魔法少女はおとなのつとめです。   作:多部キャノン

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第五十四話 “アイ”はカタチを変えて

 

★★★

 

 

 『わたしを、みてほしい』────あまり覚えてないけれど、はじめて感じた気持ちは、これだった気がする。

 

 

 自分が何なのか、なんのためにあるのか、どうしてここにいるのか……

 全部がわからないまま、真っ暗な中をさまよい続けたわたしは、途中で何度か光のようなものを見た。

 

 でもその光……後から思い返せば人の形をしていた光たちに、不思議と近づこうって気持ちにはならなくて、むしろ逃げるように遠ざけて。

 それを何度か続けているうちに……なんだか、自分の何かが崩れて消えていくような感覚が生まれた。

 

 この感覚が本当に、本当に怖くて。

 おまけに、頭の中に変な……昏い気分になる何かが、聞き取りづらい言葉となって何度も響いてきて、どうしようどうしようってなったとき。

 今までと違う、白くて金色で、ちょっぴり緑な……そんな、温かい光を見つけた。

 わたしは夢中でそれに手を伸ばして……光から記憶が流れ込むと同時に、分かった。

 

 たくさんの光から愛されて、いろんな光を愛しているこの人……シラハにみてほしい。

 シラハに愛して愛される、そんな自分に成りたい。

 わたしは、そのために生まれた五つの虚念(クィンク・ネブラ)の偏愛なんだ、って。

 

 

------------

 

 

 愛され方は、本能で分かった。

 

()()()()()()もね、バイバーイ……っ」

 

 その人が……シラハが嫌がることをしないで。

 偏愛の力? のおかげでシラハを通して伝わってくる、後ろでシラハを応援する人たちにも明るく、かわいく振る舞う。

 こうすればわたしが虚念って立場でも、悪い敵だ、なんて思われず……シラハにとっての大事な人になっていける。

 見た目だってそう、シラハの大切な記憶……“トクベツ”な姿のままでいられれば、倒そうなんて考えられずずっと好きなままでいてくれるに決まってる。

 

 もちろん、シラハが嫌だなあって思う敵、虚獣はたおす……自分と同じような存在だなんて関係ない。

 シラハに愛されるために、いなくなったほうがいいって思ったものは、消しちゃう。

 わたしが五つの虚念の偏愛って力を持ってるのは、きっとこのためなんだろうって、そう思った。

 

 

「…………べんきょう? たたかうとか色々、おしえてくれるってこと? シラハが? わたしに?

それしたら、みんなわたしのこと愛してくれる? わたしがシラハ、もっと愛していい?」

「ええと……そうですね。愛する、愛されないの話に行くためにも、まずお互いを知るところから────」

 

 だから、一度別れたあともシラハのほうから話しかけてきてくれて。

 自分のやりたいことのために、わたしが必要だって言ってくれたときは……うれしかった。

 いろいろ難しいことは言われたけど、愛されるためなら出来ないことなんてないって思ってた。

 

 そうして、わたしはシラハのやりたいこと……アカデミー? というのを一緒にやることを決めた。

 

 

「…………ふぅ」

 

 話が決まってほっと喜んでいながらも、色々と難しいことを考えているような。

 そんな顔のシラハに手を振って別れたあと、息をつく。

 

 わたし以外の別の光……つまり、他の魔法少女()もシラハと関わることになるのは嫌だなあって思ったけど。

 シラハの言う通り、何もしなければいいって分かってるなら、なんとか我慢できるはず。

 

 そのほうがきっとシラハを愛して、愛されることが出来るだろうし……

 

 それに、どうしても倒したほうがいいって思ったら、こっちも簡単だから。

 

 

「虚獣と一緒。愛されるのにほんとうに邪魔になったらたおす……ううん、消しちゃえばいいんだもんね」

 

 

 『偏愛たれ、偏愛たれ』……頭の中でずっと響いていた昏い何かが、わたしでもわかる言葉になりはじめたのは、この辺りの話だった。

 

 

------------

 

 

 ────そうだ。アカデミーが始まって他の人が出てきたとしても、難しいことなんて何も無い。

 わたしだけが愛される方法は、たくさんある。

 

「お、面白いじゃないですのっ……! やってやりますわぁっ!!

わたくしはセレスティフローラっ!! あなたが五つの虚念だからって、か、関係ありませんっ!

比較するのもおこがましいミジンコの身ではありますが、そのうちいつかいずれきっと、追いついて見せますっ! よろしくお願いいたしますわ~~!!」

「…………うん、よろしく。この子と一緒にがんばればいいんだね、シラハ」

 

 一緒に入学したっていう眼の前の子なんて、これまで見た中で一番弱々しい、片手で掻き消せてしまえそうな淡い光。

 ぶるぶると震えながらでもやってやるって言うのはちょっとえらいと思うけど、それだけだ。

 わたしがどうにかしなくても、勝手に差を感じて辞めちゃうかもしれない……それぐらいの相手だと思った。

 

 ────偏愛たれ、偏愛たれ。

 

「うん、わかってるよ。どうしても邪魔だなってなったら、事故ってことにして再起不能にしちゃったりしても……ごめんなさいっていっぱい謝ればなんとかなるよね。

“手のかかる子のほうがかわいい”だっけ……いろんな愛され方があるんだから、出来ることはいっぱいあるね、ふふっ」

 

 脳裏に響く言葉に、わたしは笑いかけた。

 

 

「体力測定の結果を見るにやはり、単純な体力面は申し分なし……身体制御と魔力制御を学んで、的確に動かす癖をつけていくところから始めましょう。

偶然ですが、あちらのセレスティフローラさんと同じ課題となりますね。体力は勝っていますが、せっかくなので技術の上達度合いを比べるのも面白いかもしれませんね」

「ん……シラハが言うなら、もちろんいいよ」

 

 シラハからの教えはわかりやすくて、なによりわたしのことを色々真剣に考えようって温かい“愛”が伝わってきて……素直に楽しかった。

 ……よく他の子と比べさせる……というより他の子を見させようとするのは、シラハと視聴者だけ愛して愛されたいってわたしには、いらないことだと思ったけど。

 でも、それを表に出したりするのは良くないことだってわかったから、にこやかに笑って合わせて振る舞った。

 

 ────偏愛たれ、偏愛たれ。

 

「……別に、今はこれが一番いいでしょ。シラハも、応援するみんなもわたしのことを見てくれてるもん。余計なこと、させないでよね」

 

 変わらず脳裏に響く言葉に、わかってないなあとわたしはため息とともに投げ返した。

 

 

「よ、よろしくお願いします……! 色々言われることもあるかもしれないけど、天……ごほん、シラハエルさんや私たちは味方だから、安心してね」

「ママの配信で見たけど、生まれてすぐリスナーにアピールするなんて有望じゃない。配信者としてもやっていきたいなら私様に色々聞いてもいいけど?」

「ぇ……めっちゃ警戒されとる……あ~、なんや。インヴィディアにしたようなこと、なんもせんなら別にせえへんし、普通にしとって大丈夫やで……?」

 

 他に出会った光たちは、シラハに少し近い……わたしを信じたいって温かさと、もしものときには自分がしっかりしないとって責任で揺れるものだった。

 その中でも、同じ虚念のヴァニタスやインヴィディアがひどい目に合わされた子は、本能的に避けようとしちゃったけど……大丈夫。

 

 ────偏愛たれ、偏愛たれ。

 

「……っ、いちいち言わなくてもわかってるって……いざとなればわたしと、あなただけいればいい(サクラリウム・メウム)もあるし。強いひとたちだけど、どうにか出来る……はずだよね」

 

 脳裏に響く言葉に、わたしは少しだけ不安になりながら問いかけた。

 

 

 ブブ、ブ。

 

「…………ぅ……」

 

 アカデミーに入ってしばらくしたあと、またアレに襲われた。

 独りで彷徨っていたときに感じていた、自分の何かが崩れて消えていくような感覚だ。

 

「…………わたしのカタチが……偏愛が、減ってきてるっ……」

 

 あの時より色々なことを知った今ならわかる、とわたしは自分に起きている問題を自覚する。

 

 虚念……つまり、他の人が表に出せない感情。

 その中でも偏愛という感情が……色々と特殊なシラハって魔法少女にたくさん注がれた結果、わたしが生まれた。

 だから、わたしはそんなシラハに知ってもらえて、シラハを通してたくさんの人に見てもらえて……それで、安定できていた。

 

 でも、最近は違う。

 五つの虚念が魔法少女に教えられて勉強する、ってことにみんなが感じていた驚きも薄まってきて、わたしばかりが見てもらえることも減ってきて。

 

「シラハエル様っ! ……それに、ルクスリア様っ。もしよろしければ今日は、あなた方のコーチングの様子を見学させてほしいのですっ!

少しでも追いつくために、勉強させていただきますわ~~っ!!」

 

<おーええやん>

<やる気やねえ>

<セレスティフローラも可愛いなやっぱ>

<同期も強くなったほうがルクスリア的にもいいよな>

 

 こんな風に、弱いのに諦めずに頑張ってる子のほうに、コメントが愛を向けることも増えてきた。

 

 何より一番大きいのは、シラハに対して向けられる目だ。

 記憶で読み取った通り、シラハは魔法少女になってから今までいろんなことがあって……性癖? だとか脳を灼く? だとか、そういうみんなが偏愛を向けるようなことがよく起こってた。

 でもアカデミーを始めた最近は、そういう機会がほとんど無くなってきていて。

 逆に落ち着いた先生としてばかり見る人が増えて、わたしも普通の生徒として見られ始めて……偏愛が、どんどん減ってきていた。

 

「…………ぃ、やだっ……」

 

 誰も居ない時にまた身体がブレたタイミングで、自分の一部で作った鏡に姿を映してみる。

 そうして目にする、ブレてノイズが走ったそこは、シラハの記憶にあった可愛くてみんなにも愛された少女のものじゃない……黒く濁った虚念の塊に歪んでいた。

 

 ……自分が、シラハの思い出の姿を借りてるだけの作りモノ……そんな当たり前のことを、その時になって始めて突きつけられたような気がしていた。

 

 ────偏愛たれ、偏愛たれ。

 

 自分が無くなっていくような感覚が、怖い。

 でも、それ以上に自分が“こう”であることを知られるのが、怖い。

 

 こんな、成りたい自分からかけ離れた作りモノが愛されるわけがない、シラハにもみんなにも絶対隠さなきゃいけない。

 そう焦りを抱いたわたしの中に、またも響いたのはいつもの言葉。

 

 言葉……虚念の本能がわたしに囁くのは、みんなが注目しだしているもう一人の子を……いやいっそ、周りでコーチをする魔法少女もみんないなくなってしまえばいい、という。

 そんな、一番早く全部が解決するかもしれない方法への後押しだった。

 

 ……でも。

 

「────うるっさいなあっ! わかってるから黙っててよっ!! 別にっ……! …………まだ、そんなこと……しなくてもいい、かもしれないし…………」

 

 まるで力を抜いて倒れ込むように、その方法で楽になりたいって思う気持ちを止めたのは……これまでシラハが根気よく向け続けてくれた、温かい光だった。

 いや、シラハだけじゃなくて、周りの人も……他の魔法少女も、わたしに対して悪いことしようって思ってる人はきっとだれもいなくて。

 ……もし、それがこの先も続くのなら……今より力が無くなっても……怖いけど、なんとかなるかもしれない、と。

 

「……大丈夫、ブレは気をつけていれば起こらないから、みんなの前でなら隠せる。……それにシラハたちはまだちゃんと、トクベツなわたしのことを見てくれている」

 

 少しだけ、少しだけ我慢っていうのをしてみよう。

 大丈夫、わたしたち虚念は表情も身体の反応も普通の人より“作れる”から、隠し事をするのはすごくうまい……心でも読めなきゃ、誰も気づかない。

 

 多分だけど、わたしはそのとき生まれて初めて。

 シラハに嫌われたくないって都合じゃなくて……シラハに嫌な気持ちになってほしくないって気持ちが勝ったような。

 そんな気がしていた。

 

 

「────あ、あはは……バレ、ちゃいました…………」

 

 ……その日変身が解けて、わたしとそっくりな姿で出てきたその子を見た瞬間。

 まだ周りにシラハたちが居る状況で、わたしの“ニセモノの身体”が一瞬見るに耐えないぐらいぐちゃぐちゃに歪んだことには。

 わたしが一番後ろに居たことから、誰も気づくことはなかった。

 

 

 偏愛たれ、偏愛たれ────“虚念”たれ。

 

 

 シラハと、シラハを通したみんなにわたしだけを見てもらうために。

 『偏愛』として在ることを決めたのは、そのときだった。

 

 

★★★

 

 

------------

 

 

◆◆◆

 

 

「────っ」

「あと……は、たたかってる時に言った通りだよ……見る人をたくさん増やして、みんなの前でわたしが一人勝ちして、ずっとみんなの心に残るぐらいの虚念で満たそうとした……

五つの虚念が来るって言ったのもそう、あつまった魔法少女をたたかえなくして、見る目だけはたくさん一人に集めるため……

ふふっ、けいかいはしてたけど、配信封じ(あんなこと)されるとは思ってなかったよね……? 『所詮は虚念』なんだから……信じちゃだめ、だよ……で、これで聞きたいことは聞けて、満足……?」

 

 

 仰向けで地面に倒れながら自嘲気味に締めくくったのは、偏愛のカタチ『ルクスリア』。

 セレスティフローラが爆発的な魔力を込めて放った魔道少女(マジカロード)に敗れた虚念の少女は、当のセレスティフローラになぜ、どうしてこんな手段をと感情にあかせた問いかけをされると。

 そばに寄ってきたシラハエルの顔も見た上で、諦観に満ちた声で語ったのだった。

 

 ────ブブ、ブブブブ、ブブススス。

 

 その間もルクスリアに走るノイズはどんどん広がり、儚い白髮の少女という最初の印象は、黒い泥のような歪みに侵食されてはボロボロと崩れていき。

 場に居た魔法少女たちはもちろん、事情をあまり知らないコメント欄もまた、一つの静かな確信に至る。

 

 ああ、彼女はまもなくこの世から消え去るんだろうな、と。

 

「…………むぅ」

 

 そんな様子にシラハエルの横で浮いているマスコットコンジキは、沈痛な面持ちで唸った。

 

「以前、シラハエル殿たちで羨望のインヴィディアを討伐したが、目を回して無力化されただけのやつに比べてこの反応の違い……

それは、ルクスリアの出力が圧倒的で消耗が激しい、というのもあるじゃろうが……おそらく、一番の違いは────」

 

 コンジキがちらり、と目を向けたのはセレスティフローラ……というより正確には今彼女の脳裏に流れているだろう、コメント欄だ。

 

<結局自分の都合じゃん>

<ごめんだけどこうしてみるとやっぱ人には見えんな>

<いざ消えるってなったらちょっと可哀想だけど、じゃあどうすんのって話ではあるか>

 

 コメントの流れはコンジキが予想した通りと言うべきか、ほとんどが敵対者であり敗北者であるルクスリアへの敵意と失望に満ちたもの。

 ルクスリアが語った内面と、今の痛々しい姿に一部同情的なコメントも寄せられてはいるが、一度定まった大勢は多少のことでは覆らない。

 

 仮にルクスリアが勝利していたなら、もともとの目的であった『愛される』からかけ離れた結果になったとしても、それでも多くの人に強い想いを残し続けられただろう。

 しかし、“ただ裏切ったあげく負けた敵”として定義された少女は、今はまだ敵意といった虚念こそ多少供給されてはいるが、それもすぐに無くなり歴史から消える。

 それが分かっていたからこそルクスリアは、求められるがまま半ば自暴自棄に全てを話し……わざと消耗して消えようとするかのように、結界も解除せずに置いているのだ。

 

「……っ!」

 

 その様にぐっ、と何かを決意したようにつばを呑み込んだのはセレスティフローラ。

 どうするのが正解なのかは……自分でもわかっていない。

 ただ、このまま少女が消えるのを何もせず見ているというのが、我慢ならないという気持ちだけは確かにあった。

 

(……それに……ルクスリア様はこんな手段に出てしまいましたけど……それでも最後、わたしだけは舞台から降ろそうとしたじゃないですか……!)

 

 今なら分かる。

 自分の正体が、シラハエルの思い出の人のホンモノの娘ということを知って、ぐちゃぐちゃになるぐらいに身体も心もかき乱されて。

 それでも、「五つの虚念が動き出しそう」「一番危ないのはセレスティフローラ(そのこ)」ということを伝え、その後もわざわざ一人で覚悟まで問いに来たことの意味が。

 

 本当に騙して利用しようとだけ思ったのなら、あんな真似をする理由はない……だからあれは、あの時自分が感じた通りで、悪意からの行動ではなかった。

 もし降りるならそれでいいよ、って最後に穏当に終われる道を選ばせようとしていたんだ、と。

 本来相容れない虚念として生まれ、姿だけ真似たニセモノの彼女は、アカデミーを経て……ホンモノの人になろうと歩み寄っていたんじゃないか、と。

 

(────なら、わたくしは……!!)

 

「…………セレス……?」

 

 パートナーのマスコットブラウネが怪訝そうに声をかけるが、溢れ出しそうな想いは止まらない。

 

 今、自分がしようとしていること……すなわち彼女の延命を請うてしまえば最後、多分……いや間違いなく荒れるだろう。

 いや、荒れるどころか祝福されるべき勝者から一転、人類の敵にすら見られる可能性があると分かっている。

 そもそも、延命させるにしたってどういう手段を取ればいいのか、したとしてどれだけ先延ばし出来るのかすらもまだ分かっていないのだ。

 

(……大丈夫、わたくしは強い、わたくしはできる子……五つの虚念にだって勝ったんですもの、もう少しぐらい無茶したってっ……!!)

 

 だけど、それでも今の気持ちに素直に従うことが、アカデミーの生徒としてルクスリアを破った自分が負える責任のはずだ、と。

 彼女は初勝利がもたらす高揚にあえて押されるがままに、その一歩を踏み出そうとして────

 

 

「────えへへ、やっぱり最後はあなただよね……シラハ」

「…………ええ、()()()()。あなたがしでかしたことに……アカデミーを興したものとして、自分が始末をつけます」

「っ、おじさま……?」

 

 

 すっ、とセレスティフローラをかばうように前に出ると、片膝をついて崩れかけの虚念を見下ろしたシラハエルの姿。

 それに一人は力なく笑い、一人は口元を抑える。

 魔法少女たる彼の天使の様相が、これまでで見た中でも最も真剣な……さらに言うなれば、痛みを伴うような覚悟を決めたものであることが伝わったからだ。

 

「別、に……ほっといても、勝手にすぐ、消えるけど……ね」

「えっと、おじさま、その……」

 

 シラハエルが見せた表情と、自身に伸ばそうとした手を見て、ルクスリアは納得したように目を細め。

 セレスティフローラはシラハエルと、その相方であり同じく覚悟を決めたように目をつむるコンジキに視線を右往左往させた。

 

 そうして、シラハエルの手が自身にかかろうか、というタイミングで虚念たる少女は。

 悟りに至ったかのような殊勝な態度で、その最期を受け入れようと口を開き────

 

 

「でも……そうだね。始めたシラハが、終わらせるっていうなら……それもいいよね……好きに、したらいい、よ────っ??」

 

 セリフの途中、仰向けだった虚念の身体はくるりと抱えられながら宙を半回転。

 いつの間にか両膝をつき、正座の体勢となっていたシラハエルの膝に乗るような形で、うつ伏せの体勢にさせられた。

 

「あ、あの……?」

「シラハ? なにを……」

 

<ん???>

<??>

<あれ>

<おいこれ>

 

 

 ふぅーっと、まるで精神統一をするかのように深く息をついたシラハエルの姿。

 それに生徒二人とコメント欄が一瞬まさか、という予感を覚えた、その瞬間。

 

 

 ────バァァァァンッッッ!!!!

 

 

「────ッ、イッッッッ、だぁぁあああアアッッッッ!!!?」

 

 

 運動場全てに響き渡るような炸裂音が少女たちの耳を刺し。

 

 

 ルクスリアは、虚念たる少女は……一切の躊躇なく、おとなの全力(ガチ)によってその小さな尻をぶっ叩かれていた。

 

 

◆◆◆

 

 

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