、彼らはこれまでとは違う、明確で冷酷な殺意を私に向けて放っていた。

 

<助け来るっていったんならきてくれたのむこんな理不尽あるか> ポロンッ

<ごめんむりもうみれない> ポロンッ

 

(あ……。あはは、ごめんね)

 

 ついに耐えきれなくなったリスナーの一人が、おそらく抜けたのだろう。

 視聴者数は3から2に減っていた。

 せっかく応援してくれたのに、辛い思いをさせて、悪いことしたなあ、と薄く笑う。

 

(まあ……最後まで上手くはいかなかったけど……やるだけのこと、やったかな……)

 

 周りを見渡しても、目に映るのは迫りくる虚獣ばかり。

 だから、夢に敗れた最期の最後ぐらいは、キレイなものを見ながら迎えたいな、と。

 私は月に照らされた夜空を見上げた。

 

「ぁ……わ、わ、すごいっ……ね、見て、ハクシキ!」

「…………ミリアぁっ……」

 

 それは、神様がくれた最初で最後の奇跡だろうか。

 穏やかな心で見上げた私の視界を奪ったのは、白く輝く流れ星だ。

 

 こんなに大きく、近くで映る流れ星を見たのは、初めて。

 痛みで朦朧とした意識の今でも、もしかしたら叶うかもしれない、と私は願いを込めた。

 

 家族のこと、夢のこと、相棒のこと、今救援に走ってくれてるかもしれない人のこと。

 ……考えたいことはいっぱいあったけど。

 

 真っ先に私の心に浮かんだのは、これだった。

 

(────私を応援してくれた人が、次は、もっと素敵な魔法少女と出会えますように)

 

 ……うん、願えた。間に合った。

 最後に十分、私は救われた。

 

 こんなにちゃんと待ってくれるなんて、すごい流れ星もあるんだなあ、と私はその白い輝きを視界に収め続けて────

 

 

「…………あ、あれ……?」

 

 その流星が、どんどん大きく……というより、真っ直ぐこっちに向かってくるような気がして、困惑の声を上げる。

 

「ぇ……うそ、ミリアさん、あれ……」

 

 いや、気のせいじゃない。ハクシキも、いつしか迫る足を止めて流星を見ていた虚獣も、同じ頃その異常さに気づく。

 

 

 あれは……流星じゃない!

 

 

(女の子……魔法少女ッ!?)

 

 私がそのシルエットに気づいたと同時。

 白い光をまとった金髪の魔法少女は、私と虚獣たちの間に割って入り────

 

 バアァァァンッッ!! と、落雷のような音がしたかと思うと。

 次の瞬間には私は、軒並み吹き飛ばされている虚獣の姿を目にしていた。

 

「あ……あ……っ!」

 

 あたり一面に、白いなにかがふわりと舞う。

 それが、彼女が背中からはやした純白の羽であることに。

 そして彼女が今、その羽を広げると同時に放った魔力で、虚獣を吹き飛ばしたことに気づいた私は、ただただぽかんと口を開ける。

 

 私は、この子……いや、この人のことを知っている。

 知っているけど、こんな姿の彼女……違う、"彼"は知らない。

 

 あの日、史上初の男性魔法少女として覚醒し、一躍階段を駆け上っていった、この世にただ一人の魔法少女……本名高司 白羽(たかつか しらは)

 

 魔力不足か何かでほとんど何も着ていなかったあのときとは違う。

 白をベースに緑の帯のようなデザインで装飾した、薄く、ふわりとした印象の神秘的な衣装。

 彫刻のようにキレイに伸びた足は靴を履かずに、ほんのり緑がかった白いタイツに包まれ、手の先はまた羽のような造形の滑らかな白手袋に覆われている。

 

「は……はぅ、は……わぁっ……!」

 

 そしてやはり何より目を奪ったのが、今ここにたどり着くために、そしてたどり着いたあとにも攻撃に使った、大きな羽だ。

 まるで、今、ぎりぎりだった私の元へ一刻も早く駆けつけるがために生やされたみたいに。

 そんな、あまりにも私に都合良く存在する羽は、魔力によって作られた……私でいうハンマーのような、彼の固有の能力だと悟った。

 

 途中の言葉は、本当だった。5分も経っていないのに、救援は本当に来た。

 

「ぁ……ぁ、あの、わ、私────」

 

「────よく、たった一人で……っ、こんなっ……」

「……へ……?」

 

 目にしたあまりの衝撃に言葉を失い、あぅあぅと空回りかける私を見て。

 彼は自分の額に……かけてもいないメガネを上げるような動作で指を当て、一瞬苦しそうに表情を崩す。

 が、すぐに気を取り直すとかがみ込み、両腕で私の右肩に触れた。

 

「────失礼」

 

 こきゅっと小さな音が鳴り、痛っ、と思ったのはほんの一瞬。

 次の瞬間には、外れていた私の右肩は元通り、正常な形に戻されていた。

 

 立て続けに起こった都合の良すぎる、信じられない事態に呆ける私に、彼は言葉を続ける。

 

「改めまして。当日、突然の連絡、失礼いたします」

 

 かがみ込み、手を差し出しながら語るその所作一つを見ても。

 汚れ一つ無かった衣装や膝が、土に塗れてしまったことに罪悪感を抱いてしまう、そんな神々しさすら感じさせる。

 

 そのまま、彼は精巧な時計をイメージさせるぐらい(おごそ)かな。

 それでいて、隠しきれない優しさで包み込む、そんな不思議な声色で、口を開いた。

 

「はじめまして。自分は、先日デビューいたしました魔法少女、名をシラハエルと申します。

魔法少女ミリアモールさん。もしよろしければ今、自分と……()()()()()をしていただけませんか?」

 

 

 その日、名前もないこの公園に。

 

 天使は舞い降りた。

 

 

★★★

 

 

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